AND OWL!
name change
デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
タオルを顔に当てた制服の私と部活着の赤葦君が一緒に入室したのを見て、初老の保健医の先生は目を丸くした。
「......あらあら、珍しい組み合わせ。どうしたの?」
「木兎さんのスパイクが森の顔に当たりました」
先生の言葉に赤葦君が返すと、先生は更に目を丸くして私を見た。
「あらあらあら......顔、取れてない?大丈夫?」
「大丈夫です。むしろ私が上手く避けられなくて......」
「いや、木兎さんのスパイク避けるのは難しいから......それに、俺がトス上げたんで、半分は俺のせいでもあります」
すみませんと頭を下げてくる赤葦君に大丈夫ですと慌てて返し、先生に促されるまま保健室の椅子へ腰を下ろす。
赤葦君は入り口付近で立ち往生していたので、少し迷ってから彼の方へ振り向いた。
「......あ、あの......赤葦君......もう、本当に、大丈夫なので......わざわざ、すみませんでした......ありがとう、ございました......」
「............」
椅子に座ったままで恐縮ではあったが、謝罪と御礼はしないとまずいと思ってそのまま頭を下げた。
その際タオルを借りていることを思い出し、私の鼻血やら涙やらが付着してしまっているので後日洗って返しますと約束する。
「......うん、じゃあ、行かせてもらうけど......先生、森の後頭部も診てあげてください。床に倒れた時、ぶつけてたから」
「あら、そうなの。でも、今これだけしっかりしてれば問題なさそうね。コブくらいはできてそうだけど」
「.............」
本当にごめんな、お大事に。
最後にそう言ってから、赤葦君は一礼して保健室を後にした。
彼の姿が見えなくなると、若干強ばっていた身体がゆっくりと解れていく。
たまらず深く息を吐くと、後頭部と顔面の痛みが一層酷くなった。
「どうして敬語なの?赤葦君と夏初ちゃん、同じ二年生じゃなかったっけ?」
「......その上、同じクラスです......」
「あらあら......じゃあ、あんまり喋らない子なのね」
「......というより、話したの、今日が初めてかもしれません......」
先生と二人きりになり、鼻を覆っていたタオルを外しつつ容態を確認してもらう。
保健室には私が所属している園芸部から植物を定期的に贈っている為、先生とはよく話す間柄だ。
園芸部が大切に育てた草花を、この先生は保健室のテーブルや窓辺に綺麗に飾ってくれる。
先生自身も植物が好きということなので、人見知りの私が先生に好感を持つのに差ほど時間は掛からなかった。
自分が好きなものを好きと言ってくれる人は、多かれ少なかれ惹かれる所があるだろう。
「鼻の方は大丈夫そうね、もう血は止まってる」
どうやら鼻周りの血を綺麗にするだけで済むようで、鼻に脱脂綿を詰める必要はなさそうだ。
「......ただ、結構腫れてるからよく冷やした方が良さそう。明日辺り青アザになるかも」
「え......」
ボールがぶつかった鼻と右頬骨辺りを触診する先生がぽつりと零した言葉に、思わずギクリとする。
顔に青アザ、って......運動部でもないのに、なんだか酷く格好悪い気がして嫌だ。
「とりあえず、暫く保冷剤とタオルで冷やしましょうか。あ、お家で湿布はだめよ?顔にはあんまり良くないから」
「わかりました......」
「あと、後頭部だけ診せてちょうだい?」
丸いイスをくるりと回し、先生に背中を向ける。
何度かぺたぺたと頭を触られ、時々走る痛みにビクつきながらも泣くのは踏ん張る。
先程体育館では痛みのあまりぼろぼろと涙を零しまくってしまったので、これ以上泣くと目まで腫れてしまいそうだ。
明日の朝の顔が怖過ぎて、もう今から鏡を見たくない。
「痛みはあるだろうけど、外傷はコブくらいね。他に眩暈がするとか、気持ち悪いとか、何か変な所ある?」
「......特にないです。とにかく今は頭と顔が痛いです」
「それなら、少し安静にしましょうか。氷枕とタオル持ってくるから、夏初ちゃんはベッドに行ってて」
「え、でも、私これから部活......」
「顔も頭も打ってるし、今日は残念だけどお休みしましょう。バレー部の木兎君のボールが当たったんだから、仕方ないわ」
「.............」
温和ではあるけど、どこか有無を言わさずという笑顔を浮かべた先生に対し、私はただ指示を受けることしかできない。
しょんぼりしつつベッドに向かう途中、そういえば先生は私にボールを当てた先輩を知っているんだなとぼんやり気が付いた。
「......先生、バレー部の人達と仲良いんですか?」
何となく気になって訊いてしまうと、先生は氷枕と保冷剤を片手にゆっくりとこちらへ向かってくる。
「仲が良いというより、運動部の子達はよくここに来るわね。その中でもバレー部は練習日数も時間も他の部活より多いから、自然と顔と名前を知ってる子も多いわ」
「......赤葦君も、よく来るんですか?」
「そうね、一年生の時は多かったかしらね.......今はたま~に来るくらい」
「へぇ......」
先生の返答に意外だなと思う。
赤葦君のことはあまりよく知らないけど、先程の対応からしてだいぶ落ち着き払った人に見えた。しょっちゅう保健室を利用するようには見えない。
だけど、運動部に所属している以上きっと怪我は付き物なんだろう。
特にここ、梟谷学園高等学校の男子バレー部は全国屈指の強豪らしいから、毎日の練習量もおそらく半端じゃないはずだ。
というより、あの木兎さんという方のボールを受ける行為からして普通に怪我をしそうなものである。 実際当たってみて相当痛かった。
日々の生活でそんなデッド・オア・アライブを体験しているとは思ってもみなかったから、今度からバレー部の方々に会ったら一礼してから通り過ぎよう。
そんなことを真面目に考えながら、私は先生に促されるままベッドに横になり、後頭部と顔を冷やしてとにかく安静にするのだった。
泣きっ面に蜂
(花壇の手入れ、やりたかったなぁ......)