AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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「......森?どうしたの?」
自己嫌悪の嵐の中、俯いたまま突っ立っていた私に再び誰かが声を掛けてくる。
その落ち着いた声音は聞き覚えがあり、ゆっくりとそちらへ顔を向けると、顔馴染みの赤葦君が少し驚いたような顔をして私の方へ歩いてきた。
「.......赤葦君......」
「.............」
見知った人の登場に心底ほっとしてしまい、軽くため息をつく。
赤葦君は私を見た後、辺りをきょろきょろと見回した。
「......立嶋先輩は?一緒じゃないのか?」
「......先輩、今、お手洗いに、行ってて......」
先程の黒尾さんと同じ質問をされ、同じ答えを返すと赤葦君は納得したように一度小さく頷く。
「......今、音駒の黒尾さんに声掛けられてさ」
「!」
「木兎さんじゃなくて俺に用事なんて、一体何かと思ったら......確かに、木兎さん向きの案件じゃないな」
黒尾さんの名前を出されて、思わずぎくりと心身が強張る。
そうか、音駒の黒尾さんはわざわざ赤葦君を呼んでくれたのか......。
他校の方に気を遣わせてしまった事と、赤葦君に面倒を掛けてしまった事の迷惑行為のダブルブッキングに心が打ちのめされた。
「.......すみません......」
「え?ああ、全然いいよ。慣れない所に一人で居るのは誰でも嫌だろうし、俺も教えて貰えてよかった」
「.............」
頭を下げる私に対し、赤葦君はサラッと優しくフォローしてくれる。
同い年なのに本当にしっかりしてる人だ。
陰気で甘ったれの自分とはあまりにも違い過ぎて、再び視線を足元に固定してキュッと唇を噛み締めた。
「.............」
「.............」
私も喋らない、赤葦君も黙ってしまう時間が訪れ、少しずつ心拍数が上がっていく。
何か、話題......と慌てて思考回路を回すも、この状況から一体どうやって話を切り出していいのかがわからずなかなか言葉が出てこない。
どうしよう、何か、話さないと......。
思考ばかりが空回り、浅くなりつつある呼吸を確かめるように口元に右手を当てると、指先が氷のように冷たくなっていた。
「......あのさ、なんで制服なの?」
「!」
ひんやりとした指先に狼狽えていると、頭の上からそんな言葉が降ってきた。
少し時間を掛けて質問の内容を理解し、休日に制服を着てくるのはやっぱりおかしいよなぁと改めて後悔する。
「......もしかして、補講とか?」
「ち、違う......!」
朝に会いに行った保健医の先生と同じ事を聞かれ、咄嗟に顔を上げて赤葦君を見た。
名誉挽回しなければと多少意気込んだものの、切れ長の目を向けられるとその意気込みも穴の空いた風船のようにシュルシュルと萎んでいく。
「......学校に、行くから......考え無しに......制服、着てきちゃったの......」
「.............」
「だから、別に......補講じゃないです......」
「......そっか、ごめん」
話している途中にも視線は徐々に下がっていき、あっという間に足元へ戻る。
おまけに私が視線を下げてしまったからか、折角赤葦君が話題を提供してくれたのに再び静寂が訪れてしまった。
とりあえず補講を受けるような成績ではないことを証明したかったのだけど、バカ真面目に答えてしまっては話が広がらない。
これが立嶋先輩とか仲のいい友達とかが相手ならもう少し砕けた受け答えが出来るのに、どうして赤葦君にはこうもつまらない言葉しか出てこないのだろうか。
「.............」
「.............」
「.......俺、森に絶対後悔させないからとか大口叩いちゃったけど......今日、どうだった?」
「.............」
「......少しは楽しめた?」
「.............」
再び赤葦君が会話の糸口を差し出してくれて、ありがたい気持ちと申し訳ない気持ちで心がぐしゃぐしゃになりながらも、深呼吸を2回する。
「.............」
両方の手をぎゅっと握りしめながら、もう一度赤葦君の方へ顔を上げた。
背の高い赤葦君と視線を合わせるのは首が少し大変だが、ここはきちんと伝えなければいけないところだ。
相変わらず表情が読めない赤葦君の視線に多少怯みつつも、軽く息を吸った。
「......後悔、なんて......全然......そんな時間、全然なくて......」
「.............」
「......木兎さん、凄い飛んでて......スパイクとか、びっくりした......。あと、赤葦君、試合とか、三年生達の中でも、凛としてて......本当に、凄いなって、思った......」
「.............」
先程の試合を思い出しながら感想を伝えるも、何だか上手く纏まらなくて小学生の作文のような稚拙な言葉ばかりが出てくる。
赤葦君も黙ってしまっているし、もっとまともな事を言いたいのに思考回路はぐるぐると同じ所を辿るばかりだ。
「......なんか......ごめん、意味わかんないね......」
「.......いや......」
「でもね、あの......とにかく、今日......見に来れてよかったよ......」
「.............」
先程ギャラリーの方でニヤニヤと笑う先輩から聞かれ、その時返さなかった答えを今赤葦君へ伝える。
色々と感じたことはあったけど、総合的に男バレの練習試合を見に来てよかったなと思うのが本音だ。
木兎さんも赤葦君も、梟谷の方も音駒の方もみんな凄いものを見せてくれたし、なんかこう、久しぶりに胸が熱くなった。
バレーボールがこんなに面白いなんて初めて知ったし、数ある高校の中でも梟谷が凄いと言われている理由や、木兎さんが全国屈指の凄い選手である理由が今日の試合を見て痛い程実感した。
折角梟谷の生徒であるのに、男バレのことを全く知らないで三年間を過ごすなんて、本当に勿体無いと思う。
だから今日、先輩と来られてよかったと思うし、それに、何よりも。
「.............すっごく、楽しかった......!」
「.............!」
感情をそのまま口に出せば、赤葦君は切れ長の瞳を少しだけ丸くさせた。
私の今の気持ちをちゃんと赤葦君に伝えられたかなと少し不安に思うものの、あまりにだらだらと言葉にすると何となく嘘っぽくなりそうな気がして結局それ以上の感想は言わないことにした。
ありのままの気持ちを言葉に乗せるのは、本当に難しい。
「.............」
「.............」
「.............」
「.......森。あのさ、俺......」
「お、あかーしぃ!!」
「!」
赤葦君が何か言い掛けたところで、一際明るい声が響き渡る。
赤葦君の名前を舌っ足らずな口調で呼ぶのは、おそらくこの人だけだろう。
「夏初ちゃんとナ~ニ話してたんだよ?あかーしも端に置けねぇなぁオイ!」
「......“端”ではなくて“隅”ですね。あと別にそういうんじゃないので使い所間違ってますよ」
「まーまー!細けぇこたぁ気にすんなって~」
「.............」
梟谷のエースで主将、木兎さんの登場に赤葦君はげんなりとした様子でため息を吐く。
反対に木兎さんは楽しそうに笑ってから、その黄金の瞳を私に向けてきた。
「夏初ちゃん、試合面白かった?すげー選手ばっかだったろ?」
木兎さんの視線に怯みつつも何度か首を縦に振れば、木兎さんは満足そうに歯を見せて笑う。
木兎さんのキラキラとした笑顔に圧倒されながら、私は深々と頭を下げた。
「.......あの、ありがとう、ございました......」
「ん?何が?」
「.......私の、お願いに......ご丁寧に、試合まで、見せて頂いて......本当に、感無量です......」
「カンムリョウ......?」
「感慨無量、嬉しさで胸がいっぱいですってことです」
私の言葉を赤葦君がフォローして、何とか木兎さんへ繋いでくれた。
でも、自分の言ったことを誰かに訳されるのは、なんだか少し恥ずかしい。
「アカアシ君ナイストース。さすが梟谷の正セッター」
ここでやっと待ち焦がれていた声が聞こえ、反射的にそちらへ顔を向けた。
立嶋先輩がやっと戻ってきたのだ。
「木兎お前、もーちょいお勉強頑張った方がいいよ?僕達一応受験生だからね?」
「う、うるせー!今のはもう少し時間くれたらわかりましたー!」
「木兎さん......英語や数学ならまだしも、現代文でそれは無理があります」
「あかーしたまにはノッてきて!!」
先輩と木兎さん、赤葦君の話を聞きながら先輩が戻ってきたことに安堵していると、「待たしてごめんな、先に言っとくけどウンコしてた訳じゃねぇから」と至極どうでもいい言い訳をされる。
「便所でうっかり木兎と会っちゃってよぉ、もー最悪」
「あ、何だよ立嶋!お前さっきまで褒めてくれてたじゃん!」
「いや、確かに凄いと思ったよ?だけど俺を褒めて♡アピールがうぜぇ。ワンちゃんかよ」
「はぁ?そんなんしてねぇしー!」
「してたわ!!病気かお前!?」
「病気ではないんですが、言わばこういう性質なんです。ご迷惑お掛けしてすみません」
「えー!?あかーし立嶋の味方なのー!?何それずりー!!」
瞬く間に展開される男子高校生トークに一歩引いて傍観していれば、ふいに木兎さんの手が伸びてきて、何事かと身体を硬くしているとあっという間に肩を抱き寄せられた。
「じゃあ俺は夏初ちゃんに味方してもらうもんねー!」
「!?」
フーンだ!と子供っぽい怒り文句を頭上に聞きながら、一体何が起こっているのかと目を白黒させる。
左肩に木兎さんの硬い脇腹が当たり、右肩には大きな手がしっかりと回されている。
頭も身体も硬直状態に陥ってしまった今の私には、赤面することはおろか声を上げることもできず、ただただ馬鹿みたいに身体を硬くすることしかできなかった。
「オイ、木兎、お前いい加減に」
「あれ!?夏初ちゃん、ほっぺ治ってる!?」
「今更かよ!」
完全に固まっている私を他所に、木兎さんはマイペースにそんな発言をかましてきた。
先輩のツッコミが聞こえているのかいないのかはわからないが、木兎さんはしげしげと私の青アザがあった場所を見て、あろうことかそこを自身の人差し指でつ、となぞる。
長い指が目の前に来たので反射的に目をつむると、真っ暗な視界の中で小さく笑う声が聞こえた。
「......そっか、治ったかー!よかったー!」
「.............」
心底安心したような声音にゆっくりと瞼を開ければ、太陽みたいな木兎さんの笑顔が間近にあり、再び頭と身体がクラッシュ状態に陥る。
人間、本当に驚くと涙も出ないらしい。
「つーか、夏初ちゃんやっぱ可愛いな〜。子猫っぽいっつーか、妹居たらこんな感じ?」
「......木兎お前、そういうとこだぞ......あとそろそろウチの子返して。死んじゃう」
立嶋先輩の言葉でようやく木兎さんから解放された私は、情報量の多さにどうやら脳みそがパンクしているようで、喜怒哀楽どれでもない表情のままその場に突っ立っているだけだった。
私の様子を流石にまずいと感じたのか、「じゃあ俺達は帰るから」と先輩は無理やり話を折り畳む。
「えー!午後も見てけって!もっと楽しませてやっからさー!」
「残念だが、俺も夏初も暇じゃねーの。機会がありゃまた見に行くからよー」
渋る木兎さんにそう言って、先輩は私の腕を取りさっさと出口へ歩き出す。
「んじゃ、またな。午後も頑張れよ~」
立嶋先輩のそんな簡単な挨拶を最後に、私達は体育館からそそくさとお暇するのだった。
後は野となれ山となれ
(園芸部部長なだけにな!)