AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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梟谷対音駒の第2セットもスターティングメンバーは同じメンツだった。
力はほぼ拮抗しているように見えるものの、試合が展開していくと少しばかり梟谷の方が多く点が入る。
先輩の見解によると、木兎さんを主軸とした攻撃に重きを置く梟谷と、チーム全体で鋼の守備に特化した音駒とはまさに矛と盾の殴り合いであり、強さのベクトルが少しばかり梟谷の方が上回っているように見える、らしい。
「でも、音駒は本当にレシーブうめぇな。全員リベロですって言われても普通に信じるわ」
「え、そんなこと出来るんですか?でも、そしたら誰も点取れないんじゃ......?」
「いやいや、出来ねぇよwリベロは2人までって決まってる。それぐらい守備が堅いって言ってんの」
可笑しそうにふきだしながら、先輩は腕を組み替えてまた落下防止の手すりに腕を置いた。
バレーボールの試合を見学するのは初めてな私には音駒のレシーブが上手いとかそういう技術的なことは正直よくわからないが、確かにあの木兎さんの強烈なスパイクを音駒の方々が軽々と(そう見えるだけかもしれないが)上げているのは素直に凄いと思う。
しかもそれがきちんと金髪セッターさんへボールが運ばれるのだから、一体全体どういうメカニズムなのかと首を傾げるばかりだ。
先輩と話している間にも、尾長さんの打ったスパイクは音駒のリベロさんによって綺麗に上げられた。
「まぁ、こっちも小見とか木葉とかレシーブ上手いやつ居るけどなぁ......でも、音駒のそれと比べると、やっぱちょっと弱ぇ気がする。反対に攻撃力はこっちに分がある訳だが......すげぇ面白ぇな、この試合。なんか、ゲームみたいだ」
「......梟谷の攻撃力が上回るのは......木兎さんが居るからですか?」
「そうだな......見る限り、この中だったら木兎が一番火力あるんじゃねぇの?なんか朝のラインで、俺は五本の指に入るスパイカーなんだぜ!とか言ってたし」
「......五本の、って......え、もしかして日本の高校生でってことですか......?」
「多分な。通知うざくてそこらへんからオフにしたから、あんましっかり読んでねぇけど」
「.............」
遠慮のない先輩の言葉に思わず黙ってしまうが、木兎さんが全国区の高校生バレーボール選手であることが分かり、驚くよりも先に納得してしまう。
バレーボールの試合を初見の私でさえ、木兎さんのプレー、特にスパイクがとんでもないことくらいは分かる。
一人だけ、なんか、音が違うのだ。
木兎さんがボールを打つ音は、とてつもなく重く感じる。
「.............!」
音駒からの攻撃を猿杙さんが拾い、ボールを赤葦君に寄越すと、再び赤葦君は綺麗なフォームで木兎さんへトスを上げる。
赤葦君という発射台から高く打ち上げられたボールは、助走をつけ大きく飛び上がった木兎さんによって力強く敵陣を攻め抜いていく。
「......すっげ......超インナー......」
「.............」
ネットとほとんど平行なのではないかと思う程、ネット際ギリギリの所へスパイクを決めた木兎さんに、先程までの口の悪さとは一変、立嶋先輩は呆気に取られたような声を出した。
隣りに居た私も木兎さんの脅威のスパイクに圧倒されてしまい、ぽかんと口を開けたまま言葉を忘れてしまう。
......まるで、夏の打ち上げ花火を間近で見ている気分だ。
ただただ強烈で、鮮烈で、鮮明なその姿は、夏の夜空に大輪を開く光の花々に驚く程酷似していた。
「ヘイヘイヘーイ!!あかーし今の見たー!?」
おそらく体育館の誰もが木兎さんのプレーに魅了される中、木兎さんはまるで小さな子供のようにはしゃぎ回る。
ファインプレーが出た時、いの一番に赤葦君へ言葉をかける木兎さんがなんだかとても可愛らしく見えて、歳上の男の人なのに不思議なものだなと少し可笑しくて笑ってしまった。
『赤葦はすげーよ、マジで。どんな状況でも冷静でさ、チームのことも相手のこともよく見てるし、俺が調子悪くても赤葦が居れば大抵何とかなるしな!赤葦居るとマジで心強い!めちゃめちゃ頭いいし!』
『技術もパワーも桁違いで、あの人のスパイクは一度見たら忘れられないくらい強烈だし、見ていて凄く気持ちがいい。木兎さん自身も心底楽しそうにやるから余計そう思うんだろうし、あんなにバレーを好きな人、初めて見た』
楽しそうにはしゃぐ木兎さんと淡々と受け答えをする赤葦君の姿を見て、以前二人がお互いのことを私に話してくれたのをふと思い出した。
今日の試合を見て、二人の言葉をより強く実感する。
木兎さんも赤葦君も本当に凄いバレーボール選手なのだと思い知ったし、お互いを心底信頼し合っていることもよく分かった。
「.............」
二人の姿を目に映しながら、小さく息を吐く。
1番初めに聞いた木兎さんの話よりも、2番目の赤葦君の話よりも、実際に見た二人のバレーボールはずっとずっと心が惹かれるものだった。
▷▶︎▷
梟谷対音駒の第2セット、僅差ではありつつも見事梟谷が連続で勝利を手にした。
梟谷と音駒の両チームへ拍手を贈る中、どうやらここで一旦休憩が入るようで、両チームの選手は水分補給や休息を取ったり、ミーティングをしたり、プレーの調整をしたりとそれぞれに動き出している。
時計を見るといつの間にか正午近くになっていて、時間の進む速さにたまらず目を疑った。
「どうする夏初?この後まだ試合すんだろうけど、見てくか?」
「.............」
時計を見た私に先輩が声を掛け、言われた言葉に少し悩んでから、おずおずと首を横に振る。
「......いえ、大丈夫です......。凄いもの、一度にたくさん見過ぎて......頭がパンクしそうです......」
「あー、わかる。集中して見ると結構疲れるよなぁ」
目元や頭を襲う鈍い倦怠感を正直に言うと、先輩もうんうんと軽く頷いてくれる。
「キリのいいとこまで見たし、カツ丼食いに行くか」
先輩の提案に小さく頷き、今まで居た場所からゆっくりと動き出した。
ふと周りを見ると、今の今まで全く気が付かなかったが朝よりもギャラリーが増えていて少し驚いてしまう。
数ある運動部の中でも、どうやらバレー部の試合は一際人気があるようだ。
実際に試合を見て、初見の私でもとても楽しめたのだから、その人気も確かに頷けるものだった。
「あ~、腹減った~。よし、ご飯大盛りにしよ」
「......あの、先輩......男バレの方に挨拶しないで帰っちゃっても、大丈夫でしょうか......?」
体育館の2階から降りている途中、前を歩く先輩に尋ねると、先輩は「あ~、そうねぇ...」と少し億劫そうに首を傾ける。
「んじゃ、出入口までで見つけたヤツにテキトーに声掛けるか」
「え、そんな感じでいいんですか?」
「何も言わねぇよりはマシだろ。どうせ月曜辺りに感想責っ付かれるだろうし......いや、もしかして今日ラインで来んのか?え、めんどくせぇ、ブロックしとこ」
「......先輩......それは流石に可哀想です......」
「あ?じゃあ夏初代打してよ?木兎の連絡先教えるから」
「.......私はまだ、そこまで親しくないので......」
「なんだよ、やっぱお前も嫌なんじゃねぇかw」
「.............」
あまりにも無慈悲な先輩の発言に意見を述べるも、とんでもないブーメランが返ってきたので早々に口を閉ざした。
眉を寄せながらも黙り込む私に先輩は可笑しそうに笑い、「ま、人見知りの夏初チャンには荷が重いわなw」とおちょくってるのかフォローしてるのかよくわからない言葉を寄越す。
「あ、ちょい待ち。俺便所行っときたい」
「.............」
「夏初はいいの?お前、試合始まる前に行きたがってたじゃん」
「......大丈夫です。その辺で待ってます」
相変わらず自由人な立嶋先輩に何か言い返す気力も削がれ、結局ため息を吐くだけでこの話を終わらせた。
何も気にせずさっさとお手洗いへ行ってしまった先輩を、どこで待とうかと少し思案する。
分かりやすい所となると、やはり出入口付近かなと考え、ゆっくりと足をそちらへ進めた。
「......あれ?えーと......ナツハちゃん?」
「!」
いくらか歩いたところで、背後から聞き覚えのない声が掛かる。
途端に血の気が引き、心拍数が急速に上がっていくのを感じながら怖々と後ろへ振り向くと、そこには黒髪を片側だけ立てたつり目の音駒の人が居て、私に向かってゆるりと軽く手を振っていた。
「よかった、名前合ってて。急に声掛けてごめんな?音駒の黒尾って言います。三年で、一応主将デス」
「.............」
背の高いその人、音駒の主将の黒尾さんは人あたりの良さそうな笑顔を浮かべながら話し掛けてくる。
それにぎくしゃくと会釈を返しながらも、頭の中はパニック状態だった。
なんで話したことも無い音駒の人が私の名前を知ってるんだろうと恐怖を覚えたが、もしかしたら梟谷の誰かが話したのかもしれない。
だけど、どうして私に声を掛けてきたのかがわからない。
なんだろう......もしかして先輩がちょこちょこ野次を飛ばしていたから、横に居た私もヘンに目立ってしまった、とか。
練習試合とは言え真剣勝負であることは変わらないのだから、それに部外者が水を差すようなことをするなと、忠告しに来たのではないだろうか。
「.............」
「......ナツハちゃん、一人?さっきの試合で木兎に絡んでたお兄さんは?」
「.............」
黒尾さんの言葉に、予想が的中していることを確信する。
ああ、どうしよう。こんな時に限って立嶋先輩は居ないし、だけど私だって先輩を注意しなかったし同じ園芸部なのだから、これはもう連帯責任というやつだ。
「.............」
「.............」
「.......先輩、は......お手洗いに......行ってしまっていて......すみません......」
「ああ、いやいや、別にいいんだけど......」
音駒の方々への引け目から顔を上げられず、黒尾さんのシューズを見つめたまま途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
私の様子に向こうが困惑しているのは分かるのだが、馴染みの無い相手と話すとどうしても緊張してしまい、普通に会話することが出来なくなってしまう。
「.............」
「.......あー、えっと......」
「.............」
先程うるさくしてしまった事を謝らないといけないのに、声が出ない。
黒尾さんが困っているのが分かるのに、言葉が出ない。
どうして普通の人が普通に出来ることを、私は出来ないのだろうか。
「.............」
「......ちょ、っと......ここで、待ってて貰っていいか?」
あまりにも情けない自分の姿が浮き彫りになり、じわりと涙の膜が張る。
身長差があり、私も俯いているから黒尾さんにはきっとわからないはずだが、黒尾さんは少し焦ったような声音でそう言うと、足早に体育館の方へ走り去ってしまった。
「.............」
一人残された私は、待っててと言われた手前何処へも行けず、ただただ自分の面倒くさい人間性を嫌悪するしかなかった。
月に叢雲花に風
(凄いものを見たからって、いきなり変われるはずもなく。)