AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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梟谷対音駒の試合は一進一退を辿っていたものの、ふと気が付けば梟谷のマッチポイントになっていた。
美人マネージャーお二人の「あと1点~」という掛け声でそのことに気がつき、得点板を見ると梟谷が24点、音駒が20点といつの間にか4点も差がついている。
木兎さんのスパイクや赤葦君のセットアップ等の場面場面を集中して見ていたものだから、勝負の流れをうっかり見落としてしまっていた。
何やってんだと自分自身に少し呆れていると、鷲尾さんの放つ力強いサーブが音駒のコートへ飛んでいく。
そのボールを音駒のモヒカン頭の人が綺麗にレシーブで上げ、金髪セッターさんのところへ器用に運んだ。
音駒の前衛三人が同時に動き出し、誰にトスを上げるのだろうと懸命に目を凝らして見ていると、前の三人ではなく後衛の黒髪の猫目の人へボールが上がり、これまたピッタリのタイミングでスパイクを打った。
「おお!前三人は囮で、バックアタックか!」
「っ、でも、拾った......!」
音駒の複雑な戦術にも関わらず、梟谷のリベロ、小見さんが床に飛び込む形でボールを上げる。
不安定に宙に舞うボールを追い掛け、木葉さんがネット際へレシーブすると先程サーブを放った鷲尾さんが駆け込み今度は力強いスパイクを打つ。
「ワンチ!!」
鷲尾さんのスパイクは音駒のブロックの腕に当たったようで、黒髪を立てたつり目の人の声が響く。
弾かれたボールを再び音駒の坊主頭の人がレシーブでセッターへ返し、音駒のセットアップからの攻撃が仕掛けられた。
梟谷も負けじとボールを拾い、木兎さんのダイナミックな攻撃に繋げるも音駒のリベロの茶髪の人が弾丸のような木兎さんのスパイクを綺麗にレシーブで迎え打った。
「.............」
あの勢いのボールをレシーブするなんて、正直正気の沙汰ではないと思う。
顔にぶつかったら人がひっくり返る程の威力である。音駒のリベロさんの恐怖心とか痛覚とか、一体どうなっているのだろうか。
「っせい!!」
「木葉ナイスレシーブ!!赤葦カバー!!」
音駒の金髪セッターさんからのトスでモヒカンさんが打ったスパイクを、梟谷の木葉さんが拾う。
「赤葦寄越せ!!」
「っ、木兎さん!」
木葉からのレシーブを赤葦君が不安定な状態でありながら高めのトスを上げ、再び木兎さんがスパイク放った。
しかし、またもや黒髪を立てたつり目の人の腕に当たり、勢いが削がれてしまう。
「ワンチ!!」
「クッソ!しつけぇ!!」
二度も攻撃を阻まれた木兎さんの苛立ちを含んだ声が上がり、自分に言われた言葉ではないのにその鋭さに思わずびくりと肩が震えた。
その間にも音駒はボールを拾い、黒髪猫目の人の勢いを殺したスパイクが梟谷のコートへ決まった。
「うわ、ここでフェイント!いいとこでかますな~!上手ぇ~」
「......っ、はぁ......全然、ボール、落ちませんでしたね......」
「長いラリーだったな~、面白ぇ~」
盛り上がる音駒と先輩を見て、いつの間にか止めていた呼吸を再開させる。
梟谷がマッチポイントという有利な立場にいるのは変わらないはずなのに、なぜだか音駒に対する不安が急速に胸中に広がってしまった。
「木兎さん、少し落ち着いてください。黒尾さんにコースを読まれてます」
「ああもう!んなことわかってるよ!」
「ウェーイw」
「クッソ黒尾てめぇ!その顔やめろ!腹立つ!」
傍から見ても木兎さんがイライラしているのが分かり、蚊帳の外ではありつつもおどおどとコートの様子と隣りに居る立嶋先輩を交互に見ていれば、私の様子に気付いた先輩が可笑しそうにふきだした。
「なんでお前がキョドってんのw俺らは観客なんだから面白可笑しく見てりゃいいんだよ」
「え、で、ですが......その、雰囲気が......木兎さん、とても怒ってて......」
「そうだな、怒ってるな......」
不安と心配がないまぜになった心境を語ると、先輩は木兎さんをじっと見てから、なぜか愉しそうに笑って私の方を見た。
「じゃあ、ご機嫌ナナメの木兎クンへ励ましの言葉でも掛けてやんなさいよ?多分、お前の一言が一番即効性あると思うぞ」
「え?」
「オーイ木兎ー!ちょいこっち向けー!」
先輩の言葉を理解する前に、あろうことか先輩は眼下の木兎さんへそんな声をかけた。
名前を呼ばれれば木兎さんだって機嫌が悪い中でも反応を示す。
梟谷の人も音駒の人もなんだなんだと顔を向ける中、立嶋先輩はニヤニヤと笑いながら私の背中をトンと押した。
「.............!?」
沢山の人の視線が注がれる中ようやく先輩に何を言われたのかを理解し、急速に体内温度が上がっていく。
言い様のない恥ずかしさからみるみるうちに涙の膜が張り、何かを考えるよりも先に身体が勝手に立嶋先輩の後ろへと逃げ出した。
なんてことをしてくれたんだと文句を沢山言いたいけれど、極度の緊張と羞恥心で思考が完全にパニックしてしまっている。
とにかく先輩の後ろに隠れて身体を小さくしていれば、立嶋先輩は「しょーがねーなぁ」と大袈裟にため息を吐いた。
「おいコラ木兎ぉ!お前、夏初にすげぇバレー選手教えてくれんじゃなかったのかぁ?あ、もしやそれってお前は含まれてなかったの?」
「!!」
先輩の言葉にぎくりと身体を強張らせると、コートの方から木兎さんの「あっ、そうだったー!」という大きな声が聞こえる。
「夏初ちゃんごめん!!俺、うっかりしてた!!」
「.............」
木兎さんから名前を呼ばれ、抵抗はありつつもすごすごと先輩の後ろから顔を出す。
おそらく死にそうな顔をしているんだろうなと自負しながらも木兎さんへ目線を合わすと、眼下の木兎さんは先程の機嫌の悪さから一変、夏の太陽みたいな明るい笑顔を私に向けてくれた。
「俺とあかーしと、木葉と、サルと、鷲尾と、小見やんと、尾長な!あとベンチにも居るんだけど......長くなっちゃうから後でな!あ、あとこっちの音駒のヤツらもみんなすげーから!ちゃんと見ててなー!」
「.............」
「ま、一番すげーのは俺だけどー!」
わはは!と豪快に笑う木兎さんに、梟谷からも音駒からもブーイングが入る。
さっきまで調子悪かったくせに何言ってんだ!等と言われながらもみくちゃにされている木兎さんを見て、徐々にパニック状態が落ち着いてきたのか少しずつ身体から力が抜けていくのがわかった。
敵味方関係なく「凄い」と賞賛出来る木兎さんの姿勢は、見ていてとても清々しい気持ちになる。
この人がたくさんの人に愛される理由は、きっとこういう所にあるんだろうと部外者ながらにそう確信した。
「......本当に、凄い方ですね......」
心から零れた言葉に、自然と頬が緩む。
バレーのプレーも人間性も、ひたむきで、真っ直ぐで、誰もが応援したくなる人だ。
わいわいと騒がしくなったコート内に再びホイッスルが鳴り響き、中断していた試合が続行される。
先程得点を挙げた音駒のサーブから始まり、梟谷の鷲尾さんがレシーブで拾い上げ、セッターの赤葦君からのトスがエースである木兎さんへ上がった。
「!!」
力強く跳んだ木兎さんは高い打点から腕を振り下ろし、重低音を轟かせながら見事なストレートコースのスパイクを打ち切った。
梟谷の得点板が25点を刻み、第1セット終了のホイッスルが鳴り響く。
「く~~~!!きた~~~ッ!!ヘイヘイヘーイ!!」
木兎さんの渾身のガッツポーズと共に嬉しそうな声が上がる。
梟谷の方々に「木兎よくやった!」と背中やら肩やらを叩かれる中、木兎さんは再びこちらへ顔を上げてきた。
「夏初ちゃん見てたー!?俺、凄かった!?」
「!」
まさかの指名で感想を聞かれ、反射的に怖気付いて少し後ろに下がってしまう。
再び心拍数と体内温度が上昇し、思考回路をぶちりと遮断したくなるが、隣りに居る先輩が至極優しい顔を向けてくれているのと、本当に凄いものを見せてくれた木兎さんに何か一つでも御礼を伝えたいと思ったので、今度こそ先輩の影に隠れずにこの場に踏みとどまった。
ゆっくりと、深呼吸を二回繰り返す。
「......す......凄かった、です......」
勇気やら声帯やらを懸命に振り絞って出てきたものは、まさに蚊の鳴くような声といった感じで非常に小さく情けないものだったが、眼下の木兎さんにも何とか届いたらしい。
パッと嬉しそうに笑い、私に向けて勢いよく拳を突き上げた。
「ヘイヘイヘーイ!次もしっかり見ててなー!」
「きゃー♡ぼっくん素敵~♡抱いて~♡」
「立嶋には言ってねぇ!!気持ち悪ぃこと言うなー!!」
木兎さんの言葉に赤い顔のまま頷いていれば、横にいる先輩が思いきり裏声でそんな冗談をかます。
先輩の冗談に木兎さんが怒ると、梟谷にも音駒にもどっと笑いの波が起きた。
先程とはまた違う羞恥心に襲われながら先輩から少し離れると、立嶋先輩は楽しそうに笑ってくる。
「よく頑張ったじゃん。ナイスファイト」
「......さっきの無茶振り、一生恨んでやりますから」
機嫌の良さそうな先輩とは対照的に、私は恨みの籠った視線を先輩にぶつけた。
静かに憤る私を「悪ィ悪ィw」の一言で片付けた先輩は、落下防止の手すりを背中にして両腕をつきながら確認を取るように首を傾けた。
「でも今日、見に来てよかっただろ?」
「.............」
聞かれた言葉に対して素直に肯定したくなかった私は、何の言葉も返さない代わりに先輩の脇腹を軽く叩き、そのまま第2セット開始までずっと口をきかなかった。
魚心あれば水心
(その真っ直ぐさに、視線を、心を、まんまと奪われた。)