AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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只今より、梟谷学園高校対音駒高校の練習試合を始めます。
そんな簡単なアナウンスの後、互いのチームが一礼してからそれぞれのスターティングメンバーがコートに入る。
木兎さんに赤葦君、先程少しお話しした木葉さん、柔らかそうな黒髪の猿杙さんとガッチリ固めた黒髪の鷲尾さん、そして先輩も知らない一番背が高い男子生徒が各々のポジションについていた。
木葉さんだけがコートの外側に居て、ボールを何度か床に打ち付けている。
どうやら梟谷のサーブから試合が始まるらしい。
「一発目~、木葉ナイッサー」
ベンチから茶髪ツーブロックの小見さんが声を掛ける。
この体育館に居る全員の視線が集まる中、木葉さんはゆっくりと助走を始めた。
至極なだらかな動きで放たれたボールは思いの外弾丸のように音駒のコートへ向かう。
エンドラインぎりぎりに落ちるかと思いきや、音駒の坊主頭の人が静かな動きでボールを上に上げた。
ボールは放物線を描きながら金髪の人の元へ向かい、彼がボールを飛ばすとほぼ同時に先程目が合った気がするつり目の人が素早くスパイクを打った。
しかし梟谷の木兎さんと鷲尾さんにブロックされ、ボールはそのまま音駒のコートへ落ちる。
「ヘイヘイヘーイ!俺最強ー!」
「うるっせ!まだ1点目だろうが!あと今のブロックは鷲尾のが上手かったからな!」
「なんだとー!?」
喜びを全身で表すように大きくガッツポーズする木兎さんに、先程スパイクを止められた音駒の人が食ってかかる。
ネット越しにいがみ合う白と黒の頭をはらはらとしながら見ていると、ふんっとお互いに顔を背けそれぞれのポジションに戻った。
周囲の反応を見る限り、どうやら二人のやり取りは茶飯事のようで誰一人気にする素振りを見せていない。
話題に上がった鷲尾さんですら、自分は関係ないと言ったような顔で腰に手を当てそっぽを向いていた。
「すげぇな、木兎の奴。バレーしててもあんなにうるせぇのか」
「.............」
隣に居る先輩が褒めてるのか貶してるのかよくわからない言葉を発したが、私は特に会話を繋げること無く二回目の木葉さんのサーブを待った。
ホイッスルが鳴り、再びボールが宙を舞う。
音駒のコートで最初にボールを受けたのは短髪の猫目の人で、しなやかな動作でボールをまたセッターポジションへ返した。
金髪の人へボールが届く前に音駒の人はすでに攻撃態勢を整えていて、三人同時にネットへ向かって助走をしている。
これでは誰にボールが上がるかわからない。
よく見なければと少し身を乗り出した矢先、金髪の人は僅かな動きでボールをそのまま梟谷のコートへ落とした。
「え?」
「うわ、初っ端ツーアタックとか!度胸あんな~、格好良い~」
展開についていけずただポカンとしてしまう私を他所に、先輩は至極楽しそうな声を上げた。
どうやら3回以内であればいつでもボールを相手コートへ返してもいいようだ。
「基本的にレシーブはセッターポジに返して、セッターが攻撃組み立てんだけどな?稀に今みたいに他の奴ら使わずにセッターが攻撃することもあるんだよ。そういうのをツーアタックっつーんだけど、結構読まれやすい手だからやるタイミングがめっちゃ大事な訳」
「そうなんですか......」
今のは完全に裏をかかれたな~とニヤニヤと笑う先輩の横で、先程ツーアタックとやらを披露した音駒の金髪の人を目で追う。
私よりは高いんだろうけど背丈はあまりなさそうな彼が、音駒の1点目を決めた。
バレーボールは身長が高い方が有利だと漠然と思っていたが、もしかしたら一概にそうとは言えないのかもしれない。
「あ、小見が入ってきた」
「......え......もう交代するんですか......?」
先輩の言葉に梟谷のコートへ視線を移すと、名前がわからない一番背の高い男子がベンチへ、代わりに小見さんが後衛のポジションに入ってきていた。
まだ試合は始まったばかりというのにもう選手交代するのかと目を丸くしていれば、「小見はリベロだからな」と先輩から返される。
「リベロってのは守備専門の選手で、特定の選手と何度も交代できるんだけどそいつが後衛の時にしか交代できないって決まりがある。ちなみに唯一スパイクもブロックも禁止されてるポジションだ」
「......そんな選手が居るんですか......?どうしてその人だけそんなに制限が厳しいんでしょう......?」
「あ?あー......それはお前、リベロが何のために居るのかって話か?」
「......何のためにというか......リベロの人だけ攻撃できないって、なんでなんだろうって思っただけです......」
先輩と話している間にも、両チームの選手もボールも忙しなく動き回り、ラリーの状態が続く。
なかなか落ちないボールの行方を追っていると、リベロである小見さんが音駒からの攻撃を抑え、セッターポジションにいる赤葦君へ綺麗にボールを返した。
「レフト寄越せ!」
威勢のいい声が聞こえるのとほぼ同時に、赤葦君の指先からボールが放たれる。
その先には、まるで空中で待機していたかのようなタイミングでジャンプしている木兎さんが居た。
「.............っ!」
背の高い音駒の選手が三人もネット越しにジャンプして壁を作っていたにも関わらず、木兎さんは力強いスイングと共に重低音を響かせて豪快にスパイクを打つ。
ボールは音駒のブロックにぶつかったものの、その勢いのまま二階部分の落下防止の柵に激しくぶつかり、重力に任せて床に落ちていった。
「.............」
び......っくり、した......。
大きな音もそうだけど、まるで空中に止まってたかのような木兎さんの姿があまりにも現実離れしていて、度肝を抜かれてしまった。
人があんなにしなやかに飛べるなんて、知らなかった。
「ヘイヘイヘーイ!あかーし見た!?」
「見ました、見事なブロックアウトでしたね」
トスを上げた赤葦君の素直な言葉に気を良くしたのか、木兎さんは心底楽しそうに「俺最強ー!」と再びガッツポーズを決める。
その姿は本当に嬉しそうで、見ているこちらまで何だか嬉しくなってくる。
木兎さんはきっと、どこかヒトを惹き付ける天性の才能があるんだと思う。
赤葦君が褒めていた言葉に、今更ながらなるほどなと納得した。
▷▶︎▷
「っ、すみません少し低い!」
「おーし!あかーしもう一本!」
「バッカおま、どこ飛ばしてんだ!カバー頼む!」
「小見やんナイスレシーブ!赤葦フォロー!」
赤葦君のトスを木兎さんが音駒のブロックの腕に当てる。
反動で返ってきたボールはエンドラインギリギリまで飛ばされたが、小見さんが飛び込む形でレシーブに入りボールは不安定な状態で宙に浮いた。
そのボールの下へ赤葦君が走り込み、瞬く間にボールを右方向へ寄越すとピッタリのタイミングで猿杙さんがスパイクを放つ。
「.............」
まるでそうプログラミングでもされていたかのような見事な連携プレーに圧倒されてしまえば、得点を決めた赤葦君と猿杙さんはハイタッチを交わした。
「は~、今のはセッターが上手ぇな。少しレシーブ乱れてもしっかりブロックの位置見て、どこで速攻かけるかちゃんと見極めてる」
「.............」
口元に手を当て今のプレーを解説してくれる先輩の言葉にそうだったのかと更に驚き、赤葦君へ視線を向けると丁度木兎さんが赤葦君の元へ走り寄る姿が見える。
「あかーし今のは俺にトスくれよ!俺がリバウンドしたのに!」
「いや、木兎さん警戒されてたじゃないですか。猿杙さんはフリーだったので」
今のプレーに不服を訴える木兎さんに対し、赤葦君は至極冷静に言葉を返す。
「ごめんね木兎、囮ありがと」
「はぁ?囮になったつもりねーし!」
先程スパイクを決めた猿杙さんが苦笑しつつそんな声を掛ければ、木兎さんは一段と熱を上げ声を荒らげた。
何やら不穏な空気になってきたのではと少し心配になったが、「クソー!次こそ俺が打ーつ!!」という木兎さんの言葉で意外とあっさり幕を下ろし、次のプレーへと流れた。
先程の言い争いの後でも、梟谷の連携プレーは見事なまでに続行中だ。
今が試合中だからなのか、それとも男同士だからなのかはよくわからないが、木兎さんと赤葦君と猿杙さんの言い争いがここまで後を引かないなんて羨ましいを通り越して凄いと思う。
「.............」
そんな中、バレーをしている赤葦君の姿を見て、彼が一人の選手として三年生と対等であることを理解した。
先輩後輩関係なく、赤葦君は最良であろうと考える人にボールを寄越す。
言うなれば、赤葦君に選ばれた人だけがスパイクという攻撃をすることが出来るのだ。
梟谷の主将とエースを受け持つ木兎さんですら、赤葦君からトスを貰えなければ「囮」となってしまうのである。
「......凄いなぁ......」
感嘆のため息を吐くと同時に、思考がそのままぽろりと口から零れた。
元々が落ち着いた人だし自分よりはるかに大人っぽいとは思っていたが、バレーをする赤葦君は更に凛としているというか、同い歳であるはずなのに既に人間が出来上がっている気がする。
幾つになっても人見知りをするお子様な私とは大違いだ。
「あ、木兎ミスったwこのノーコン!w」
サーブをコートの外へ打ってしまった木兎さんに、先輩はここぞとばかりに野次を飛ばす。
その顔は本当に愉しそうで、思わず呆れのため息が出た。
「う、うるせー!少し勢い余っただけですー!ノーコンとかやめろ!」
「うるせー!ミスはミスだろこの下手くそー!w」
「うがー!!下手くそ言うなー!!」
まるで小学生同士のような先輩と木兎さんの言い合いに梟谷の人も音駒の人もどっと笑う。
中には「頑張れエース~w」やら「観客いいぞ~!もっとやれ~!w」等と声援らしきものを送る人も居た。
先輩の連れではあるものの火の粉がかかるのは嫌なので、ひっそりと先輩から少しずつ距離をとる。
何事にも動じない先輩は梟谷の人のみならず会ったばかりの音駒の人とも楽しそうに話していて、改めて立嶋先輩のコミュニケーション能力の高さに圧倒された。
但し、私と先輩は根本的な所から違い過ぎるので、凄いとは思うけどお手本にしようとは全くもって思わなかった。
「!」
先輩から1メートルほど離れたところで、偶然にも赤葦君と目が合ってしまう。
普段の制服姿とは違い、紺色のTシャツに水色のビブスを着けて、白のハーフパンツを合わせた赤葦君は試合中なこともあり汗だくだ。
「.............」
「.............」
相変わらず読めない表情のまま切れ長の瞳を向けられると、何も悪い事をしていないのに心臓がキュッと縮こまる。
何か言うにも言葉が見つからず、かと言って何も言わずに顔を背けるには目が合う時間が長過ぎた。
お互い何も話さないまま、ただ目線だけ合わせていると「おい夏初!」と隣りから名前を呼ばれ、弾かれたようにそちらへ顔を向ける。
「お前からも何か言ってやれ!木兎先輩のゴリラ~とか!」
「.......後生ですから、巻き込まないでください...」
ヒートアップした先輩の死刑宣告とも取れる言葉に、自分でも驚く程低い声で静かに返答する。
それでもなかなか引き下がろうとしない先輩に最早半泣きで首を振っていると、審判をしている梟谷の人が痺れを切らしたようにホイッスルを鳴らした。
その音で今が試合の途中であったことを思い出し、各々が速やかに自分のポジションに戻っていく。
最後まで木兎さんは先輩に怒っていたが、木葉さんに頭を叩かれ渋々自分の持ち場へ帰っていった。
「うははw木兎の奴、やっぱおもしれぇな~wバレーしてる時はむちゃくちゃ格好良いのに、本当に残念な奴w」
「......それは先輩が揶揄うからでしょう......?」
落下防止の手摺に両腕をつき、楽しそうに眼下の木兎さんを見る先輩にため息を吐きつつそう返せば、立嶋先輩はその笑顔のまま私へ視線を寄越した。
「......あと、アカアシ君もむちゃくちゃおもしれぇな?一瞬、すげー睨まれたんだけど」
「それも先輩が試合に水を差すからでしょう!」
「イッテ!」
あっけらかんと言われた一言に思わず先輩の背中を叩いてしまう。
もしかして、さっきこっちを見ていたのは「試合の邪魔をするなら帰ってください」の意だったのかもしれない。
そう思ってしまえばもうそうとしか思えなくて、折角誘ってくれたのに失礼なことをしてしまったと激しく後悔するも全てが後の祭りである。
月曜日、教室でどう謝罪しようかと考え始めたところで、試合再開のホイッスルが体育館に鳴り響いた。
目は口ほどに物を言う
(これはこれは、大変面白いことになって参りました。)