AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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バレーボールは体育の授業でしかやったことがなく、にわか知識しかない。
確か六人でやるスポーツで、ボールを持ってはいけなくて、床に落としたら負けだった気がする。
「それで、えーと、さ、3回?で返すんでしたっけ?」
今の体育で丁度バレーボールをやっているので、授業の内容を思い出しながら先輩に尋ねると「そうそう」とあくび混じりに先輩は頷いた。
先程ボールを当てられたせいで少しだけ鼻が赤くなっている。
「そんだけわかってりゃ問題無いだろ。あとは人か?よし、俺が紹介してやろう」
落下防止の柵に上半身を預け、先輩はコート下を指さしてそれぞれの人の名前を教えてくれる。
「あの左端にいるでかい奴が鷲尾で、隣りのでかい奴が猿杙な。今スパイク打ったでかい奴が木葉で、その後ろのでかい奴が木兎」
「......先輩、わざとですか?」
「で、こっちでレシーブしてるちっちゃい奴が小見」
「.............」
おざなりな紹介に思わず呆れた目を向ければ、立嶋先輩は何が楽しいのか可笑しそうに笑った。
「お前、本当にいい顔するよな~。でも、彼氏が出来たらその顔は控えた方がいいぞ?」
「......大きなお世話です」
失礼千万な発言に早々に嫌気がさし、先輩の相手をするのをやめて眼下のコートの様子を眺める。
今は梟谷がコートの一面を使ってスパイクの練習をしていて、音駒の方は端っこでレシーブの練習をしている。
トスを上げるのは赤葦君で固定されているらしく、さっきからずっとネット近くで器用にボールを上に飛ばしていた。
(......あ、次、木兎さんだ......)
特徴的なモノトーンの髪の毛が列の一番前に来て、少しだけ期待に心が弾む。
赤葦君がボールを上げると同時に助走し、木兎さんは床を蹴って力強く飛び上がった。
「!」
ズドン。重低音とその衝撃に、たまらず肩がビクリと震える。
体育館の床が抜けてしまうのではないかと心配になる程の強烈な打撃に、私はただ呆然とするしかなかった。
「.............」
「すげぇな、木兎のやつ。マジでゴリラじゃん」
私をからかっていた先輩も、木兎さんのスパイクには興味を惹かれたらしい。
あれがぶつかったのだと思うと心の底からゾッとするが、青アザが出来るだけで済んでまだ良かったのかもしれないと妙なところでほっとしてしまった。
「......おお、今度は音駒がスパイク打つみたいだな。あのモヒカン、すげー格好良いな。強そう」
「.............」
時間で交代するのか、今度は梟谷が端の方でレシーブの練習を始め、コートは音駒の選手だけになった。
黒地のTシャツに赤いビブスを纏った音駒の選手は、梟谷とはまた違った迫力があって心がそわそわしてしまう。
先程まで赤葦君が居た位置には長めの金髪を携えた男子が淡々とボールを上げていた。
パッと見スポーツをしているようなタイプには見えないが、その位置に彼が居るということは音駒のレギュラーの座を見事勝ち取っている選手なのだろう。
スパイク練習をリズム良くこなしている音駒の選手陣をぼんやりと眺めていれば、ふいにこちらへ顔を上げた背の高い黒髪の男の人と偶然にも目が合ってしまった。
つり上がった目尻に片側だけ髪を上げているので、更に威圧感を増している。
加えて眉毛が短いのも厳つく感じてしまい、あまり自分の周りには居ないタイプの相手だった為思わず顔が引き攣った。
ほとんど反射的に顔を背け、そのまま先輩の影に隠れる。
「あ?なに?トイレか?」
「......いえ、なんでもないです......」
「んなわけねぇだろ、何で嘘つくの」
「.............」
私の行動に先輩は首を傾げるが、黙ったままの私を見て早々に諦めたのか再び顔をコートの方へ向けた。
深追いしてこない先輩に心の中で頭を下げながら、とにかく上がってしまった脈拍と噴き出した冷や汗をどうにか鎮めなくてはと目を瞑って何度か深呼吸をする。
そんなことをやっているとコートの下からホイッスルの音が聞こえ、両チームの選手がバタバタと移動する足音が聞こえた。
そろりとコートを見ると、どうやらウォーミングアップの時間がそろそろ終わるようで、選手達はそれぞれのベンチにつき円になって話し合っている。
音駒の円の中には先程目が合ってしまった人も居て、今更ながら酷く失礼なことをしてしまったなと反省し、遠目ながらにごめんなさいと頭を下げた。
「試合始まるぞ、トイレいいの?」
「......大丈夫です」
気をつかってくれたのか、それともからかってるのかはわからない先輩の言葉に小さく返答し、先程まで立っていた位置へそろそろと移動する。
別に向こうに他意はないだろうし、そもそも目が合ったと感じたのは私だけだったかもしれない。
人見知りゆえの自意識過剰っぷりを試合が始まる前に発揮してしまい、早々に気分が重くなった。
「......先輩、やっぱり帰りたいって言ったら、怒りますか......?」
「は?声ちっさくて聞こえなかったわもう一回言ってくんない?あー、もう試合始まるってよ」
「.............」
明らかに聞こえないふりをされた上に試合開始のホイッスルが体育館に鳴り響き、物理的にも精神的にも逃げ場を失った私はもうどうすることもできず、この場に立ち尽くすしかなかった。
▷▶︎▷
音駒との練習試合、その前のアップ中に視界の端で気になる情報を捉えてしまい、自分の未熟さに小さくため息を吐いた。
このチームのセッターであり、二年でもある自分が試合以外のことを今考えるべきではないと頭では理解しているのだが、感情を伴った思考を完全にシャットアウトするのはなかなかに難しい。
自分自身は勿論のこと木兎さんの今のコンディションやチーム全体の様子の把握、相手である音駒の調子などの分析は確実にすませる。
それ以外の余計なことを考える脳のスペースは極力取りたくない。そう思えば思う程、自分の口からはため息が零れた。
「赤葦どうした?もしかして体調悪い?」
ふいに横から話しかけられ、どきりとしながら顔を向けるとそこには猿杙さんが黒目がちな瞳をこちらへ向けていた。
「さっきからため息ついてるから、もしかしてしんどいのかと思って」
「......いえ、体調的には全く問題無いのですが......」
「そう?ならいいんだけど......でも、木兎も今日は別に調子悪そうじゃないよな?むしろ結構いい方に見える」
「......そうですね。木兎さんも今のところ全く問題無いと思います」
「じゃあ、どしたの?」
「.............」
猿杙さんの無駄の無い会話運びに、思わず言葉を詰まらせる。
猿杙さんならきっと俺が「何でもない」と答えればそこで会話は終了し、それ以上深く聞いてくることはないだろう。
だけど、そんな猿杙さん相手だからこそこの雑念を話しておきたい気持ちに駆られた。
練習試合とは言え試合の前にこんなことを話すのはどうしても気が引けるので、声を潜めて「......とても、下らない話なんですけど」と周りに聞こえないようにそっと打ち明ける。
「......今日、木兎さんがお誘いした園芸部のお二人が来てるじゃないですか。それで、森とは最近話すようになったんですが、俺や木兎さんと話している時と園芸部の先輩と話している時の雰囲気がだいぶ違って、少し驚いたというか......」
「あー......でもあの子、確かめちゃめちゃ人見知りするとか言ってなかったっけ?」
「......はい、そのようですね......」
「.............」
指先をマッサージしつつ、目立たない程度にギャラリーへ視線を向ける。
今は音駒がスパイク練習をしていて、園芸部の二人はその姿を眺めていた。
普段と変わらない制服姿であるものの、同じクラスの森は教室では見せない表情や仕草をする為少しばかり気を取られてしまうのだ。
現にいまも、何か驚いたことがあったのかビクリと肩を震わせて園芸部の先輩の後ろに隠れてしまう。
......気を許している人が相手なら、あんな風にコミュニケーションを取れるのか。
まるで怖がる子猫のような森の行動を遠くで眺めていると、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。
しまった、つまらない話で猿杙さんのアップの時間を割いてしまったと慌てて「すみません」と謝罪をすれば、猿杙さんは笑顔のまま俺の肩を軽く叩く。
「とりあえずさ、赤葦はしっかりバレーすればいいよ」
言われた言葉に勿論そのつもりですと返そうとすれば、先に言葉を重ねられてしまう。
「木兎が先に褒めてるんだろうけど、バレーしてるお前、めちゃめちゃ格好良いよ。だからあの子が人見知り発動しちゃう前に、全力の赤葦を見せてやればいい。そうすりゃ向こうも赤葦のこと、少しは掴みやすくなるんじゃない?」
「.............」
「お前、慣れないと色々掴みどころないしね。何か小難しいこと考えて伝えるより、そっちの方がいいんじゃないの?」
何も言えずただ黙って話を聞く俺に、猿杙さんはもう一度肩を叩いてからベンチの方へ走っていく。
「.............」
その後ろに続きながら、先程猿杙さんに言われた言葉をもう一度思い出す。
......もしかしたら、俺は森と仲良くなりたいんじゃないだろうか。
そう思ったらグルグルと考え込んでいた思考がストンと落ち着き、頭の中がやっとクリアになった。
「今日もいいトス寄越せよ?あかーし!」
脳内がすっきりしたと同時に木兎さんから背中を強く叩かれ、前のめりになると猿杙さんが直ぐに支えてくれる。
もう大丈夫だ。視界良好、一意専心の状態が出来た。
「任せてください。今日一日、勝ちに行きましょう」
俺の強気な台詞に木兎さんも乗っかり、いつもよりずっとテンションの高い決まり文句が体育館に響き渡る。
そんな木兎さんを木葉さんと小見さんが「今日は一段とうるせーなw」と鼻で笑う中、猿杙さんと俺は静かに拳を合わせた。
百聞は一見に如かず
(赤葦は確かにモテるんだけどさ、ビックリする程疎いんだよねぇ)