AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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ローファーを脱ぎ、持ってきたビニール袋に入れてからおずおずと先輩の後に続く。
既にバレー部はウォーミングアップをしているようで、体育館から少し離れた出入口でもボールを打つ音や掛け声、シューズが鳴る音などが忙しなく聞こえてきた。
......体育館には、知らない人が沢山いる。
なるべく考えないようにしていた抗えない事実を目の前に突き付けられた気がして、たまらず心身がぎゅっと縮こまる。
「見るの上からでいいよな?そっちのが見やすいし......あ、でも夏初スカートか。見せてもいい可愛いパンツ履いてきたか?」
「......見せていいモノなんて、ありません......飛び跳ねたりしなければ......問題ないと思うので......」
先輩の下世話な冗談にも、緊張が邪魔してうまく返せない。
普段ならもっと文句も毒舌も返せるのだが、心の余裕が全く無いのだ。
......やばい、なんか冷や汗かいてきた。
せめて手汗だけはどうにかしようと両手を軽くすり合わせれば、指先が驚くほど冷たくなっていた。
「......お前、......あ~あ~、夏初、ちょっとこっち向け」
「............」
やっぱり無理、帰りたいという気持ちが頭をもたげてきた矢先、前を歩いていた先輩が足を止めてこちらへ振り返る。
心臓がバクバクと脈打つ中、すでに疲労し始めた頭で何とか先輩の言葉通りに顔を上げると、先輩は黙って私を見つめてから苦笑に近い笑いをもらした。
「......すっげー緊張してんな。ここまでだとなんか可哀想になってくるわ」
「.............」
「ま、そうは言っても帰らせねぇけど」
「.............」
今度は悪戯にニッコリと笑い、おそらく疲弊しているであろう私の顔を大きな手で包み込む。
部活動のせいでマメが出来ている先輩の親指が軽く撫でたところは、青アザが出来ていた部分だった。
「......今日は園芸部として、木兎に詫びを貰いに来てんだ。お前がくらった痛み分、凄ェもの見せて貰わないと俺の気が済まねぇ」
「.............」
両頬を挟まれたまま、少しだけ声を低くして言われた先輩からの言葉に思わず目を丸くする。
先程保健医の先生に、今日は園芸部として来たと言っていたのはどうやらこういう意味合いがあったらしい。
当事者である私の方が何も考えずにこの場へ来てしまった。
「無論、夏初がそれを見ねぇと意味無いからな。だから今日は頑張れ」
「.............」
そんな言葉を締めに、先輩はするりと両手を外す。
思いもよらない展開に目を瞬かせていれば、いつの間にか先程までの緊張が薄れているのに気が付いた。
指先はまだ冷たいけど、うるさいくらいの心臓の音とか冷や汗とかはだいぶ落ち着いてきている。
......ああ、やっぱりこの人は、私のヒーローだな。
すでに前を歩き始めている先輩の背中に小さく息を吐いてから、駆け足でその後を着いていく。
「......頑張り、ます......」
拳を固め、小声ながらに決意を表明すると、前を歩く先輩は「声ちっさw」と可笑しそうにふきだした。
「あ!夏初ちゃん来た!夏初ちゃーん!」
先輩の後に続いて体育館の2階にあたる細長い通路、通称キャットウォークと呼ばれる部分を歩いていると下から元気のいい声で名前を呼ばれた。
聞き覚えのある声にぎくりとしつつおそるおそる下を見れば、部活着にビブス姿の木兎さんが眩しい程の笑顔を向けてこちらに手を振っているのがみえる。
「おはよー!今日は来てくれてありがとな!応援よろしく〜!」
「......お、おはよう、ございます......」
「おいコラ木兎!俺には何の挨拶も無しかよ!」
「え?だって立嶋にはラインで挨拶したじゃん?ていうか途中から既読スルーしてただろー!?ひっでぇの!」
「ひでぇのはどっちだっつーの!観客を朝の6時に叩き起しやがって!今日は木兎がミスるごとに野次飛ばしてやっからな!覚悟しろ!」
「なっ!?や、やめろよ!テンション下がんだろー!?」
木兎さんにペコペコと会釈しながらとりあえず挨拶を返せば、立嶋先輩と木兎さんの漫才か何かにも聞こえる会話が始まってしまった。
それに梟谷男子バレー部の何人かが面白そうに囃し立てる中、一人こちらを見ている人物に気が付き反射的に顔を向ける。
「あ......」
静かにこちらをじっと見ていたのは同じクラスの赤葦君で、咄嗟に何か言おうとすれば赤葦君は駆け足で私の近くまで来てくれた。
「おはよう。もしかしたら来ないんじゃないかとも思ってたけど......来てくれてよかった」
「......おはよう、ございます......」
木兎さん達と騒いでいる先輩から少しだけ距離を取り、アリーナにいる赤葦君に挨拶をする。
身長差からいつも見上げている赤葦君を、今は見下ろしているので何となく妙な感じだ。
「.............」
そわそわするのはこの場の雰囲気に呑まれているからか、それとも赤葦君と話すことにまだ完全に慣れてないからか、挨拶から次の言葉がなかなか出てこない。
赤葦君は相変わらず読めない表情で黙ってしまっているため、どうしたものかと一人ぐるぐると考え込んでしまう。
「.............」
「.............」
「赤葦お前、夏初ちゃんガン見し過ぎな?困ってるだろうが」
「!」
奇妙な沈黙が続いてしまったが、赤葦君の後ろから明るい髪色の人が助け舟を出してくれ、そのまま赤葦君の肩に腕を回した。
「痛いっすよ、木葉さん......」
「いくら同じクラスだからって、無言でガン見はダメだろ?ただでさえお前目力強いんだから」
「.............」
木葉さんと呼ばれた男の人は、赤葦君と密着したままこちらへ顔を向け、にこりと人の良さそうな笑顔を向けてくれた。
色素の薄い、サラサラとした髪の毛が印象的だ。
「おはよー夏初ちゃん。俺、三年の木葉っつーんだけど、木兎が色々やらかしてごめんな。顔の怪我、もう大丈夫なの?」
「......あ......はい、大丈夫、です......お騒がせ、しました......」
「そっか、よかった。女の子だし、傷とか残ったらって心配してたんだけど、大丈夫そうなら本当によかったわ」
「......す、すみません......あ、ありがとう、ございます......」
ろくに話したことも無い人なのに心配してくれていたなんて、ありがたいを通り越して何だかとても申し訳なく思えてくる。
自分が相手より上の場所に居るから見上げてもらう形にはなってしまうが、落下防止の鉄の柵から半歩離れて深々と頭を下げた。
「......え、夏初ちゃんめちゃめちゃいい子じゃね?彼氏いる?」
「なに、呼んだ?」
「!?」
木葉さんの思わぬ軽口に咄嗟に顔を上げて首を振ると、いつの間にかすぐ近くに先輩が来ていてガシリと肩に手を回された。
先輩の言動に驚いて思考も身体も固まっていれば、アリーナは先程よりも一層騒がしくなる。
「はぁ!?嘘だろ!?お前ら付き合ってんの!?マジで!?」
「同じ部活でリア充とかマジ許さん!羨まし過ぎだろ!」
「夏初ちゃん絶対早く別れた方がいい!こいつめちゃめちゃエロいぞ!」
「おーおー、負け犬共がよく吠えるぜ......」
木葉さんと木兎さん、もう一人の茶髪のツーブロックの男の人が騒ぎ立てるが、先輩と私は別にお付き合いしていないので完全にガセネタである。
ただでさえ知らない人ばかりの空間に焦りを募らせているというのに、この先輩は更に私を慌てさせるような仕打ちをしてくる。
誰だ、こんな酷い人をヒーローだなんて思った奴は!
数分前の自分に思いっきり膝カックンでもしてやりたい気持ちだ!
焦りと恥ずかしさでいたたまれなくなり、こういうノリ本当に苦手だと体を縮こませて目を瞑っていると、バシンバシンと乾いた衝突音がアリーナの方とすぐ近くから複数回聞こえ、何事かと思い直ぐに目を開けた。
見ると、隣りにいる立嶋先輩とアリーナにいる先程の三人が顔や後頭部を押さえて呻き声を上げている。
先輩方の近くには先程までなかったバレーボールが丁度人数分無造作に転がっており、赤葦君含める周囲の人々はあ然とした顔を一箇所に向けていた。
恐る恐る赤葦君達の視線を辿ると、ボールを収納するキャリーの両隣りに凛と立つ女子マネージャーのお二人の姿があった。
......まさかとは思うけど、そこからボールを投げて先輩方に当てた......とか......?
もしそうだとしたら、物凄いコントロールである。
「......随分楽しそうだけど、アップはどうしたの?そんなに余裕あるなら音駒に1セットも取らせないでよ?」
「ついでに音駒に1セット取られた時点でペナルティだって~。往復全力ダッシュ10回とフライング3周だそうでーす」
「うげええええええッ!?」
美人マネージャーのお二人の言葉に、木兎さん達だけではなく梟谷男バレ全員が悲鳴をあげる。
発言の内容をよく理解できなかったが、どうやらバレー部員にとって非常に嫌な事態らしいことだけはわかった。
「......俺はバレー部じゃないのに、なんでぶつけられた訳......?」
「......あぁ、ごめんねぇ?夏初ちゃんがあまりにもうっとおしそうだったから、つい?うっかり~」
「ていうか立嶋君さ、虚偽の申告の上にセクハラってマジでサイテーだからね?キモい以外の言葉がないから」
「..............すみませんでした」
山椒は小粒でもぴりりと辛い
(......あの口達者な先輩が負けてるとこ、初めて見た......)