AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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半分先輩に流される形ではあったものの男バレの練習試合を観に行くことを決め、赤葦君におずおずと伝えたのが木曜日の放課後の話。
そこから日曜日までは本当にあっという間に過ぎてしまい、何の心の準備もしないまま当日を迎えてしまった。
休日なのにどうして制服を着ているのかと母親に聞かれ、バレー部の友達の応援に行くのだと答えたら酷く驚いた顔をされた。
夏初ちゃん、そういうの苦手じゃなかったっけ?どういう風の吹き回し?
......あ、もしかして、その友達って男の子だったりして?
こういう時だけ妙に勘が冴え渡る母親の言葉を無理やり遮り、未だ少し残る顔の青アザを拙い化粧で隠してからとっとと家を出た。
梟谷学園までは電車で30分程掛かるので、とりあえずその30分間で心を整えなければならない。
いくら先輩が一緒だとは言え、これから行くのは知らない人ばかりの空間だ。
応援しに行く梟谷の男バレだって、赤葦君と木兎さんくらいしか知らない。
一応仲のいい友達二人にも一緒に男バレの練習試合を観に行かないかと誘ってはみたものの、一人はバイト、もう一人はデートの先約があるということでどちらにもフラれてしまった。
二人からは「あの赤葦から試合観に来てほしいなんて言われること自体凄いんだから自信もって行っといで!」なんて声援なんだか助言なんだかよく分からないメッセージを貰い、今朝も律儀にラインがきた。
完全に面白がってるような内容だったのでスタンプのみで返答し、後は返事が来ても既読スルーで済ますつもりだ。
スマホにイヤホンをさし、お気に入りの音楽を聴きながら既に緊張し始めている心身を解す。
大丈夫、大丈夫。今日は立嶋先輩が一緒なんだし、赤葦君とも結構話せるようになってきたし、木兎さんのバレーだってとても楽しみだ。
お昼ご飯はカツ丼だし、いい天気だし、決してマイナスなことばかりじゃない。
大丈夫、大丈夫とまるで何かのおまじないのように心で何度も唱えながら、私は丁度よく駅に着いた電車に乗り込んだ。
▷▶︎▷
先輩との待ち合わせ場所である梟谷学園の正門前に到着したが、時計を見れば待ち合わせ時間よりも20分近く早くに着いてしまっていた。
母親の野暮な詮索から逃げるために早めに家を飛び出し、丁度よく最寄り駅に到着していた電車に乗れてしまったのが原因だろう。
イヤホンを外し、さてどうしようかなと周りを見回す。
学園内の運動場にはおそらく運動部であろう団体が走ったり何かしらの競技をしたり、忙しなく動き回っている。
ここで先輩を待っていてもいいが、独りでぼんやりしていると余計なことばかり考えてしまいそうで怖い。
最終的に、やっぱり帰ろうと怖気付く自分が容易に想像できるので、このままここで先輩の到着を待つのは辞めることにした。
先に体育館へ行く勇気はもちろん無いので、私の足は自然と高等部の校舎へと向かう。
絶対に会えるという確信はなかったが、窓からちらりと覗いた室内にはお目当ての人物の姿が見えた。
そのことにほっとしつつ、外から窓を軽く叩く。
相手は驚いた顔を向け、私の姿が目に入るといつも通り優しく笑ってこちらへ歩いてきた。
「おはようございます、夏初ちゃん。何かと思ったわ」
「おはようございます、驚かせてごめんなさい」
保健室の窓を開けてくれた初老の保健医の先生に軽く頭を下げる。
保健室は一階にあり、外からでも出入りできるよう扉がついているので先生は中に入るか聞いてくれたが、私は首を振ってこのままでいいと伝えた。
「今日は休日なのに、こんな時間に制服でどうしたの?もしかして補習?」
「......先生、私、結構真面目に授業受けてる方ですよ」
「あらあら......それもそうね、ごめんなさい」
唐突に心外な言葉をくらい思わず顔をしかめると、先生は穏やかに笑いながら直ぐに訂正してくれた。
......ああ、この人と話していると本当に心が落ち着くなぁ......。
「じゃあ、どうして学校に......あら、顔の怪我、だいぶ綺麗になったわね。よかった、折角の可愛いお顔が台無しだったもの」
「そんなに可愛くないですよ......」
先生が褒め上手だとわかっていても、反射的に赤くなってしまう阿呆な自分が恨めしい。
化粧で少し隠してることを伝えると、先生はこの場で軽く診察をしてくれた。
「......今日学校に来たのは、男バレの練習試合を見に来たからなんです」
怪我の容態を診てくれている先生にことの経緯をかいつまんで説明すると、先生は私の頬から手を離して私と目を合わせた。
「あらあら......そんなことになってたの。夏初ちゃんも大変だったわね」
「......大変と言うか......なんかこう、あまりに展開が急すぎて、未だに頭が着いていかなくて......」
「......でも、赤葦君や木兎君とは少し仲良くなれた?」
「.............」
先生の言葉に、少し黙る。
一番最初の頃よりかは多少話せる様にはなってきたと思うが、同じクラスの赤葦君はさておき木兎さんの方はどうなんだろう?
仲良くは......なってないのか、な......?
どう答えたらいいのかわからずそのまま口を閉じてしまえば、先生は穏やかに笑いながら「怪我の経過は良好よ」とだけ伝えてくれた。
「今日は、立嶋君も一緒なんでしょう?」
「はい、先輩が木兎さんと決めたことなので......」
「......よかった、じゃあ喧嘩はしなかったのね」
「え?」
話の途中に不穏な単語が聞こえ、思わず聞き返してしまう。
何事かと目を丸くする私を見て、先生は少し可笑しそうに笑った。
「......立嶋君ね、わざとじゃないけど木兎君がボールぶつけて夏初ちゃんに怪我させたって話をした時、実はとても怒っていたの」
「え......」
「可愛い後輩の夏初ちゃんが不慮の事故とはいえ痛い思いをさせられて、可哀想でならなかったんでしょうね......」
「.............」
「その後はずっと黙ったまま花壇のお手入れしていたから、少し心配してたんだけど......今日、二人でバレー部の応援にいくのなら、心配なさそうね」
「.............」
まるで陽だまりのような温かな空気を携えて、先生は私の知らない話を聞かせてくれる。
私の顔の怪我を見てあれだけ大笑いしていた先輩が、実は木兎さんに怒っていたなんて......にわかに信じ難いけど、先生が私に何の重要性もないウソをつくなんてことの方が信じ難い。
「.............」
......先輩、心配してくれてたんだ。
思いがけない情報に、たまらず胸の奥が熱くなるのを感じた。
「おいコラ夏初!お前が正門前で待ち合わせって言ったんだろうが!」
「ヒッ!?」
先生とのほわほわとした優しい時間は、背後から突然降ってきた怒鳴り声にかき消された。
ぎくりと身体をびくつかせ、慌てて後ろを振り返るとバイカラーのブルゾンに黒のジーンズ姿の立嶋先輩が不機嫌そうな顔で仁王立ちしていた。
「時間になっても来ねぇからまさかと思って来てみれば......ドンピシャじゃねぇかオイ」
「え......あっ!?......ご、ごめんなさい......!」
先輩の言葉にぎょっとして腕時計を見ると、いつのまにか時計の針は待ち合わせ時間をゆうに過ぎている。
待ち合わせには20分もあるからと完全に油断してしまった。
「たく......場所変えんなら連絡くらい寄越せよなァ」
「す、すみません......」
「あらあら、おはよう立嶋君。あまり夏初ちゃんを怒らないであげて?」
「いーや、園芸部において連絡無しの遅刻は許さん」
「あらあら......でも、今日は部活で来たんじゃないんでしょう?」
「甘いぜめい子、今日はちゃんと園芸部としてバレー部の応援に来たんだよ」
先輩の言葉に、先生は目を瞬かせてから私と顔を合わせた。
「......立嶋君、私服なのに?」
「いや、休みなのに制服の方がおかしいだろ。なんでお前制服着てんの?」
「え......だって、学校行くなら制服なのかと...」
「真面目かよ。学校っつったってバレー部の応援だぜ?しかも公式戦とかじゃない練習試合なんだから、尚更私服でいいだろ」
「.............」
先輩の話を聞いて、確かにそうだなと今更ながら納得してしまう。
制服着てるの、赤葦君とか木兎さんに変に思われたらどうしよう。
特に深く考えずに制服を選んでしまった朝の自分が心底憎らしい。
どうして私はいつだって考えが足りないんだろうか。
「あらあら......でも立嶋君、今日は園芸部として来たんでしょう?」
「おう、夏初に顔面レシーブさせた落とし前つけさせにな」
再び聞こえた物騒な単語に「お、落とし前ってそんな......」と眉を下げて抗議するが、ふと先程先生が教えてくれた話を思い出し、話途中で思わず黙り込んでしまった。
そんな私の様子を見て先輩は首を傾げたが、事情を知っている先生は朗らかに笑うばかりで私にも先輩にも助け舟は出さない。
「......ま、何でもいいけどとりあえず体育館行こうぜ。朝から木兎のラインが超うるさくてよォ、通知オフにしてやったわ」
「......先輩、木兎さんの連絡先知ってるんですね......」
「おう、なんか知らんが知ってた。でもコイツ、朝の6時からガンガン送ってきやがってマジで有り得ねぇ」
「.............」
今が9時半少し過ぎた辺りだから、先輩と木兎さんは3時間以上も前から連絡を取り合っていたということになる。
スマホを片手に舌打ちする先輩を少し不憫に思いながらも、保健医の先生に別れの挨拶をして先輩と共に体育館へと向かった。
「夏初はアカアシ君と交換してないの?」
「え、してないです。先輩と木兎さんが連絡取れるなら、それでいいじゃないですか」
「全然よくねぇよ。お前も朝っぱらからガンガン送られてみ?マジで殺意沸くから」
「......遠慮しておきます......」
賽は投げられた
(いざ行かん、梟達の宴へ!)