AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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梟谷学園は都内の私立校であるが、至る所に花壇があって毎年四季折々の花々が咲き誇る。
いつから発足しているのかはわからないけど、高等学校の園芸部は学園全体の植物の手入れを活動範囲としているので活動場所がコロコロと変わる珍しい部活だ。
ここ暫くは高等学校の校庭に面した花壇の草むしりをやっていたが、一段落したので今は体育館側の花壇や植木の手入れを始めている。
活動内容や場所は大体先輩が決めることが多いが、稀に私が気になったところを報告したり、先生方や用務員の方、警備員の方から指示されたところの手入れや修繕をすることもあった。
活動範囲は広いけれども園芸部は昔から少数精鋭で活動しているらしく、今の部員は三年生の立嶋先輩と二年の私だけだ。
たった二人で部活と称していいのかと甚だ疑問ではあるが、毎年こんな感じらしいので先生方から何かつっこまれたことは一度もない。
顧問の先生も一応決まってはいるが、他の部と兼任されていて殆ど話したことすらなかった。
「お、ちゃんと咲きやがったな~偉いぞ~」
自前の黒いTシャツに学校指定のジャージのズボンを膝捲りで履いた先輩が花壇を前に嬉しそうに笑った。
初夏に咲くようにと植えたゼラニウム、ニゲラ、シノグロッサムが綺麗に咲き誇っていた。
白と青と紫のコントラストが視覚的に非常に美しく、初夏の空気を見事に演出している。
「本当はスズランもいっときたかったんだけどなぁ、校長からの許可が降りなかったんだよなぁ」
「スズランは毒性がありますから......学校の花壇には難しいでしょうよ」
「さわるな危険!とか看板さしときゃいいじゃねぇか」
「そういうものに真っ先に触りに行く人が何言ってるんですか。あと見た目が不格好になるので私は反対です」
「......夏初サン、いつにも増してキレッキレだな。やっぱ怒ってる?木兎の件」
「.............」
軍手を嵌めながらちらりとこちらを窺う先輩に、何を今更と思いつつ軽くため息を吐く。
「......木兎さんの所へ行く前に、お話ししてほしかったです。事によっては木兎さんを傷付けてしまったかもしれませんし」
「いや、木兎に関しちゃそれはねぇだろ。あいつ、お前が人見知りなこともわかってなかったぞ?めちゃめちゃわかりやすいのにな~」
「.............」
「ま、とりあえず今週末のうちの活動はバレー観戦だから。俺カツ丼食いたいから昼飯は西門の方の定食屋な」
「......午前中から行くんですか?ていうか、私まだ行くなんて言ってないんですけど......」
先輩の自由奔放な発言に半分諦めながらも小さく反論を唱えれば、返ってきたのは呆れを含んだ大きなため息だった。
「お前なぁ......あのイケメンサラブレッド君に直接声掛けられたんだろ?ほんっと堅実過ぎというか、なんかこう、浮かれたりしない訳?めちゃめちゃいい男じゃん」
「......赤葦君のことですか?」
「そうそう、アカアシ君。小見に聞いたけどめちゃめちゃ有能なんだって?まぁ、名前からして仕事出来そうだもんな~、イケメンだし」
「.............」
確かに名は体を表すという言葉はあるけど、果たして今のはどうなんだろうか?
赤葦君が仕事が出来るっていうのは当たってそうだが、なんだか先輩の話は根拠にかける気がしてならない。
そんなどうでもいいことを考えていたら、軍手をつけた右手で真っ直ぐと指を刺された。
「夏初はさ、全く行きたかねーの?それって100パー?」
「.............」
唐突に聞かれたことに思わず押し黙ってしまう。
絶対に嫌なら、たぶんあの時に断ってる。
木兎さん相手なら話は少し変わるが、同じクラスの赤葦君が相手なら尚のこと、お断りすることはできたはずだ。
そのくらい私の人見知りは重症なのである。
......だけど、今回は自分の中で意思が迷子になってしまった。
「それとも、行きたいけど行きたくないとかクソみたいなこと考えてる?」
「!」
初夏の風とともにさらりと図星をつかれ、たまらずぎくりと動きを止めると先輩は「あ~、やっぱりな~」と力無く天を仰いだ。
少しの間私も先輩も何も喋らず沈黙が続いたが、先に行動を起こしたのは先輩だった。
「......断言すっけど、人間ってのは悩んだり迷ったりする時点でアウトなんだよ。そうなったらもう、どっち選んでもなんかしらの後悔が残るんだ。あの時やっときゃよかった~とか、やらない方がよかった~とかな」
「.............」
先輩の言葉に、小さく唇を噛む。
何か反論したいところだが、頭の奥で確かにそうだと納得してしまう自分が居て結局何も言えずにただ押し黙る。
「だったらさぁ、やりたいって思った方やってから後悔しようや。な?」
「.............」
どっちを選んでも、後悔は残る。
そんな救いの無い言葉を発する先輩は、初夏の太陽の下で明るく爽やかに笑った。
『......今週末、やっぱり観に来てほしい。絶対後悔させないから』
先輩の言葉を聞きながら、放課後赤葦君に言われた言葉を思い出す。
......なんなんだ、この二人は。ウラで何か画策したんじゃないのか。
「.............」
疑心暗鬼に陥る思考回路に、早々に嫌気がさす。
グズグズといつまでも一刀両断できない自分が一番情けないのに、それをヒトのせいにするとは一体何様のつもりだ。
「......俺が居れば、お前は最強だ!」
「!?」
完全に目の前が真っ暗になってしまった私に向かって、大それた台詞が降ってきた。
反射的に顔を上げ、発言先の人物......立嶋先輩に目を向ければ、先輩はゆっくりと私から目を逸らしていく。
「......あ~、やべぇこれ結構恥ずかしいな?夏初サン何言わすんデスカ」
「......は......い、いきなり、何です......?」
「いやー、俺の従兄弟な?同い年で宮城の高校のバレー部なんだけど、なんかそこの一年同士でこんなやり取りしたらしくって、今ちょーどそのセリフ言うべきところかと思ったんだけど、俺のキャラじゃねぇな?って言ってから気が付いた」
「.............」
言葉の途中で完全に顔を逸らし、先輩にしては珍しく尻すぼみになりながら話し続ける。
......これもしかして、相当恥ずかしがってる?
あまりに予想外の展開に目を丸くしつつも、なんだか急に肩の力が抜けてしまい可笑しさだけが私の中に残った。
「.......ふふっ......確かに先輩、今のはないですね......」
「ああ、うん、そうね?俺もそう思う」
「......俺が居れば、なんでしたっけ......?」
「......お前ね、こういう時だけノッてくんじゃねぇよ」
先程までの重苦しさはどこへやら、先輩の自爆テロに笑いが止まらず一人クスクスと笑い続けてしまう。
先輩は大層面白くなさそうな顔でこちらを見てくるが、今の私にはそれすら可笑しさを加速させるだけでむしろ逆効果になっていた。
「......先輩が、一緒なら......バレー、行こうかな......私、最強みたいだし......?」
「おいこら、何ツボってんだクソ」
「だって......これは......笑うしか......」
「お前本当、滅多に爆笑しないくせにこういう時だけ大笑いしやがって」
普段はからかわれることが多い私だけど、今は完全にその立場が逆転している。
だけど、確かに先輩が居れば私は最強かもしれない。
それだけ立嶋先輩という人は私の中で大きくて、唯一無二の存在なのだ。
......そんな恥ずかしいこと、本人には絶対に言わないけど。
笑う門には福来る
(......あぁ、でも、赤葦君にはいつか、話してもいいかもしれないな。)