AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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赤葦君から声をかけられ、鞄とジャージを持ってすごすごと着いて行く。
前を歩いていた赤葦君が足を止めたのは、今の時間では人通りの少ない渡り廊下だった。
わざわざ場所を変えたということは、あまり人に聞かれたくないような内容なんだろう。
赤葦君とはそこまで沢山話していないと思うんだけど、もしかして何か角が立つようなことを口走ってしまったのだろうか?
それとも、木兎さんと話した内容があまり良くなかったとか?
男バレの二人と話した内容を思い出してみるも、心当たりはない。
先行きの見えない不安に顔は青くなるばかりだ。
「......歩かせてごめん。なんか、森とちゃんと話そうとすると邪魔が入るから」
開口一番で言われた言葉に目を丸くしてから、はてと首を傾げる。
そんな事あったかなとつい考えてしまうと、赤葦君から「いや、覚えがなければ気にしなくていいよ」と先手を打たれた。
少しばかり気になるが、本人が不要というならもう考えるのをやめよう。
「......正直、大変申し上げにくいことなんだけど......今週末の練習試合のことで、森に声を掛けといてと木兎さんから言われまして」
「え?」
片手で首の後ろを掻き、言いづらそうな様子で言われた言葉に思わず聞き返してしまう。
あまりに予想外な内容に頭がついていかなかったのだ。
「今日、朝練の最中に森の先輩が来たんだ。あの、園芸部の男の人」
「.............」
理解が追い付かない私を見越してか、赤葦君はきちんと順序だてて事の経緯を話してくれた。
どうやら事の発端は先輩で、半分はおそらく私のため、そしてもう半分は大方私利私欲のため、木兎さんに直談判しに男バレの朝練にお邪魔したらしい。
木兎さんが二年生の教室へ来るたび緊張疲れしてしまうとこの間相談したので、色んな意味で先手を打ったのだろう。
確かに私が木兎さんの紹介したい方々に直接会い、バレーしている所を拝見すれば木兎さんがわざわざうちのクラスに話に来ることは無い。
木兎さんに焦点を置くのであれば願ったり叶ったりなのだが、如何せん、私が男バレの練習試合に行くというのは正直大変遠慮したい事柄である。
人見知りが馴染みのない人ばかりの空間に行くのはなかなかの苦行だ。
「......立嶋先輩は行くつもりらしいって聞いたけど......大丈夫か?死にそうな顔してるけど」
「.............」
私の様子の変化に気付き、赤葦君は直ぐに気をつかってくれるが、それに直ぐに大丈夫だと返す程の心の余裕はなかった。
「......何か予定があるなら、俺から木兎さんに言っておくよ」
「.............」
赤葦君の言葉に唇を噛む。
今週末に限って本当に何も予定がないのだ。
ここでウソをついて回避するのも簡単だが、赤葦君を回避しても次に待つのは園芸部の先輩様である。
今までの経験上、あの人に口で勝つのは無理だ。絶対に無理。
先輩にすぐバレるウソなんかついてみろ、本当に背中にバッタを入れられる。
「.............」
「.............」
お互い口を閉じてしまい、気まずい沈黙が続く。
渡り廊下の遠くで放課後の生徒達の明るい笑い声が聞こえ、余計居た堪れない気持ちになった。
ああ、もう、どうしてこんなことに。
赤葦君を困らせたくないのに、どうしても了承できない意固地な自分が本当に嫌いだ。
「......森ってさ、人見知りするだろ?」
「!」
小さなため息の後、赤葦君がもらした言葉に思わずぎくりと固まる。
咄嗟に赤葦君を見るも、切れ長の目でグサリと射抜かれ結局また視線は自分の足元に戻った。
これだけ挙動不審でいれば、遅かれ早かれ気付かれるのも無理はない。
ただ、自分の嫌いな所を赤葦君にバレてしまったという事実が酷く恥ずかしくて情けなかった。
「......多分、困るだろうなとは思ってたんだけど......ごめん、ここまでとは思ってなかった」
律儀に頭を下げてくる赤葦君にたまらず泣きそうになりつつ「そんな、ごめんなさい、頭上げてください......」と弱々しく返す。
ああ、やっぱりマスク外すんじゃなかった。
元々ポーカーフェイスなんて出来ないから、今の私は完全に困り顔になってしまっているだろう。
どうして私はこんなに人と話すのが下手くそなんだ。
自己嫌悪の嵐に飲み込まれ沈没しかけている私の前で、赤葦君はゆっくりと頭を上げる。
「......無理強いさせるつもりは無いけど...もし森が、少しでも俺達のバレーが観たいって気持ちがあるなら、俺は来て欲しいと思ってる」
「!」
身長差の関係で頭の上から降ってくる言葉を、沈没寸前の頭が少し遅れて理解した。
「.............」
......目から鱗が落ちるとはよく言ったものだ。
そうだ、別に人見知りがどうのこうのとか、話の主体はそんなモノじゃなかった。
少しばかりの邪念はあったものの私が木兎さんにした「お願い」を、木兎さんはきちんと叶えようとしてくれているというのに、私は自分の都合ばかりグチグチと考えているだけで、嫌な所しか見えなくなっていた。
このお願いにしたのは、強豪梟谷学園の主将でエースである木兎さんが凄いと思うバレー選手って居るのかなと思ったふとした好奇心からだったし、そう思ったのは体育の授業でのバレーボールが少し楽しくて興味を持ったからだ。
それにこんな機会がなければ、私は男バレの試合を観に行くなんて大それたことはきっとできない。
「......この前の、......木兎さんが俺のこと色々話した時、森が“なんか良いね”って言ってくれたの......あれ、結構嬉しかったんだ」
「.............」
この前の、とは私が木兎さんにそのお願いを口にした日だろう。
キラキラとした笑顔と言葉で赤葦君のことを褒める木兎さんと、小さく照れる赤葦君の姿はとても素敵に見えた。
「......木兎さんは、本当に一流の選手だから......木兎さんとの付き合い方を考えると、どうしてもバレーの技術と切り離せなくて」
「.............」
「......でも、バレー関係無い人から見て、そう思われるのが......なんか、凄く嬉しかったんだ」
相変わらず読みにくい表情ではあるものの、赤葦君は私のふとした一言をそんなふうに感じ取ってくれたらしい。
何事もスマートにこなす完璧超人にすら見える赤葦君でも悩むことがあるんだなぁと驚いていると、赤葦君は瞳を伏せて小さく息を吐いた。
「それに、俺はともかく木兎さんのプレーは本当に凄いよ。天才ってあの人みたいなことを言うんだなって真面目に考えるくらい、本当に上手い。技術もパワーも桁違いで、あの人のスパイクは一度見たら忘れられないくらい強烈だし、見ていて凄く気持ちがいい。木兎さん自身も心底楽しそうにやるから余計そう思うんだろうし、あんなにバレーを好きな人、初めて見た」
「.............」
淡々とした口調ではあるが、赤葦君の言葉の端々には熱が籠っているように感じて思わず顔を上げて赤葦君のことを見つめてしまう。
冷めてるように見える赤葦君も、木兎さんのことをそんな風に思っているんだなと部外者ながらに何となく感動していれば、やはり照れくさいのか赤葦君の耳はほんのりと赤みを増した。
「......ただ、直ぐにモチベーション崩す人だからそこだけはどうにかしてほしいんだけどね......ダメな時はとことんダメな人だから......」
照れ隠しなのかどうなのかはわからないが、赤葦君は最後に少しだけ反抗的な意見を述べる。
その内容が少し意外で、たまらず疑問を口にした。
「......木兎さんにも、弱点ってあるんだ......?」
ぽろりと零れた私の言葉に対し、赤葦君は少し眉を寄せて私を見る。
「......何言ってるの、いっぱいあるよ?むしろ弱点の方が多いかもしれない」
「......え......赤葦君、今沢山褒めてたのに......?」
「......残念ながら、それとこれとは話が別なんだ」
「.............」
木兎さんは明るくて、誰とでも話せて、性格も顔も良くて、運動もできる凄い人なのに、それでも弱点の方が多いかもしれないなんて言われてしまうのか......。
赤葦君の基準が高いのか、それとも木兎さんの近くにいるからこその意見なのかはまだわからないが、少なくとも赤葦君が冗談で言っているようには見えなかった。
「......色々長話しちゃったけど......よかったら、今週末少しでも観に来てくれると嬉しい。木兎さんも喜ぶと思うし、木兎さんの他にも凄い人は沢山居るから、見応えは保証する」
「.............」
「でも、最初に言った通り無理強いはしないから。森の都合を第一に考えて」
「.......」
「......時間取らせてごめん。今週中に返事くれればいいから」
淡々と続いた赤葦君の話はそんな言葉で締めくくられ、「じゃあ、また明日」と背中を向けられた。
「あっ......」
「え?」
赤葦君の背中を見た矢先、考えるより先に戸惑うような声が零れ、思わず口を右手で覆うが赤葦君にはばっちり聞こえたようでわざわざ振り向いてくれる。
それはそうだろう、まるで呼び止めるかのような声を出されたら誰でも気になる。
ああ、何やってるんだ私......!かまってちゃんなら他所でやれ!
「ごめ、なさ......!なんでもないです......!すみません......!」
「.............」
赤葦君の切れ長の目が私の心臓をどすりと射抜き、混乱と羞恥で心がひしゃげそうになる。
完全に変な奴認定されてしまったと早急に後悔するも、すべてがもう後の祭りだ。
何でこんなことをやってしまったんだと自問する傍ら、もう半分の頭がその答えを傾ける。
......赤葦君の話に、興味がわいているのだ。
常に冷静沈着なイメージのある赤葦君がたまらず熱を帯びる程の、木兎さんのバレーボール。
知らない人が沢山居る空間に行きたくないと泣く自分と、気になってしまった未知のものを見てみたいと心浮き立つ自分が綯い交ぜになっている。
「.............」
「.............」
......どうしよう、どうしたらいいんだろう。
自分のことなのに、どうしたいのかめっきりわからなくなってしまった。
行きたくないのに、行きたい、なんて、本当にどうかしてる。
「......ほんと、ごめんなさい......部活、頑張って......」
私の気持ち悪い葛藤に付き合わせる時間が勿体ない。とにかく赤葦君を部活に行かせてあげることが最優先だと頭を切りかえ、右手で顔を隠したまま深々と頭を下げる。
申し訳なさと情けなさでもうじき涙腺が決壊しそうなので、私も早く一人になりたかった。
「......ごめん。さっき言ったこと、一つだけ撤回してもいい?」
下げた頭の上から降ってきた赤葦君の落ち着いた声に、怖々と顔を上げる。
何を言われるのか軽く恐怖しながら赤葦君を見ると、赤葦君は少し困ったように眉を下げて小さく笑った。
「......今週末、やっぱり観に来てほしい。絶対後悔させないから」
青天の霹靂
(あと、さっき俺が話したことは木兎さんには内緒で。バレたら後々凄く面倒くさいから。)