AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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男子バレー部の公開試合は2セットのみだったらしく、勝って負けての引き分けで終わった。大人の大学生を相手に引き分けだなんて凄いと思うけど、木兎さんや赤葦君達はとても悔しそうな顔をしていて、特に木兎さんは「もう1回!」と頼み出して、大学生達を困らせながらも楽しそうに笑わせていた。そんな微笑ましい様子を見た後で友人達と合流し、先程倒れてしまった花瓶のことを立嶋先輩と相談するので部室である第三会議室に行くことを話せば、優しい二人は「じゃあそっち終わったら連絡してね」と嫌な顔ひとつせず私を送り出してくれた。
友達と別れて、立嶋先輩に電話で連絡すればやっぱり第三会議室集合になる。体育館から急ぎ足で向かったのに、目的地へ到着すると先輩は既に先に来ていて、問題の花瓶の様子を見ている所だった。
「......先輩......ごめんなさい......」
「あ?なんで夏初が謝んの?」
「......私が......ちゃんと、固定して、なかったから......」
群青色の花瓶を手に取り、植物が傷んでいないか、花瓶の状態はどうかをチェックしている先輩に深々と頭を下げると、先輩は小さくふきだしながら「いやいや、固定の善し悪しはさておき人間がぶつかれば流石に倒れるだろうよw」と返して、へらりと笑う。それはそうかもしれないけど......でも、あそこにこの花瓶の花を設置したのは私であり、どうしても責任を感じてしまうのだ。高等部の中央階段の踊り場は人通りが多いのだから、もっと壁際ギリギリに花瓶を置けばよかった。そうしたら、仮に彼らがぶつかっても花瓶が倒れることもなかったかもしれない。......私が、何も考えずに設置してしまったばっかりに、不要なトラブルを招いてしまった。
「......まぁ、この件は交通事故みたいなもんだけど、改善できる所があるなら次からそうすりゃいい。何事もトライアンドエラーだからな、起きたトラブルにどう対応するかが肝心だろ?」
「............はい......」
「で、怪我人は居なかったんだよな?ちゃんと確認したか?」
「......はい。確認取りました」
「よし。踊り場の片付けはどうした?」
「......花瓶を倒してしまった人達が、やってくれるというので、お任せしました」
「おー、いいね。じゃあ後で一応確認行くぞ......あー、ちなみにそいつらの学年とか名前とか聞いた?」
「ご、ごめんなさい......聞いてません......」
「まぁ、だよなー」
「......聞いた方が、よかったでしょうか......」
「んー、そうさなー。まぁ、もし分かれば?部長として?ちょっとご挨拶に行こうかと思ったんだけどな」
花瓶を倒してしまった人達の名前やクラスを聞いてないことにすっかり反省したものの、先輩の“御挨拶”という言葉に少し肝が冷えて、咄嗟に「......で、でも、わざと倒した訳じゃないですし......」とおざなりなフォローをしてしまえば、「それは関係無ぇだろ。俺とお前が丹精込めて作ったもんだぞ、ふざけんなよってどつく権利は十分ある」と強めに返されてしまった。ふんすと鼻で息を吐く先輩は、思う所があると言わんばかりの色を強く見せているけど......私の中では、花瓶が倒れたことへの悲しみや反省はあるものの、怒りの感情は特に浮かんでこなかったのだ。......真っ白になった頭の中で、反射的に感じたことは......
「......この花瓶が、倒れているのを見た時......私、凄く後悔したんです......」
「............」
「......こうやって、私の意志の無い所で失っちゃうなら......ちゃんと、伝えておけばよかったって......恥ずかしいとか、自信が無いとか、そういうのは一先ず置いといて......赤葦君に、きちんとお話ししておけばよかったって、思いました......」
踊り場に散らばった植物を見て、一番強く思ったことは本当にそれだった。大切なもの程失くしてから気付く、というのを聞いたことがあるけど......私の場合、花瓶が倒れたことで赤葦君にちゃんと伝える決心がついたのだ。
「......だから......私、この花瓶の花のことを、赤葦君にちゃんと話そうと思います。......もし、花瓶が倒れなかったら、きっとそう思えなかったから......だから、今回は、その......怒らないで、ほしいです......」
「............」
自分の素直な気持ちを話して、先輩に深く頭を下げる。とても個人的な意見であり、花瓶の花を一緒に作った先輩にも当然別の意見があるだろうけど......でも、今回ばかりは花瓶を倒した彼らを怒らないでほしかった。ある意味、多少乱暴ではあるものの、私の背中を押してもらったように思えるから。
「────そっか。アシ君に話す気になったか」
「!」
「で、いつ話すの?ここで?もう連絡した?」
「え、あ......えと、はい......ここで......連絡も、してて......」
「返信は?来てんじゃねぇの?」
てっきり何か不平不満を寄越されるかと思いきや、立嶋先輩は思いのほか素直に聞き入れてくれた。その後矢継ぎ早に質問され、おたおたともたつきながらも促されるままスマホを見れば、本当に赤葦君から返信が来ていたのでたまらずぎょっとしてしまう。おそるおそる内容を確認すると、【わかった。今から行く】とだけ書いてあり、更にどぎまぎしてしまった。
「......じゃ、俺階段見てくるわ。一応他の花瓶も確認してくっから、ここで解散な」
「えっ......わ、私も、行きます......!」
「いや、アシ君どうすんだよ?お前が呼んだんだろ」
「......で、でも、倒れた花瓶を置いたの、私ですし......」
「あ、そういやアシ君さ、“お前の花”、ちゃんと当てられたぞ」
「え?」
眉を下げてスマホを眺める私を他所に、さっさと部室から出ようとする先輩を慌てて止めると、急に話題を変えられてきょとんと目を丸くしてしまう。いきなり何の話だろうとそのまま見つめてしまえば、先輩はからりと明るく笑った。
「俺が作った夏初イメージの花。まぁ、推理の仕方はそう来たか~って感じだったけど。この花だーれだ?って聞いたら、これは夏初だってしっかり当ててきた」
「............!」
「ま、レジェンドオブ俺が作ったんだから、当然っちゃあ当然だけどなー」
楽しそうに笑う先輩の話に、すっかりぼう然としてしまう。各所に展示している花瓶の中でひとつだけ立嶋先輩が私の為に作ってくれたものがあって、それはそれはとても素敵な花束で、私は心の底からその花を気に入っていた。私のイメージだというその花に、恐れ多くも気恥しく、だけどそれ以上にとてもとても嬉しくて、展示が終わったら包んで花束にして持って帰ろうと思ってるし、何ならドライフラワーに挑戦してみようかとも思っていた。
......そんな素敵な花を、赤葦君は私だと当ててくれた。勿論、先輩の技術や表現力の高さがあってこそのことだけど......それでも、やっぱり嬉しかった。先輩以外の人からあの花は私なのだと認められた気がして、すごく嬉しかったのだ。
私の心境なんて筒抜けだったのか、立嶋先輩は「まぁ、アシ君の花もちゃんとお前から伝えてやれよ。100パー喜ぶから心配すんな」と言葉を続け、少し乱暴な手つきで私の頭をわしゃわしゃと撫でてくれるのだった。
▷▶︎▷
「ごめん、遅くなった」
先輩が出て行った第三会議室で、一人で群青色の花瓶を眺めていれば控えめなノックと共に赤葦君が現れた。先程までのユニフォーム姿ではなく、クラスTシャツと制服のズボンに着替えた赤葦君に「急に呼んですみません」と頭を下げると、「全然。試合も終わったし、クラスの当番ももう無いから」と相変わらず気のいい返事を寄越してくれる。
「......あ、試合、お疲れ様でした......すごく、盛り上がってた......」
「うん、過去一番の盛り上がりだったかも。でも、やっぱり勝ちたかったな。地の利はこっちにあったんだけど......大学生、強かった」
ひとまず先程の試合のことを口にすれば、相手はほんのりと悔しそうな色を浮かべた。大学生を相手に大健闘だったと思うけど、志の高い赤葦君達はきっとどんな相手にも怯まずに、自分達の勝利に向かって全力で挑むんだろう。全国で一番を取るという高みを目指す男子バレー部の心の強さを目の当たりにして、改めて感嘆してしまった。
「でも、どこで見てた?それとなく見回したけど見つからなかったから、もしかして来られなかったかなって思ってた」
「あ......外で、見てました......ちょっと、行くの遅くなっちゃって、体育館、もういっぱいだったから......」
「外?え、ごめん。俺が誘ったのに、そんな所で観戦させて......」
「ううん、全然......!梟谷のバレーボール、凄くて、楽しくて、格好良かった......!見てる人達、みんな楽しそうで......男バレってやっぱり凄いなって、改めて思いました......!」
倒れた花瓶の対応で出遅れて、外からしか見られなかったけど、それでも男バレの試合は楽しかったし、凄かったし、格好良かった。十分満足していることを伝えようとしたけど、赤葦君はその切れ長の目をきょとんと丸くしていたので、咄嗟に視線を下に落とし「......そ、それで......その......話が、変わるんですが......」とやや不自然に話題を変えてしまう。
「............こ、......この、花瓶......なん、ですが......」
「......うん、綺麗だね」
バレーの話からどうしていきなり花の話になるんだと不思議に思われたかもしれないけど、赤葦君は急な話題転換にも丁寧な相槌を打ってくれる。その優しさに温かいものがじわりと胸に広がり、ふたつ深呼吸してから今両手で持っている群青色の花瓶を赤葦君へ差し出した。
「............ぁ......あ、赤葦君、なんです......!」
「え?」
意を決して告げた言葉に、赤葦君は当然驚いた顔をする。だいぶ素っ頓狂なことをしている自覚はあるけど、この勢いを止めてしまえば直ぐにでもここから逃げ出してしまいそうな気がして、花瓶を持つ手が震えないように強く握り締めながら、つっかえながらも伝えたいことをゆっくりと口にした。
「えと、あの、あのね......こ、今回、その、展示する花瓶の、テーマを、私が、決めてて......それで、その、お、お世話になってる方への、感謝......の、気持ちを、込めて、まして......」
「............」
「......そ、それで......この、お花は......その、赤葦君への、感謝の、気持ちを......込めて、作りました......!」
「............!」
「こ、これはね?白のバラで、花言葉が、その、“尊敬”で、こっちの白のダリアが“感謝”で......あ、この丸くて、小さな茶色の子が、ワレモウコウっていって、この花言葉も“感謝”で......とにかくその、沢山ありがとうって言いたくて......!あと、白のコスモスがその、“優美”で......赤葦君、立ち振る舞いとか、姿勢とか、あとその、内面、というか、こ、心の強さ......?とか......本当に、美しくて、綺麗、だから......」
「............」
「あと、青いのはブルーサルビアって言って、こっちも“尊敬”って言葉もあるんだけど、“知恵”って花言葉もあって、その、赤葦君って、頭良いし......バレーボールのセッターは、チームの司令塔だって、本に書いてあって......それで、ぴったりだなって思って......」
「............」
「あと、葦は、絶対入れたいって思ってて......花言葉は、その、ちょっとそぐわないものもあるんだけど......パスカルの、言葉の方で捉えて、頂ければと......」
「............」
花瓶の花を指し示しながら、そのひとつひとつに込めた気持ちを伝えていく。まるで感謝の手紙を読みあげているような心地がしてだいぶ恥ずかしいなとも思ったけど、優しい赤葦君はしっかりと話を聞いてくれて、花瓶の花を真剣に見てくれている。......それがとても嬉しくて、やっぱり花瓶の花の話を出来てよかったと心底安堵した。
「......あ、赤葦君......!......いつも、本当に、ありがとう......!」
「!」
「......最初、全然、話したことも、無かったのに......声、掛けてくれて......保健室に、連れて行ってくれて、ありがとう......!」
「............」
「......迷惑、沢山、掛けてるのに......いつも、優しくしてくれて、親切に、してくれて、ありがとう......!」
「............」
「......私、梟谷に来て、......赤葦君に逢えて、本当によかったなぁって、思ってます!」
「────」
最大限の感謝の気持ちを拙い言葉に込めて、赤葦君に差し出す。素直な気持ちを言葉にすることはとても難しくて、花言葉の力を借りて精一杯の感謝を、赤葦君に......私の憧れの人に、ちゃんと届いてくれますようにと願った。ありがとうと、尊敬してますと、憧れてますと、貴方はとても素敵な人ですと、あと......赤葦君に出逢えてよかったですって気持ちが、ちゃんと届きますように。
梟谷学園も、入学当初は正直あんまり楽しくなかったけど......先輩と逢えて、園芸部に入って、少しずつ楽しくなって......二年生になって、木兎さんや赤葦君、男バレの方々と知り合えて、梟谷が更に楽しくなった。本当に少しずつだけど、一年生の頃より成長出来ているように思う。夏休みの数日間、一人で園芸活動を出来たことも、今回の学園祭で花瓶が倒れた対応を、先輩が居なくても出来たことも......きっと去年までの私には出来なかった。一人で泣いて、一人でヘコんで、立嶋先輩やめい子先生に甘えてばかりだったと思う。
......だけど、あの日赤葦君に出逢って、この人みたいにしっかりした人になりたいって、思ったから。そう思ったから、頑張れた。ほんの少しだけ、自分のことを好きになれたんだ。
「............その花......近くで見てもいい?」
私の話を黙って聞いてくれていた赤葦君が、少し間をあけてから群青色の花瓶を指差した。どきりとしながらもそれを相手に手渡すと、赤葦君は自分の目線に持ってきて、静かに、じっくりと花を眺める。
「......ありがとう。嬉しい、本当に」
「!」
「どの花も、凄く綺麗で......俺のイメージの花なんて、初めて作ってもらったけど......この花、凄く好きだ」
花瓶の花を丁寧に見ながら、赤葦君はぽつりとそんな言葉を零した。気を遣ってそんなことを言ってくれたのかなと思ったのは一瞬で、彼の真っ直ぐな瞳がいまだに花瓶の花に向いているのを見て、本心から言ってくれているのを理解する。
「............よかった......」
「............」
心の底からほっと息を吐けば、気持ちがそのまま口から零れた。......ああ、でも、本当によかった。赤葦君が、この花を気に入ってくれて。この花を赤葦君にちゃんと見せられて、感謝の気持ちを伝えることができて。よかった、本当に。本当に、本当によかった。
「────好きだ。」
赤葦君の手に渡った群青色の花瓶を見ながら、やわらかな、満ち足りた気持ちを覚えていると......頭の上からもう一度嬉しい言葉が降ってきた。まだまだ園芸の技術も知識も未熟で、課題も沢山ある私が作った花束ではあるものの、それを好きだと言ってもらえるのはやっぱり嬉しい。赤葦君がこの花を気に入ってくれたことが素直に嬉しくて、にこにこしながら「ありがとうございます」と言葉を返せば......ふいに、右手を強く握られた。
そのまま少し強引に引っ張られて、よろけた拍子に何歩か前に進んでしまうと、赤葦君は右手の花瓶を己から遠ざけて私との距離を一気に詰めた。ぶつかっちゃう、と反射的に身体を固くして目を閉じれば、思いのほか柔い衝撃で相手と接触し、それでもびくりと肩を揺らすと宥めるように背中をぽんぽんと軽く叩かれる。
「............森のことが、好きだよ。」
背中を叩く手をそのまま後ろに回されて、ぎゅうっと身体同士が密着したと思った、瞬間......まるで、水を注がれる植物にでもなったように、頭の上からやわらかな言葉を零されて、一瞬にして何もかもが分からなくなってしまった。
一言以って之を蔽う
(......もう、どうしようもなく愛しくて、止まらない。)