AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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梟谷学園総合学園祭、三日目の早朝。学祭中は学校の体育館の使用が出来ない為、部活は市民体育館を借りて放課後の時間に少しだけ行うだけになっていた。今日はバレー部の演し物として近くの私立大学との公開試合があるものの、普段よりずっと少ない練習時間に木兎さんはそろそろ限界のようで、先生達に直談判した結果、今日は後夜祭が終わった後に有志で体育館を片付け、自主練を行えるようになっている。本当は朝練も出来たらと思っていたが流石にそれは許可が下りず、しかしボールの感触だけはどうしても忘れたくなくて、結局家から持参したバレーボールを指先でポンポンと弾きながら初等部の校舎内をぐるぐると歩いていた。
朝も早くに初等部の校舎を巡回している理由は言わずもがな、園芸部がつくった花瓶の花をじっくり鑑賞する為だ。昨日参加したドッジボール大会で、園芸部部長の立嶋さんから同じクラスの森が俺に宛てた花瓶の花をつくったことを教えてもらった。そして、その花を当てられたらそれらの植物の詳細を話してくれるということで、学園祭が終わるまでの間にその花瓶の花を見つけることになったのだ。
「............」
慣れない校舎を歩き回り、見つけた3つ目の花瓶の花をじっと見つめる。薄い青色の花瓶に落ち着いた桃色の小柄なバラ、白と橙のコスモス、薄桃色の小さな花が沢山付いてるフワフワとした植物、それらの周りに2種類の緑の葉が添えられ、大きなメインの花はないもののどこか目を惹かれる花束だ。大人しい見た目ではあるが、鮮やかな緑の葉がどこか芯の強さを感じ、控えめに咲く小柄な花々は心優しく、可愛らしい印象を与える。
「......あれ?この葉っぱ、体育館の大きい花瓶にも入ってたか......?」
花瓶の植物をひとつひとつじっくり見て、ふと気付いた事が思わず口から零れてしまった。でも、確かそうだよなと記憶を辿りながら、スマホを取り出し昨日撮影したその写真を確認すれば、やっぱり同じ植物がこの花瓶にも使われている。この植物が一体何なのかまでは分からないものの、今まで見てきた中で緑の葉っぱを使った装飾はこの花瓶と体育館の花瓶だけだ。......と、すると、この二つの花瓶は何かしら関係があるのかもしれない。
「おーす、アシ君。花瓶、決めた?」
「!」
これまでに撮った花瓶の花の写真を見ながら、目の前の花瓶の花も観察しているとカラリとした明るい声を掛けられた。相手を予想しつつ振り向くと、思った通りの人物が着崩した制服姿でこちらにひらりと手を振ってくる。
「おはようございます。すみません、まだ全部見られてないので、もう少し時間貰ってもいいですか?」
「モチ。リミット今日までなんだし、ドーゾごゆっくり」
あくび混じりに現れたその人、園芸部部長の立嶋さんは俺の言葉にすんなり了承すると、前にある花瓶の花に視線を移した。診察でもするように軽く触れながら植物の状態をチェックして、少し手直しを加えた後「よし、バッチリ!お前、世界で一番可愛いよ!今日も最高だな!相棒!」と花瓶の花に向かって褒め言葉を寄越した。少し驚いたものの、そういえば植物は人の言葉を理解するという研究もあるらしく、園芸部はちょこちょこ話し掛けてしまうのだと以前森が話していた気がする。かく言う俺も木兎さんの調子を上げる為に大きく褒めることをやっているので、何となくそれと同じかと思えば妙に腹に落ちてしまった。
「で、アシ君。今日って男バレの公開試合あるだろ?」
「え?はい......」
「学実に部活に大忙しの最終日だからな、1個サービス問題出してやるよ」
「え?」
唐突に寄越された提案が上手く頭に入らず、思わず聞き返してしまう。サービス問題?どういう事だと目を丸くする俺を置き去りにして、立嶋さんは今整えたばかりの花瓶を親指で差した。
「この花瓶、誰イメージだと思う?」
「え......」
「当たらなかったら正解だけ教えてやる。でも、もし当たったらアシ君宛の花瓶がどの校舎にあるか、教えてやんよ」
「!」
悪戯ににっこりと笑われ、この人に完全に遊ばれているのを知りながらも、寄越された言葉にドクリと心臓が鳴った。......この花瓶を問題に出すということは、おそらくコレは俺宛のものでは無いのだろう。だけど、もし外れても正解を知れば何となくの傾向が分かるかもしれないし、当てられれば選択肢がかなり絞られる。これは確かにサービス問題だ、俺にとってメリットしか無い。
「......あの、今まで撮った写真と見比べてもいいですか?」
ごくりと唾を飲み込み、手元にあるスマホの画面を相手に見せると、立嶋さんは楽しそうに笑いながら「イイヨー」と軽い返事をする。今の言い方、音駒の黒尾さんにそっくりだ。......ああ、絶対に今考えることじゃないけど、ちょっと似てるかもしれない、この二人。木兎さんとの絡み方とか、諸々が。
ポコンと出て来た黒尾さんの顔を思考の端に追いやり、兎に角今は目の前の花とスマホの写真に集中する。......結構控えめな印象があるから、木兎さんとか小見さんとか明るい感じの人では無さそうだ。もっと落ち着いた感じの......それできっと、俺と園芸部の共通の知り合いだろうから、おそらく男バレの誰かかもしれない。そうすると、鷲尾さん?......いや、色合い的に可愛らしさがあるから、鷲尾さんは多分違う。じゃあ、猿杙さんが一番近いか?
「............!」
思考を回して、絞り込む事数分......作り手が彼女なら、果たして猿杙さんを可愛らしいと思うだろうかということに思い当たり、自分の推理が恐らく外れている可能性に気付いた。......それに、よく考えろ。そもそもの話、どうして立嶋さんはこの花瓶をわざわざサービス問題なんかにしたんだ?他のものと、何かが違うから?花の種類や造形だと俺には分からないから、何か別のことで決定的な違いがあるのかもしれない。そう考え、スマホの写真をひとつずつ確認してその何かを見つけようとするも、なかなかピンとくる事が無かった。何だ?何が違うんだ?ああクソ、共通点なら体育館の大きな花と、この花瓶には同じ緑の葉が使われていると分かったのに......。
「────ッ!」
途端、ハッとした。そうだ、確かこの人昨日、大きな花瓶は自分と保険医の先生をイメージしたものだと話していたはずだ。それで、その花瓶のひとつと同じ植物が、この花瓶にある。......それに、さっきこの人この花を見て『世界で一番可愛い』とか『相棒』とか言ってた。園芸部部長の相棒で、立嶋さんイメージの花瓶と同じ植物の葉が添えられていて、他のものと何かが違くて......花瓶の色は、“彼女”が好きだと言う“青色”だ。
ゆっくりと、大きく息を吸い、立嶋さんの視線をしっかりと捉えながら答えを出した。
「────この花瓶は、森です。」
「............アシ君お見事!正解ッ!」
「!」
焦らすように間を置いた後、園芸部部長は楽しそうに親指を立てた。推測が当たったことに、喜びと安堵が同時に押し寄せる。たまらず大きくため息を吐いてしまうと、立嶋さんはしみじみとした調子で「いやでも、マジで当てるとかすげぇな」と賞賛の声を寄越した。
「......いや、昨日俺に話してくれたじゃないですか......大きな花瓶のひとつが立嶋さんだとか、森に宛てた花がひとつだけあるとか......その情報無かったら、悔しいですが分かりませんでしたよ......」
「え!そんなとこから推理したの!?すげぇ!名探偵じゃん!」
「は?それを踏まえてこれをサービス問題にしたんじゃないんですか?植物の知識だけじゃなく、俺が持ってる情報から絞りこめるようにって......さっきだって、この花瓶に相棒とか何とか言ってたじゃないですか」
「えッ......いや、ごめん、そこまでは考えてなかった......」
「............はぁ?」
きょとんと目を丸くした後、苦笑しながら頭を搔く立嶋さんにたまらず顔を顰めてしまえば、立嶋さんは気を取り直すように「まぁまぁ、大正解だし情報提供してやるよ!」と半ば押し出すように会話を進めた。
「まず、俺がつくった夏初イメージの花な!派手さはねぇけど、素朴で可愛くて、芯のある感じにした。ピンクのバラは“感謝”、白コスモスは“優美”でオレンジのは“自然美”、まぁ、素朴な可愛らしさってことで。で、緑の葉っぱはアイビー、“友情”とか“絆”。園芸部は永久不滅のズッ友だからな。ちなみに俺イメージのデカい花瓶にもアイビー使ってる。で、もう1個の葉っぱがニューサマーオレンジ、別名日向夏とか小夏って呼ばれててさ、その葉っぱってことであいつの名前モジったのと、花言葉は“清純”......まぁ、素直で純粋ってことだな。で、夏みかんの花言葉はもう1個あって、それがこのアスチルベと実は掛けてあって、さ......」
「............?」
流石園芸部部長と言うべきか、花瓶の植物の解説を次から次へと話し続け、その膨大な情報量にすっかり圧倒されてしまった。......また、立嶋さんから森への有り余る愛情の深さにも改めて衝撃を受けてしまい、そこはかとなく敗北感を覚えていれば、立嶋さんは何故か話の途中で言葉を切ってしまった。
「......え......立嶋さん......?」
「............」
さっきまで心底楽しそうに語っていたというのに、立嶋さんは何かを考えるように暫し黙った後、「やっぱ、やーめた」と言うなり今までの話をいきなり放り投げてしまう。
「あ、でさ、夏初がつくったアシ君の花瓶だけど、高等部にあるぜ」
「え......ああ、分かりました、ありがとうございます......それで、さっきの夏みかんと、あ、アス何とか?の花言葉というのは......」
「げ、もうこんな時間じゃん。俺後2つチェックしないといけねぇから、またなー!」
「えぇ......」
彼女をイメージした花瓶の話の途中で無理やり違う話題に切り替えられ、だけどどうにもその話の続きが聞きたくて再度投げ掛けるも、立嶋さんはわざとらしく腕時計を見てさっさとこの場を離れてしまった。いや、嘘だろと呆気にとられながらも、俺が探している花瓶の花がこの初等部には無いことが分かり、余った時間をどうしようかとひとつ息を吐く。......俺宛の花を見つけるのが最重要目的ではあるが、彼女が丹精込めてつくった花を全部見たいという気持ちも確かにあるので、結局初等部にある花瓶の花を全部見て回ることにした。
......先程の花は、彼女では無く立嶋さんがつくったものではあるものの、スマホの写真に収めた。彼女をイメージして花束を作るなんて、俺にはとても真似出来ない芸当だ。この花を見た彼女はきっと泣く程喜んで、心の底から立嶋さんに感謝したに違いない。彼女にとってはおそらく、この世のどんなプレゼントより嬉しかったのだろうと思うと、グッと胸が詰まった。......ああ、クソ。どうしたらあの人より彼女に近付くことができるのか。どうしたら、あの人から俺の方に振り向いてもらえる。
......どうしたら、森に好きになってもらえるんだ。
「............あー......落ち着け......向こうの土俵で勝負してどうする......」
ぐらりと下へ落ちていく思考回路に何とか歯止めを掛け、眉間に片手を当てながら目を閉じて細く長く息を吐く。そのままゆっくりと深呼吸すれば、頭の中がだいぶクリアになった。
......向こうは園芸部の部長だ。植物の知識や扱いには当然長けてるし、俺よりもずっと長い時間を森と過ごしてる訳だから、彼女への理解が深いのも当たり前で、立嶋さんの性格を考えれば唯一の後輩への愛情が深いのも当然頷ける。......ソレがただの後輩への愛情なのか、恋愛感情なのかは正直判断に困るものの......あの二人は、今は付き合っていない。別に恋人同士でないのなら、俺が退く理由は、彼女を諦める理由は全く無いはずだ。
立嶋さんが園芸で勝負するなら、だったら、俺は......
額に箭は立つとも背に箭は立たず
(......“今日の試合、見に来てほしい”......?木兎さんに、何か言われたのかな......?)