AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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梟谷学園総合学園祭は、二日目から生徒の親族や他校の生徒など、一般の人を招いての開催となる。初等部から高等部までの全生徒を含めたお祭りである為、普段の学園の様子から更に騒がしく、活気と笑顔に満ち溢れた情景が広がっていた。
私の所属する二年六組もそれは例外で無く、机に座って勉学に勤しむ日常から“射的屋”に変化したこの教室で、それぞれの役割を全うしつつクラスメイトの誰もが楽しく過ごしている。今は私の所属する班が運営当番の時間で、各々の担当作業をせっせと行ないながらお客さんを持て成していた。
「あ、居た居た!おーい、夏初ちゃーん!」
「!」
自分の役割は景品管理で、射的が成功した点数によって選べる景品範囲が違う為(高得点の人は全部の景品から選べ、反対に低い人は一部の景品からしか選べない仕様になっている)、景品の在庫を確認したり、どの景品をどんな人が選んだか記録したりと(景品は某フリマアプリのようにクラスメイトの不用品だったりする為、万が一何かあった時に貰った人の風貌くらい分かっておいた方がいいという学祭委員二人の提案だ)何かと忙しなく働いている中、ひと際元気な声で名前を呼ばれた。ここ最近ですっかり聞き馴染んでしまったその声音に、先に相手の顔を頭に浮かべつつゆるりと視線を向ける。
その先には普段の制服や部活着ではなく、賑やかなイラストが書かれたクラスTシャツを着たひとつ上の先輩、木兎さんがニコニコと笑いながら手を振っていた。木兎さんは男子バレー部の主将さんで、副主将であるこのクラスの赤葦君と非常に仲が良く、しょっちゅう来訪しているから同じ当番の人達も慣れた様子で「木兎さんこんにちはー!」と口々に挨拶を交わしている。相変わらずの人気振りに小さく笑いながら会釈をして、もしかして赤葦君に会いに来たのかなと思い今は教室に居ないことを伝えようとすれば......木兎さんの後ろから、立嶋先輩がにゅっと顔を出した。私と目が合うと、先輩はからりとした明るい笑顔を浮かべる。
「よぉ夏初!今日は木兎連れて来たぞ~」
「連れて来られたぞ~!で、あかーしは?」
「......あ、すみません......赤葦君は、今の時間居らっしゃいません......」
「あー、そっかー。でもまぁ、夏初ちゃん居るしいっか!」
「オイ、うちの後輩をアシ君の代替品みたいに言うのやめてもらえます?」
「だいたいひん?って何?それより赤葦が居る時間帯教えて!男バレのヤツら連れてまた来るから!」
「............」
次々と忙しなく変わる話題に半ば置いていかれてしまいぼんやりしてしまえば、同じ時間帯のグループの射的銃管理の男子が気を利かせて赤葦君の居る時間帯を木兎さんに教えてくれた。そのまま赤葦君の話をしつつ、彼は木兎さんに射的銃の撃ち方を説明し始める。クラスメイトのスマートな仕事ぶりにすっかり感心していると、昨日に続き二回目のご来店である立嶋先輩が射的銃に球を詰めながらちょいちょいと手招きしてきたので、そろそろとそちらへ向かった。ちなみに先輩は昨日、男バレの小見先輩と木葉さんと来てくれている。
「夏初さ、アシ君と仲直りしたって朝言ってたろ?その時お前、アシ君イメージの花瓶のこと話したか?」
「......いえ、話してませんけど......でも、白福先輩と雀田先輩の花瓶のことは、話しました......」
何だろうと思っていれば、急に花瓶の花と赤葦君の話をされたので思わずぎくりとしてしまう。先輩には今日の学園祭が始まる前に赤葦君と仲直り出来たことを伝えていたけど、何で急に花の話に......?首を傾げたところである可能性が思い当たり、サッと顔を青ざめた。
「......え。まさか先輩、赤葦君に話しました......!?」
「話してない話してない。つーか、そこはやっぱお前の口から言わなきゃだろ。アシ君には特によぉ」
「............」
もしかしてと思い、焦りながら先輩に聞くもどうやら早とちりだったようだ。花瓶の花の話を赤葦君にはしてないことが分かってほっとしたものの、最後に寄越された言葉にたまらずグッと口を閉じる。
......赤葦君への感謝の気持ちを束ねた花は、高等部校舎の中央階段の踊り場に飾ってある。群青色の花瓶に明るい青色のリボンを掛けて、赤葦君のこと、植物のことを沢山考えてそれぞれ選び抜いて束ねた花だから、色んな人に見てもらえたらと思う。......欲を言えば、赤葦君にも見てほしいし、それで、綺麗だって思って貰えたら、本当に嬉しい。
......だけど、それを口にするのは何となく気がはばかれると言うか、......早い話、だいぶ恥ずかしいのだ。あの花瓶の花は「私は赤葦君のことをこんな風に想ってますよ」という、言わば赤葦君に向けた手紙のようなものであり、それを自分で読み上げるのは、やっぱりちょっと遠慮したい。花に込められた私の気持ちなんて知ったら、もしかしたら「え、それはちょっと......」とドン引きされてしまうかもしれないし、だったら純粋にその花を見て、その美しさに癒された方がずっといいと思う。
「............ま、夏初の花なんだし、好きにすりゃあいいけど。でも、俺は俺で好きにするからな?部長権限で」
「え?」
「よーし、木兎準備終わった?勝負しようぜー、負けた方が何か食いもん1個奢るの」
「おお、いいね!俺チキンステーキな!」
「昨日食ったけどアレ美味いよな。俺は唐揚げ定食で」
「待って食堂もアリなの!?それズルくね!?」
ぐるぐると考え込んでしまい、すっかり黙ってしまった私の頭をぐしゃりと大雑把に撫でた立嶋先輩は、そんな言葉を締めに木兎さんの方へ顔を向けてしまった。そのまま二人でわいわい話し出してしまったので、仕方無くすごすごと自分の持ち場に戻る。......先輩の言う通り、赤葦君にはあの青い花瓶の花の話をした方がいいのかなぁとぼんやり考えたものの、先輩と木兎さんの射的勝負が何とも絶妙な盛り上がりを見せてしまい......その、お二人共そこまで射的は得意ではないようで、撃っても撃っても全然的に当たらないその光景を見てどうにも笑いを堪えられなかった。この時間の当番のクラスメイト達と、先輩方の真剣勝負を見ながらけらけらと笑っている内に、悩んでいたことが頭からすっかり抜け落ちてしまうのだった。
▷▶︎▷
クラスの当番が終わり、友達と合流して食べ歩きをしたり、アクティビティを楽しんだり、イベントを眺めたりと凄く充実した時間を過ごした。特にうちのクラスの学園祭実行委員の一人である志摩さんが所属するチアリーディング部のダンスパフォーマンスは人集りが出来る程人気があり、曲もダンスも最高に格好良くて最高に可愛かった。チア部は主に運動部の大会があるとその試合会場へ赴き、梟谷の選手達を全力で応援してくれるらしい。そのおかげかチア部の観客の半分が梟谷の運動部員らしく、よく見れば木兎さん率いる男バレの皆さんも見に来ているようだ。赤葦君も今の時間は男バレの方に居るようで、木兎さんや木葉さんと話しながら楽しそうにチア部のパフォーマンスを眺めている。
梟谷運動部員はいつも自分達を応援しに来てくれるチア部への御礼を込めてなのか、運動場はこれでもかという程の熱い盛り上がりを見せていた。そんな大歓声の中、チアリーダーの衣装を抜群に着こなした志摩さんはとても楽しそうに踊っていて、何度も「シマちゃーん!」という声援を送られては手を振ったりピースサインを返したりと、踊りながらもすごく丁寧に応えている。優しくて、可愛くて、格好良くて、明るくて、人気者の志摩さんはもう一人の実行委員である赤葦君によく似ていて、本当に素敵な人だなと改めて実感した。あと、梟谷のスターである木兎さんにも似ている気がする。......凄いなぁ、志摩さん。キラキラした可愛い笑顔に、私を含めみんなが視線と心を奪われているのが分かる。以前、立嶋先輩も志摩さんのことを好意的に話していたし、学年問わず、男女問わず人気がある志摩さんは、間違い無くこの梟谷学園高校のヒロインと言えるだろう。そんな人と同じクラスなんてちょっと鼻が高いなと思ってしまうのは、きっと私だけじゃないはずだ。
「「「せーの、志摩ちゃ~ん!」」」
私と友達二人も例に漏れず声援を送り、私は初めて“志摩ちゃん”呼びしてしまったことにドキドキしていたけど、志摩さんは踊りながらも直ぐにこちらに気付いてくれて、ニコッと明るく笑って指でハートを作ってくれた。その可愛らしい仕草に同性ながらもキュンときつつ、そういえば以前部活の時に志摩さんと会い、それぞれの学園祭の催し物を見に行くと話したことを思い出した。ダンスパフォーマンス中、私を見つけたら何かサインを送ってくれるって言ってたけど、もしかしたら今のがそうだったのかもしれない。......まぁ、あの時の会話を覚えてるのは私だけで、志摩さんの方はもしかしたらすっかり忘れてしまってるかもしれないけど、それでも可愛い指ハートを貰ったことはとても嬉しかったので、友達二人とわいわいはしゃぎながらチア部のパフォーマンスを思う存分楽しんだのだった。
▷▶︎▷
学園祭二日目もあっという間に終わりを迎え、残すところあと一日になってしまった。明日に向けての事前準備とクラスのホームルームが終わり、各所に飾られた花瓶の花の手入れをする為に部室である第三会議室に向かおうとすれば、「あ、森さん!待って待って!」とよく通る明るい声に呼び止められた。何かと思って振り向くと、先程までホームルームの司会進行をしていた学実の志摩さんがこちらにやって来るのが見えて、思わず目を丸くする。
「あ、もしかしてこれから部活?急いでたら全然いいんだけど」
「......あ......ううん、大丈夫......」
私の鈍臭い反応に都合が悪いと思ったのか、優しい志摩さんは気を使ってそんなことを聞いてくれて、慌てて首を横に振る。高い位置で結ばれたさらさらのポニーテールが、先程見たチアリーダーの時の彼女の姿を思い出させて、何だかいつも以上にドキドキしてしまった。
「今日見に来てくれたよね?ありがと~!サイン送ったのわかった?」
「う、うん......指ハート、貰いました......!あの、志摩さん、すっごく可愛くて、すっごく格好良くて、ダンスも凄くて、本当、びっくりするくらい楽しかった......!」
「えー!めっちゃ褒めてくれる!嬉しい!ありがとう!でね、私も園芸部のお花見たよ~!まだ全部回れてないのがごめんなんだけど、見つけたらめっちゃ見るようにしてて!」
「............!」
「凄く綺麗で可愛いから、つい写真撮っちゃってさ~。コレとか、コレとか......あ、悪用はしないから!絶対に!」
チア部のパフォーマンスの話を寄越されたので、これ幸いとばかりに凄かった、楽しかったことを伝えると、まさかの志摩さんも園芸部の展示の話をしてくれて、彼女のスマホで撮影された花瓶の花の写真を見せてくれる。......志摩さんが私なんかとの会話を覚えてくれていたことと、自分で決めたテーマで作った花瓶の花を褒めて貰えたことが本当に嬉しくて、たまらず顔が熱くなった。
「この大きい花瓶のお花も凄く綺麗で好きだなぁ~。凛としてる中に可愛さとか優しさもあって、なんか、親しみやすさ?みたいなの感じる」
「っ、そ、そうなの......!実は、その花瓶の花、めい子先生のイメージで作ってて......そんな雰囲気を出したかったんです......!」
「え!本当に?凄い!イメージぴったり!めい子先生にしか見えないよ!森さん凄過ぎ!」
「ううん、志摩さんが凄いんです......!でも、本当に嬉しい......ありがとう......!写真まで、撮ってくれて......本当、恐縮です......!」
「だってめちゃめちゃ可愛かったから!でも、もしかして誰かをイメージした花って他にもあるの?園芸部の部長さんとか......あ、森さんイメージのお花あるなら見たい!写真ある?あ、私撮ってるものの中であるかな?......や、ちょっと待って、やっぱり当てたいかも......」
「............」
「森さんっぽいお花でしょ~?......んー、どれがぽいかなぁ......全部可愛いしなぁ......」
図書館に飾った大きな花瓶の花の話を出されて、何の前説も無しにまさにめい子先生イメージ通りの感想を告げられ、思わずすごく嬉しくなってついはしゃいでしまう。志摩さんのスマホの花の写真を一緒に見ながら、今度は私のイメージの花、つまり立嶋先輩が作ってくれた花瓶の花を当てたいと言ってくれた。少し気恥ずかしく思いつつ、そわそわとしながらも志摩さんの手元のスマホを眺めていれば......志摩さんを呼ぶ聞き心地の良いテノールが耳を滑った。ほとんど同時に志摩さんとそちらに顔を向けると、黒のリュックを片方の肩に掛けた赤葦君が歩いて来るのが見える。
「......話割り込んでごめん。でも、学実ミーティング、そろそろ行かなきゃだろ」
「あっ、そうだった!ごめん赤葦!」
赤葦君の言葉に志摩さんはしまった!というような顔をして、慌てて私へ顔を向けた。
「ごめんね森さん......考えてくるから、明日正解教えてほしい!」
「......あ、うん......」
「じゃあ、また明日ね!部活頑張って!」
「......うん、また明日......志摩さんも、頑張ってね......」
「......一応、俺も学実なんだけど。志摩だけなの?」
「!」
花瓶の花の話が途中になってしまったことを謝られ、続きはまた明日ということになり、志摩さんと別れの挨拶を交わした、矢先。頭の上からぼそりとそんな言葉が降ってきて、思わずびくりと肩が跳ねる。おずおずとそちらを見上げれば、いつの間にか赤葦君が直ぐ隣りに来ていて、切れ長の目とぱちりと視線が重なった。
「............」
「あはは!赤葦が拗ねてる!ウケる~!w」
「別に拗ねてないけど、志摩だけなのはズルいだろ」
「んふふwだってさ?森さんw」
「............」
少しだけムッとしてるような赤葦君の言葉にボケッとしてしまう私とは対照的に、志摩さんは可愛らしくけらけらと笑いながら赤葦君の背中をペシペシと軽く叩いた。そんな姿は仲睦まじい恋人同士のようで、やっぱりお似合いの二人だなぁと改めて感じてしまう。
「......ぁ......赤葦君も、頑張ってください......」
少しだけチクリとした痛みを胸に感じたものの、赤葦君がゆるりと口角を上げて「うん」と優しく頷いてくれたのと、先程の志摩さんとの花瓶の花の会話が今はとにかく嬉し過ぎて、へらりと拙く笑いながら多忙な学実の二人を送り出すのだった。
下手な鉄砲数撃ちゃ当たる
(花瓶の花、褒めてもらえた......!嬉しくて、泣きそう......!)