AND OWL!
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デフォルト:森 夏初【もり なつは】梟谷学園高校二年六組、園芸部所属。
極度の人見知りで仲の良い相手としか普通に話せない。頑張り屋と卑屈屋が半々。
最近の悩み:「男バレの先輩方のノリに上手くついていけない」
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マスク越しに前の席の友達に朝の挨拶をして、自分の席に着く。
今日の一時間目は確か英語だったな。カバンから教科書とノート、電子辞書にペンケースを取り出し机の端に用意してから、ぐっと伸びをした。
「おはよう」
両指を組んでくるりと回し、上に伸びていた矢先頭上から落ち着いた低い声が聞こえ、思わず身体が固まる。
しかしそれは数秒のことで、慌てて姿勢を正してから声を掛けてきた相手を見た。
「お、はよう、ございます......」
そこには最近よく話すようになった男バレの赤葦君が無表情で立っていて、間抜けなところを見られた恥ずかしさから何ともしどろもどろな挨拶を返してしまう。
特に赤葦君は顔が整っていて身長も高く、二年生で男バレの副主将をやっている程運動もできる。
男女問わず人気がある赤葦君に話し掛けられるということ自体色々と驚いているのに、変な行動をしてなんだコイツと思われてしまったらもう大変だ。
......もしかしたらすでに手遅れかもしれないけど。
「今日は木兎さん来ないらしいから、昼休みはゆっくりしてていいよ」
「え......」
居心地が悪い中、唐突に言われた言葉に思わず目を丸くする。
確か昨日、じゃあまた明日なと言われた覚えがあるけど、お昼休みに何か別件が入ってしまったということだろうか。
「......あ......うん、わかった......ありがとう......」
「.............」
今日は木兎さんが来ないと遅れて理解した途端、思わずほっとしてしまう。
マスクを付けているから赤葦君にはバレてないと思うけど、今日は朝からお昼休みのことで少し憂鬱だったから拍子抜けたというか、つい安堵してしまったのだ。
やらないといけないきつめの課題を直前でやらなくていいよと言われた気分だ。
いや、別に木兎さんのことが嫌いなわけではないんだけど、人見知り故にどうしても緊張疲れしてしまうのである。
「......それで、」
「えー、木兎さん今日来ないのー?」
赤葦君の声と前の席に座っていた友達の声が綺麗に被る。
咄嗟に友達の方に顔を向ければ、赤葦君も友達に「うん、あの人言う事コロコロ変わるから」と返答してくれた。
「なんだ~、楽しみにしてたのに~」
「......木兎さんだってヒマじゃないんだよ」
あからさまに肩を落とす友達にマスク越しにため息を吐くと、彼女は「木兎さんと話したかった~」と私の心境とは真逆の台詞を口にする。
私も人見知りさえしなければイケメンと話せる機会に心踊らせているだろうに......本当、厄介な性分だ。
内心で自分にもう一度ため息を吐きつつ、そういえばさっき赤葦君の言葉を遮ってしまったなと思い出した。
「......赤葦君、さっき、何か言いかけた......?」
友達から赤葦君に視線を戻すと、赤葦君は何やら少し言い悩むような仕草を見せる。
「あぁ......いや、大丈夫。そろそろ授業始まるし、後で少し時間貰えれば」
「え......」
赤葦君の言葉に目を丸くする。
時間を貰うということは、何か私に用事があるということだ。
お昼休み、木兎さんが来ないのだから赤葦君とも話さないだろうと勝手に思っていた為、思わぬ事態に少し身構えてしまう。
詳細を聞く前にチャイムが鳴り、赤葦君は「じゃあ、また後で」と自分の席へ戻ってしまった。
「あれじゃないの?この間のお礼とか」
「......いや、お礼される意味がわからないから......」
「だってほら、赤葦が木兎さんに褒められる要因作ったの夏初じゃん?」
「だからってなんで赤葦君にお礼してもらうことになるの......」
友達の発言にたまらず眉を下げたところで、担任の先生が教室へ入って来て朝のホームルームを始めるための声を掛けた。
ガヤガヤとしていた教室が徐々に落ち着いていき、全員が着席すると担任の先生は朝の挨拶も程々に連絡事項を伝え始める。
それを話半分で聞きながら、赤葦君の用事とは一体なんだろうとひっそりと顔を青くしていた。
▷▶︎▷
一時間目から四時間目まで何事も無く授業は進み、時間はお昼休みになった。
今日は木兎さんの来訪もなくなったし、赤葦君もお昼休みには話し掛けてこないようだったのでお弁当と水筒、貴重品と化粧ポーチを持って第三会議室へ友達を連れてきた。
普段殆ど使われてないこの部屋は、園芸部の仮部室となっている。
非公認なのかどうなのかよく知らないが、鍵も掛かってないし先生達に注意もされないので時々私用でも使わせて頂いている。
ちなみに今日は友達に化粧を施して貰う為、そのついでにお昼ご飯も食べるためにやって来た。
「夏初、顔洗ってくる?」
「ううん、メイク落とし持ってきたからそれでやっちゃう」
「あ、美容液入ってるヤツじゃん。ナイス~」
「じゃあそのまま下地塗っていいよね」
「宜しくお願いします~」
先にお昼ご飯を済ませてから、友達二人に化粧をお願いする。
普段は時間のある時に限り拙いながらに自分で化粧をするのだが、友達二人は自他ともに認める程化粧をするのが上手い。
今日は二人に顔の青アザを隠す技術を教わる為、わざわざ教室を出てここでご飯を食べに来たのだ。
最初は少し触るだけでじくりと痛んでいた青アザだったが、今は強めに押すと痛いだけでそこまで支障はきたさない。
色味もだいぶ薄れてきたものの、顔にある怪我というのはどうにも人の目が向いてしまうようでまだマスク無しでは生活できずにいた。
「ちゃんと消してあげるからね~」
「ありがと~」
化粧下地にコンシーラーを持った友達の言葉に、前髪をヘアピンでとめながら素直にお礼を返した。
▷▶︎▷
放課後を告げるチャイムが鳴り、最後の授業がこのクラスの担任の科目だった為そのままホームルームが始まった。
特に連絡事項はないのかいつもよりずっと早くそれが終わり、クラス全員が各々の行動に移る。
普段はこのまま部活へ向かうところだが、今日は少しやることがあるのでエナメルバッグを持って目的の人物の席へ足を進めた。
「森」
椅子に座ったまま帰りの支度をしている背中に声をかけると、森は一瞬動きを止めてからゆっくりとこちらへ振り返った。
その顔は若干おずおずとしたものだったが、それより先に朝とは様子が違うことに気が付く。
朝会った時は確かマスクをしていたはずだ。だけど、今の森は素顔のままだった。
咄嗟に青アザがあった場所を確認すると、以前見た痛々しいそれは影も形もなくなっている。
「......顔の、消えた?」
驚きと安堵の感情が綯い交ぜになりつつ思わず目的とは違うことを訊いてしまうと、森は俺から視線を外して少し戸惑う素振りを見せた。
「......消えた訳じゃ、ないんだけど......化粧、してもらいました......」
ちらりと視線を滑らせた先には、森の前の席のクラスメイトがにっこりと満足そうに笑っていた。
どうやら彼女が化粧を施したらしい。
言われてみれば確かに目元とか口元とかがいつもと違うように見える。
「へぇ、化粧ってすごいな......」
女の子の技術に驚きつつ思わずまじまじと見てしまうと、森はパッと顔を俯かせて片手で顔を隠してしまった。
それはそうだろう。他人の顔を、ましてや女の子の顔をまじまじと見るのはだいぶ失礼だ。
直ぐにごめんと謝ると、森は赤い顔を隠したまま小さく首を横に振った。
「赤葦君の、用事って、なんですか......?」
居た堪れないのかこちらを見ずに本題を促され、ああそうだったと頭を軌道修正する。
「そのことなんだけど......少し時間ある?すぐ済むんだけど、場所だけ変えたくて」
「え......」
思わずと言った感じで一瞬難色を示されたが、直ぐに「あ、うん......」と頷いてくれた。
少し強引になってしまったが、こればかりはもう仕方ない。
申し訳ないとは思いつつ、戸惑う森を連れて教室を後にした。