Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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お気に入りのゴーグル付き半ヘルメットを被り、私の高校生活を丸々掛けて手に入れた群青色の原付バイクを走らせる。
ゴールデンウィークを迎えた初夏の風は少しだけ冷たいものの震えるほどではなく、いい眠気覚ましになった。
学校がある時は自転車を使うしかないが、休日のバイトには殆どこの原付バイクで通っている。
何より楽だし、速いし、乗っていて気持ちがいいしで本当にいい買い物をしたと思う。
その為に現在バイトに勤しむ身になっているものの、後悔も反省も私の中にはなかった。
鼻歌混じりに原付バイクを走らせ、向かった先は坂ノ下商店だ。
邪魔にならないところに原付バイクを停め、ヘルメットを外したところで閉店の札が掛かる店の扉が開いた。
「おーす、キト。朝早くから悪ィな」
「おはようございまーす、全然平気です~」
店から出てきた烏養さんに軽く挨拶をして、ヘルメットを腕に抱えたまま開店前の店内へ入る。
「烏養さんこそ、時間大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。もう準備はしてあるし、すぐ行けるから」
「そうですか~......合宿とか憧れるなぁ、花火とかするんです?」
「しねぇよ、ひたすらバレーするだけだ」
リュックサックを裏に置き、坂ノ下商店のエプロンを付けながら訊いた私の言葉に、烏養さんは苦笑混じりに答えてくる。
なんだ、花火はしないのか。
「これ、ゴールデンウィーク中にやっといてほしいことリストアップした。簡単にはメールで伝えたけど、一応な」
「わ、ありがとうございます。助かります」
渡された数枚のA4用紙には、烏養さんの字でわかりやすく指示書きが並んでいた。
烏養さんは本当に細かい所まで詰めてくれるし、機転が利くから凄いと思う。
有難みを感じつつ、ざっと軽く目を通して不明点がないかどうか確認した。
「連休だから閉めてる所も多いし、発注は連休前に多めにしてるからそこは甘くて大丈夫だ」
「わかりました。だけど、この連休で周りがやってない分、普段来ない方がうちに来る可能性があるから在庫把握は確実に、ですよね?」
「おう、ちゃんと覚えてるな。上出来だ」
烏養さんの話と以前貰ったメール、そして手元にあるリストを読みながら総合的に考える。
学校の勉強は好きでも嫌いでもないが面白みがない。だけど、こういうことに頭を使うのは割かし好きで面白い。
「......リスト、大丈夫だと思います。何かあったらマダムに聞いて、それでもどうにもならなかったら連絡します」
「おう、そうしてくれ......お前、その呼び方はやめろって」
「えー?ご本人公認ですよー?」
少し遅れて渋い顔をする烏養さんに首を傾げる。
マダムというのは烏養さんのお母さんのことで、烏養さんが居ない間は私とマダムが交代交代で坂ノ下商店を開けている。
おば様とかよりはマダムの方が響きが良いし、こちらとしても呼びやすいので比較的中年層の女性にはマダムと呼ぶようにしているのだが、烏養さんのお母さんには大変喜ばれたものの、烏養さんにはあまり好評を得られないようだ。
「......店閉めた後でいいから、定期連絡はしてくれ」
注意されてもケロッとしている私を見て早々に諦めが着いたのか、烏養さんは渋々という感じではあったが話を先に進めた。
時間もないだろうから、私も「わかりました」と端的に返事をする。
「何か訊いときたいことあるか?」
「.............」
おそらく最終確認として掛けられた言葉に、少し考える。
業務的には多分大丈夫だと思う。見た感じ、嶋田マートとあまり変わりない内容だからだ。
ここは特に無いですと答えた方がいいんだろうが、ふと業務とは全く別のことが気になり一瞬躊躇したものの、好奇心には勝てず軽く息を吸った。
「......ねこまって強いんですか?烏野、勝てますか?」
「あ?」
私の質問に、烏養さんは目を丸くする。
仕事のことを訊いたのに、まさかバレーボールのことを訊かれるとは思ってなかっただろうから当然だ。
怒られるかな?と一瞬不安を覚えたものの、烏養さんは片手を口元に持っていき少し黙考した。
「......そうだな......今の音駒を知らねぇから何とも言い難いが......俺らの頃は全敗だった」
「え、めちゃめちゃ強いじゃないですか」
思いもよらない言葉を聞いて、今度は私が目を丸くする。
練習試合ってもっとこう、同じようなレベルの学校同士がするものではないのか?
帰宅部だから運動部事情は全く分からないけど、それでも母校が他校に全敗するってなかなかショックだ。
「まだまだ練習は足りてねぇし、試合経験もなければチームとしての力もねぇ。おそらく今回勝つのは難しいだろうな......だけど、」
「?」
「......飛べない烏なんて、もう二度と誰にも呼ばせねぇよ」
「.............」
瞬間、烏養さんの纏う空気がガラリと変わる。
刺すような気迫に完全に飲まれ、言葉を根こそぎ封じられた。
店内の静寂が異様に冷たく感じ、自分の心臓の音がやたらうるさく聞こえる。
「......じゃあ、後は頼んだ。行ってくる」
「!」
固まってしまった私を見越してか否かはわからないが、烏養さんはその大きな手で私の頭を乱暴に撫でた。
それにより、私の緊張は一気に解ける。
「......あ、はい、行ってらっしゃいませ......頑張ってくださ~い」
乱れてしまった髪を手櫛で整えながら弱々しくも返すと、烏養さんは「まぁ、頑張るのはあいつらだけどな」と苦笑気味に笑った。
軽くこちらに手を振りながら店を出て行き、烏養さんの背中が完全に見えなくなったところで思わず大きなため息が出る。
“......飛べない烏なんて、もう二度と誰にも呼ばせねぇよ。”
無意識に、先程の烏養さんの様子を思い出した。
たぶん、アレが闘志というものなのだろう。
スポーツ選手(烏養さんはコーチだから少し違うかもしれないけど)を通り越して、まるで兵士のように見えた。
選手とか兵士とか、闘いに身を投じる人しかきっと出ないであろう、圧倒的な気迫。
ああいうものをお互いにぶつけあうのが試合であり、勝負であるのだと思うのと、身震いしてしまうというか、身の毛がよだつというか。
本気の勝負というものをしたことの無い人間からしたら、完全に別世界だ。
「......よーし、バイトがんばろー、おー」
開店前なので誰も居ないのをいいことに、自分で自分に緩く鼓舞して気合いを入れる。
兎にも角にも、烏養さんも頑張ってるし男バレも頑張ってるなら、別世界だろうがなんだろうがそれに水を差す訳には行かない。
男バレ合宿に行く烏養さんの留守はしっかり守らなければならないし、それが今の私の最善の務めだ。
よし、ともう一度小さく気合を入れ、手早く坂ノ下商店のエプロンを付けて先程もらったやることリストの再確認を始めるのだった。
カラスノウラカタサポーター
(起死回生。快進撃の幕開けだ!)