Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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「おはようございまーす」
学校が終わり、そのまま足を向けたのは本日のバイト先である坂ノ下商店だ。
年季の入ったドアを開け、緩い挨拶をしながら中へ入るとレジに座って本を読んでいた烏養さんが「おー」と小さく返してくる。
制服のままでバイトをするなと言われているので、いつものように奥の自宅スペースでパーカーとスキニージーンズに着替えようと烏養さんの前を通り過ぎた矢先、烏養さんが読んでいた本が何となく目に入り少しだけ足を止めた。
「......あ、コーチングの本」
「!」
何の気なしに零れた私の呟きに、烏養さんは面白いくらい反応を示す。
「......なんだよ、文句あっか?」
「いえ、烏養さんて意外とこまやかだなぁと思いまして」
「こま......意外とってなんだコラ」
「......だって見た目、完全にヤンキー......」
「うっせー、早く着替えて店番代われ」
フンッとそっぽを向く烏養さんに思わず笑ってしまい、しかし大っぴらに笑ってしまえば確実に烏養さんの機嫌を損ねるのでなるべく最小限に抑えつつ、制服を着替えに店の奥へ向かう。
扉を閉め、ブレザータイプの制服からモスグリーンのパーカーと黒のスキニーの動きやすい服装に着替えてから、少し乱れてしまった髪を簡単に一つに結ぶ。
財布と携帯だけポケットに突っ込み、坂ノ下商店のエプロンを掛けてから再び烏養さんの元へ戻った。
「お待たせしましたー」
「おう、引継ぎすんぞ」
「はーい」
店番交代時の引継ぎ事項を確認し、それらを全て携帯のメモ帳に打ち込む。
何かあった時に烏養さんにすぐ連絡できるよう、携帯の所持を許可されているのは大変有難い。
急用でないことはメールでやり取りしているので、そのままどうでもいい話に転がることもしばしばある。
意図せず男バレ情報を色々と入手してしまう理由の一つが烏養さんとのメールであるのだが、西谷君達は全部嶋田マート情報として認識してるんだろうなぁ。
訂正した方がいいのかもしれないけど、大した事でもないし、まぁ、いっか。
「じゃあキト、店番頼むな」
「はい、いってらっしゃいませ~」
烏養さんからエプロンを預かり、笑顔でお見送りをする。
烏養さんはこれから烏野高校男子バレー部のコーチをしに行くのだ。
何やら今年の男バレは物凄く気合が入っているらしいという噂を聞いている為、それに水を差すことのないよう、坂ノ下商店の留守はしっかり守らなくてはいけない。
......とはいっても片田舎の個人商店である。今はお客さんが居ないので、取り敢えず商品の前出しとホコリ取りから始めようと鼻歌交じりにハタキを取り出した。
「そういやお前さ、」
「わぁ!?」
急に声を掛けられたことに驚いて後ろを向くと、今しがた出掛けたはずの烏養さんが入口に立っていた。
「そ、そこまで驚くか?こっちがびっくりしたわ」
「いや、だって完全にお出掛けになったと......!何です?忘れ物ですか?」
「いや、違ぇけど......」
下手な鼻歌を聞かれたことの恥ずかしさも重なり、やや早口で捲し立てると烏養さんは若干歯切れの悪い調子で返してくる。
「......その、本当に大丈夫なのか?ゴールデンウィーク、全部任せちまって」
「.............」
何やらとても言いづらそうな顔をされ、一体何を言われるのかとドキドキしていれば、私にとっては特に意味の無い確認事項だった。
以前も話した通り本当に全然構わない事なのだが、どうやら烏養さんにとってはそうもいかないらしい。
「......烏養さんて、優しいですよね」
「は?いや、そういう問題じゃねぇだろ」
思わず零れた言葉に対し、烏養さんは片眉を下げて軽く批難してくる。
その顔は完全にヤンキーのお兄さんだが、私を気遣っての言葉をかけてくるあたり心根から優しい人なんだろうなと感じた。
こういう人がコーチという立場に居るなら、烏野男バレはなかなか幸せ者なのではないだろうか。
だけど、それを口にすれば絶対に烏養さんは面白くなさそうな顔をするだろうから、私はニヤニヤ笑うだけに留めた。
「......前も話した通り、何も問題ないですよ。私はバイトできる、烏養さんは合宿に行ける。お互いウィンウィンじゃないですか」
「.............」
ね?と首を傾けると、烏養さんは何か言いたげな様子を見せたものの、結局大きく息をついて頭を掻くだけだった。
「......お前って、本当......逞しいよな......」
「えー?華の乙女に向かってなんて事を」
「乙女ぇ?どちらさんが?」
「ちょ、ひっど!もう、さっさと行け!」
ふざけ半分でハタキを振り回すと「ホコリ舞うからやめろ」と笑いながら言われ、今度こそ烏養さんは店を出て行った。
一息つく暇もないまま、烏野高校の制服を着た男子生徒二人が烏養さんと入れ替わるように入って来る。
「あ、いらっしゃいませー」
「あれ?広瀬じゃん。なに、バイト?」
よく見ると同じクラスの男子生徒だった為、すぐに気が抜けた。
そうだよと返すと、二人は軽く相槌を打ちながら店内の飲食スペースを陣取る。
「金パのにーちゃんどこ行くの?」
「烏野男バレのコーチしにいくらしいよ」
「え、マジか。実はバレーの選手とか?」
「なんか、地元のチームでやってるって。あと烏野バレー部のOBのよしみでって聞いた」
「へぇ、俺らの先輩だったんか。知らんかった」
「じゃあ、とりあえず二人とも、私の為に一人千円は使ってもらおうか」
「おま、ばかじゃねーの」
「ほら、私真面目だからさ?自分の勤務時間に売上を落とす訳にはいかなくて」
「おーい、責任者を呼べ~」
「今は私ですが何か?」
「何か?じゃねぇよ、ふざけんなよw」
男子二人との馬鹿なやり取りに笑いながら、壁に掛かっているカレンダーがふと目に入り、何となく日付を確認する。
男子バレー部の合宿が行われるゴールデンウィークは、もうすぐそこだった。
初夏の足音
(合宿とか、ちょっと楽しそう。)