Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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「広瀬ー!」
放課後になり、本日のバイト先である嶋田マートへ向かおうと自転車をユルユルと押していた私に明るい声がかかった。
どこから聞こえたのかわからずキョロキョロと周りを見回すと、「こっちこっち!」と背中から呼ばれる。
振り向いた先に見えたのは、予想通りの相手、西谷君だった。
四月とはいえまだ肌寒いというのに、西谷君は元気にTシャツ短パン姿だ。
「今日もバイトかー?」
「うん、これから嶋田マート。西谷君は外練?」
「おう、ロードワーク中!」
駆け寄ってきた西谷君は少し息を切らせながらも普通に話してくる。
驚異の体力に素直に凄いなぁと感心しつつ、彼が毎日楽しみにしている部活中にも関わらず、私を見かけて話しに来てくれることが友達としてとても嬉しくて自然と頬が緩んだ。
つい先日、ウタちゃんのせいでこの友情に亀裂が生じたらどうしようかとドキドキしたものだが、あの後ウタちゃんは余計なことを話さなかったようで西谷君が私を避けるようなことはなく、心底安心した。
「体育館使えないの?」
「今はな~。でも、17時からは空くらしいから、今日はそれまで筋トレなんだよ」
「17時から、って......え、練習何時までやるの?」
「一応19時ってなってるけど、多分翔陽とか影山とかがもう一回!とか言い出して少し延びるだろうな!」
「ひえぇ......お疲れ様......」
あっけらかんと話すその内容に帰宅部の私は慄くしかないのだが、張本人は大変楽しそうな様子なので下手に水は差さないでおこうと可もなく不可もなくな返答を選ぶ。
烏野男バレ、恐るべき向上心である。
「ノヤっさーん!......と、広瀬か!?」
西谷君と話しているとまたもや別の明るい声がかかり、彼と同時にそちらへ顔を向けると、坊主頭が印象的な1組の田中君が猛スピードでこちらへ向かってきた。
「よ!これからバイトか?」
「うん、嶋田マート」
「龍、それさっき俺が聞いた」
「なぬ、そりゃスマン!」
見た目にそぐわず素直に謝ってくる田中君に大丈夫だよと笑って返し、改めて二人の薄着姿を見て何となくこちらが寒くなった。
「その格好、寒くない?」
「え、全然?走ってたからな」
「広瀬はもうちょい脚出せよ~、タイツもいいっちゃいいけどよ~」
「やだよ寒いもん。あとセクハラ発言やめてー」
「セクっ......!?ちょっと希望を言っただけだろー!?」
私の言葉にあたふたと動揺する田中君に西谷君とケラケラ笑う。
他クラスの田中君は同じバレー部である西谷君を通じて仲良くなった。
最初は坊主頭だったり眼光が鋭かったりと厳つい見た目に尻込みしていた私だったが、話してみると非常にノリのいい漢気熱い兄さんということがわかり、今では軽口すら言い合える関係になっている。
「そういや、嶋田マート情報、何か更新されたか?」
「あ?何だそれ?」
西谷君の言葉に田中君は首を傾げる。
嶋田マート情報というのは、この前西谷君と世間話しをした時に私が男バレの話をやたら知っていたことが由来するだろう。
西谷君が田中君にそれらを簡単に説明している横で、最近聞いた男バレの話を思い出す。
嶋田さんからはなんだか色々と聞いたけど、一人一人の話をしっかり覚えている訳ではないので誤報になりそうだからここはやめておこう。
あとは、嶋田マート情報ではないけど坂ノ下商店で何か聞いたような......。
「......なんか、ゴールデンウィークに男バレは合宿やるって聞いたかな?」
「おう、やるやる」
「毎年恒例のヤツな~」
「で、合宿最終日に......ね、ねこ、ま?と練習試合するって」
「おう、合ってる合ってる」
「よく知ってんな広瀬......いや、この場合嶋田マートがすごいのか?」
「ねこまってどこの高校?あんまりこの辺じゃ聞かないよね?」
「音駒は東京らしい。なんか昔はよく練習試合してたらしくて......」
「え!?東京!?」
「うわっ、びっくりした」
「どうした?」
西谷君の返答に思わず大きい声を出してしまった。
てっきり東北地方の高校かと思いきや、まさか東京の高校だなんて。
「え、東京行くの?ずるい!いいなー!私も連れてって!」
「いや、行かねぇよ。向こうがこっち来るんだと」
「えー、そうなの?なんだ~、東京でパンケーキ食べたかった~」
「ハハッ!そりゃ残念だったなぁ!」
「つーか別に遊びに行く訳じゃねぇぞコラ。バレーしに行くんだっての」
女子高生なら誰もが憧れる東京が一瞬間近に感じたかと思えば、そんな上手い話はなくすぐに遠ざかった。
ガックリと肩を落とす私に対して田中君は呆れ混じりにツッコミを入れ、西谷君は可笑しそうにふきだす。
「......ま、近い内に俺らが連れてってやるよ!なぁ、龍!」
「え?」
「おう!今年こそだよな!ノヤっさん!」
「え、何?どういうこと?」
私一人だけ話が見えないでいると、二人は掛け声もなく同時に私の方へ顔を向けた。
「インターハイも春高も、やる場所東京なんだよ!」
「だから俺らの応援に来りゃ行けるぜ?東京!」
ニヤニヤと笑う西谷君と田中君の言葉に少し呆気に取られつつ、インターハイとか春高とか、確か全国大会のことだったよなと暫し考える。
つまり、二人は宮城県の代表になるつもりなのだと考えが追い付いて、自然と顔が明るくなった。
「......お~、強気~!大きく出たな~!」
軽口混じりにそう返すも、この二人が言うと何だか本当に実現出来るような気がしてならない。
だって今年の男バレはひと味違うと嶋田さんも烏養さんも言っていたし、これはもしかして、本当に東京に行けちゃうかも。
「こらー!西谷ー!田中ー!サボってるんじゃないよー!」
「可愛い女子がいるからってナンパすんなー!」
三人で盛り上がっていると、少し遠くの方で男バレ二人を注意する声が聞こえた。
瞬時に背筋を伸ばす二人の反応からして、今しがた声を掛けてきた相手はどうやら先輩らしい。
しまった、仮にも部活中なんだからもう少し配慮が必要だったな。申し訳ない。
「ゲ!大地さんにスガさん!」
「やべーやべー!じゃあな広瀬!」
「邪魔してごめん、頑張ってね」
慌ててランニングに戻る二人に小声でそう伝えると、二人は明るく笑って「おう!」と声を揃えて返事をくれた。
二人の笑顔に沈みかけた気持ちが立て直され、私もバイト頑張ろうと気を引き締めるのだった。
たった一枚の切符
(行き先は勿論、東京!)