Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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期末テストの答案が全て返却され、夏休み直前の週末がやってきた。帰宅部の私は朝から晩までハッピーバイトライフな訳だけど、今日はそのバイトを少しだけ抜けて烏野高校の正門まで来ていた。うだるような暑さと夏の日差しに耐え兼ねて買った黒い日傘を差して“ある人”を待っていれば、白い軽トラックが学校の前の坂を登ってきたので小さく息を吐く。よく目を凝らすとその車体には目印である“烏野食堂”という文字が見えて、運転席に座る金髪ボブの美女にぺこりと頭を下げると、車は私の前でピッタリと停まった。
「えー!キトちゃんジャン!なになに、もしかしてアタシのこと待っててくれたの!?」
「こんにちは!お久し振りです!田中君から色々話を聞きまして、勝手にお待ちしてました......!あ、こっちのスペースに車停めていいそうです!」
運転席から顔を出した金髪ボブの美女......烏野男バレ二年生の田中君のお姉様、冴子姉さんに挨拶をした後軽い状況説明をして、先程烏野高校の先生から許可された駐車位置へ案内する。冴子姉さんは突然のことに目を丸くしていたけど、直ぐに私の誘導した場所へ車を動かしてくれて、その後エアコンの効いた車内へ私を招いてくれた。お言葉に甘えて日傘を畳みながらお邪魔すると、夏の外気から守られた涼しい空気がひやりと肌を滑り、思わずほっとしてしまう。
「てか、こんな暑い中で女の子待たすとか超大罪でしょ!龍のヤツ、私にも話しとけっての!」
「と、とんでもない!大丈夫です!あの、今日は本当にありがとうございます!」
私の様子に、気のいい冴子姉さんは弟の田中君に不満を漏らし始めた。だけど、私のことは全然気遣い無用なので慌てて話題を今日の本題へ移す。
「一年生のヒナちゃんと影山君、本当、可哀想なくらい落ち込んでたので......。冴子姉さんが車出してくれるって田中君から聞いて、もうすごく嬉しくて!女神様きたー!って思いました!」
「女神?アタシが?あははッw何それウケる!w......まぁ?あの龍がどうしてもって頭下げるから?しゃーねぇなって思ったんだけど、キトちゃんに見送ってもらえるなんてサイコー♡ねぇ、連絡先教えて?これから夏休みじゃん?今度オネーサンとご飯行こ♡」
「はい!ぜひ!」
どうやら私の話題転換は功を奏したようで、冴子姉さんは夏の太陽にも負けない明るさでカラリと笑いながらスマホを私へ寄越してきた。私も冴子姉さんとはもっと話してみたかったので、喜んでその申し出を受ける。
......先日の坂ノ下商店で田中君から密かに頼まれたのが、今日の事だった。今回の期末試験で惜しくも赤点を取ってしまった烏野男バレ一年生、ヒナちゃんと影山君は男バレの東京遠征合宿と丸かぶりしてる補講を受けることになってしまい、男バレの皆と東京へ出発することが出来なかったのである。......いやいや、烏野の新兵器である彼らが東京へ行けないなんて、そんな事があっていい訳ない!だけど、交通手段が無い!さて困ったと男バレ全員の頭を悩ませた致命的大問題を解決したのは、田中君だった。田中君が自分のお姉様、冴子姉さんにヒナちゃんと影山君を東京まで車で送ってほしいと頼んでくれたのだ。でも、冴子姉さんは当然簡単には承諾しなかったらしい。だけど田中君は粘りに粘ってみせ、どうにかして冴子姉さんの首を縦に振らせた。もう、田中君本当に格好良い先輩過ぎて震える。烏野男バレファンとして冴子姉さんへは勿論だけど、田中君にもめちゃめちゃ感謝しないとなと胸を熱くさせていれば、田中君から今日の事をお願いされたのだ。
────冴子姉さんを、兎に角気持ちよく送り出してほしいと。だから今、私は坂ノ下のバイトを抜けて烏野高校正門付近に居る訳である。
「あの、東京までって高速使ってもめちゃめちゃ距離ありますよね?本当、道中お気を付けて......というか、何時間くらい掛かるんですか?」
紛うことなき今回MVPである田中君からの頼みに了承したのはまだ記憶に新しいけど、本当に私の役割は必要なのかという疑問がずっと頭の中にある。それでもとりあえず自分の役目を全うしようと冴子姉さんに話を振れば、冴子姉さんは窓際に頬杖をつきながら楽しそうに外の景色を眺めた。
「んー、高速使ってー、大体五時間くらい?まぁ、渋滞無ければもうちょい早く着くかもねー。追い越し車線ブットバすし?」
「......ご、五時間......ひえぇ......私そんなに運転したことないです......」
「ん?あれ?キトちゃんて龍と同い歳よね?」
「あ、ごめんなさい、バイクです。あ、でもスクーターで」
「ああ、そっちか!えー、何乗ってるの?」
「ホンダのリードです!紺色で、格好良くて可愛くて、一目惚れでした!」
運転時間五時間というとんでもない数字にうっすら顔が青くなりながらも、改めて東京までの運転を申し出てくれた冴子姉さんに感謝の気持ちが溢れた。しかし、それを口に出す前に相手から私の年齢の確認をされ、車ではなくバイクですと訂正すればそのままバイクの話で盛り上がってしまった。そういえばいつぞやの男バレ二年生との会話の中で、田中君のお姉さんが大型バイクを乗ってると聞いたことがあった気がする。それを話題に出せばやはり合っていたようで、今まで行ったツーリングの話なんかも冴子姉さんは沢山してくれた。
「あ、そうだ。よかったらこれ、持って行ってください」
「え、なになに?」
すっかり話し込んでしまった後、膝の上に乗せたままだった坂ノ下商店の袋の存在を思い出し、その内のひとつを運転席に寄越した。冴子姉さんはその中身を確認すると、パッと顔を明るくさせる。
「ヤダ超嬉し~!ありがと!キトちゃんて本当マメよねぇ、いつでもお嫁に来てネ♡」
「えッ、いや、あの、だからそれは、違くてですね......!」
袋の中身は缶コーヒーやジュースやお茶、飴、ガム、クッキーを始めとする小袋のお菓子だ。なるべく一口で食べられて、粉が車内に落ちないようなものを選んだつもりだけど、喜んでもらえたようでほっとした。だけど、次に続いた“お嫁に来て”の言葉に直ぐにぎくりとしてしまう。あのですね、田中君には潔子さんという好きな人が居て、それはもう毎日一途に頑張ってるんですよという私の話を冴子姉さんは「お、来たか?」の一言で窓の外を見ながらあっさりと中断し、突然車をアクセルを踏んで車を動かした。シートベルトをしてなかった私の身体は一度ぐらりと大きく揺れ、軽い悲鳴を上げながら慌てて手すりのような所を掴めば、車は案外直ぐに停まる。
あまりにも突然のことに頭が追い付かず、目を丸くしたまま呆然としている私を他所に、冴子姉さんは先程渡した袋から棒付きの飴を取り出し、それ咥えてから暑い夏の世界へ出て行った。
「ヘイ、赤点ボーズ共。乗りな。」
「!」
冴子姉さんの威勢のいい声に釣られて窓の外を見れば、そこには教室から走って来たのであろう制服姿の男バレ一年の二人......ヒナちゃんと影山君の姿があった。どうやら補講が終わったらしい。
「たっ、田中さんのお姉さんですかっっ」
「冴子姉さんと呼びな......東京までなんてあっという間に届けてやるよ」
「「冴子姉さん!!」」
腕時計で今の時間を確認していると、車の外からは何とも楽しい会話が聞こえてくる。可笑しさに負けてついふきだしてしまいながらも、膝の上にある二つのビニール袋を持って車のドアをえいやと開けた。
「......ヒナちゃんも影山君もお疲れ様~、今日あっついねぇ~」
「え!?キト先輩!?なんでここに!?」
「お見送りに来ました。二人とも、補講ナイスファイト~」
車から出た途端、夏の直射日光とこの季節らしい暑さに襲われ軽く目をつむりながらも、彼らの元へ歩み寄る。冴子姉さんの隣に並ぶと、ヒナちゃんは目を丸くして尋ねてくる。それにへらりと笑いながらここに居る理由と労りの言葉を寄越して、まだちょっとポカンとしてる彼らに持ってきた坂ノ下商店の袋をひとつずつ渡した。
「はいコレ、坂ノ下からのサービスです。二人分しかないから、東京着くまでに食べちゃってね」
「え!いいんですか!あざーす!」
「あざす!......あ、ぐんぐんヨーグル......!」
「うん、一応保冷剤入ってるから冷えてると思う......あ、それはサービスエリアとかで捨てちゃっていいからね。ちなみにヒナちゃんにはぐんぐんバーが入ってます」
「やった!俺コレ好きです!あざーす!」
二人の袋には飴とガムと一口サイズのクッキーの他にぐんぐんヨーグルとぐんぐんバーをそれぞれ入れてみた。ヒナちゃんも影山君も中身を見て喜んでるようだから、こちらも一安心だ。何だか、小さい子に遠足のおやつを与えてるような気分になる。とはいえ歳は一つしか変わらないし、二人とも私より背が高いのだけど、今の感覚はまるで彼らの親戚のおばさんか何かにでもなったようだった。だけどそれは私が変なんじゃなくて、この二人がとても素直で可愛いのがいけないんだよねと内心で誰にと言わず言い訳を捏ねていれば、二人はもう一度私に御礼を言ってからいそいそと烏野食堂と書かれた白い軽トラに乗り込んだ。ああ、ごめん。そうだよね、早く東京行ってバレーしたいよね。お見送りの私が引き留めてどうすると心の中で反省しながら......端的な言葉で彼らを送り出す。
「────沢山バレーして......宮城で一番、強くなってね」
「「!」」
ヒナちゃんは助手席、影山君は後部座席に座りしっかりシートベルトを締めた二人を見ながらそう伝えれば、彼らはピクリと反応した後真顔でじっと私のことを見た。......まるで二羽の烏と目が合ったような心地がして少しぎくりとしてしまうも、「......は」「はい。そのつもりです」「影山ァッ!今それ俺が言おうとしたのに!!」「は?知るかボケ」といういつも通りな元気な二人に、ホッと肩の力が抜ける。よかった、二人とも突然真顔になったから、怒らせたんじゃないかと思ってドキドキしてしまった。
「ハイハイそろそろ出発すんぞー。......じゃあキトちゃん、行ってくんね」
「はい、行ってらっしゃいませ。お気を付けて」
運転席に座る冴子姉さんの挨拶と共にエンジンが掛かり、白い軽トラから少し距離を取る。校門は開けっ放しにしてたから特に動かすことは無いけど、念の為校門付近に歩行者が居ないか確認しに行き、大丈夫そうなのでそのまま車を誘導した。
「「キト先輩!」」
「!」
行ってらっしゃいと外から言いながら笑って手を振っていれば、ヒナちゃんと影山君はわざわざ窓を開けて顔を出してくる。気を利かせた冴子姉さんが車を一度停めてくれると、二人は窓からにゅっと片手を突き出し拳を差し出してきた。
「「行ってきます!!」」
「............うん、行ってらっしゃい。帰ってきたら、東京のバレーの話いっぱい聞かせてね」
少しびっくりしつつも、へらりと笑って二人の拳に自分の拳をそれぞれコツンとぶつけた。彼らは今日の空模様に負けないくらいの晴れやかな笑顔を浮かべて、東京への長い道のりを進み出す。二羽の烏を乗せた車が完全に見えなくなるまで校門で手を振り続けて、一人になってからよいしょと校門を閉める。気付けば額が汗ばんでいて、日焼け止めを塗り直さなきゃと少し焦りながら手の甲でささっとそこを拭った。
「............ここから、五時間かぁ......」
乱れた前髪を軽く整えつつ、車が出て行った校門の外をぼんやりと見つめる。東京は私にとってずっと憧れの場所であり、オシャレで、きらきらしてて、楽しくて、滅多に行けない日本屈指の観光地っていうイメージが常にあるけど......今回は特に、宮城からの距離が憎らしい。もう少し東京が宮城の近くにあれば、ヒナちゃんと影山君は直ぐにでもバレーができるのに。午前中の補講の時間だってずっと我慢してただろうに、更にここから五時間もお預け状態が続くなんて......。
「......やっぱ遠いなぁ......東京......」
夏の日差しに目を細めながら、車内は大丈夫かなぁとちょっと心配になる。......だけどふと、前髪を整えていた手が彼らと拳を合わせたものであることを思い出し、同時にその時の二人の顔も思い出して、まぁ大丈夫かとすぐに思い直した。
だって、ヒナちゃんも影山君もすごくきらきらしてたから。そうだよ、考えてみたら冴子姉さんが車出してくれなきゃ、東京に行くことだってままならなかった。兎に角あの二人が無事に東京へ向けて出発出来て、到着したら関東の高校と存分にバレーが出来るのだから、悲観的になることなんてちっとも無いのだ。
「......よし、バイト頑張ろー!おー!」
そう思ったら気持ちが持ち直して、周りに誰も居ないのをいい事にひっそりと声を出した。烏野男バレのファンの私が今出来ることは、東京へ遠征中の烏養さんの分まで坂ノ下商店でしっかりバイトすることだ。烏養さんが烏野のバレーに集中できるように、しっかり働かなければ。
......いつかの日に、潔子さんから“烏野裏方サポーター”なんて立派過ぎる肩書きを頂いたのだから、私はその名に恥じないように行動しないといけない。よし、ともう一度気合いを入れてから、坂ノ下商店までの下り坂を足取り軽く踏み出したのだった。
宮城での留守番はお任せください!
(......ん?そういえば、影山君から名前呼びされたの、何気に初かも?)