Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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自宅でテスト勉強する傍ら、谷地さんが作った超格好良いポスターでの男バレ遠征資金調達はどうなったのかなとふと気になっていれば、タイミング良く潔子さんから【お陰様で東京合宿行けそう。季都ちゃん、本当にありがとう】という連絡がきた。どうやら車を借りられるまでの寄付金が集まったらしい。思わずガッツポーズをしてから【いえいえ!谷地さんが凄いんです!東京行けるならよかったです!やったー!】とテンション高めな返信を送る。......でも、本当に嬉しい。またあの音駒や、他のチームとも烏野は戦える。練習試合だから、それはもう沢山試合するんだろうし、関東のチームとの対戦経験値をどんどん上げていけば、烏野はきっと今よりもっと強くなるはずだ。......そうしたら、きっと、次の春高予選でも結果がついてくる。伊達工にも、青葉城西にも、......白鳥沢にも、全部勝って烏野が宮城の一番になる。「烏野が一番強い!」って、あの体育館で絶対に言いたい。
【まぁ、あとは期末テストの結果次第ね。全員で行けるといいんだけど】
「......あー......そうだった......」
潔子さんからの返信にたまらず力が抜ける。東京へ行く手筈は整ったけど、“行く条件”はまだ整ってないんだった。西谷君と田中君......それから、一年生のヒナちゃんと影山君の四人が何とかしてこの期末テストで赤点を回避しなければ、補習期間丸かぶりの東京遠征に行くことは叶わなくなる。二年の二人はこれまで一緒に試験勉強していて、ヒナちゃんと影山君も谷地さんやバレー部の人達に必死に教えて貰ってることを縁下君達男バレ二年組や坂ノ下で直接ヒナちゃんから聞いた。どうにかして彼らの努力が実を結んでほしいけど......こればかりは、本当に祈る事しか出来ない。
潔子さんのメールにどう返そうか頭を悩ませつつ、もういくつ寝るとやってくる運命の期末テストに小さくため息を吐くのだった。
▷▶︎▷
「ハーイ、じゃあテスト返すぞー」
烏野男バレ東京遠征の寄付金が無事に集まってから数日後。試験期間はあっという間に過ぎて、その結果が今日から明日に掛けて返ってくる。先生の緩い一声から始まり、出席番号順で次々とクラスメイトの名前が呼ばれる中、ちらりと前の席の西谷君を窺えば......元気溌剌ないつもの彼と違い、ひどく緊張している姿が見えて思わずサッと目を逸らしてしまった。でも、そうだよな......このテスト結果で大好きなバレーの合宿に行けるか否かが決まるんだから、そりゃあ緊張するに決まってるか......。改めてそんな事を考えてしまえば、何だか私まで緊張してきて変な汗がじわじわと出てきてしまった。西谷君、テスト終わった後は「いつもより何聞かれてんのかわかった!」って言ってたけど、要は問題が理解出来たってことだと思うし、それならきっと正答率も上がってるだろうし、赤点は免れる、はず。大丈夫、あんなに勉強したんだもんと心の中で思いながらも、それを今の西谷君に伝えることにどうしても躊躇いを覚えてしまい、結局何も言わずに後ろの席から神様にお願いすることしか出来なかった。
......そしてついに、ひとつめの運命の瞬間が訪れる。
「西谷ー」
「ッ、お、オォッス!!!」
先生に呼ばれて、西谷君はひと際大きな声を出してから教卓に向かった。いつもとは違う彼の様子に先生やクラスメイトがなんだなんだと視線を向ける中、西谷君はギクシャクとした歩き方で教室前方まで進み、先生からテストを受け取るとまるで精神統一をする格闘家のように大きく深呼吸して......存外思いきりよくテストの点数を確認した。ちなみに、この教科の赤点ラインは35点以下だ。お願いだから36点以上であってくれと手を合わせて必死に祈っていれば......
「......ッシャアアアアアッ!!!」
歓喜の声と共にガッツポーズを決める西谷君を見て、私も釣られて立ち上がってしまった。「授業中です、静かにしなさい」という先生の言葉をさらりとスルーとして、西谷君は走ってこちらに戻ってくる。自分の席に着く前にキラキラとした顔で両手を掲げてきたので、またもや釣られて両手を同じように高く上げた。
「ッシャア!!一個目クリアー!!」
「ナイスレシーブ!さっすが守護神!!」
両手でハイタッチを交わし、喜びを分かち合う。西谷君の答案用紙を見せてもらえば、赤点ラインを少し越えた38点だった。数字だけ見れば決して喜ぶものではないのだけど、東京遠征に行けるかどうかの真剣勝負では大変喜ばらしいものである。よし、よし!まずは一つ目クリア!一個でも落とせばドボンだけど、とにかく一教科はクリアした!東京遠征に一歩前進だ!わいわい騒ぐ私達に対し、周りはすっかり目を丸くしてなんだどうしたと口々に聞いてきた。西谷君が訳を話せば、元からノリの良いクラスメイト達は途端に祝福の声をあげてくれる。「よかったな西谷!」「次も頑張れよー!」等、主に男子達に騒がれながら西谷君は満面の笑みで席に着いた。
......そんなこんなでテスト返却の二日間、二年三組の教室は西谷君のテスト結果で大いに盛り上がりを見せ、ついに迎えた最終教科......英語のテストでもギリッギリ赤点を免れた西谷君は、完全勝利の雄叫びをあげた。このまま胴上げでもされるんじゃないかと思うくらい、クラス中がお祝いムードになり西谷君は男子から揉みくちゃにされる。そんな彼を見ながら当然私のテンションもマックスに上がっていて、自分のテストの点数なんてどうでもいいくらいはしゃぎまくっていた。だって、烏野の守護神が東京遠征に行けないなんて、そんな馬鹿なことあってたまるか!沢山試験対策してきたし、舟を漕ぐ西谷君の椅子を何度も蹴ってきた甲斐があった!ここ数週間の努力が報われ、ほっと息を吐きながらもよかったよかったと笑っていれば、西谷君は男子の輪を抜け自分の席へ戻ってきた。
「やったぜ広瀬!マジでありがとな!」
「凄いよ西谷君!東京行き決定おめでとう!」
もう何度目かのハイタッチを交わし、祝福の言葉を送る。私のおかげだと言ってくれる西谷君に「いやいや、ちゃんと西谷君の実力だよ!」と強く返せば、彼は少し照れたように笑った。
「本当によかったね!今まで勉強頑張った分、心ゆくまで思いっきりバレー楽しんできて!」
「おう!......そんでさ!」
「?」
「────東京でガンガン試合して、今よりすげぇリベロなる。俺が、宮城で一番強ぇリベロだって言えるように」
「!」
自分のテスト結果そっちのけで西谷君の快挙を喜んでいれば、西谷君は答案用紙をグシャリと強く握り締めながら、私を真っ直ぐ見てしっかりと宣言した。まるで的を射る矢のように鋭く、真っ直ぐに寄越されるその視線に思わずどきりとしながらも、胸に熱いものが込み上げて小さく頷いた。
「............うん。私もそれ、早く言いたい......」
「!」
自然と出て来た言葉をそのまま伝えると、相手はひとつ瞬きをしてぴくりと肩を揺らした。......西谷君のバレーは今でも鮮明に目に焼き付いていて、その頼もしさにはコートの中の選手陣だけでなく応援席に居る私も何度も助けられている。真っ黒な烏の中で一人だけ、強く燃える炎のようなオレンジ色を纏う彼は、バレーの技術も精神面でもおそらくチーム最強の守護神だ。そんな彼が、これからもっと強くなると言うなら......私は彼のバレーの進化をしっかりとこの目で見たい。一番前の特等席で、絶対に見たい。
「任せろ!絶対言わせてやっからな!」
「うん、絶対ね?約束だからね?」
あと、東京のお土産よろしく!
天高く光輝く太陽みたいにニカッと笑ってくれる西谷君に、私も笑い返しながらそんなことを告げてみれば、「あ、俺も俺も!」「東京ばな●でいいよ~」なんてそこかしこから聞こえてきて、あれよあれよと東京土産の話で盛り上がってしまう。
「悪ィ金無ぇから無理!あと行くの音駒の体育館だけだから!」
わいわいと盛り上がるクラスメイト達に西谷君がそう返すと、今までこの騒ぎを諦めて見ていた英語の先生が「西谷、騒ぐならせめてもうちょい良い点取ってくれ」と苦笑しながら告げる。その正論に教室中の誰もが確かにと思い、再び笑いの渦に包まれるのだった。
▷▶︎▷
「あ、いらっしゃいませ、こんばんはー」
期末テストが全て返却されて、西谷君と同様赤点を危ぶまれていた一組の田中君もどうやら東京遠征の切符を手にしたらしいことが分かった。男バレ二年生全員が無事に東京へ行けることが嬉しくて、少し浮かれながら坂ノ下でのバイトをしているとガラガラと店のドアが開く音がした。お客様が少ない時間帯なので、烏養さんのマダムに許可を得て今日返されたテストの見直しをしていた手を止め、お客様に挨拶をすると見慣れた顔が次々に入って来る。田中君と西谷君、澤村先輩と菅原先輩と東峰先輩、その後ろにヒナちゃんと影山君が続いたが......何だか一年生二人の覇気が無い気がして、思わず目を丸くしてしまった。
「ヒナちゃん?どうしたの?なんか元気無いね?大丈夫?」
「............キト先輩......俺......」
どちらかと言えばよく話すヒナちゃんへ声を掛け、どこかしょんぼりしている相手を心配していれば、坊主頭を掻きながら田中君がその訳を教えてくれた。
「あー......コイツ、赤点取っちまって落ち込んでんだ」
「ぴぎゃッ」
「え、......えぇーッ!?ウソぉ!?」
「ついでに影山も」
「えぇーッ!?影山君も!?ウソでしょ!?」
「...........」
田中君からの衝撃的な言葉にたまらずそんな馬鹿な!という反応をしてしまうも、先程よりもさらにどんよりしてしまうヒナちゃんと影山君を見て、ああ、本当にやっちゃったのか......と納得せざるを得なかった。いやでも、二年の二人が何とかなればもう大丈夫だろうと思い込んでたから、正直だいぶショックだ。まさか、本当に東京へ行けない人が居るなんて......しかも、今年の烏野の新兵器であるこの二人が行けないなんて、そんな事が果たしてあっていいのだろうか。三年生の先輩達が一年生二人も試験対策をとても頑張っていたこと、だけどテスト本番でどうにも失敗してしまったことを説明してくれて、すっかり気落ちする彼らがますます気の毒に思えてならなかった。だけど夏休みの補習は部活の合宿があろうと絶対に受けないといけない決まりだし、この緊急事態をまるっと治めてしまうようなアイデアも何も思い付かなくて、二人を慰めることも出来ずにいれば、田中君から「広瀬、ちょっといいか?」と肩を叩かれた。そのまま店の奥の方へ連れてかれ、声を潜めて伝えられた内容にきょとんと目を丸くする。
「......え、と......とりあえず、時間が分かれば、バイトの調整出来るか検討するけど......でも、本当にそれ、私が役に立つかなぁ......?」
「立つ立つ。16年共に生きてきた俺が言うんだから、そこは信じてくれ」
「............うん、じゃあ、分かった......」
田中君から寄越された素っ頓狂な頼み事に、本当に私が適任なのか首を傾げてしまったものの、役に立つと強調されてしまえばもう素直に従うしかない。......だって、本当に今の話が上手くいけば、ヒナちゃんと影山君も補習に参加しつつ東京遠征にも参加することが出来る。烏野男バレを応援する身とすれば、例え少々疑問に思ってもやらないという選択肢は無いだろう。了承した私に田中君は拳を突き出してきたので、こちらも拳を作りコツンとそれに当てると、相手はさっさと男バレの輪の中に戻って行った。
「............」
落ち込む一年生二人を明るく励ます田中君の姿を見て、以前ここに来た彼のお姉さんが田中君のことを良い男だと推してきたけど......恋愛感情は抜きにして、本当に頼りになる格好良いヒトだなと改めて思い知るのだった。
東京へ行く方法
(でも、行く前からこんなにバタバタで、本当に大丈夫かなぁ......)