Crows to you SS
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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▷▶︎▷Happybirthday!!!2022.06.21
6月21日。夏が至ると書いて夏至と名付けられたこの日は、北半球に位置する日本において日の出から日の入りまでが一番長いと言われている。
つまり、日照時間が一年の内で最も長い日なのだ。
しかしながら、最近ではその説が違うかもしれないとやや議論が交わされてるものの、太陽が飛びぬけ早くに顔を見せるということだけは確かなようだった。
「.......あ、そういえば時差......!」
夏至に関するネットニュースの記事を見つつ、トークアプリに打ち込んでいたメッセージを送信する。
スマホの時計を見て、ふと彼の住んでいるところの時差を計算していなかったことに気が付き、うっかり日本時間で送ってしまったことにガクリと項垂れた。
ああ、でも、人一倍優しい彼のことだから、多分“ありがとうございます!!”と元気いっぱいなメッセージを送ってくれるんだろう。
それにきっと、人気者の彼のことだ。
キラキラに輝くオレンジ色の太陽みたいな彼のスマホには、誕生日をお祝いするメッセージが日本から、ブラジルから、世界から忙しなく贈られ続けているに違いない。
その中の一通だと考えれば、そこまで気を落とさなくてもいいかもしれないな。
勝手に落ち込んで、勝手に浮上する自分の情緒不安定さを少し可笑しく思っていると、手元にあるスマホが着信を知らせた。
「.......んえッ!?」
この時間に電話をしてくるなんて、きっと家族か友達...あまり考えたくないけど、職場の人かのいずれかだろうと思い画面に目を滑らせると......そこには、“日向翔陽”の名前が表示されていて、たまらず間抜けな声が出た。
どうやらトークアプリを通じて電話を掛けているようで、見覚えのある丸いアイコンを少しほうけて眺めてしまったものの、直ぐに我に返って慌てて応答ボタンをスライドさせる。
「えと、ヒナちゃん?ヒナちゃんですか?」
《はい俺です!お久し振りですキト先輩!誕生日のメッセージありがとうございます!》
「いえいえ......てか、びっくりしたぁ......え、もしかしてみんなにこうやって返してるの?」
まさか電話で返してくれるなんて全く思ってなかったので、少しドギマギしながらそんな質問をすると、ヒナちゃんは電話の向こうで可笑しそうにふきだした。
《めちゃめちゃそうしたいんですけど、ちょっと難しいですね》
「あー、だよねぇ......ヒナちゃん今日、お祝いメッセージ沢山貰ってそうだもんね」
《いやいや~、そんなことは......あるんですけど》
「......あぁ、もう日本人としての謙遜の心を忘れてしまったのね......」
ヒナちゃんの言葉に冗談でそう返すと、ヒナちゃんの楽しそうな笑い声が響く。
ここ近年、海外のチームにいるヒナちゃんとはなかなか顔を合わせる機会が無く、それどころかメッセージを送ったり電話したりすることもなかったから、久し振りにヒナちゃんの元気な声が聞けて心からほっとしてしまった。
「でも、本当、お誕生日おめでとう!今年もヒナちゃんにとって、怪我なく病気なく健やかに、実りある一年になることを願ってるよ」
先程も同じようなメッセージを送ったけど、電話でも言いたくなったから素直な気持ちを口にすると、電話の向こうから「へへ、あざス!」と嬉しそうな声が返ってきた。
烏野高校で出会ったヒナちゃんは、バレーボール選手としての体格こそ恵まれなかったものの、生まれ持った己の身体をどう使えばバレーボール選手として強くなれるのかを考えて、考えて、考えて考えて、そして今、海外のバレーボールチームの一員として毎日毎日バレーボールを楽しんでいる。
ここに至るまできっと、私なんかが想像もつかないような辛いこと、苦しいこと、悲しいことがそれこそ山のようにあったに違いない。
好きだからこその苦しさも、人一倍あったと思う。
「.............」
だけど、ヒナちゃんは頑張った。
その身体じゃ無理だという周りの声に負けず、もうどうしようもないじゃないかと嘆く自分自身にも負けず、バレーボールで食べていけるだけの強い選手になった。
それこそ、世界でも活躍出来るほどの、立派なバレーボール選手になったのだ。
「......私、ヒナちゃんに会えてよかったなぁ......」
《え?なんですか、急に》
久し振りに声を聞いたからか、それとも今日がヒナちゃんの誕生日だからか、高校時代のこととか今までのことをぼんやり思い出して、思考がそのままするりと口を滑る。
急に変わった話に、ヒナちゃんは聞き返すような声を寄越した。
その声がなんだか、当時坂ノ下商店でバイトをしていた時に部活終わりのヒナちゃんと、何のことも無い話をしながらけらけらと笑い合っていた時の彼の声と重なった気がして、思わず胸がきゅっとなった。
......あの頃には、もう二度と戻れないけど......あの時のヒナちゃんが切望した願いの先は、確かに今にあるんだな。
「......私がバレーボールに惹かれたのってね、あの時、一番最初の音駒との練習試合だったの」
《......あぁ、俺が一年だった時のですね。ゴールデンウィークの最終日》
「そうそう」
《......で、全部負けた......》
途端にヒナちゃんの声が渋いものになり、たまらずふきだしてしまうと「俺、いまだに悔しいです」と言葉を続けてきたので、本当にヒナちゃんは変わらないなと小さく笑った。
「......でも、あの時初めて、ヒナちゃんと影山君の変人速攻見てさ。あの瞬間、私の知ってたバレーボールの概念が根こそぎひっくり返ったよ。え、バレーってこんな面白いの?って。おかげさまで、そこからもうずっとハマっちゃった」
《.............》
「......だから、私のバレーの始まりは、ヒナちゃんだったんだよね」
《!》
瞳を閉じると、あの時の光景がまるで昨日のことのようにはっきりと思い出される。
滝さんと嶋田さんにつれられて、烏野商店街の方々と一緒に見た、あの一瞬。
私が想像していたバレーボールとは天と地ほども違って、鮮やかに、強烈に私の目に焼き付いたあのプレーは、きっといくら歳を重ねても、絶対に忘れないだろう。
多分、あの一瞬が、私がバレーボールにハマる瞬間だった。
「......私と出会ってくれてありがとう。バレーボールの楽しさを、教えてくれてありがとう」
《.............》
「......生まれてきてくれて、本当にありがとうね、ヒナちゃん」
《.............》
《......前に、山口から聞いたことがあって》
「え?」
私の言葉に、ヒナちゃんは少し間を空けて、再び話を繋いだ。
しかし、話の流れとは裏腹に突然出て来た山口君の情報に、今度は私がヒナちゃんに聞き返してしまう。
い、今の話のどこに山口君関連のことが...と少し混乱していると、ヒナちゃんはひどく落ち着いた声音で話の先を続けた。
《......嶋田マートの嶋田さん、よくキト先輩のこと、天使だって言ってたって》
「え゛!ちょ、やだ、何話してんの!?ていうかソレ冗談だから!本当、えぇ、待って、恥ずかしい......!」
ここに来て突然恥ずかしい話になり、思わず言葉をつっかえながら、電話だというのに赤くなった顔を片手で隠した。
烏野のOBの嶋田さんは、元バイト先の上司......否、雇い主なこともあり、烏野の試合観戦以外にも色々と関わっていたので、そんな冗談を言い合える間柄だった。
基本的に「ナイス!」とか「グッジョブ!」とかそういう意味合いで「天使かよ」と言われていた気がするけど、まさかヒナちゃん......そして山口君にも知られていたとは思わなくて、その事実がもう本当に恥ずかしい。
これが黒歴史というヤツか......!?と内心でのたうち回っていると、声は耳元で聞こえるのに異国に居るヒナちゃんが、小さく笑った。
《.......でも、俺、今すげーわかりました》
「え?」
《本当に、......キト先輩は、天使だ》
「.............」
ヒナちゃんの言葉に、たまらず息を飲む。
その言葉は嶋田さんから幾度となく掛けられたものであるものの......まさか、ヒナちゃんから言われる日がくるなんて。
すごい。嶋田さんが言うのと全然違う。どうしよう。ドキドキする。
というか、ヒナちゃん、いつの間にそんな格好良く......いや、元から格好良かったけど、でも、可愛いってずっと思ってたから、なんていうか......す、すごくびっくりした......。
海外生活が長くなると、そういう発言もさらっと言えちゃうようになるのかな?
そんな阿呆なことを割かし本気で考えていると、海の向こうのオレンジ色は、からりと明るく笑った。
《......今日は俺、誕生日なんで!ありったけの天使の加護、貰ってもいいですか?》
「.....................人間だけど......何すればいいデスカ......」
Happybirthday!!!
Dear Hinata!!!
(もう一回、おめでとうって言ってほしいです!)