Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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「おはようございまーす!今日はマダムとお休み代えて頂きましたので休みます!」
「あ?」
帰りのホームルームの後、坂ノ下商店まで自転車で一直線に向かい、お店に入ると同時に今日のバイトを休むことを伝えれば店番をしていた烏養さんはポカンとした顔を向けた。
「珍しいな......何か用でも」
「烏養さん烏養さん!見て見て見て見て!」
「うおッ、おま、何だよオイッ!?」
目を丸くする相手に爆上げのテンションで例のポスターを直ぐ近くまで見せに行くと、私の浮かれきった言動に烏養さんは一気に顔を顰めた。眉間に皺を寄せながら「少し落ち着け」と窘められて、確かにちょっとはしゃぎ過ぎたなと内心で反省しながら適度な距離でポスターを広げる。烏養さんはしげしげとそれを眺めて、感心したように息を吐いた。
「おお......何だこれ、すげぇな......」
「でしょう!谷地さんがね!作ったんですよ!最っ高に格好良いですよね!」
「へぇ......」
「コレ、貼っていいですよね!?あと、諸々終わったら貰ってもいいですか!?すっごく欲しいです!」
「......まぁ、いいんじゃねぇの。好きにしろ」
「やったぁ!ありがとうございます!絶対盗られないでくださいね!約束ですよ!」
「お前な、こんなド田舎だぞ......?」
「そんなの関係無いです!だってこんなに格好良いし、もしかしたらヒナちゃんファンの女の子とかに......あ、烏養さん!どんなに可愛い子がこのポスター欲しいって言ってきても絶対あげちゃダメですからね!私もう予約しましたから!」
「あーあー、わかったようるせぇな......お前何か用があるんじゃねぇの?早く帰れよ」
烏野男バレの新マネージャー、谷地さんが制作した寄付金募集のポスターを坂ノ下商店に貼る許可を取り、ついでにこのポスターを欲しいことを告げるとOKは貰えたものの「何言ってんだこいつ」と言わんばかりの顔を向けられる。でも、だって、職員室でこのポスターを見た時は本当に感激したのだ。ヒナちゃんと影山君の変人速攻を見た時と同じ感覚というか、とにかくこのポスターの格好良さに心臓を持ってかれた。掲示期間が終わったら、絶対欲しい。何ならお金払ってでも絶対欲しい。ちなみにそれを谷地さんに言ったら「めめめ滅相もございません......!!」と顔を青ざめられた挙句代金を拒否されてしまった。それでも何とかこのポスターを貰う許可だけは頂けたので、あとはここの店主である烏養さんに許可を貰えれば私のものになる。絶対部屋に飾りたい!
「じゃあ、お願いしますね!......えーと、次は大野屋さんのとこ......」
「ちょっと待て」
無事に予約出来たことに安心感と満足感を覚えながら次の所へ行こうと足を外に向ければ、烏養さんから待ったを掛けられた。何だと思って再び顔を向けると、烏養さんは何やら怪訝そうな色を浮かべてこちらを見ていた。
「......もしかしてコレ、お前が配るのか?全部?」
「え、はい」
「......一応聞くが、先生には通してるんだよな?」
「はい。説得して了承貰いました。あと、マネージャーさん方にも」
「............」
言われた言葉に、またかと思う。烏養さんもおそらく男バレ顧問の武田先生やマネージャーの潔子さんみたいに、部外者の私が寄付金のポスターを配ることに多少なりとも抵抗を感じているんだろう。いや、まぁ、烏養さん達の気持ちも分からなくは無い。潔子さんは凄く嬉しいことを言ってくれたけど、でも、どうしたって私は“ただの烏野男バレのファン”な訳だし、所属は“帰宅部”なんだから本当にこんなことを頼んでもいいのか、みたいなことを考えてくれてるんだと思う。......だけど、私は心から好きでやってる訳だし、男バレには春高予選に向けて1日も、1秒も無駄にしないでほしいと思ってる。
「......この間、烏野が一番強いって言いたいって話、したじゃないですか」
「!」
「だから、その実現に向けて私も具体的に動いてるんです。......願いが叶うまでただ待ってろなんて、ひどい事言わないでくださいね」
「............」
それに、帰宅部が他の部活を手伝っちゃいけないなんていう校則も無いし。
何かと渋る烏養さんに自分の気持ちを素直に告げると、烏養さんはその鋭い目をあっけに取られたように丸くした。しかし、その後直ぐに片手で顔を覆い、大きなため息を吐く。
「お前は、本当に......あー、クソ......」
「............」
「......ソレ、何枚ある?昔からバレー部を懇意にしてくれてるとこ教えるから、そこ中心に回ってけ」
「え、ありがとうございます!20枚あります!」
「20か......チャリで行くのか?」
「いえ、一度帰ってバイクで行こうかと。なので範囲広くても大丈夫です」
「そうか」
相手が思い悩んでいたのはほんの数分で、烏養さんはガシガシと金髪頭を掻いてから意識を切替えるようにレジ台に紙とペンを取り出した。そのままこの寄付金のポスターの貼付をお願いするお店をリストアップしてくれて、私が探したり考えたりする手間を大幅にカットしてくれる。
「......こんなもんか。後で必ず俺や先生が挨拶行くから、それも伝えてくれ」
「はい、わかりました。じゃあいってきます!」
「キト」
相変わらず効率の良い烏養さんからお店の名前と電話番号を書いたメモを貰い、さらっと目を通してから出発しようとすれば、また止められた。今度は何だと少し眉を下げてしまえば、「ありがとな。今度飯でも奢る」とややぶっきらぼうに感謝された。いつもなら素直に受け取ってしまうものだったが、今回は少し事情が違う。くるりと思考を回して、思い付いたことを口早に告げた。
「......ご飯はいいので、今度行く東京合宿の話、沢山聞かせてください」
「!」
「東京のチーム、めちゃくちゃ気になります。どんなバレーするのかとか、どんな選手が居るのかとか、あと烏野が勝ったかとか!私めっちゃ聞くんで、面倒くさがらずにちゃんと答えてくださいね?」
私の返答に相手はまたポカンとした顔を浮かべてしまう。でも、正直今はご飯よりもこっちの方がずっと嬉しいのだ。音駒もだけど、他県のチームとかめちゃくちゃ気になる。そんな私のワクワクが伝わったのか、烏養さんはその凛々しい眉を下げて苦笑しながら「わかった」と了承してくれたので、私もにっこりと笑い返しながら今度こそ坂ノ下商店を後にするのだった。
「こんばんはー!ごめんください!」
帰宅して、制服から私服に着替えてポスターと共にバイクに乗り込む。烏養さんからのメモを見ながら商店街中を走り回り、挨拶して、お願いして、時にちょこっと世間話をして、それを何度も繰り返していればあっという間に最後のお店へ到着していた。烏野商店街から少し離れている電気屋さん、三坂電器商会さんへ挨拶をしながら足を踏み入れると、店の奥から初老のおじ様が「はい、こんばんは。いらっしゃいませ」と挨拶を返してくれる。
「突然すみません。私、烏野高校二年三組の広瀬季都と申します。坂ノ下商店の烏養繋心さんの紹介の元、お願いがあってこちらに伺いました」
「はぁ......それは遠い所を......」
烏野商店街と違い、馴染みのないお店である為先程よりもずっと丁寧に挨拶をしてから最後のポスターを相手へ差し出す。
「恐れ入りますが、このポスターを三坂電器商会様に貼らせて頂けませんか?」
「......ほう......これはまた、見事な......」
お渡ししたポスターをしげしげと見て、顎下に片手を当てる店主のおじ様にコクリと軽く唾を飲んだ。ひとつ深呼吸をして、話の先を繋ぐ。
「......今、烏野高校男子バレー部は全国大会出場を目指して毎日頑張っています。夏休みに他県のバレー部と合同合宿をするのですが、他の部活と時期が被ってしまい学校の車が使えない状況なんです」
「......成程、それで寄付金を......」
「はい。......手前勝手なお願いで申し訳ありません......どうしても、合宿に行きたいんです。強くなりたいんです」
「............」
「烏野高校男子バレー部に、ご尽力頂けないでしょうか?」
「............」
「お願いします」
男バレの現状を話し、どうして寄付金が必要なのかまで話してから深く頭を下げる。どうしてこの方が男バレを懇意にしてくれるのかは知らないけど、部外者の私が今の彼らの印象を悪くする訳にはいかないだろう。頭を下げたままでいる私に、店主のおじ様は少し間を置いた後ゆっくりと返事をくれた。
「......勿論いいですよ。ただ、ひとつ聞きたいことが」
「?」
「繋心君は、烏養さんのところのお孫さんでしょう?バレー部の監督が変わったということでいいのかな」
「......はい。繋心さんのお祖父様は体調を崩されていて、今は療養中なんです」
「ああ、そうなんですね......」
私の返答に、おじ様は小さく頷きながら心配そうな顔を浮かべた。前監督の容態を烏養さんに聞いてくればよかったなと少し反省していれば、相手の視線がゆるりとこちらへ向いた。
「......でも、こんなにしっかりしたマネージャーさんが居れば、繋心君も心強いでしょうね」
「え?......あ、いえ、すみません。私マネージャーではなくて、烏野男バレのファンなんです」
「え?」
ふと寄越された言葉に正直に返してしまえば、おじ様はきょとんと目を丸くした。あ、どうしよう。明らかに混乱させてる。部外者からのお願いなら話は別ですとか言われたらどうしよう。
「っ、あの、今年の男バレ本当に凄いんです!この間のインターハイ予選では宮城の2強の青葉城西高校と延長戦までいって、最後の最後で負けてしまったんですけど、どちらが勝ってもおかしくない状況でした!」
「......へぇ......あの青城に。それは大したもんだ」
「そうなんです!だから、次の春高予選では絶対に勝ちたいんです!あの強烈なサーブにも、緻密に計算されたセットアップにも、セッターみたいなリベロにも、次は絶対負けません!次こそ烏野が勝ちます!」
「............」
「......と、いうことで、ございまして......私は男バレ部員ではないのですが、彼らを応援したいんです......」
それならばと今の男バレの凄さを熱を入れて話し、私が本気で彼らを応援していることもお伝えすると、おじ様は少し考えるように私を見た後、おもむろに手元のポスターへ視線を滑らせた。
「......それにしても、“小さな巨人”か......懐かしいなぁ」
「!」
ぽつりと零されたそれに、今度は私が反応してしまう。......“小さな巨人”。何とも不思議な言葉だけど、ヒナちゃんのポスターに大きく書かれているそれは、スパイクモーションで高く高く飛ぶ彼を表すには最適な言葉だった。しかし、ポスターには「“小さな巨人”、再来」と書いてあり、作成者の谷地さんに聞けばどうやら過去にもヒナちゃんみたいな選手が居たらしい。谷地さんはその話をヒナちゃんから聞いたと話していたから、今度ヒナちゃんに会ったらその話を聞こうと思っていた。だけど、もしかしたらこの店主のおじ様も、かつてのその人のことを知ってるのかもしれない。
「......あの、以前の“小さな巨人”さんて、どんな方だったんですか?」
好奇心に負けてたまらず聞いてしまえば、おじ様は懐かしそうに、そして楽しそうに笑いながら答えてくれる。
「この彼と同じですよ。背丈は無いけど、誰よりも高く飛んでました。本当に、背中に翼が生えてるのかと思うくらい」
「へぇ......」
「......彼のような選手が、烏野にまた現れるとは......何だか感慨深いものがありますね」
「............」
「......そういえば、何年か前に烏野が全国区の大会に出た時、そこでその試合を凄く熱心に見ている子が居たなぁ」
「え、ここで......?もしかしてテレビですか?」
「はい。全国区の大会は地元の学校が出るとテレビ放映するので、ここで流してるんですよ」
「へぇ......!そうなんですね......凄い......!ん?ということは、東京に行かなくても今年のインターハイもテレビで観られる......?」
「そうですね。ただし、衛星放送にはなりますが」
「本当ですか!?やったぁ!......あれ、衛星放送?ってことは、別途料金が......?」
「掛かりますね」
「あ、あぁ~......うーん、なるほどぉ......」
“小さな巨人”の話からインターハイがテレビで観られる話になり、顔を明るくしたもののやはりそうは問屋が卸さなかった。うーん、衛星放送っていくらくらいするのかな......。
「......ふふふ。広瀬さんは本当にバレーボールが好きなんですね」
「......あー......でも、あの、まだ凄く日が浅いんですが......でも、好きです。バレー、面白いです」
悩む姿を笑われながら寄越された言葉に、眉を下げて笑う。今年のゴールデンウィーク辺りから、烏野と音駒の練習試合からバレーの面白さに落っこちた訳だけど、 まさかここまで強烈にハマってしまったことには正直自分でも驚いていた。あの時滝さんに声を掛けられて、“ゴミ捨て場の決戦”とやらを観られたことは私にとってそれなりの“人生の転機”だったように思う。
「......では、このテレビに烏野高校の選手が映る日を、楽しみにしていますね」
古くから男バレを知る三坂電器商会の店主様からのお言葉に、つい嬉しくなってにっこりと笑いながら大きく頷くのだった。
次世代の小さな巨人へ
(きっとそれは、彼のバレーボールの一番最初の日。)