Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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男バレの東京合宿が掛かった期末テストも目前。お昼休みにご飯を食べた後、いつものメンバーでテスト勉強をしていれば、机の上に置いていた携帯が震えた。反射的に集まる視線に「わ、ごめん」と謝ってから、とりあえずそれを持って廊下へ出る。皆の勉強の邪魔にならない場所まで来ると、ひたすら鳴り続けるそれの応答ボタンをスライドさせ、相手を確認しないまま電話に出た。
「はい、広瀬です」
《あ、季都ちゃん。ごめんね、今忙しい?》
「えッ!?き、潔子さん......!?出るの遅くてすみません!忙しくないです!」
耳元で聞こえる透明感のある聞き心地のよい声に、心臓がどきりと跳ねる。同性なのにこんなにドキドキしてしまうのは、電話の相手......男バレマネージャーの潔子さんが老若男女誰もが魅了される程美しいからだ。
《今、仁花ちゃんと職員室に居るんだけど、ちょっとだけ来れないかな?季都ちゃんに見て欲しいものがあって......》
「行きます!直ぐ行きます!」
そんな女神のような先輩と電話をしていること自体ドギマギしてしまうことなのに、「これから会えない?」なんて非常に魅力的なことを言われてしまえば、いや、意訳だけど、でも、この誘いを断る人なんてきっと居ないに決まってる。少なくとも私と西谷君と田中君は絶対に無理。「これから君のこと騙すから着いてきて?」なんて言われても絶対に着いていく自信がある。そんなアホなことを思っていれば短い挨拶の後電話が切れ、余韻に浸りたい気持ちをぐっと堪えてバタバタと教室内へ戻った。
「ごめん!私ちょっと急用できたから抜ける!」
「おー、いってらー」
「電話誰から?どこ行くの?」
「フッフ......潔子さん!」
「「はぁッ!?」」
机の上に広げたノートや教科書をバサバサと机の中に突っ込み、本日の勉強会から離脱することを告げると木下君が快く送ってくれて、ウタちゃんからは要件を聞かれた。それに少し鼻を高くして答えると、予想通り田中君と西谷君がぎょっとした顔を向ける。
「いってきまー!」
「ちょッ!オイ待て広瀬!潔子さんからのご用は何だコラ!」
「ハイハイ!俺も着いてっていいか!?」
スマホだけ持って再び教室の外へ走る私の背中から慌てて声が掛かるも、二人のお目付け役である縁下君から「清水先輩が呼んでるのは広瀬さんだけだろ。お前らはここで勉強」と制止を掛けられ、悔しそうな悲鳴が上がるだけだった。ちょっと可哀想だったけどちょっと面白かったので、彼らにバレないように前を向いたまま小さくふきだし、楽しい気分で潔子さんの待つ職員室へ足を進めるのだった。
「失礼しまーす......あ、潔子さん!遅くなりました......!」
職員室に到着して、入室する声を掛けながら中をぐるりと見回せば、男バレの顧問である武田先生の机の所に潔子さんと谷地さんの姿が見えた。
「突然呼び出してごめんね」
「全然問題無いです!武田先生こんにちは~、谷地さんもこんにちは」
「はい、こんにちは」
「こッ、コンチャス!」
「んふふw......それで、一体何の会合です?男バレマネジメントグループとファンの集いですかね?」
気遣ってくれる潔子さんに全く不要なことを伝えてからご一緒の二人に挨拶すると、武田先生は穏やかな笑顔を返してくれて、一年生の谷地さんは何とも初々しい挨拶をしてくれた。その可愛さについ笑ってしまいながら、このメンツの中にお呼ばれされた理由を窺う。
「うん。あのね、コレを見て欲しくて」
「?」
私の質問に答えてくれたのは電話を寄越した潔子さんで、私の視線を武田先生の机の上へゆっくりと促す。何だろうと首を傾げながら、素直にそちらへ視線を滑らせると......橙色の美しい烏に、一瞬にして目を、心を、意識を奪われた。
「────」
鮮やかな橙色が、高く高く飛び上がる。その様はまるで一羽の烏が羽ばたく瞬間を捉えたようで、あまりの美しさに言葉を忘れて釘付けになってしまった。......これ......ヒナちゃん、だよね......?
「......仁花ちゃんが作ってくれたの。凄く上手で、格好良くて、感動したから季都ちゃんにも直ぐ見せたくなっちゃった」
「いや、あの、お、お母さんがこういう仕事やってまして、手伝ってもらって!入ったばかりの下っ端がいきなりこんなことしていいのかなとは思っているんですが!」
「えっ、谷地さん本入部してくれたの!?」
「はひっ!すみません!」
「やったー!ありがとぉー!」
「はわわッ」
思わず惚れ惚れと見入ってしまう私に潔子さんはそんな話を寄越してくれて、この素晴らしいポスターを制作した谷地さんはワタワタと焦りながら補足説明を述べた。その中で“入ったばかりの”という言葉が気になり、もしかしてと期待して尋ねれば嬉しいことに谷地さんは正式に烏野男バレのマネージャーになってくれたようだ。たまらず歓喜の声をあげながら谷地さんの両手をむんずと握れば、小さな彼女は目を白黒させながら可愛らしい声をあげた。
「コラコラお嬢さん方、ここは職員室ですよ」
「あ、す、すみません......」
嬉しさのあまりはしゃぐ私とそれに巻き込まれる谷地さん見て、苦笑しながら注意したのは男バレ顧問の武田先生だ。直ぐにしまったと思い、おずおずと頭を下げてから先程よりもずっと小声で谷地さんへ言葉を続ける。
「でもコレ、本当に凄いね!?なんか、烏野男バレの魅力がこの一枚にギュッと詰まってるというか!超格好良いし、センス良過ぎ!こんな最高のポスター思いつくなんて谷地さん天才!」
「いやいや!私はただの村人Bなんで......!」
「え?じゃあその村には天才しか居ないってこと?」
「へあッ??いえ、滅相もございません......!そ、そんな調子に乗った発言になるとは思わず......!」
「待って待ってなんで頭下げるの?あれ?褒め言葉のつもりだったんだけど?」
「......なんか、いいコンビだね。漫才見てるみたい」
「!?」
とんでもなく格好良いポスターを作ってくれた功労者を褒め称えるも、いまいち上手く伝わらなかったのか至極申し訳なさそうな顔をされてしまった。私何か変なこと言っちゃったかなと眉を下げていれば、そばにいる潔子さんが可笑しそうに小さくふきだしてそんな言葉を述べる。ま、漫才してるつもりは無いんだけど......でも、美女の麗しい微笑みが見れたからまぁ何でもいいかと思ってしまう私は、もしかしたら相当ミーハーなのかもしれない。コホンと咳払いをして気を取り直し、改めて格好良いポスターに向き直る。
「それで、このポスターを商店街中に配ればいいんですね」
「え?」
ヒナちゃんがスパイクを打つ瞬間を美しく捉えたそれを見ながら、そこに添えられてる文章......このポスターの本題であろう、烏野男バレの遠征資金の援助のお願いを見ながら確認をとる。
東京の合宿に参加することは同じクラスの西谷君含め男バレの二年生から聞いていた。それに行く為に何としてでも期末テストで赤点を回避し、補講を受けないようにと今頑張ってる訳だけど......どうやら問題はそれだけじゃないらしい。宮城から東京に行くには当然時間もお金も掛かる訳で、車か電車、新幹線での移動になる。「東京でバレーが出来る、やったー」というだけで終わりでは無いのだ。交通手段、交通費の調達、その他諸々の準備やスケジュールを組まなければならなくて......そしてそれを水面下で工面するのが、顧問の武田先生やマネージャーのお二人なのだろう。
「......いや、それは顧問の僕が行きますよ。寄付金のお願いですので」
「でも先生、今日職員会議でしょう?」
「はい。ですので、その後に行くつもりです」
「しかも今って期末試験直前ですよね?やる事多くて死にそうってウチの担任がぼやいてましたよ」
「............確かに大変ですが、その辺は考慮しているので大丈夫ですよ」
烏野男バレのファンとして、この事態に何か手伝いたいと思い声をあげたけど、武田先生は穏やかに笑いながらやんわりと難色を示す。口調は柔らかだけど、頑として譲らないと言わんばかりの雰囲気だ。流石あの烏養さんを口説き落とした人物である。
「先生、私が行きます。それで、仁花ちゃんはまだ一人で準備出来ないので、一緒に行かせてもらいます」
「いやいや、私が行きますって!潔子さん達部活あるでしょう?私が一番融通効きますし、帰宅部ですから!」
「でも、季都ちゃんはバイトがあるでしょう?......それにこれは、“私達”が解決しないといけない問題だから」
「............」
武田先生と私の話に潔子さんまでそんなことを言い出して、慌てて私の主張をすれば凛とした態度でそれを弾かれてしまった。眼鏡の奥の黒真珠のような美しい瞳に真っ直ぐ貫かれ、たまらず口を閉じてしまう。その目からは、潔子さんが“部外者”への遠慮や気遣いでは無く“烏野男バレのマネージャー”として私の申し出を断っていることがはっきりと伺えた。烏野男バレというチームを構成する上の、立場と責任の話をしているのもわかる。
────だけど。
「............春高予選、8月から始まるって聞きました」
「!」
「だから、部活の時間を1秒でも長く確保してほしいんです」
「............」
「......烏野のバレー、1秒でも長く見たいです。今度こそ、あの応援席で烏野が一番強いって、大きな声で言いたい」
「............季都ちゃん......」
「......だから、どうか効率を選んでください」
それでも尚食い下がる私の言葉に、潔子さんと武田先生は目を丸くした。谷地さんはおそらく、空気を読んで口を閉じてくれているようだ。先程までの騒がしさから一変し、しんと静まり返る空間に多少居心地の悪さを感じるが、ギュッと拳を強く握って自分の主張を続けた。
「私はバレーが出来ないから、滝さんや嶋田さんみたいに練習相手にはなれませんけど......商店街の伝手ならあります。バイクにも乗れます。私なら、このポスターを1時間で5km圏内に配りきることが出来ます」
「............」
「配った店舗はリストにして、先生と潔子さん達にお渡しします。ご挨拶や御礼等はスケジュールが整った時にでもして頂いて......とにかく今は、烏野が強くなることだけを何よりも優先してほしいんです。私に出来ることなら何でもします。バレー部じゃないけど、私も何か力になりたいんです」
「............」
「だから、お願いします。私に行かせてください」
帰宅部のくせに随分と勝手な申し出をしている自覚はあるものの、烏野のバレーの魅力を存分に知ってしまった私は、ここで退くなんて出来なかった。彼らが何か困ってるなら、私だって協力したい。手を貸してあげたい。烏野のバレーが、本当に好きなんだ。最後の最後までずっと見てたいし、全部勝ってほしい。伊達工にも、青葉城西にも、......絶対王者と云われる、あの白鳥沢にも。その為なら、本当に何だってする。私に出来ることなんてたかが知れてるけど、でも、このポスターを商店街中に配るなら、きっと私が一番適任だ。
「............本当に、良いチームですね」
「!」
頭を深く下げたまま男バレの顧問とマネージャー方の返事を待っていれば、最初に口を開いたのは武田先生だった。「頭を上げてください」と言われ、おずおずとそれに従うと眼鏡越しに先生と視線が重なる。思わず身構えてしまう私に、先生は眉を下げながらもふわりと柔らかに笑った。
「貴女達のような志の高い人達に支えて貰うからこそ......彼等はより一層、強くなれるんですね」
恋よりも、愛よりも、ずっと本気だから
(止まらないし、止められないんだ。)