Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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「これは......なかなか......」
烏養さんは烏野男バレの練習試合、そしてマダムはお友達さんと映画鑑賞。なので本日のバイト先は坂ノ下商店で、レジの椅子に腰掛けながら男バレマネージャーである三年生の潔子さんから頂いたお手製の部活勧誘の紙を見て、どんな言葉を添ればいいのか少し困っていた。
“烏野高校男子バレーボール部・部員&マネージャー募集!!”という手書きの文字は問題無いとして......その下に描かれている、何とも奇妙なイラストが気になって仕方がない。恐らく烏野のユニフォームを着た選手なんだろうが......腕が異様に長く、足が異様に短い。骨格が恐ろしい程にちぐはぐで、何なら顔面もだいぶおかしな事になってる。なんとも個性的なそれを見て、もしかしなくともあの潔子さんは、美術は少し苦手なのかもしれないとぼんやりと思った。否、これをコピーして使っているのであれば、もしや自覚はされて無いのかも。誰か教えて差し上げてとも思ってしまうが、あの潔子さんにそれを教えるなんてことが出来る人は多分とても少なそうだ。男バレメンバーなんか特にそうだろう。かと言って、私だってどうこう言える立場じゃないし、そもそもマネージャーの誘いも断ってしまったし......よし、この件は未来の潔子さんの恋人にでも託そう。勝手にそんなことを考えて、頂いたコピー紙を再びリュックの中に戻し、店頭に出た所でお店のドアがガラリと開いた。
「コンチワー!ここって食用のクエン酸とか置いてますー?」
聞き取りやすくはっきりとした声と共に店内に入ってきたのは、金髪のショートボブに抜群のスタイルを惜しみなく見せた魅力的な女の人だった。ばっちりと化粧を施したその顔は何処と無く見覚えのある気がしたが、どんなに記憶を探ってもなかなか出て来ない。
「あれ?オネーサン?聞こえてる?」
「っ、あ!すみません!いらっしゃいませ!えーと、食用のクエン酸ですね!ありますよ~」
謎の既視感からついぼんやりと見つめてしまい、相手が首を傾げたところでやっと我に返った。しまった、お客様を無言で見つめるなんて失礼だ。坂ノ下商店の印象を悪くしてしまったらどうしようと内心で猛省しつつ、表はにこにこと笑いながらご所望された商品を店の棚から取り出し、「こちらでよろしいでしょうか?」とそれを差し出す。
「うん、これこれ!頼まれ物なんだけど、うちの近くのコンビニで無くてさァ。そもそもクエン酸ってどこで売ってんの?ってなって、とりあえずここ来たんだけどあってよかった~」
「そうだったんですね。食用のクエン酸なら、スーパーとかにもありますよ。嶋田マートとか」
「あ、そっか、スーパーか。教えてくれてありがと~♡」
どうやらこの商品で問題無かったようで、お姉さんの話にちらりともう一つのバイト先の宣伝もしておけば、お姉さんはにこりと美しく笑った。その笑顔にうっかりときめいていると「ところで、オネーサン烏野高生?」と聞かれたので素直に頷く。
「アタシも烏野だったんだ~、今何年生?」
「二年です」
「お!うちの弟と一緒!知ってる?田中龍之介っていうんだけど」
「田中君!?知ってます!友達です!」
「え!マジで!龍の友達?あ、もしや彼女!?」
「友達です!......あの、ということは、田中君のお姉様......?」
「お姉様って!あはは!それウケる!w」
ここでよく知る男子の名前を出されて、友達だと伝えればなぜか彼女なのかと聞かれ、もう一度友達だと伝える。ああ、でも、そうだ。田中君も確かにそういうところがあるし、......なんていうか、雰囲気が本当にソックリだった。田中君のお姉様だと言われれば、田中君を知る人であればおそらく誰もが納得するんじゃないだろうか。先程感じた既視感は完全にソレだ。
「アタシは田中冴子、龍の姉ちゃん。オネーサンお名前は?」
「あ、広瀬季都と申します。田中君にはいつもお世話になっております」
「OK、キトちゃんね?つーか逆でしょ?龍がいつもお世話になってるんデショ?」
「い、いえいえ!そんなことは!バレー上手だし、明るくて面白いし、田中君にはいつも元気貰ってます!」
「!」
改めて挨拶をされて、お会計をしながらこちらもおたおたと返す。私の言葉に田中君のお姉さんはおかしそうにふきだしたが、烏野男バレと関わるようになってからは割と田中君にはお世話になっているところがあるのでそこはしっかり訂正すると、お姉さんは少し驚いたように目を丸くした。
「......ねえ、キトちゃん。突然だけど、今彼氏いる?」
「え?や、居ません......けど......」
「そう、よかった。じゃあ龍の彼女にならない?」
「へ?」
「キトちゃん可愛いし、仕事熱心だし、何より龍の格好良さをちゃんと分かってくれてる女の子ってなかなか居ないのよね~」
「え、ちょ、待ってください!た、確かに田中君はとても魅力的かと思いますが、私はその、今は別に恋人が欲しい訳では無いので......!」
田中君の話をした途端、何やら物凄くおかしな方向へ会話が流れてしまい、慌ててそれを断ち切るようにそんな言葉を早口で寄越すと、お姉さんは意外にも「そぉなの?ザンネーン」と実にあっさりと引き下がった。
「ンじゃ、そろそろ戻るわ。じゃあねキトちゃん、また来るネ♡」
「あ、ありがとうございました!お気を付けて!」
「えー、超いい子。気が向いたら是非お嫁に来て?」
去り際にパチンとウインクされ、見事それに撃ち抜かれていればダイナマイト張りの発言を寄越され、どう答えていいのかわからずピタリと動きを停めてしまう。そんな私にお姉さんは「あ、アタシのことは“冴子姉さん”って呼んでねー!」と店の外から大きな声で告げた後、風のようにあっという間に去っていってしまった。
「............これは......なかなか......」
一人店内に残った私は、まるで嵐にでも遭ったような心境で大きくため息を吐くことしか出来なかった。
▷▶︎▷
「こんばんはー!キト先輩居ますかー!?」
時計は進んで、気付けば烏野男バレが来るような時間になっていた。相変わらず元気のいい声で入店してきたのは一年生のヒナちゃんで、店の奥で在庫整理をしていた私は入口の方へ向かう。
「こんばんはヒナちゃん。いらっしゃいませ~」
坂ノ下商店の生成色のエプロンの裾を払いながら出迎えると、ヒナちゃんは店内の商品を見ることなく真っ直ぐこちらへ来る。どうやら今日は別に買い物をする訳では無いようだ。
「お疲れ様、今日は見に行けなくて残念でした......勝った?」
「ハイ!全部勝ちました!」
「え!全部!すごい!やったー!うわ、めっちゃ見たかった~!」
烏養さんから今日が練習試合だったことを聞いていたので、気になっていた結果を聞けばまさかの全勝報告が返ってきた。それに驚きつつも烏野の勝利が嬉しくて、喜びと同時に烏野の勇姿を見られなかったことを少し惜しむと、ヒナちゃんはふらりと視線を落とした。
「......でも、最後ら辺扇西がブロック変えてきて、そしたらちょっとスパイク打ち切れなくて......影山との速攻は、やっぱり無敵じゃないって思いました」
「!」
拳を握り、己の感情を抑えるような様子でポツリと話すヒナちゃんの言葉に、たまらず息を止める。......未だ頭の中にしっかり残る、あのインハイ予選。及川さん率いる青葉城西高校に、最後の最後でドシャットを食らった瞬間を思い出し、途端に胸がざわついた。
「............」
影山君とヒナちゃんの超速攻は、無敵じゃない。それはつまり、速さだけでは勝てないということで......バレーボール選手として、少し心許無い身体付きのヒナちゃんにとってはきっと、この事実は私が思っている以上に重く、しんどいはずだ。高さでの勝負が難しい分、速さという武器で戦っていたというのに......上に行けば行くほど、相手が強ければ強い程、その武器が使えなくなるなんて。そんなの、一体どうすればいいの。どう戦えば、元から高さのある相手に勝てるの。何か打つ手は無いかと必死に考えるも、素人の頭では悲しい程全く出て来ない。
────ああ、だけど。
「............私、ヒナちゃんのバレー、すごくワクワクして好きだよ」
「!」
聳え立つ高い壁を前に不貞腐れることもなく、諦める訳でも無く、ただ静かに己の生存戦略を模索する彼に向かって、率直な気持ちをそのまま告げた。
「面白くて、めっちゃ楽しくてね?......だから、ずっと観てたいし、ずっと応援したい。最後の最後まで、ずっとコートに居てほしい」
「............」
「......ヒナちゃんが......烏野が、一番強いって、今度こそあの体育館で言いたい」
「............!」
だから、負けないで。
私は技術面のサポートなんててんで出来ないけど、烏野男バレの1ファンとしてあなたのバレーが大好きですということは伝えられる。どうか、私の気持ちが少しでもヒナちゃんに寄り添うことが出来たら。図々しくもそんなことを思いながら、ほんの少しだけ私より背の高い橙色の彼の瞳を見つめていると......ひとつ瞬きをしたそれは、ほのかに煌めいた。
「......ぜ、絶対!言わせてみせまひゅ!」
「そこ噛むんだw大丈夫?w」
まるでズレていたピントが合ったかのように勢いを取り戻したヒナちゃんだったが、しっかりオチをつけてくれたのでたまらずふきだしてしまうと、「オース!」という挨拶が聞こえ反射的にそちらへ顔を向けた。
「た、田中君!待ってた!すごく待ってた!」
「お、オイオイやめろ俺には潔子さんという心に決めた人が」
「そうだよね?そうだよね!よかった!じゃあそれちゃんとお姉さんに話しておいてね!」
「は?何でここで姉貴が出てくんだ?」
入店した田中君にバタバタと駆け寄れば心底戸惑うような声をあげられ、それにほっとしながら少し声を潜めて田中君のお姉さんが来店した話をする。その際に彼女云々の話をされたことを伝えれば、田中君はぎょっとした顔を寄越した。
「はァ!?なん、お、俺はそんな気ねぇぞ!友達だ友達!」
「いやそうなんだけど!私もそう言ったけど!ヤダもう何この変な空気!換気しよう換気!!」
お互いそんな気は全く無いのに何だか変に恥ずかしくて、そして田中君と一緒にお店に来た西谷君や縁下君、先程まで話してたヒナちゃんのなんだなんだという視線にも耐え切れず、お店のドアを勢いよく開け放つ。
「あ、季都ちゃん。こんばんは」
「あっ、こ、こんばんは!」
そこには丁度マネージャーの潔子さんが居らっしゃったようで、眼鏡の奥の美しい瞳を丸くしながらも挨拶をしてくれた。それにこちらもあたふたと返せば、田中君が勢いよく隣りに現れる。
「き、潔子さん!違うんです!広瀬とは本当に何も無くて!」
「ちょ、田中君!?落ち着いて!?」
「田中うるさい。季都ちゃんに迷惑掛けない。あと仁花ちゃんが怖がるから声落として」
青い顔をして自身の潔白を表明する田中君に、今度は私がぎょっとしながら慌てて彼の裾をぐいぐいと引っ張る。最早語弊しかないその言葉に眉を下げて恥ずかしく思っていれば、頭の良い潔子さんは少しも動揺することなく田中君を窘め、背後を護るように少し後ろに下がった。流石三年生と感動しつつ、聞き覚えの無い名前に思わずきょとんと目を丸くすると、ここでようやく潔子さんの後ろに背の低い女の子が居ることに気が付く。色素の薄い髪に星のヘアゴム、小さくて細い身体には背負ってるリュックがやたら大きく見えた。
「季都ちゃん、紹介するね。一年生の谷地仁花ちゃん。まだ仮入部だけど、今日の練習試合色々と手伝って貰ったの」
「!」
私がその子を見ていたことに気付いた潔子さんが、気を利かせて紹介してくれる。その話に「あ、例の!」と思ってしまえば、琥珀色の大きな瞳がおずおずとこちらに向いた。あら、なんて可愛い。
「いッ、1年5組の谷地仁花です!初めまして!」
「初めまして、2年3組の広瀬季都です。ここでバイトしてます。男バレのファンです」
「ふぁ、ファン!?もしや、ファンクラブとかあるのですか......!?」
「え?ないよ?私が勝手に追っかけしてるだけ」
小さな身体に大きな瞳、まるで小動物のような可愛らしさを感じるその子、谷地さんにキュンとしながらニコニコしていると、潔子さんは楽しそうにほんのりと笑った。
「季都ちゃんは、公式戦の応援に来てくれたり、今日みたいに烏養コーチの時間を作ってくれる裏方サポーターみたいな人かな」
「う、裏方サポーター......!」
「潔子さん、それ格好良く言い過ぎです。私はただの観客なんで......」
私の紹介に何とも不相応な説明をされ、目を輝かせる谷地さんに眉を下げつつそんな格好良い感じのことは全然してないよと誤解を解いていれば、潔子さんに呼ばれてそちらに顔を向けた。
「......観客なんて言わないで。私は季都ちゃんのこと、一緒に戦う仲間だと思ってるよ」
「!」
黒真珠のような美しい瞳に真っ直ぐ射抜かれて、たまらずハッと口を噤む。今のはただ、烏野男バレのファンではあるけどそんな大逸れた立ち位置じゃないってことを谷地さんに伝えたかったのだけど、多分言い方が少し悪かった。潔子さんの真っ直ぐな言葉に思わず胸がじんと熱くなると同時に、私の拙い発言で不要に気を遣わせてしまったのなら申し訳ないと思い、慌てて謝ろうとすると潔子さんは恭しく眼鏡を掛け直した。
「......それに、季都ちゃんが私のことフッたんじゃない」
「へぁ!?」
「潔子さんそれ語弊が!谷地さん違うからね!真に受けないでね!?」
先程の真っ直ぐな言葉とは一変、突然素っ頓狂な言い回しをされて思わず声が大きくなる。た、確かにマネージャーの件を断ってしまったのは事実だけど、そんなおかしな言い方をしなくてもいいのでは!?おたおたと動揺する私と谷地さんを見て、元凶である美女は誰もが見惚れる程楽しそうに笑ってみせるのだった。
綺麗なお姉さんは好きですか?
(可愛いあの子は、彼女のお気に入り。)