Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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愛用の財布を握り締めながら小走りしてきた到着点は、外にある自販機だ。
噂をすれば影がさすとはよく言うけれど、まさか本当に西谷君が現れるなんて一体どんなドッキリなのか。
いやでもウタちゃんが好き勝手に言っていただけで、考えてみれば私が逃げることは全く無いのだけれど、あの場にそのまま居たら絶対気まずい空気になっていたと思う。
きっと今頃なんだアイツと思われているだろうが、変に気まずくなるよりはずっとマシだ。
私の中で西谷君は今後ともぜひ仲良くしてほしい友達であり、それが妙ちきりんな話でこの関係を寸断させられたくない。
取り敢えずウタちゃんには余計なことを言わないように釘をさしておかなければと思う反面、今まさに余計なことを西谷君に言っているのではないかと思い直し軽くめまいを覚えた。
これで西谷君が私に対して急に素っ気なくなったら、ウタちゃんを一生恨んでやる。
そんな怨念を込めて自販機のボタンを押す。出てきたものは何となくで選んだ乳酸菌飲料の「ぐんぐんヨーグル」だ。
嶋田マートで買えばもう少し安いよなぁと小さいことを考えつつ、紙パックを自販機から取り出しおもむろに振り返ると、いつの間にか後ろに背の高い男子生徒が居て少しだけ驚いた。
サラサラとした黒髪に切れ長の瞳、あくなく整った顔にすらりと長い手足、加えて高身長のイケメンがいきなり背後に現れたら誰でも少しは慄くと思う。
見知らぬ顔のため先輩なのか後輩なのか、はたまた同学年なのかもわからないが、取り敢えず彼がこの自販機を使いたいことは明らかだったのでさっさとこの場を譲った。
「......ゲ、売り切れ......」
教室へ戻ろうと少し足を進めた矢先、後ろから聞こえてきた声に思わず立ち止まる。
私が買う時に何か売り切れの物ってあったかな...?
何となく気になり、彼にバレないようにそろりと振り返りながら自販機を覗く。
ボタンに売切の赤いランプが付いていたのは、私が今しがた買った「ぐんぐんヨーグル」だった。
どうやら私が最後の一つを貰ってしまったらしい。
「.............」
黒髪の彼は少しだけ顔を顰めながら、自販機から動かない。
一方、私の手元には何の気なしに買ってしまった「ぐんぐんヨーグル」がある。
「.............」
少しだけどうしようかなと悩み、思い切って黒髪の彼に「あの、」と声を掛けてみた。
「よかったらこれ、どうぞ」
「え?」
突然知らない人から声を掛けられ、黒髪の彼は当然驚いた顔を向ける。
そんな彼に先程買った「ぐんぐんヨーグル」を差し出せば、一瞬顔を明るくした。
しかしすぐに顔を引きしめ、「や、悪いんで大丈夫ッス」と律儀に断ってくる。
初見で少し怖い印象があったが、意外と感情が表に出るタイプらしい。今も彼の視線は私の手元にある「ぐんぐんヨーグル」のままだ。
「全然いいですよ、私は別にこれじゃなくても良かったので」
「いや、あの、でも......」
「まぁまぁ、どうぞどうぞ」
まごつく彼をやんわりと言いくるめ、半ば無理やり紙パックを大きい手に渡した。
彼が受け取ったのを確認してから、今度こそ教室に戻ろうと踵を返せば、今度は向こうから「あの!」と声をかけられる。
「今何か別の買うんで、俺のと交換にしませんか?」
黒髪の彼から律儀にそんな提案をされ、結局また立ち止まることになった。
思い返せば、ウタちゃんと西谷君から逃げるためにここへ来ただけであり、私自身は別にジュースを買っても買わなくても何も支障ない。
彼は交換しようと言ってくれてるけど、そもそも私が勝手に渡しただけなので気をつかってもらう必要も無いだろう。お金だって有限だ。
「大丈夫です、あげちゃいます」
「え」
私の返答が予想外だったのか、黒髪の彼は切れ長の目を丸くした。
驚いた顔は案外幼く見えたので、もしかしたら一年生なのかもしれない。
そんなどうでもいいことを考えつつ、あまりにストレートに感情を出してくるので思わず笑ってしまう。
クールそうに見えるのに、なんか、ギャップがすごい。
これは相当モテそうだなと勝手に憶測しながら、いつまでもここに居たら彼も気まずいだろうと思い、楽しい気分のまま黙ってこの場を後にした。
今度は彼も特に声を掛けてこなかったので、私の足はそのまま教室へと向かうのだった。
......どうかウタちゃんが西谷君に変なことを話してませんように。
王様と呼ばれた少年
(......やべ、お礼言い忘れた......)