Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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ウザがられつつもウタちゃんとトイレに行き、教室に戻ると私の前の席である西谷君の姿が目に入った。
一つ息を吸って、隣に居るウタちゃんに「西谷君とこ行ってくる」と断りを入れてから少し早足で自分の席へ戻る。
先程の話を聞いて、罪悪感みたいなものを勝手に感じながらも、西谷君の背中に声を掛けた。
「西谷君、おはよ!」
「!」
私の声に相手はピクリと肩を揺らし、ぐるんと勢いよくこちらに振り向いた。
猫みたいな大きな目が私に向けられ、反射的に少しぎくりとしてしまえば、西谷君はパッと顔を明るくする。
「おす!具合もう大丈夫か?」
「......あー......あの、ね?ごめん、実は......」
開口一番に私の体調を心配してくれる彼の優しさに罪悪感がグサグサと心臓を刺し、本当に申し訳なかったなと改めて反省しながら声をひそめて西谷君に昨日のこと......体調は問題無くて、本当は学校サボって仙台市体育館に行っていたことを正直に告白した。
一通り私の話を聞き終わると、相手はその大きな目をきょとんと丸くさせる。
「だ、だから、その......心配掛けてごめんなさい......西谷君の連絡先知ってるんだし、最初から正直に話しちゃえばよかった......」
「............」
「......配慮が、足りませんでした......本当に、ごめんなさい......」
私の仮病を本気で心配していたであろう心優しい友人に頭を下げて謝罪すると、少し間を空けた後でふいにガシリと両肩を掴まれた。
突然のことにびっくりしてたまらず顔を上げると、思いのほか直ぐ近くに西谷君の顔があり、とっさに下がろうとしたけど呆気なく力負けする。
「なんだ、そっか!何もねぇならよかった!」
「............!」
「つーか広瀬お前、最高かよ!なぁ、試合どんなだった?白鳥沢のリベロ、どんな奴だった?すげぇレシーブとかあったか?あー、俺も見たかった!」
途端、目の前に居る西谷君がニカッと歯を見せて明るく笑い、あ然とする私の肩をバシバシと叩きながらそんな言葉を続けた。
ニコニコと楽しそうな西谷君に「まあ、座れよ!」と促されるまま着席すれば、相手も席に着いてこちらへ身体の向きを固定する。
「......と、そうだ。その前に、俺も広瀬に話したいことあって」
「え?」
私から昨日の決勝戦の話を聞こうと、大きな目をきらきらと輝かせていた西谷君だったが、ここでふと顔色を変えたので思わず聞き返してしまう。
少し俯いた西谷君にどうしたのかと思っていれば、彼はその綺麗な瞳をゆっくりとこちらへ向けた。
先程までの明るい雰囲気とは一変し、少し憂いを見せる相手の顔にたまらず心臓がどきりと鳴ると、西谷君は静かに話の先を続けた。
「試合、来てくれてありがとな。すげぇ嬉しかった。......なのに、泣かしてごめん」
「......え......あ、や、それ違う......!その、私が勝手に......だから、西谷君謝る必要ないし......!」
「......おう。でも、俺が広瀬に来てくれって言ったしさ。勝つつもりでいたけど、結果的に泣かせちまったし......だから、ちゃんとケジメ付けときてぇなって」
「......け、けじめ......?」
急に変わった彼の様子に戸惑っておたおたとしていれば、あまり聞き慣れない言葉を返され小さく首を傾げる。
けじめをつける、って......一体何するつもりなのと若干不安に感じていると、西谷君は少し居住まいを正してから、真っ直ぐに私を見つめた。
まるでレーザービームのようなその鋭い視線に、どきりと心臓が騒ぐ。
「......もう一回、チャンスくれ。全部勝って春高行くから」
「............!」
「今度は絶対泣かせねぇ。だから広瀬、また応援来てくれよ」
「............」
前後の席に座り、ただひたすらに真っ直ぐな言葉と視線を寄越されて、たまらず胸が熱くなる。
それと同時に一昨日の試合のことが鮮明に思い出されて、先程ウタちゃんの優しさに泣いたこともあってか、目元がじわりと熱を持った。
だけどここで情けなく泣くのは違う気がして、瞬きで何とか堪える。
「......そん、なの......絶対行くに、決まってんじゃん......っ」
「!」
西谷君は、まるで私に選択肢や主導権があるように言うけど......私にとっては、見に行かせてもらってる立場だと思ってる。
正直、烏野にとっては一人二人の応援なんて大してプラスにならないと思う。
特に烏野は選手層も薄く、青城や伊達工みたいな応援団は現時点で作れない。
大きな応援団も作れない、アドバイスなんかも出来ない私が烏野にとってプラス要素になることは、もしかしたらずっと無いのかもしれないけど...それでも、私は烏野のバレーを見たい。見せてもらいたい。
烏野のバレーが面白いと、とても好きだと知ってしまったから。
「......青城にも、白鳥沢にも、全部勝ってほしい...烏野が、一番がいい......っ」
「............」
「......烏野が、一番強いって、言いたい......っ!」
「............」
この言葉を実現させることがいかに難しいことかなんて、選手じゃなくてもわかる。
及川さん率いる青城の強さも、牛島さん率いる白鳥沢の強さも、コートの外からとくと見てきたのだ。
......だけど、それでも、私が好きなのはどうしたって烏野で、勝ってほしいのは烏野だけで、烏野だって強いってことを広く周知させたい。
飛べない烏、なんて、もう誰も話題に出来ないくらいに。
“......飛べない烏なんて、もう二度と誰にも呼ばせねぇよ。”
瞬間、いつかの坂ノ下商店で聞いた烏養さんの言葉を、様子を思い出した。
......あぁ、そうか。だからあの時、烏養さんはあんなに怒って、憤ってたんだ。
きっと、今の私の気持ちと同じだったから。
「おう!任せろ!」
「!」
今更ながらそんなことを感じて、ぼう然としてる私に西谷君の力強い声が響く。
それにハッとして、無意識に俯いていた顔を上げると、視線が重なると同時に太陽みたいな笑顔を向けられた。
「次こそ東京のパンケーキ、食わしてやるからな!」
「!」
明るく笑う西谷君の言葉は、いつかの日に私が西谷君と田中君に言ったものだ。
確か、ゴールデンウィークに東京の音駒と練習試合をすることを聞いて、烏野が東京に行くのかと勘違いした私が、勝手に落胆しながら零した一言を、どうやら西谷君はしっかり覚えていたらしい。
そのことに少し驚いて、きょとんと目を丸くしてしまったものの...東京のパンケーキは本当に食べたいし、烏野が全部勝って東京で行われる春高にも行ってほしいから、自然と笑いが零れた。
「......言ったな?私、絶対忘れないからね?」
「おう。男に二言はねぇよ」
「ふふふ......ん?そういえば、春高って何月開幕?」
「やるのは来年の1月だけど、予選は今年の8月から」
「え、じゃあもう直ぐじゃん......あ......ちな、みに、......その、さ、三年生、は......?」
すっかり楽しくなってしまった途端、ふと昨日伊達工の二口君と話したことを思い出し、春高に向けての烏野男バレに先輩方は在籍するのかが気になった。
......4人全員、昨日で引退したとか言われたら、どうしよう。
「居るぞ!旭さんも大地さんもスガさんも、もちろん潔子さんもな!」
「っ、ほ、本当に!?わ、わ......やった!やったぁ!」
私の不安とは裏腹に、西谷君は本当に嬉しそうに笑って元気よく答えてくれた。
先輩方が共に春高を目指してくれることを知り、たまらずガタリと椅子から立ち上がる。
よかった。よかった!また今のメンバーの烏野のバレーが見られる!
誰一人欠けることなく、これからきっと進化していくであろう烏野を見ることが出来るのが、心底嬉しかった。
テンションが上がったまま西谷君とずっと話してしまい、朝のホームルームが始まるまで烏野男バレのことや昨日見た決勝戦の感想を余すことなく西谷君に伝えるのだった。
▷▶︎▷
一日の授業が終わり、本日のバイト先である坂ノ下商店へ向かう。
お店の横に自転車を停めて、「おはようございまーす」と出勤の挨拶をしながら店内へ入れば、店番をしていた烏養さんが手元のタブレットからこちらへゆるりと視線を寄越した。
「おー......もうそんな時間か」
「直ぐ着替えて、交代しますね」
制服からバイト着に着替える為に店と烏養さん宅の間のスペースに入ろうとしたところで、ふと烏養さんの手にあるタブレットが目に入った。
その画面にバレーボールの映像が映っていたからだ。
「......あ、昨日の決勝......」
「あ?......お前、これだけでよく分かったな......まさか、学校サボって見に行ったとかじゃねぇだろうな?」
「......あ、私、着替えてきますね」
「おいコラ露骨に話逸らすんじゃねぇ」
「ぐえっ」
特徴的な紫色とミントグリーンのユニフォームが見えて、反射的に声をもらしてしまえば何かと鋭い烏養さんに疑惑をかけられ、逃げようとしたら首根っこを掴まれた。
「......俺が言えた義理ねぇが、学生の本分は勉強だろ。キトがバレーにそんな興味持ってくれたのは嬉しいけどよ......優先順位は間違えんな」
「......はい。だから、見に行きました」
「あ?」
烏養さんの言葉に、少し考えてから返答すると、予想通り烏養さんはその強面の顔を更に顰める。
そこらのヤンキーも顔負けな迫力満点なその顔をゆっくりと見返しながら、一つ深呼吸して言葉を返した。
「勉強は、家でやれば取り返せます。でも、インハイ予選の決勝は昨日しか見られません」
「............」
「......私は、保存がきかない今しか見られないものとか、今しか得られないものを優先したいです」
「............」
私の返答に、烏養さんは何処と無く難しい顔をしたまま、否定も肯定もせずに私をじっと見つめる。
学生の立場で一丁前に反論すんじゃねぇと頭ごなしに怒られるかなと少し心配していれば......烏養さんは大きくため息を吐きながら、ゆらりと私の前へ立ち塞がる。
「......お前は......本当によォ......」
「............」
「......可愛くねぇな......」
「な......ぅわっ!?ちょ、髪!ボサボサになる!」
ぼそりと呟かれた悪口に、今それ関係無くない?と文句を返そうとすれば、今度はその大きな手で頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
今日は髪を下ろしていたから、乱暴に掻き混ぜられればあっという間に髪型が乱れた。
軽い悲鳴をあげて慌てて烏養さんから逃げると、相手は先程の苦い表情から一変、ニヤニヤと愉しそうに笑いながら坂ノ下商店のエプロンを脱ぎ始める。
「......で、どうだった?インハイ予選決勝、宮城代表決定戦は」
「......当たり前ですが、両校とても強かったです。でも、何となく、強さの種類が違うように感じました」
「ほう......どんな?」
「......白鳥沢は、牛島さんのスパイクが飛び抜けて凄くて......でも、他の選手の技術も高くて、......どちらかと言うと個人技での勝負が多いように見えたんですけど」
「おう」
「それに比べて、青城は......こう、システム的な強さと言うか......個人技よりも、及川さんを要とした戦略や戦術での勝負が多かったように思います」
髪をぐしゃぐしゃにされたことを怒ろうと思ったのに、思いのほか喋りたくなる話題を寄越されたものだから、面白くないとは思いながらも結局流されてしまった。
昨日見た決勝戦のことを思い出しながら烏養さんに感想を述べれば、烏養さんはエプロンを簡単に畳みながら何度か頷いた。
「......キトさ、その二つだったら、うちはどっちだと思う?」
「......うーん......そう、ですね......どちらかと言えば、青城寄り?ですか、ね......?」
「理由は?」
「......凄く背が高いとか、スパイクの威力がおかしいとか、そういうのが、......無い、から?ヒナちゃんと影山君の規格外の変人速攻とかは確かにあるけど......相手の意表をついてなんぼのものだと思うし、きっちりセットされた状態で真っ向勝負するには、......少し、弱い気がします......」
「......まぁ、実際青城にはドシャット食らってるしな」
「............」
「俺も、どちらかと言えばそうだと思う。個人技が無ぇ訳じゃねぇけど、高さやパワーを考えるとそこにもうひと工夫しねぇと、上には通用しねぇ」
「............」
「だから......タイプが似てる青城とは知恵比べ、違う白鳥沢とは根比べになるだろうな......」
青城と白鳥沢、烏野の選手陣やプレースタイルを考えながら、あくまで私の率直な感想を伝えると、烏養さんは片手で己の顎のラインをなぞりつつそんな見解を述べた。
知恵比べと根比べ。その言葉で思い出すのは、及川さんの見事なまでの緻密なセットアップと、牛島さんの目を見張る程の強烈なスパイクだ。
私みたいな素人が見ても最強なのではと感じてしまう彼らのバレーに挑むのは、きっと容易いことじゃない。体力的にも、技術的にも、精神的にも、きっと相当な覚悟がいるんだろう。
......だけど、
「......私、烏野が一番がいいです」
「............」
一つ瞬きをして、烏養さんとしっかり視線を重ねながら告げた私の願いに、烏養さんは若干目を丸くしてから、思わずと言ったように小さくふきだした。
「......そうなるには、とにかく練習あるのみだな」
そう言って、烏養さんは畳んだエプロンをこちらへ渡し、烏野男バレが待つ体育館へ足を向ける。
その背中を見送ってから、だったら私は烏野のコーチである烏養さんの留守を守らなければと改めて気合いを入れて、本日の業務に取り組むのだった。
リブートした、その先へ
(さぁ、世界を再起動しよう)