Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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目の前の光景に、たまらず目を丸くしたまま固まってしまった。
だって、まさか、インターハイ予選の優勝校、宮城で一番強い高校バレーのチームの主将に声を掛けられるなんて、......いや、そんなことってある?
「.............」
「.............」
壁に貼ってあるトーナメント表を背に、振り向いた状態でその人......牛島さんとぼんやりと対峙する。
......背が、高いなぁ......あと、肩幅も広い、というか、全体的にどっしりとしていて、なんか、同じ高校生に見えない。
筋肉質であり、引き締まった身体に凛々しくも端正な顔が乗っかっていて、青葉城西の及川さんとはまた別の格好良さがある人だなと思った。
「.......うちに何か用か?」
「!」
視線を重ねたまま、何も言わない私に痺れを切らしたのか、牛島さんは無表情のままそんな言葉を寄越してきた。
途端に意識がシャンとする。トーナメント表の白鳥沢学園という文字を指でなぞり、その名を口にしていた人が居たら、確かに気になるだろう。
多分大半の人は私を「何してんだこいつ」と訝しげに見つつ通り過ぎるのだろうが、どうやら白鳥沢の主将はきちんと確認を取りに行くタイプらしい。
「.......あ......っ......す、すみません、何でもな......」
真後ろというよりかは、少し離れた所に居る牛島さんに慌てて特に理由が無いことを伝えようとしたものの、......よく考えれば、これは千載一遇のチャンスなのではと私のちゃっかり者の思考がふらりと顔を出した。
宮城県でバレーが一番強い高校、白鳥沢学園の主将である牛島さんと1対1で話す機会なんて、この先もう一度あるとは到底思えない。
先程の試合に気になったことは沢山あるけど......ひとつでもいいから、この人に聞いてみたい。
好奇心は猫をも殺すとか、口は災いの元とか言うけど......でも、話すチャンスが今しか無いなら、私は直接この人に聞いてみたいのだ。
「っ、あの!......されて嫌なブロックって、ありますか?」
「.............」
思考回路を高速で回し、気になったことをそのまま質問してしまうと、前に居る牛島さんは特に何の反応も見せずに厳かにこちらを見ていた。
表情からなのか、立派な身体付きからなのか、彼の纏う雰囲気には何となく圧力みたいなものを感じてしまい、無言の時間が過ぎる毎に冷や汗がだらだらと噴き出してくる。
......い、いきなり、自分の名前も名乗らずバレーのことを聞くのは、失礼だったかな......。
「無い。」
「!」
まるで銅像か何かのように動かなかった相手が、はっきりとした声音で返答した。
反応を返してくれたことと、その内容にぎくりとして、思わず肩が跳ねてしまう。
おずおずと牛島さんを見上げていれば、強過ぎる程の視線を返された。
「どんなブロックが来ても、俺は打ち切る」
「.............」
こちらを貫くような強い視線と、決して揺るがない力強いその言葉に、たまらず息を飲んだ。
......牛島さんのその言葉を、きちんと実行するのは本当に難しいことだと思う。
だけど、この人なら......宮城で一番強いバレーをする牛島さんなら、本当にやってのけてしまいそうだと思わずにはいられなかった。
「.......そう、ですか......」
「.............」
「.......わかりました」
「.............」
自然とため息が漏れて、視線を下げる。
そのままゆるりと目を閉じると、先程見た強烈なスパイクが否が応でも脳裏に浮かんだ。
最大限の火力を用いた大砲のようなそれは、防ぎようが無くて、最早無敵に近い攻撃なのかもしれない。
.......だけど。
「.......じゃあ、考えます」
「.............」
ゆっくりと目を開けて、再度牛島さんを見上げる。
私の言葉に、牛島さんはその凛々しい眉をぴくりと僅かに動かした。
......烏野が伊達工や青葉城西と戦って、例え強い相手を前にしても、思考を放棄するのは絶対に駄目だということを学んだ。
力勝負や真っ向勝負で勝てないのなら、攻撃の角度や緩急、タイミングを変えていかないといけないし、反対にどうやって向こうの攻撃を効率的に防ぐかというのも、よりしっかり考えないといけない。
ああ、強い。もう駄目だと考えることをやめてしまったら、それこそ試合を放棄してしまうようなものだろう。
例え私が部外者で、烏野を応援するだけの立場であっても、第一線で戦ってる選手達を差し置いて勝手に諦めることは絶対に許されない。自分が、許さない。
「.............」
「.............」
「あ、若利クーン!鍛治君が呼んでたよぉ~」
「!」
牛島さんと無言で視線を合わせてたのはほんの数秒で、少し張り詰めた空気を解きほぐすような、聞き慣れない明るい声がこの場に響いた。
おそらく、白鳥沢の人が牛島さんを迎えに来たのだろう。
牛島さんは声の聞こえた方に振り向いていたが、今の流れで他の白鳥沢の人にはあまり会いたくなかったので、早口で「失礼します」と告げて相手の反応も待たずに出口へ走った。
しっぽを巻いて逃げるような行動を取ってしまったが、牛島さんは特に驚くこともなく、私を引き止める様子もなかったので、そのまま走って仙台市体育館を後にしたのだった。
「......もしかして俺、邪魔しちゃった?若利君、告られてた感じ?」
今しがた、見知らぬ女子が走り去った出入り口方面を見ながら、白鳥沢学園の三年の天童が聞くと、同学年の牛島は「いや......」と否定の意を述べた。
「そうなの?じゃあ応援トカ?」
「......応援でも、無かったな」
「へ~ぇ?じゃあ、何話してたの?」
「.............」
天童の言葉に、牛島は出入り口に視線を向けたままひとつ息を吐いた。
「......されて嫌なブロックはあるかと聞かれた」
「へ」
「.............」
「......それで若利君、何て答えたの?」
「無い。」
「さっすがぁ~!」
如何なる時もブレない己のエースの返答に、天童は楽しそうに笑いながら牛島を賞賛する。
ここで「無い」と言い切ってしまうことに横暴さも感じるが、自分の強さに自信を持ち、だけど決して過信や慢心はしない牛島だからこそ、天童には響くものがあった。
「つーか、ウチにそんな愚問寄越すなって話だよなァ......ま、若利君に直撃した度胸は評価するけどサ」
「.......だが、考えると言っていた」
「え?」
「俺が嫌だと思うようなブロックを、考えるということだろう」
「.............」
予想外の話の展開に思わず目を丸くして牛島を見るも、相手はいまだに彼女が消えた出入り口を見たままだ。
......その目はまるで、狩り損ねた小動物の行方を探る白鷲のような、静かな獰猛さがあった。
「.......まぁ、考えたところでどうにもならないこともあるけどネ......」
「.............」
「望み薄だと思うけど、その子の名前とか聞いた?どこの学校とか、そもそも高校生なのかとか」
「聞いてない」
「ダヨネ~......じゃあ、顔は覚えてる?俺、後ろ姿チラッとしか見えなかったからさァ」
「.............」
バレー関連とはいえ、女子のことを気にする牛島という構図を初めて見た天童は、元々好奇心旺盛な性格なこともあり、逃げた獲物に俄然興味が湧いていた。
その為、少しでも何か情報収集が出来ないかと牛島に彼女の特徴を聞いてみた訳だが......
「.......俺より、背が低かった」
「ウン、全くしぼりきれない情報アリガトねぇ~」
言葉通り、バレーにしか関心のないこの牛島若利という男が、一概の女子の顔を覚えてる筈もなく、この件はめでたく迷宮入りとなるのだった。
▷▶︎▷
「ウタちゃんおはよ!昨日休んでごめん!今日ちょっと語っていい?」
「おはよ。頭悪いのは治ったの?」
「え、何でいきなり悪口?もしかして、怒ってる......?」
インハイ予選の決勝戦から翌日。朝のホームルームの前にウタちゃんの席へ行き、朝の挨拶と昨日のことを詫びると、少し釣れない態度を取られて思わず眉を下げた。
戸惑う私を前にして、ウタちゃんは手元のスマホを操作した後、その画面を私に見せる。
そこにはウタちゃんと私のメッセージのやり取りと......【頭が悪いので今日休むね】という非常にトンチキな文面が見えた。
「ハイ打ち間違え!頭が痛いと体調が悪いを混ぜました!」
「どうせ仮病でしょ?」
「ン゛ッ......ご、ごめんなさい......」
「.............」
自分のアホさに羞恥を覚えながら言い訳がましい言葉を返すと、正論をピシャリと叩き付けられ、たまらず謝罪をもらす。
いつもならここで普段通りの態度を取ってくれるのだが......今日のウタちゃんは、少し様子が違った。
どこか呆れたような目を向けられ、心臓がギクリとする。
「......それ、西谷達に言いな?昨日はキトのこと、随分気にしてたよ」
「え......」
「......あんたが休むのは勝手だけど、誰かに心配掛けるのは正直どうかと思う」
「.............」
私の知らない情報を口にしたウタちゃんにギョッとしていると、さっさとスマホに視線を移されそのまま口を閉ざされてしまった。
素っ気ないウタちゃんの様子にズキリとした胸の痛みを感じつつ......昨日の行動が迂闊だったことを思い知らされた。
......烏野が負けた時、私は応援席で人目もはばからず大泣きしていた。
それは勿論西谷君達もコートから見ていた訳で...そんな私が昨日いきなり欠席したら、当然びっくりするだろうし、困惑もするだろう。
もしかしたら、自分達のせいなのではと感じさせてしまうことだってある。
......いや、きっとそうだったから、ウタちゃんは怒ってるんだ。
「.......ごめん。考え無し、だった......」
「.............」
「......西谷君達に、謝る。男バレへの配慮が足りませんでした」
ウタちゃんに話しながら、自分の“頭の悪さ”や“気の回らなさ”に心底がっかりする。
楽しそうと思ったら、一直線。それが誰かの迷惑になっても、誰かに心配を掛けても、気付かない。
「.......キトは頭が悪いというより、単細胞だよね。一旦興味持つと、周り見ないで突っ走るタイプ。知能が三歳児レベル」
「.......おっしゃる通りです......」
自分の行いを反省中、まるでトドメを刺すような情け容赦のない言葉に、一言一句も反論出来ずに縮こまる。
この悪癖は今後きちんと直していかないと、人間として本当に嫌な奴になるだろう。
そしたら、私の周りには誰も居なくなる。嫌な奴には、誰も関わりたくなんかないから。
「.............」
「.......ま、私はキトの奇行なんか慣れてるけどね」
「!」
いくら楽しいからと言って、周りを見なくなるのは本当に良くないなと内心で猛省していれば、ウタちゃんはぽつりとそんな言葉を差しのべてくれた。
たまらず視線を向けると、今度はスマホではなく私の目をしっかり見て、少し可笑しそうに笑う。
「中学の時からソウじゃん。あっち楽しそう、こっち楽しそうでいつも忙しないし、時々学校休むくらい妥協しないし、高校では親にローン組むし...本当、好きなことに全力注ぎ過ぎ。マジでちっちゃい子供、笑う」
「うっ......」
「......でも、ソレ、誰にでも出来ることじゃないじゃん。ちっちゃい頃ならまだしも......大人になっていけば、どんどんそういうことって出来なくなるし、時間だったり、体裁気にしてやりづらくなったりするもんデショ」
「.............」
「.......だけど、キトはソレが出来るんだから、だったら存分にやれば?って話。......オーバーヒートしてたら、ちゃんとブレーキ踏んであげるよ」
「.......ウタちゃん......」
中学からではあるけど、私の一番の友達からの言葉にたまらずじんときてしまい、鼻の奥がツンとする。
少しぼやける視界の中でウタちゃんを見つめれば、少し居心地悪そうに顔を顰められた。
「ちょっと、泣くのは勘弁して。そういうのはマジで無理」
「.......ウタちゃあん......っ......ほんと、だいすき......っ」
「ハイ無理、やめて。トイレ行ってくる」
「私も行くぅ......!」
「は?ついて来ないでクダサイ」
ぐすぐすと鼻をすする私を嫌そうにあしらいながらも、本気で拒絶を見せないウタちゃんの優しさが心にしみて、本当に嬉しかった。
君と居れば、私は最強だ!!
(は?そういうのもマジで無理。離れてもらえます?)