Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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青葉城西と白鳥沢の決勝戦は両校の力が拮抗しているように見えたが、時間の経過と共に少しずつ青城が劣勢になっていく。
第1セットを22対25で落とした青城には、この第2セットを何が何でも獲らなければもう後がない。
だけど、今現在王手を掛けているのは、宮城の絶対王者と謳われる白鳥沢だった。
「.............」
この試合を見て、拙い知識ながらに気が付いたことがある。
白鳥沢は牛島さんが一等存在感があるけど、全てが全て牛島さん頼みというスタイルでは無い。
流石バレーの強豪校というか、リベロは勿論のこと選手全員のレシーブがとても安定してるし、サーブもスパイクも牛島さんだけが脅威という訳でも無く、本当に、全員が上手い。
青城の方も全員凄いんだけど、どちらかと言うと青城はチームプレーが群を抜いて強いというか、セッターの及川さんを要として青葉城西というシステムを全員で作ってる感じがする。一人一人が部品になってる、みたいな。
それに対して、白鳥沢はシステムというよりも一人一人が完璧に磨きあげた自分の武器で叩きのめす、みたいな印象を受けた。
だから、戦略は至ってシンプルなものが多い。だけど、強い。
あと、あの赤髪の人のブロックが尋常じゃない。一人なのに、何度も青城のスパイクを止めてる。
一枚ブロックってそんなに脅威じゃないと思ってたのに、あの人のリードブロックの守備範囲は異常だった。
あの人のブロックを見て、伊達の鉄壁である二口君は「動体視力が動物並か、あるいはスパイカーの心が読めるかだな......予測が異常に上手くて速い」と私以上に顔を顰めていた。
「.......わ!ナイスキー!」
第2セット、白鳥沢がマッチポイントという緊張感が走る中、青城が見事な速攻を決める。
今の得点で23対24になったから、ここでブレイクすればデュースに持って行けるぞ!
この試合が始まる時にどちらも応援するつもりはないと二口君には言ってしまったけど......手に汗握るこの展開にはどうにも青城に肩入れしたくなってしまい、つい青城贔屓な目線で試合を観てしまっていた。
このセットを青城が獲れば、運命の第3セットに突入する。
いまだ白鳥沢が王手を掛けた状態ではあるものの、今の速攻で流れは確実に青城へ来ているように見えるし、ブレイクさえ出来ればその後のデュースもこの勢いに乗って何とか......
「.......ぅ、......そ......」
「.............」
そんな私の甘っちょろい思考回路は、牛島さんの大砲のようなスパイクにことごとく打ち砕かれた。
流れも何も関係無く、その砲弾は青城のコートへ着弾し、気が付けばインターハイの宮城代表決定戦に決着がついていた。
......恐ろしいことに、白鳥沢のストレート勝ちだ。
「.............」
......あの強過ぎる青城が、1セットも獲れないなんて。
あまりに衝撃が強くて、試合終了のホイッスルが鳴り響いても呆然としてしまった。
拍手や歓喜の声が沸き起こる中、頭が着いていかずただただボケっとしていれば、二口君から肩を叩れる。
「......俺は帰るけど、広瀬どーする?」
「え?......あー......」
聞かれた言葉に、鈍い思考回路を何とか回して、どうしようかと考える。
何となしにアリーナを見れば、勝者のはずなのにひどく落ち着いている白鳥沢の選手と、敗者となった青城の選手が悔しそうに顔を歪ませているのが目に入り、......思わず、昨日の烏野の姿を重ねてしまった。
「.......私は、最後まで見てく。バレーの大会来たの、今回が初めてだから」
少し間を空けてからそう返すと、二口君は黒縁メガネを掛け直しながら小さく「あっそ」頷いた。
「......でも、今日で白鳥沢以外、みんな引退かぁ......」
「は?」
いまだぼんやりとする頭で、つい思ってしまったことがそのままぽろりと口から零れると、二口君は不可解そうな顔を向けてくる。
「......知らねぇけど、青城の三年は春高まで残るんじゃねぇの?」
「え?.......えッ!?な、何それ!?そんなことできるの!?」
他校と言えど、引退という言葉にひどくもの悲しい気持ちになっていれば、二口君から意外な情報を寄越されて思わず彼に詰め寄った。
てっきりこの大会で負けたら三年生は引退するものだとばかり思っていたから、つい勢いよく近付いてしまうと、二口君は少しだけ困惑した顔をしてふいと視線を外した。
「......制度が変わって、来年の春高までは三年も出られんだよ。......まぁ、受験や就活もあるからあくまで任意らしいけどなァ......」
「.......そ、っかぁ......そうだよ、ね......」
「.............」
一瞬、烏野も青葉城西も伊達工も引き続き彼らのバレーボールを観られるのではと心を踊らせたが...現実的に考えて、制度が変わったとはいえ先輩方の人生の大切な時期に、本当にぎりぎりまでバレーが出来るのかという疑問が生まれてしまった。
澤村先輩も、東峰先輩も、菅原先輩も、潔子さんも、バレーボールだけが全てじゃなくて、先輩方それぞれの人生がある。
周りの三年生が受験勉強や就活に打ち込む中、来年まで部活であるバレーに時間を費やすのは、あまりにリスキーなのではないだろうか。
「.............」
「.......ちなみに、ウチは全員引退した」
「!!」
決勝が終わり、表彰式と閉会式の準備でざわめいている体育館が、水を打ったように一瞬にして静かになった気がした。
頭の上から降ってきた静かな声が脳内にガツンと響いて、咄嗟に息を飲む。
伊達工の三年生が、あの試合の何番だったのかはわからないけど......だけど、次に伊達工と戦う時は、あのチームでは無いことは確かだ。
あのメンバーでの伊達工のバレーボールは、もう二度と見れない。
「.............」
「烏野は?」
「.......わ、わかん、ない......」
「.............」
「.............」
「.......あんたさ、もしや俺らに対して申し訳無いとか思ってる?」
「っ、そ、そんなこと......!」
「そういうの、なんて言うか教えてやろうか?“余計なお世話”っつーんだよバーーーカ」
「ん゛ッ......」
二口君のひどく鋭い言葉に為す術なく唇を噛み締めていれば、伊達工の彼は大きなため息を吐いた。
「......あんただって、青城のヤツらに“勝っちゃってごめんね”とか言われたら、クソ腹立つだろ」
「..............うん......」
「......勝ったら前だけ見て堂々としてりゃァいいんだよ。......見ろよあの白鳥沢、ムカつくくらい堂々としてんだろ」
「.............」
「.......つーか、次に俺らと当たったらマジで覚悟しとけよ。絶対ぇ泣かしてやっからな」
「......え......」
宮城県内の1番となった王者白鳥沢の選手陣を眺めていれば、......いつかの夜に青葉城西の及川さんにも言われたことを伊達工の二口君にも言われてしまい、思わず目を丸くしてそちらを見る。
そんな私の反応を見て何やら満足したのか、二口君はずっと腕を着いていた手すりから手を離した。
「......じゃ、帰るわ。せいぜい補導されねぇように気を付けろよ~」
「ちょ、だから!ブーメラン!」
決勝戦が終わり、いくらか人の姿が少なくなっているもののまだ周りに人が居なくなった訳じゃない。
そんな中、普通の声で補導とか口にされてはたまったものじゃないとたまらず顔を顰めれば、二口君は可笑しそうにふきだした。
本当にいい性格してるなと若干呆れてしまうけど......でも、今日の試合をもし1人で観たら、こんなに沢山の情報を拾うことはできなかっただろう。
二口君が私に声を掛けてくれたから、一緒に観てくれたから、すごく面白かった。
「......色々教えてくれてありがとう!今日、二口君と観られてよかった!」
「.............」
先に帰ってしまう二口君に思い切って素直な気持ちを口にすると、二口君は眼鏡の奥の瞳をきょとんと丸くさせた後......にっこりと爽やかな笑顔を浮かべた。
「......お礼は夏休みいっぱいでいいぜ?」
「え?」
「連絡先教えるから、今日のお礼考えといてよ。...ちなみに俺、牛タンとか結構好き♡」
「.............」
素敵な笑顔で寄越された言葉に、先程までの素直な気持ちがどんどん濁っていく。
......ああ、この人、やっぱり性格悪い!
素直にお礼なんて言うんじゃなかったと心底後悔するものの、全てはあとの祭りであり、私のスマホには“二口堅治”という名前がしっかり登録されてしまうのだった。
▷▶︎▷
表彰式が終わって、閉会式も終わった今の時間に、中央ロビーに居る人は疎らだった。
優勝旗とかトロフィー、すごく立派だったなぁと思いながらふと何気無く視線を上げれば、この体育館の象徴でもある大きな太陽の彫刻が見えて、思わず立ち止まる。
......確か、一番最初にこれを見た時は、烏野が勝ちますようにと手を合わせてお願いをした。
あの日のことが何だかとても昔のことのように思えて、ぼんやりと大きな太陽を見つめてしまう。
きっとそれだけ内容の濃い三日間だったんだろう。
「.............」
烏野の試合が始まる前と、全ての試合が終わった今では何となくその彫刻の雰囲気が変わっているような気がして、小さく息を吐いた。
......あの日、及川さんから言われた通り、私の願いも、祈りも、全て叩き潰されてしまったけど......でも、見に来なきゃ良かったなんてことは、1ミリたりとも思わない。
むしろ烏野をもっと応援したくなったし、......更に強くなるだろう彼らの、彼らのバレーボールのその先が見たくてたまらない。
「.............」
どこか高揚する心を胸に、よし帰ろうと出入り口へ足を進ませると、このインターハイ予選のトーナメント表が壁一面に貼ってあることに気が付いた。
勝負のついたそれに興味を示す人は少ないようで、誰も見ていないトーナメント表にゆっくりと近付く。
こんなに沢山の高校が参加したんだなぁと思いながらぼんやりと全体を眺めて......目に止まったのは、やっぱり烏野だ。
「.............」
近くに誰も居ないのをいいことに、烏野の文字にゆっくりと指を滑らせる。
無機質な黒い線を辿ると、最初に線が交わるのは常波高校だ。
......烏野が王手を掛けてるのに、常波の選手は諦めずに最後まで攻めきった。
最後の1点が決まるまで勝負は終わらないことを、常波戦で改めて思い知ったし......それに何より、烏野が初勝利をおさめる瞬間が見られたのが、すごく嬉しかった。
そこからするすると線を辿ると、次は二口君のチーム、伊達工業高校と交わる。
......私の知らない三月の試合で烏野を敗り、東峰先輩と西谷君が部活に来なくなった原因がその試合で、烏野を一時バラバラにしてしまった強豪校。
リードブロックがとにかく高くて力強くて、強固な伊達の鉄壁にはとてもとても苦戦したけど......新たにヒナちゃん達一年生を迎え、東峰先輩と西谷君も復活した新生烏野で挑んだ2戦目は、リベンジ成功となった。
変人速攻のお披露目でもあったし、西谷君の脚を使ったスーパーレシーブに痺れたし、......烏野のエース、東峰先輩のとびきりのスパイクには本当に、本当に心が震えた。
「.............」
指を、先へ滑らせる。次に交わるのは......烏野が負けた、青葉城西高校だ。
及川さんのサーブ、セットプレー、リベロのセッター張りのトス......青城の動きはどれもこれも初めて見るものばかりで、それだけ多くの戦術を繰り出せるチームであり、個々の選手の技術が高いことを知った。
烏野が全然歯が立たなかった訳では無いけど......変人速攻やヒナちゃんのブロード、それらの攻撃を恐ろしい程の速さで分析されて、攻略された。
速さだけでは、勝てない。ゴールデンウィーク中の音駒高校との練習試合でもわかってたはずなのに......この青葉城西との試合で、それが明白になってしまった気がする。
「.............」
この三日間で見てきた景色を思い出しながら、ゆるりと指を外す。
烏野の線は、これ以上先に進むことが出来なくて、ここでプツリと切れてしまった。
あの時、......ヒナちゃんと影山君の変人速攻がドシャットを食らった、あの瞬間に。
烏野のバレーボールは、この先へ繋がらなかった。
思い出した途端に胸が重くなり、俯きがちにひとつ息を吐いてから再びトーナメント表を見上げる。
烏野に勝った青葉城西の黒い線を、指でなぞる。
青城は烏野の後にもう一つ試合をして、それに勝って今日、白鳥沢との決勝を迎えた。
.......だけど、青城ですら、宮城の一番には届かなかった。
「..............白鳥沢......学園......」
最後の最後まで線を指でなぞり、天辺の二校のうちの一つ......この大会で優勝した高校の名前を無意識に口にする。
先程まで観ていた試合の記憶が頭の中で流れて、たまらず一度ゆっくりと瞬きした。
『......左のスパイクは、まずその時点で止めづらいんだよ。普段の右から来るのとタイミングや位置が微妙にズレるからな......』
ブロックが上手い伊達工の二口君が、顔を顰めてそう話していた。
ただでさえスパイクの威力がおかしいというのに、更に左利きがカスタマイズされているのが、白鳥沢の牛島さんだ。
......あの青城が、ストレートで敗れてしまう程の攻撃力である。
『......でも、宮城県の55チーム中、23チームが今日で終わる』
ここでふと、初戦の常波戦を及川さんと見ていた時に言われた言葉を思い出して、改めてトーナメント表を全体を見回した。
......この55校の、一番上。天辺に立つのが、この白鳥沢学園だ。
「.......宮城で......一番、強い......」
白鳥沢学園の堂々とした文字を指でなぞり、思考がそのまま口から零れた。
今日見たあのチームが、あのバレーが、宮城で一番強いのか。
「────ああ。そうだな」
私の独り言に、背後から落ち着いた低い声が聞こえて、たまらずぎくりと身体を固くした。
この体育館に私の知り合いなんて居ないはずなのに、どうして返事がくるんだろうとどこか緊張感を覚える中、おずおずと後ろを振り返る。
「.............」
そこには、白地に紫色のラインが鮮やかなジャージを纏い、背が高く、しっかりとした体格の男の人が厳かに立っていた。
焦げ茶色の短い髪にヘーゼルの瞳、凛々しい眉が印象的な端正な顔のその人は......白鳥沢の主将である、牛島さんだった。
インターハイ予選、閉幕
(日は落ちたはず、なのに)