Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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「またバイト増やしたの?」
お昼休みにお弁当を食べながら、先日の坂ノ下商店の話をすれば友達のウタちゃんは呆れたような顔を浮かべた。
「しかも坂ノ下って......烏野高生めっちゃ来るじゃん」
「うん、だから烏野の制服でのバイトは禁止って烏養さんに言われた」
「ていうかあそこ、本当にバイト要るの?キト、今までそんなに入ってなかったよね?」
「烏養さんが男バレのコーチしに行く間、私が穴埋めで入る感じ。あとなんか、試合とかあった時も入ると思う」
大雑把に敷き詰められたのり弁を口に運びつつ返答すると、ウタちゃんは手にしていたサンドイッチを一度ボックスに戻した。
「......よくわかんないけど、なんでいきなりキトが男バレに加担してんの?もしや好きな人でもできた?」
「そういうことだったら全力で応援してほしいところだけど、残念ながら違います」
「わかった、西谷だ」
「ウタさーん、話聞いてー」
ドヤ顔で悪ノリしてくるウタちゃんに軽く返すも、彼女は今西谷君の席を借りて座っているので若干肝が冷える。こんな変な話を西谷君に聞かれたら気まずい以外何も無い。
「別に男バレの為だけにやってる訳じゃないよ。殆ど自分の為だし、バイトは増えたら増えるだけ嬉しいし」
「うわぁ、バイト厨怖いわ~......今いくらくらいなの?親御さんローン」
「うーん、やっと3分の1くらいは返せてるかな......?あとは夏休み頑張れば、半分は返せると思う」
「......これからゴールデンウィークっていうのにもう夏休みの話ですか......」
ウタちゃんの言葉に思わず笑いがもれる。
確かにちょっと気が早い話かもしれないが、私にとっては重要なことなのだ。
親へのローンというのは、高校入学後すぐにバイクの免許を取りに行ったところから始まる。
私の家は長い坂道を登った所にあり、行きは良い良いなのだけど帰りだけは歩きも自転車もなかなか重労働だ。家に辿り着いた時にはだいぶ息が上がっている。
元からそこまで筋力、体力、更には根気もない私は中学生の時点で早々に匙を投げた。どうにかして楽をしたいという一心で、まずは電動自転車を買おうとお小遣いやお年玉をちまちま貯めていき、高校受験が無事に終わってから意気揚々と自転車屋さんに向かった私の目に映ったのは......1台の群青色の原付バイクだった。そこの自転車屋さんでは原付バイクも一緒に売っていて、私はそこでうっかり一目惚れしてしまったのである。
格好良いし可愛い。乗ってみたいと思ってしまった私に、自転車屋さんはバイクの免許は16歳から取れると教えてくれ、その日すぐに両親に相談した。最初は難色を示していた二人だったが私の熱意に負け、渋々OKしてくれたもののいくつかの条件があった。
原付免許ではなく原付二種免許をとること。
必ず新車を買い、保険に入ること。
これら全ての費用は自分で何とかすること。
以上が親から出された条件であり、正直なところだいぶ厳しい面が多かった。
原付二種となると講習期間も費用も原付免許と比べてかなり跳ね上がるし、試験の難易度も上がる。新車にするともちろん高いし、保険なんて調べてないから未知数だ。
全てひっくるめてどれくらい費用が掛かるか調べて計算し、出した数字は当時まだバイトをしていない自分の貯金額よりも遥かに大きいものだった。
顔を青くさせながら、それでもあの群青色のバイクに乗りたいと思う気持ちは変わらず、何度も何度も相談した結果、親にローンを組むという結果に落ち着き、足りない頭脳と運動神経をフル動員させながら何とか無事に免許と原付バイクを取得し、今に至る訳である。
だから私は、沢山バイトしたいのだ。
「......まぁ、取り敢えず私も烏養さんも男バレもウィンウィンの関係ってだけで、別に献身的にやってる訳じゃないからね」
お互いに持ちつ持たれつの関係であり、言わばビジネスパートナーのようなもんだと思っている。
まぁ、男バレのことを応援したいと思う気持ちが全く無い訳ではないけど、私の好きなことをやって男バレのお役に立てるなら、それならそれでいい事じゃんと思うくらいだ。何事もメリットは沢山あった方がいい。
「今はそうかもしれないけど、キトのことだから後で絶対試合とか見に行くようになるよ」
「えー、そうかなぁ?あぁ、でも、嶋田さん辺りにはその内試合見に行くべ!とか確かに言われそう......」
「嶋田マートに連れられて、試合中の西谷にときめいてしまうキトなのであった。」
「ウタさーん、変なナレーション付けるのやめてー。BGMも要らんわ!」
やたらと上手い恋愛ソングを口ずさむウタちゃんに呆れ混じりにツッコミを入れると、
「あ?俺が何?」
「!?」
背後から聞きなじみのある男子の声が聞こえてくる。たまらずすぐに振り向くと、不幸なことにそこにはウワサの西谷君が居た。
「あ、西谷ごめん、席借りてるよー」
焦る私とは対照的に、原因を作ったウタちゃんは呑気にそんな言葉をかける。
「それは別にいいけど、歌津さっき俺が何かって話してたろ?なんだよ悪口か~?」
「ああ、違う違う。それはキトが」
「ウタちゃん私喉渇いちゃった!甘いの飲みたいから自販機行ってくるね!」
話の雲行きが怪しくなってきたので無理矢理話の流れを断ち切り、財布だけ持ってこの場からの逃走を図った。
西谷君の驚いた顔が一瞬見えたが、私の世間体の方が大事なのでここはスルーさせてもらう。
「......え、何?広瀬のヤツどうした......?」
私がこの場から逃げた後のこと、目を丸くする西谷君にウタちゃんは「......さぁ?」と面白おかしく首を傾げるだけだった。
三十六計逃げるに如かず
(コイントスした、その行方。)