Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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「すっげーな烏野、追いついたよ!」
「マジで結果わかんなくなってきたな......」
青葉城西のタイムアウト終了のホイッスルが鳴る中、観客席に座る他校の選手同士の話がふと耳につき、小さく息を吐く。
多分、いや、絶対周りの人達は、昨年県内トップ2である青城が勝つと思っていただろう。
だけど、今、そう思っていた人達が一斉に動揺して、判断に迷ってる。
再び高く高く飛べるようになったカラス達が、由緒ある立派な青葉の城を喰らい尽くそうとしているからだ。
「アウトアウト!」
「ナイスジャッジ!」
タイムアウト明け、烏野のサーブは影山君だったが、緊張からか高揚からか相当力んでしまったようで、ボールは青城のコートの外へ大きく外れてしまう。
「スンマセン!」
「ドンマイドンマイ!切り替えろよー!」
「はい!」
焦るような、困惑したような顔をして謝る影山君に、キャプテンの澤村先輩が直ぐに声を掛ける。
あれだけ神業のトスを上げられる人なのに、誰にも邪魔されないはずのサーブをミスしてしまうなんて......きっと精神的な問題なんだろうけど、なんだか不思議だなと勝手なことを思っていれば、田中君が二枚ブロックを見事に打ち抜き影山君のミスを取り返してくれた。
.......大丈夫。影山君もだけど、みんなしっかり落ち着いてる。1セット目みたいに焦ってない。
さっきのように変に崩れなければ、烏野だって、きっと。
「西谷!ナイスレシーブ!」
青城の12番のスパイクをリベロの西谷君が捉えて、セッターの影山君へ綺麗にボールを返した。
烏野がしっかり攻撃できるチャンスだ!
「おっ、また移動攻撃くるか!?───って、」
「アレっ!?」
「え!?なんで!?」
セッターの影山君を軸にして、コートの横幅めいっぱい、ヒナちゃんが走る。
だけど、そのオレンジをマークする青城の選手は誰もいなかった。
「10番ノーマーク!?」
「ブロック諦めたのか!?」
予想だにしない青城の動きに、観客席にいる他校の選手達も一斉にざわつく。
一体どういうことなのか混乱していると、ヒナちゃんはそのままフリーでスパイクを放った。
そのボールは......待ち構えていた青城のリベロに拾われてしまう。
「あ......」
リベロからセッターの及川さんへボールが繋がれ、今度は青城がしっかりとした攻撃態勢を整えた、途端。
及川さんはネットを背にした状態で、ボールを烏野のコートへストンと落とした。
おそらく、烏野が予期せぬ青城の動きに動揺した隙を見計らっての完璧なツーアタックだ。
烏野の希望の光だと思ったヒナちゃんのブロードを、一瞬にして攻略された。
「.......青城は、ブロックをしない方がヒナちゃんのボールを拾いやすい......?ヒナちゃんが、スパイクのコントロールを出来てないから......?」
「多分そうだろうな......確かに攻撃の速さは尋常じゃねぇけど、威力の方はあんまりなんだろうよ。スパイクの重さとか、コースの打ち分けが正直全く伴ってねぇ。青城はそこ見抜いて、ヘタにブロックしてリベロの邪魔するより、あえてノーマークにしてディグで対応しようって考えたワケだ」
「......ディグ?」
「さっきみたいに、スパイクにレシーブで対応すること。......にしても、あちらさんの状況判断力と適応力、マジでハンパねぇな......」
「.............」
私の独り言に滝さんが解説を添えてくれて、改めて青城の強さに打ちひしがれてしまう。
そんな私の心にトドメを刺すかのように、次のサーブはまさかの及川さんだ。
この人本当、一番嫌な時に限ってサーブポジションに入ってくる。
及川さんのエグいサーブが続いてしまうのは、この状況において一番最悪なシナリオだ。だから、何とかこの一本で切ってほしいと心の底から願っていると......放たれた弾丸のようなサーブはネットの白帯に勢いよくぶつかり、あろうことか烏野のコートへポトリと落ちてしまった。
「ネットイン!!よっしゃラッキィィィ!!」
「そんなぁ......ウソでしょ......」
わっと盛り上がる青城の応援席を向かいに見ながら、たまらずガックリと肩を落とす。
これで青城がブレイク。先程追いついたと思ったのに、あっという間にまた2点差を付けられてしまった。
そこに追い討ちをかけるように、及川さんが二度目のサーブを打ち込んでくる。
リベロの西谷君が何とかレシーブで拾ったものの、そのボールに影山君と東峰さんが同時に反応して、動きが被ってしまうギリギリのところでかろうじてボールを返した。
「アッブネー!!お見合い!!ああっ、青城のチャンスに......!おちつけぇ~!焦るな~!」
「なんだか烏野の方がバタバタしてるな......」
「.............っ、」
滝さんの悲鳴と嶋田さんの鋭い指摘に、たまらずぎくりとする。
1セット目の影山君の暴走とはまた違うけど、何となく嫌な空気になってるというか、どことなく烏野に余裕が無くなってる気がするのだ。
あっという間にヒナちゃんのブロードを攻略されたからか、先程背中を掴んだのに直ぐ2点差に戻ってしまったからなのか、......おそらく全部なんだろうけど、烏野の焦りが応援席から見ても如実にわかり、今がすごく良くない流れになっていることは明らかだった。
それでも烏野は何とかしてボールを繋ぎ、青城との長いラリーに必死に応戦している。
「ふんがーっ!!!」
背丈のないヒナちゃんが驚異の跳躍力を見せ、青城のスパイクを何とか手に当てた。
ヒナちゃんのブロック、そしてワンタッチの表明に烏野のエースである東峰さんが床に飛び込む形でボールを繋ぐ。
だけど、ぎりぎりで繋いだそのボールの先にはセッターの影山君の姿は無く、しかしそれでもヒナちゃんは助走距離をとり、センターからの攻撃要請を出した。
「翔陽頼むっ」
ヒナちゃんの声に咄嗟に反応したのはリベロの西谷君で、アンダーレシーブでセンターのヒナちゃんへボールを寄越す。
リベロはアタックラインより前でオーバーハンドでのトスを上げてはいけない。
ここにきて、リベロの制約がとても厳しいものだと実感すると同時に、改めて青城のリベロの技術の高さに感服してしまった。
「ブチ抜けええええええッ!!!」
「止めろおおおおおおおッ!!!」
両校の必死な想いを受けて、ヒナちゃんのスパイクは力強く打ち込まれたものの......青葉城西の3枚ブロックに阻まれて、ボールは無情にも烏野のコートへ、よりにもよってヒナちゃんの直ぐ足元へ勢いよく落下した。
3点差をつけた青城のテンションがまた一段と上がり、空気も流れも完全に青城ムードになった矢先、烏野はついに2回目のタイムアウトをとる。
「ああっ......タイム2回とも使い切っちまった......!」
「まァ、仕方ねぇよ......烏野は今、できることは全部やってる状態だろうし、タイムアウトで物理的に流れ切らなきゃまじでこのまま青城に持って行かれる」
「.............っ、なにか、何か烏野の追い風になることないですか!?せめて何か、空気を変えるとか!」
「......ンなこと言ったって......」
じりじりと、烏野が徐々に追い詰められているのは確かに感じるのに、それをただ見ているだけなんて、とてもじゃないけど出来ない。
何か、何か彼らの力になるような、この嫌な空気を変えてしまうような、小さなことでもいいから何か出来ないかと滝さんと嶋田さんに尋ねるも、二人は難しい顔をしてしんどそうにため息を吐いた。
「っ、烏野ぉ!!頑張れーッ!!」
いてもたっても居られず、目の前の手すりを握り締め精一杯大きな声を出すも、私のちっぽけな声援は直ぐに青城の大応援団の力強い音に掻き消された。
それがひどく悔しくて、すごく腹が立って、たまらずじわりと涙の膜が張ると「こういう時は声だ声!声出しとけ!」と滝さんが続いてくれて、両手に持った即席の応援グッズである砂利入りペットボトルをジャラジャラと勢いよく鳴らし始める。
それに嶋田さんも乗っかって、三人だけの即席応援団を発足させた。
「せーの!行け行け烏......」
「押せ押せ烏......」
「おい!最初は“行け行け”だろ合わせろよ!」
「たっつぁんが最初“押せ押せ”だっつったべ!?」
「ああもう!ケンカしてる場合じゃないでしょ!?しっかりしてくださいよ!」
ジャガジャガとそれなりの音を出しながら応援し出した途端、二人の息が合わなくて軽い言い合いになり、そんなことしてる場合かと怒ると大人二人はぐっと言葉を詰まらせた。
「......じゃあもっかいな!せーの!行っ......!?」
滝さんが仕切り直して、再び声を揃えて応援しようとした、瞬間。
ベンチに座る烏養さんが、何かを思い出したように勢いよく応援席へ顔を向けた。
鋭い眼光の先には......なぜか、嶋田さんの姿がある。
「.......嶋田さん、何かヘンなことしたんじゃないですか......?」
「いや、いやいやいや、全く身に覚えがないんだけど......!?」
烏養さんの行動に一体何かと思いつつ、見られていた嶋田さんにコソリとそんな言葉を寄越すと、嶋田さんは眼鏡を掛け直しながらブンブンと首を横に振った。
そんなことをしていたら2回目のタイムアウト終了のホイッスルが鳴り響き、烏野劣勢のまま試合が再開される。
両者共に譲らない、長いラリーが続いた後、ヒナちゃんのスパイクをブロックした青城の12番の腕が誤ってネットに当たってしまい、タッチネットという反則で烏野に点が入った。
これで何とか及川さんのサーブ攻撃が終わることになったけど、その代償として烏野のヒナちゃんが後衛に下がるローテとなる。
「ここでミスったら青城は20点の大台......!......で......チビ助のサーブかあぁぁ!いや、決して疑ってるワケじゃないが頼む入れてくれよォォォ!!」
「ひ、ヒナちゃーん!深呼吸ー!」
ボールを持ち、サーブポジションに着くヒナちゃんは後ろ姿からでも緊張しているのが如実に目に取れて、たまらずそんな声を掛けるとなぜか審判のホイッスルが響いた。
「.......オイ嶋田、アレ......」
何かにひどく驚いたような滝さんに釣られ、嶋田さんと私が促された方へ視線を寄越すと......そこには、選手交代のプレートを持つ、烏野12番の姿があった。
「山口君ッ、山口君だ......ッ!!」
「ったっ!?......忠が......ピンチサーバー!?」
運命の第3セット終盤、ここにきてまさかの山口君の登場に、嶋田さんはひどく驚いてからへなへなとその場にしゃがみ込む。
え、大丈夫ですかと嶋田さんに気を取られていると「黒い方、何で替わるんだろ?」「あの10番のコ、あんまりサーブ上手くないからじゃない?」という及川さんのファンの女の子達の会話が耳に入り、たまらずムッとしてしまう。
「っ、あの!お言葉ですけどヒナちゃんはムグッ」
「はい、どーどー。......あれは“ピンチサーバー”って言ってね、ピンチになって流れを変えたい時とか、逆に勝ってる側が更に点差を付けたい時に投入される選手のことだよ」
彼女達はおそらく悪気は無いんだろうけど、あまりいい気はしなかったので食って掛かろうとすれば、背後に居た滝さんに軽々と口元を抑えられてしまう。
「えーっ!じゃあ、あの細っこい子及川君みたいなサーブ打つの!?」
「怖い!見かけによらない!」
「いやいや、ジャンプサーブだけが強力なサーブじゃないのよ。あの細腕君の武器はボールを無回転で打つ“ジャンプフローター”っつうサーブで、一見ユルいボールなのにレシーブの手前で軌道が変わったり、ブレたりする魔球みたいなサーブなんだぜ!」
「.............」
滝さんと彼女達の話を聞いて、ふと思い出したのはいつかの嶋田マートでの出来事だ。
“ジャンプフローターサーブ、教えて貰えませんか?”
“これから先も、一年で俺だけ試合に出られないのは嫌だから”
部活後、嶋田さんに会いに来た山口君は、至極思い詰めた様子でそんな言葉を告げた。
その時の山口君の表情に、溢れんばかりの熱情に、思わず胸が苦しくなったことを今でも鮮明に憶えている。
「繋心何考えてんだアホかああああ!!まだせいぜいマグレ当たりだって言っただろうがあああ!!」
「......そのマグレ当たりでさえ欲しいってことなんだろ」
「!」
そんな山口君にジャンプフローターサーブを教えている嶋田さんは、相変わらずしゃがんだまま小声で烏養さんへの文句を漏らした。
しかし、滝さんから寄越された言葉に、嶋田さんも私もたまらず口を閉じる。
「......青城は次で大台20点。流れ持ってかれたまま行かせたら、いよいよ追いつけなくなる。無回転が打てればラッキー、無回転じゃなくても未知のピンチサーバーが出て来たってだけで、いくらか相手のプレッシャーにはなるだろ」
「.............」
「流れ変える可能性のあること、全部絞り出して行く以外無ぇよ。流れっつーのは、どっからどう変わるかわかんねーもんなんだからさ」
「.............」
滝さんの言葉に嶋田さんはゆっくりと立ち上がって、コートに入った山口君を見つめる。
ここからでも彼がひどく緊張しているのがわかり、確かにこの局面でのサーブ交代は相当なストレスが掛かるよなと密かに眉を下げていれば、ウォーミングアップゾーンから「山ぐーち!!」と明るい声を掛けられた。
「一本!ナイッサーブ!!!」
「.............」
コートの外に居る、烏野メンバーが副主将の菅原先輩を筆頭に山口君へ指を差し、もう片方の腕は横に伸ばし、更に片足を上げたなんともひょうきんなポーズで山口君に声援を送る。
突然のことに思わず面食らってしまうも......もしかしたら、山口君の緊張を解すためにわざと明るいポーズを皆で取ったのかもしれない。
「......山口君!!ナイッサー!!」
「!」
それなら、私だって負けられない。
あの日の嶋田マートの件から、山口君を応援したいとずっと思っていたのだ。
それに、この試合が始まる前に嶋田さんにも言われた。
ソイツが舞台に上がったら、その時はめちゃめちゃ応援してやってくれって!
「あチャ~......ガッチガチだな......」
「しょうがねぇよ......仲間に繋ぐことが全てのバレーで、サーブは唯一独りの瞬間“全員”が自分を見る。プレッシャーも一入だ」
「.............」
「────それでも、サーブポジションに立った瞬間は......誰だろうと、その試合の主役だ」
少年よ、大志を抱け
(自分の強さを証明しろ!)