Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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「2セット目のこのローテ......1セット目から少し回してスタートしたのは......」
「及川クンのサーブの時に“このローテーション”を持ってくるため......!?」
「.............っ、」
嶋田さんと滝さんの言葉に、思わずゴクリと唾を飲み込む。
まさかとは思ったけど、どうやら私の予想はドンピシャだったみたいだ。
「後衛にレシーブ巧者のリベロと主将───と同時に、攻撃力の高い二人......坊主はスパイクが打ちやすいレフト位置、後衛からはロン毛兄ちゃんがバックアタックに飛ぶ......って感じか」
「え?スパイクが打ちやすいって、なんで......あ、そっか、右利きだからか。利き手側からボール来る方が多分打ちやすい?」
「そ。でもまぁ、まれに違う奴もいるけどな。基本的には右利きのスパイカーは自分の右側から上がるトスが打ちやすいことが多い」
「成程......今はヒナちゃんも影山君も居ないから、このフォーメーションが対及川さん殺人サーブの最善リカバリーになるんですね......」
烏野の陣形を見ながら顎の下に片手を当て、ふんふんと頷いていると隣からふと視線を感じた。
なんだろうと思ってそちらへ顔を向けると、及川さんのファンの女の子の一人が少し気まずそうに笑いながらゆるく首を傾げているのが見えて、きょとんと目を丸くする。
しかし直ぐにこちらの話の内容を確認したいのかなと思い、隣に居る滝さんの腕をポンポンと軽く叩いた。
私の行動に「ん?どうした?」と直ぐに反応してくれた滝さんに彼女のことを指させば、彼女の様子からさっと状況を察してくれたようで、滝さん......と、嶋田さんは、彼女に今までの話を噛み砕いて話し始めた。
「.............」
両隣りで話す二人の言葉を流し聞きながら、私の目線はこちらのコートへ移動してきた及川さんの背中に留まる。
恐ろしい程の静寂と集中力を纏うその広い背中を見つめていれば、サーブ開始のホイッスルが鳴ると及川さんはゆっくりと動き出し、第2セット目でも重く速い一撃を烏野のコートへ打ち放った。
「.............ッ!」
祈るような気持ちでボールの軌道を追うと、烏野のキャプテン......澤村先輩が綺麗なレシーブで迎え打ち、及川さんの強烈なボールをふわりとセッターへ上げる。
「っしィ!!」
「大地ナイスレシーブ!!」
烏養さんと菅原先輩の声が響き、たまらず私も「上がった!」と前に身を乗り出した。
及川さんの強烈なサーブが、上がった。
その後の攻撃、セッターの菅原先輩は一体誰に託すんだろう。
「────田中!!」
「!!」
菅原先輩からボールを託されたのは、1セット目前半戦、少し不調だった二年生の田中君だった。
レフトの田中君のスパイクは青城の13番のブロックに当たったものの、その力強いボールは弾き飛ばされることなく相手のコートへ勢いよく落ちる。
「しゃああぁ!!」
「ぃやっしゃあっ!!田中君ナイスキー!!」
地獄のような及川さんのサーブを一本で切れたことが嬉しくて、思わずぴょんぴょん飛び跳ねながら田中君に声援を送る。
でも、本当に凄い。たった二人で及川さんのサーブを護るなんて、素人目から見たら正気の沙汰じゃないと思っていたけど、本当に上手く機能するなんて。
影山君とヒナちゃんの居ない状態でも、烏野はやっぱり強い。攻撃力は落ちるのかもしれないけど、それでも、思考するカラスは、青葉の城塞とちゃんと戦える。
ちらりと得点板を見れば、青葉城西2点、烏野3点。
このまま、どうか、このままいってくれれば......だって、このセットを落としたら、烏野は、
「食らいついて放すな!!!」
「!!」
ベンチから立ち上がった烏養さんの鋭い声が応援席まで届き、たまらずびくりと肩が跳ねた。
瞬間、コート内の空気がまた一段と締まった気がして、ゴクリと唾を飲む。
バレーボール特有の展開の早い試合を暫く固唾を飲んで見ていると、胸がヒリヒリするような、心をザクザクと刺されるような、知らずの内にひどい緊迫状態に陥っていたようで、背中を優しい力でトントンと叩かれた。
「.......季都ちゃん。呼吸、忘れてる」
「!!」
途端に引き結んでいた唇が開き、ようやく取り入れた酸素に少しだけ目がチカチカする。
先程暴走した影山君に深呼吸してと言っていたのに、私がすっかり息を止めてどうするんだと反省していれば、嶋田さんは眉を下げながら私の背中を同じテンポでゆっくり叩いてくれた。
嶋田さんの優しい手つきに少しだけほっとして、張り詰めていた感情がゆっくりと溶かされているように感じ、何度か深呼吸するとおもむろに背中から手が離れ、くしゃりと頭を撫でられた。
「す、すみません......」
夢中になりすぎて呼吸を忘れるなんてまるでちっちゃい子供がやるようなことをしてしまい、恥ずかしさと情けなさから小声で謝れば、嶋田さんは試合から目を離さないまま大きな手でポンポンと私の頭を撫でて、ゆっくりと離す。
もう一度深呼吸してから、改めて得点板を見るといつの間にか逆転されていて、青葉城西17点、烏野15点になっているのを確認すると、烏野のベンチに動きがあった。
どうやら、一年生の影山君が烏養さんに呼ばれたようだ。
おそらく次のプレーの後、三年生の菅原先輩と交代するのだろう。
「.............っ、」
ふらりと暗い思考が頭を過ぎり、目を瞑って軽く頭を振る。
三年生とか、一年生とか、違う、そうじゃない。
彼らのバレーボールの真髄は、そんな小さな秤では測れなくて、きっと、もっと、広いところにある。
「.............!」
青城のサーブを澤村先輩が上げ、セッターの菅原先輩へボールが運ばれる。
すぐ近くでヒナちゃんがスパイクモーションを取り、速攻がくるかと思いきや、ボールは後衛......エースの東峰先輩へ山なりのトスが上がる。
音駒がやってたパイプ、エースのバックアタックだと理解すると同時に、東峰先輩は渾身の一撃を青葉城西のコートへ食らわせた。
およそ高校生のスパイクとは思えない重低音に観客が思わず静かになる中、審判のホイッスルが選手交代の合図を知らせる。
菅原先輩の背番号、2番の札を持つ影山君の姿を見て......菅原先輩は、しっかりとした足取りで影山君の元へ歩いて行く。
交代する際、菅原先輩と影山君で何かを話していたようだったが、応援席からそれを聞き取ることは当然できず、それでも少しだけ気になって何を話してるんだろうなぁと思っていれば菅原先輩が影山君の肩を少し強めに叩いた。
「.............」
その光景を見て、どんなに影山君がスーパールーキーであったとしても、きっと菅原先輩の支えが無ければこの試合、大きな暴走事故を起こしていただろうなと漠然と感じた。
この試合に菅原先輩が居なければ、きっと影山君は理性的になれなかった。彼の思考も、彼のバレーボールも、あのまま本領発揮出来ずに終わっていたかもしれない。
烏野のセッターは、きっと影山君だけでもダメで、菅原先輩だけでもダメで、この二人が揃っていたからこそ、ゲームの展開を持ち直すことが出来たのだ。
「.......影山君、ナイッサー!」
「!」
ゆっくり息を吸ってから、サーブポジションにつく影山君へ声を掛けると、全然反応してくれなかった1セット目とは違い、影山君はちらりとこちらに視線を寄越して小さく頷いた。
あ、よかった、ちゃんと聞こえてる。
周りの音を拾えてるということは、ちゃんと落ち着いているということだろう。
「.............!!」
サーブ開始のホイッスルが鳴り響く。
影山君は高くボールを上げ、助走の勢いを殺さずに綺麗なフォームで飛び上がり、そして、及川さんにも負けず劣らずな強烈なジャンプサーブを繰り出した。
まるで今まで試合に出ていなかった分、蓄積された闘魂をギュッと凝縮したような重い一撃は、青城のリベロすら跳ね除けてサービスエースとなる。
「.......すごい......」
素人目だけど、多分、今まで見た影山君のサーブの中で一番威力があったというか、練度が高かったというか、兎に角今のサーブはこれまでのものと明らかに何かが違っていた。
思わず口をぽかんと開けて呆けてしまうと、当の本人の影山君は二年の田中君に誘われ、慣れない空気を醸し出しながらもハイタッチをしていた。
田中君、本当にいい先輩だなと場違いながらに感心してれば、影山君の二度目のサーブ開始のホイッスルが響く。
再び鋭いジャンプサーブが放たれ、今度は岩泉さんに拾われたもののレシーブを乱し、不安定に浮遊したそれは烏野のチャンスボールとなって戻ってくる。
今のセッターは影山君で、前衛には、ヒナちゃんが居る。
「っ、かませ!!!」
ヒナちゃんは「来い」も「くれ」も言わなかったけど、今が絶対に“その時”だと思い、口から思考がそのまま溢れた。
前のめりで叫ぶ私の声と同時か否かのタイミングで、影山君とヒナちゃんの変人速攻が炸裂する。
相手が飛ぶ暇すら与えない、無慈悲な程の超速攻が久々に綺麗に決まり、たまらず「やったー!!」と飛び跳ねながらガッツポーズしてしまった。
影山君完全復活だ。それに、今ので烏野がまた形勢逆転した。
その後直ぐに青葉城西も得点しにきたが、勢いにのった影山君に釣られるようにヒナちゃんもこれまで以上に素早く動き回り、ブロックをかわす為斜めに飛び上がると、そこにドンピシャなトスが来て、あっという間にスパイクが決まる。
どわっ!?と湧く歓声の中、ゾクゾクと全身を走る何とも言えない高揚感にたまらずふるりと身体を震わすと、コートの中のヒナちゃんと影山君が睨み合いながらも少々乱暴なハイタッチをしていて、思わずふきだしてしまった。
でも、あの二人のハイタッチは初めて見た気がする。
この試合の中で、影山君もヒナちゃんも、そして烏野のバレーも、何かが確実に変わってきているようだ。
「っさァ~~~、20点台!大詰めだぞ......!」
「このセット獲れなきゃ、烏野終わりだからな......!」
「!」
滝さんと嶋田さんの言葉に、ハッとする。
ここで烏野が終わるなんて、烏野のバレーを見られなくなるなんて、そんなの絶対に嫌だ!
「っ、ヒナちゃんナイッサー!」
「!」
思いの丈をぶつけるように大きな声で応援すると、向こう岸のサーブポジションに居るヒナちゃんにも声が届いたらしく、ちらりと私を見て一度だけ頷いた。
そういえばさっき、影山君も同じ反応を返してくれたなと思っていれば、サーブ開始のホイッスルが鳴り、ヒナちゃんのサーブが繰り出される。
ボールは低い軌道を描き、ネットに当たってしまったもののギリギリのところで青葉城西のコートへ入った。
「ネットイン!前前前!!」
「ふんっ」
「まっつんナイスカバー!!」
それでもさすが強豪校と言うべきか、不安定なボールはコートには落ちずに直ぐには得点にならない。
しかし、そのまま烏野のチャンスボールになったそれはセッターの影山君のトス、エースの東峰さんのレフトからのスパイクで烏野がまた得点を連取した。
これで2点差、あと3点でこのセットを獲れる!
手すりを掴む手に力が入ると、ここで青葉城西がタイムアウトを取った。
「っふ~~~......やべぇ、すげぇ手汗かいてんだけど」
「俺も俺も。眼鏡曇るんじゃないかって勢いで熱い」
「季都は大丈夫か?ちょくちょく水飲めよ......って......」
「.......このセット獲るまで、飲めないです......」
「.............」
私がバレーしてる訳でもないのに、心臓がバクバクとうるさくて、全身の血が沸き立つような、筋肉が熱を持つような、硬い骨さえも体温で溶けてしまうのではないかってくらい、とにかく熱い。
でも、ほんの少しでも気を緩めればあっという間に青葉城西が烏野の息の根を止めてしまいそうで、どうしても水分を取る気にはなれず、顔の脇に下がってきた髪の毛を耳に掛けるだけで、後は祈るように烏野のベンチへ視線を送っていた。
私の気迫に釣られたのか、滝さんも嶋田さんもそのまま何も喋らず青城のタイムアウトは終わる。
サーブが終われば後衛のヒナちゃんはリベロの西谷君と交代するので、コートに居なくなる。
ヒナちゃんが居ないとなると当然変人速攻は使えない訳で、今が好機とばかりに青城はしっかり攻め込んできて、連続得点......ブレイクをして、同点にまで試合を進めてしまった。
今度は追い付かれた烏野がタイムアウトを取り、試合は一進一退を繰り返す。
「.............っ、」
先の展開が全く読めない、本当にこのセットがどうなるかわからない状況に大きく息を吐きながら烏野のベンチを見ていると、セッターの影山君と同じ一年生レギュラーであるツキシマ君が何やら二人で話し込んでいるのが見えた。
あの二人が話してるの、今まであんまり見なかった気がするな......?
音駒との練習試合見からの記憶を辿ってみても、影山君とツキシマ君があんな風に話していたことは多分無かったよなと首を傾げていると、烏野のタイムアウトも終わった。
両チームのタイムアウト後も、試合展開は変わらず取って取られてを繰り返し、息が詰まるような緊迫状態が続く。
そんな中、少し変わったのは影山君が連続してツキシマ君へトスを上げ始めたことだった。
「.............?」
ツキシマ君はフェイントで一度得点したものの、何故か同じ手を二度、三度繰り返して青城にボールを拾われている。
まるでブロッカーから逃げているようなそれに謎が深まるも、それでも影山君は再びツキシマ君へトスを上げた。
「.............あっ!?」
瞬間、ツキシマ君の力強いスパイクが打ち放たれる。
青城のリベロが今までより少しだけ前に構えたからだ。
......もしかして、今までのフェイントはわざとボールを拾わせてた?リベロを少しでも前に誘き出す為?
このセットを賭けた状況で、そんな理性的なトラップを仕掛けるなんて......一体どれだけ肝が据わってると言うのか。
しかも、ツキシマ君は、一年生。これからもっと強くなるし、きっとその明晰な頭脳もずっと研ぎ澄まされていくはずだ。
「.............」
ツキシマ君の手腕に思わず呆けてしまい、目を丸くしたまま黙ってしまうと......金色の彼が眼鏡越しにちらりと見てきた気がしたが、直ぐに他の所を見ていたので、多分私の思い違いだろうと小さくため息を吐くのだった。
垣間見えるは、カラスノシンカ
(......庶民の僕には声援も無しですか、そうですか。)