Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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点を獲っては獲られての第1セット目。烏野15点、青葉城西22点となったところで再び及川さんがサーブポジションへ入った。
相変わらず弾丸のようなキレのあるサーブは真っ直ぐに烏野のコートへ向かい......同じ二年生の西谷君と田中君の丁度ど真ん中に着地する。
二人ともレシーブの体勢には入っていたものの、直前のところでどちらが取るか迷ってしまったようだ。
「っ、お見合い......!」
「今度は“間”狙いか......!絶妙なトコに打ってきやがる......」
二人のミスプレーに思わず眉を下げてしまうと、滝さんも顔を顰めながら睨むように及川さんへ視線を寄せた。
一方、当の本人である及川さんは冷静沈着な姿勢を崩さず、何度かボールを床に弾いた後、ゆっくりとサーブモーションへ入る。
今度はどこに強烈なサーブが来るんだろうと固唾を飲んで見つめていると、あろうことか放たれたボールは先程のものよりずっと弱々しい軌道を描き、烏野のコート前寄りでふわふわと着地した。
「うわっ、うそぉ!?前ぇ?」
「チクショー、うめぇな!強烈なサーブ連打からの、軟打......!」
「またドギツイのくるぞってつい後ろに構えてるから、それで前落とされちゃ反応遅れるわなァ......」
まさに鬼のようなコントロールを見せる及川さんのサーブに、選手達だけでなく応援席の私達も振り回されてしまう。
しかも、今のサーブで青城は24点。つまり、第1セット目のセットポイントを掴まれてしまった。
「くっそ~~~、あいつのサーブに何点獲られたんだ......!」
「田中君の時といい、今といい......及川さんのサーブ、本当に何なんです......!?」
「及川君、凄いですよねーーーっ」
「!!」
ついに追い込まれてしまった烏野に滝さんと二人でぎりりと歯を食いしばっていると、先程滝さんと話していた他校の女の子が楽しそうに話しかけてきた。
おそらく及川さんのファンであろうその子をつい睨んでしまうと、隣に居る滝さんが「コラ、キト、女の子がそんな顔すんじゃねぇ」と私の額をぺちんと軽く叩く。
また、先程の発言をした子の友達だろう別の子が「あっ、コラ!おじさん達は黒い方の応援だってば!」とその子のことを慌てて諌めてくれたので、応援席がこれ以上炎上することは無かった。
「うん、凄いと思うよ」
「?」
滝さんの大きな手でぐりぐりと雑に頭を撫でられていると、隣りの嶋田さんは落ち着いた声音でそんな言葉を述べた。
「────バレーはさ、“サーブを受ける側”の方が得点しやすいんだ。先に攻撃を仕掛ける事になるからね。で、今度は得点した側がサーブ権を持つから、普通に行けば交互に点が入る筈なんだよね」
「.............」
「でも、あの及川君は、サーブだけで大量に点を獲ってる」
「.............」
「もしもバレーに“究極のプレー”があるとしたら、サーブだけで25点全部を獲ることだと思うんだよね」
嶋田さんは最後に小さく「まぁ、無いとは思うけど......」と付け加えて、真っ直ぐに青葉城西の及川さんへ視線を向けた。
「相手に攻撃のチャンスすら与えない。それが、サービスエースだから」
「.............」
その視線に釣られるように私も滝さんも、青城を応援する女の子達も及川さんを注目すると、怖いくらいの気迫に満ちた及川さんが再び強烈で重いサーブを放つ。
明確に狙いをつけられたのは、三年生の澤村先輩と東峰先輩の間で、一瞬の動揺が二人の間に走ったものの...澤村先輩の「俺が取ォォォる!!!」の一言で、何とかお見合いは避けられた。
流石主将と言うべきか、見事なレシーブはセッターポジションにいる菅原先輩へ綺麗に返り、そのボールは烏野のエースである東峰先輩へ託される。
囮のヒナちゃん、ライトの田中君までを囮にした東峰先輩のバックアタックは重い一発となったが、相手はバレーボールの強豪である青城だ。
「花巻ナイスレシーブ!」
東峰先輩の打ったスパイクは青城の3番に拾われた。
しかし、そのボールは幸いにも烏野のコートへ戻ってくる。
「日向ダイレクトだァァア!!」
「!!」
その様子を見て真っ先に声を上げたのは、現在ウォームアップゾーンに居る影山君で、その声に促されるようにヒナちゃんがボールに向かって勢いよく飛び上がる。
「へァッ!」
「え」
「へたくそーーーーーーっ!!!」
「うっせーなーもーーーー!!!」
打点は充分高かったものの、ボールを打つタイミングが合わなかったのか、ヒナちゃんの手に辛うじて当たったボールは“ぼこっ”という奇妙な音を立てながら、へろへろと青葉城西のコートへ落ちて行く。
思わずもれてしまった私の声に被るように、影山君からの怒りの咆哮が上がり、ヒナちゃんは勘弁してくれとでも言うような悲鳴を上げた。
そんな予想外な展開であっても、青城はきちんとボールを繋ぐ。
岩泉さんがぎりぎりで上げたボールをセッターの及川さんが受け入れ、それと同時に背の高い12番がスパイクモーションに入った。
その正面に居るのは、身長では到底敵わないヒナちゃんだ。
青城がマッチポイントである今、ここを抜かれてしまえばこのセットを青城に取られてしまう。
ああ、まずい、誰か、他にブロック飛べる人は......
「.......えッ!?」
焦る思考の中で、たった今見えた光景にたまらず目を疑った。
今、ヒナちゃんが、たった一人で、ブロック1枚で、青城の12番のスパイクを止めたのだ。
「あの、10番っ」
「また止めたーーーっ!!?」
「後ろォッ!!!下がれーーーッ!!!」
ヒナちゃんのナイスブロックに観客席がどっと湧く中、高い放物線を描きながら青城コートの後方へ飛んでいくボールの行方を必死に追う。
青城のリベロが床に飛び込む形で腕を伸ばしたものの、ボールはコートへしっかりと着地した。
途端、線審の旗が勢いよく上がり、第1セット終了のホイッスルが鳴り響く。
烏野15点、青葉城西25点。第1セットは相手に先取される形となった。
「あーっ!!アウトかーーーっ!!!」
「ぐああああっ!!!」
「惜しいいいい!!でもナイスブロックヒナちゃんんんん!!!」
ナイスブロックではあったものの、そのままブロックアウトになってしまったヒナちゃんのプレーに、嶋田さんも滝さんも私も思わず頭を抱えた。
その様子を及川さんファンの女の子達がびっくりした顔を向けたけど、大体いつもこんな感じで応援観戦しているのでどうか見過ごして欲しい。
その間にも選手達は忙しなく動き回り、素早くコートチェンジをしてからミーティングに入っていた。
「あ、及川さん達のチームがこっちになった!」
「及川さん近い!はぁ、格好良い~♡顔綺麗~♡」
「.............」
買ってあったサイダーに口をつけながら、彼女達の会話を聞いてちらりと青城の方を見る。
何やら岩泉さんと背の高い2番さんが真面目な顔で話していて、噂の及川さんが楽しそうな様子で声をかけた後、なぜか岩泉さんから頭突きを食らっていた。
相変わらず肉体的なコミュニケーションをとる二人だなとひっそり苦笑していれば......岩泉さんから逃げるように距離をとった及川さんが、おもむろにこちらへ顔を上げる。
一瞬ギクリとしたものの、私から少しだけ離れたところにいる及川さんファンの女の子達が「きゃー♡及川さーん♡」と甘い声を上げ、及川さんもそれに返すように端正な顔をにこりと爽やかに綻ばせた。
おそらくファンサをしたのだろうと思い直し、どこかほっとしてサイダーのフタをゆっくりと閉めていれば......及川さんが、その長い指を真っ直ぐに烏野の応援席へ向ける。
その指先の標的は.......私だった。
「.......え......?」
「......キト?指差されてんの、お前?」
及川さんの行動に、私を含め両隣に居る嶋田さんや滝さんも同じように驚いた顔をして、私と及川さんを慌ただしく交互に見る。
私よりも混乱している二人が居たからか、及川さんの氷細工のような冷たい、鋭い視線を前にしても何とか逃げ出さずに済んだ。
「.............っ、負けませんから!」
「!」
「.............」
キッと眉を上げて、向かいの応援席の青城コールに負けないくらいはっきりとした声でそう言うと、嶋田さんと滝さんは大きく目を丸くした。
対照的に、及川さんは直ぐに反応を示さなかったものの......腕を下ろし、小さく挑発的に笑ってから、ゆるりと青城のベンチへと戻っていく。
「.......お前、あの及川君とタイマン張るとか凄いな...?」
「.............」
「.......季都ちゃん?大丈夫か?」
「.............」
滝さんと嶋田さんに様子を窺われながら、全身にどっと流れた冷や汗を振り払うようにして一度ぶるりと身体を震わせた。
これは、断じて怖かったからとかじゃなく、なんと言うか、その、そう、いわゆる武者震いである!
「っ、そうだ!ジャンプフローター!!」
「おわッ!?え、何?どうした......?」
緊張感から解放された頭で直ぐに思い浮かんだのは先程の嶋田さんの話で、勢いよく嶋田さんに話を振ると戸惑いながらも会話に応じてくれた。
「山口君がそれを使えたら、烏野、もっと強くなるなって思いました!」
「.............」
「私、バイト頑張ります!それで、嶋田さんと山口君の練習時間もっと作って、山口君にはどんどんサーブ上手くなってもらって......あの及川さんに負けないくらい、“サービスエース”獲ってもらいましょう!で、究極のバレー、烏野がやってやりましょう!」
「.............」
拳を固め、興奮気味にふんすと息巻く私を前に、嶋田さんはぽかんと呆気に取られたような顔をして、少し黙ってしまった。
そんな嶋田さんを見て、何かおかしなこと言ったかなと徐々に不安になっていると、嶋田さんはゆるりと眼鏡を掛け直してクスクスと小さく笑い出した。
「.......それは......また......」
「?」
「.......季都ちゃん、天使かよ......」
「いや、人間ですけど......え、そんな面白いこと言いました?」
私的には士気をあげる為というか、烏野バレー部の為に部外者の私が具体的な裏方サポートをするにはこれだろうと考えて話したことだったのだが、いつものよく分からない冗談で返されてしまい思わず眉を寄せて聞いてしまう。
「......いや......そこまで言われちゃ、俺もガッツリ時間作って、アイツに教えるべきだなって思ってさ」
「お、師匠の方もスイッチ入った感じか?」
「だからその師弟云々やめろって......別にそんな大袈裟なことじゃねぇよ」
滝さんの軽口に嶋田さんはひらひらと片手を振り、そのまま観客席の手すりへ腕を付いた。
それとほぼ同時に、第2セット開始のホイッスルが鳴り響く。
1セット目を取られた烏野は、次のセットを取らないとここで敗退だ。
先程のゲームは及川さんの強烈なサーブと、影山君の暴走がかなりの痛手となった。
烏野の運命がかかった第2セット、誰が選抜されるんだろうと烏野のコートを見ると、どうやらさっきのゲームの最後のメンツでいくようだ。
セッターは三年生の菅原先輩で、コートには入らない一年生の影山君の頭を、二年生の田中君が軽く叩いてからコートへ入っていく姿が見えた。
男バレに関わるようになってから知ったことだけど、田中君のああいう面倒見がいいところが素直に凄いなと思うし、友達として心から尊敬する。
流石、烏野のエアポンプ的存在だ。
「......ん?烏野2セット目、少しローテ回したな...青城は1セット目と一緒か」
「......確か、伊達工の時も2セット目、ローテ回してましたよね?ヒナちゃんと7番がマッチアップしないようにって」
「うん......でも、今回は何で回したんだろ?」
「.............」
嶋田さんの疑問が気になり、烏野のコートをよく見る。
きっと何か、烏養さんの作戦があるはずだ。
「......まー、とにかくサーブレシーブ上げないことにはどうにもなんねーよな......」
「うん......及川クンのサーブなんとかしないと、正直烏野に勝ち目無ぇぞ......」
「.............あ......?」
「ん?どうした?」
烏野の少し回したローテーション、脅威的な及川さんのサーブ。
この二つを考えて、烏野の陣営と青城の陣営を見てふと思い付いた。
もしかして、と思ったけど、予測に自信がある訳でもないので慌てて「いえ、何でもないデス」と首を振り、その流れでちらりと烏野のベンチに座る烏養さんの様子を窺うと、烏養さんは何やら難しい顔をして静かに選手達を見ている。
「.............」
......今の烏野のローテは、及川さんがサーブポジションについた時、後衛が左から東峰先輩、澤村先輩、ヒナちゃんとなる。
ヒナちゃんは後衛の時リベロの西谷君と交代になるから......烏野ではおそらく、レシーブ力が一番強い陣営になるのではと思ったのだ。
及川さんのあの強烈なサーブを、もし一本で切れる可能性があるとすれば......リベロの西谷君か、キャプテンの澤村先輩がレシーブで上げるのが一番成功率が高いと思う。
また田中君の時みたく誰かが狙われるのだとしたら......出来るだけ澤村先輩と西谷君に誘導して、その分二人にはボールの軌道をしっかり見えるようにする、とか。
でも、そうすると他のメンツは二人の邪魔にならないように、例えばラインギリギリのところに居るとか、ネット際に居るとかになるし、そもそもあの殺人サーブをたった二人で守り切れるのかとも思う。
とは言っても、素人の付け焼き刃で考えたことであり、バレーのことも烏野のこともまだまだ全然知らない私なのだから、変に考え過ぎても毒にも薬にもならないなと一人で勝手に納得していれば......いつの間にか烏野2点、青城2点と同点になっていて、今得点した青城のサーブポジションについたのは、渦中の及川さんだった。
「おっ」
「んっ!?」
「......ひえ......」
驚いた顔を浮かべる嶋田さんと滝さんを隣りに、私は自分の想像が現実になる様を目の当たりにして、うっすらと顔を青くする。
「サーブレシーブ......二人体制......!」
センターライン、またはネット際ぎりぎりにツキシマ君と東峰先輩、田中君が寄り、澤村先輩と西谷君が広いスペースでサーブレシーブを構えていた。
真っ向勝負といきましょう
(......本当に、少数精鋭で及川さんのサーブを迎え撃つ気だ!)