Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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嶋田さんから折り入って相談されたこと、それは「坂ノ下商店」のことだった。
烏野のコーチを引き受けた烏養さんは、母方の実家である坂ノ下商店を切り盛りしている。
いくら地元の小さい商店とはいえ、平日休日祝日ほとんど毎日活動している男バレのコーチをやりつつ、お店を今までと同様に一人で切り盛りしていくなんて不可能だ。
そこで、私を坂ノ下商店に投入して烏養さんの留守を守ってほしいというのが、嶋田さんから受けた相談事の概要だった。
「断る」
快諾した私とは対照的に、烏養さんは相変わらずの仏頂面で嶋田さんの提案を却下した。
「あのなぁ、お前一人でコーチも店も回せる訳ないだろうが」
烏養さんの返答に、嶋田さんは眼鏡を掛け直しながら呆れたような表情を見せる。
嶋田さんから相談を持ちかけられたのが昨日のこと。今日は二人で坂ノ下商店へ出向き、張本人である烏養さんに話しにきたのだが、ことはそう上手く運ばないようだ。
「男バレのコーチは別に毎日行くこたしねぇし、店番も今は俺がメインに出てるだけで、他にできる奴いるから問題ねぇ」
「いや、お前の事だから絶対毎日行くようになるね。中途半端が一番嫌いなくせに」
先を見据えた嶋田さんの言葉に、烏養さんは面白くなさそうな顔をしつつ「うるせー」と乱暴に返す。
二人の会話を聞きながら、私は嶋田さんの後ろで取り敢えず大人しくしていた。
下手に口を挟むより、黙っていた方がここは得策かと思ったからだ。それに、成人男性同士の言い合いに参加する勇気もなかった。
「それに、合宿の間はどうすんだ?ゴールデンウィーク恒例の合宿あるんだろ?今まではお前が居たから店開けてたんだろうけど、今年はおばさんにメイン任せるのか?それとも全部休みにするのかよ?」
「......それは......これから考えようと」
「考えてどうなることじゃないだろ。だから提案してんだっつの」
「.............」
腕組みをしつつ普段より少し強めの口調で発言する嶋田さんに、烏養さんはついに黙り込んだ。
その際小さな舌打ちが聞こえたが、嶋田さんは完全にスルーしている。
暫く二人とも無言の時間が続き、重たい空気に所在の無さを感じていると、烏養さんは頭を掻きながら大きなため息をもらした。
「......音駒戦までとはいえ、烏野のコーチ引き受けた以上、何かしらを犠牲にする覚悟は出来てる。が、俺以外の誰かの、しかも俺よりずっと歳下のガキを犠牲にするつもりは微塵もねえ」
ここに来て、初めて烏養さんと目が合う。
鋭い視線に心臓が縮み上がる感じがしたが、烏養さんの発言に引っ掛かるところがあり思わず首を傾げた。
「......え......私、何か犠牲になるんですか?」
たまらず質問してしまうと、烏養さんは片眉を下げ怪訝そうな顔をする。
「そりゃそうだろう、平日も休日も祝日も働くことになりかねねぇぞ」
「......え?それだけですか?別に、普通?というか......今までと変わらないんですが......?」
「あ?」
「平日でも休日でも普通にバイト入れてますし...あんまり気にならないというか......あ、勿論扶養外れない程度に計算はしてますが」
「.............」
私の言葉に烏養さんは目を丸くしているが、実際沢山バイトしてるのだから本当に気にならないのだ。
犠牲、なんて言葉が出て来たから少し驚いてしまったが、要は自分の代わりに私を店に長時間居させてしまうのが耐え難いということなのだろう。
だけど、正直私は全く気にならないし、逆になんでそんなに気にしてしまうのかと不思議に思ってしまう。
「......嶋田んとこ、そんな人居ねぇのか?」
少しの間を置いてから、烏養さんは嶋田さんの方へ視線を戻した。
「いやいや、季都ちゃん俺のとこ以外にも色々やってるから。勿論、俺のとこメインでは出てもらってるけど」
な?と嶋田さんに話を振られ、「嶋田マートの他に滝ノ上電器店と内沢クリーニング店にはヘルプで入ったりしてます」と答えれば、烏養さんはまた驚いた顔をした。
「オイオイ、俺の知り合いっていうか、バレーしてるヤツんとこばっかじゃねぇか!」
「そりゃそうだ、俺が紹介してんだもん」
「オイオイオイオイ......女子高生何させてんだお前......」
「変な風に言うなよ!全部同意の上だっての!」
「あ、あの......」
何やら雲行き怪しい流れになってきたので思い切って口を挟めば、成人男性二人の視線はすぐにこちらへ向いた。
後退りしそうな両足を懸命に踏ん張り、制服のスカートを握りしめながらゆっくりと息を吸う。
「私、働くの好きなので大丈夫です。むしろありがたいくらいです。私にとってマイナスなことは何一つないのですが......本当に不要であるなら、別のバイト入れるので諦めます」
「.............」
私の言葉に烏養さんは何とも形容し難い表情を返してくる。
一方、嶋田さんはなぜか意地悪そうににやりと小さく笑った。
「......な?季都ちゃんはこういう子なのよ。この天使、逃したら100パー損するぞ!」
「......普通に人間ですが、真面目に働きますよ」
「............キト、お前......もしかして、友達居ないのか?」
「なっ、居ますよ!いっぱい!予定ある日はちゃんと友達と遊んでます!」
「お、おう、すまん」
「季都ちゃん必死かw」
なんとも不名誉なことを言われ思わず声を荒らげると、烏養さんはたじろぎ嶋田さんはふきだした。
いやでも本当に友達は居るし......いっぱいっていうのは少し盛ってるかもしれないけど、でも、別に遊ぶ友達が居ないからバイトに勤しんでいる訳ではない。断じて無いのだ。
「............キト」
烏養さんは頭を掻きながら大きなため息を吐いた後、おもむろに私の名前を呼んだ。
「......ちょこちょこ手伝って貰ってるから知ってるだろうけど、あんまり羽振りのいいバイトじゃねぇぞ?」
「構いません。それに、そこら辺は嶋田さんが何とかしてくれるかと」
「え」
「なるほど。じゃあ、宜しく頼む」
「はい、頑張ります。宜しくお願いします」
「ちょっと待って?俺それ初耳なんだけど?ねぇ、ちょっと!」
慌てふためく嶋田さんを他所に、烏養さんと私は固い握手を交わすのだった。
再起動の舞台裏
(さぁ、準備を始めよう。堕ちた烏をもう一度飛ばす為に。)