Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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先程同じクラスの西谷君と1組の田中君にそこで待ってろと言われたので、邪魔にならないところで二人を待っていると暫くして烏野の真っ黒なジャージに着替えた二年生二人が元気よく現れた。
「待たせたな!わりーわりー!ミーティングやってた!」
「ううん、全然!それより、本当にお疲れ様!二回戦突破おめでとう!」
もう、すっごいはしゃいじゃったよ!と興奮気味に伝えると、西谷君と田中君も誇らしげに笑って「おーよ!」と揃ってガッツポーズを見せる。
「広瀬、明日も来れんのか?」
「あったりまえじゃん!絶対行くよ!」
「マジか!よっしゃー!あ、今日も来てくれてありがとな!」
「ううん、私が試合見たくて来てるんだから全然だよ。というか、さっきの!西谷君ナイスレシーブ!最後に足で上げたやつ、めっちゃ凄かった!もう、頭の中まで鳥肌立った!」
直ぐさっきまで観ていた伊達工戦のプレーを思い出しながら西谷君に伝えると、西谷君は満面の笑みを浮かべて「おう!あれは俺もテンション上がった!」と自分の右脚を軽く叩いた。
「今回こそあの鉄壁で弾かれたボール全部上げてやるって思ってたから、それが足に出たな~!だけど上げ損なったもんも多くて、やっぱまだまだ全然足んねぇわ」
「.............」
西谷君の言葉に、思わず口を閉じる。
会場が湧く程の凄いプレーをしたというのに、西谷君自身はまだまだ全然満足していない。
バレーボールに対するストイックさと凄まじい向上心に圧倒されて目を丸くしていると、隣りに居る田中君が楽しそうに笑った。
「さすがノヤっさん!カッケェーぜ!......で、広瀬、俺のプレーはどうだったよ?ンン?」
「田中君は......スパイク打つ時の田中君語がめちゃめちゃ面白かったよ。んドュス!とかホァラァッ!とか」
「そこ!?え、他にも何かあんだろ!?」
田中君の言葉に軽い冗談を返すと、田中君は大袈裟に慌てて私の両肩をガクガクと揺さぶる。
その隣で西谷君はお腹を抱えて笑っていた。
「スパイクとか!レシーブとか!色々と格好良かっただろ!?な!?」
「うん、めちゃめちゃ格好良かったけど、それを自分で強請っちゃダメでしょう」
「なんっだそれ!俺を!もっと!褒めて!ください!!」
「龍は元々カッケェーから大丈夫だ!気にすんな!」
必死な田中君と、それのフォローになりきれない言葉をかける西谷君が可笑しくてたまらずふきだしてしまった。
やっぱりこの二人、本当に最高だ。
「でも、田中君のスパイク決まるとなんか、“絶対大丈夫だ“って思ったよ。鉄壁相手でも、きっと勝てるって。あと、そうだ、スパイクの打ち分け凄かった!あれってちゃんと敵のブロックとかレシーブとか、リベロの位置見えてるの?」
「お、おぉ......いつもじゃねぇけど、時々よく見える時があるぜ。そん時は気持ちいい程バッチリなスパイク決まるから、すげーテンション上がるんだよ!」
突然真面目な事を言い出した私に少し戸惑いながらも、田中君は嬉しそうに答えてくれた。
その言葉を聞き、改めてスパイカーの技術の高さを知る。あんな一瞬の間に敵陣の把握とコースの打ち分けをやってのけるなんて、本当にとんでもないことだ。
「スパイクと言えば、旭さん!ウチのエースどうだったよ?」
「!」
西谷君の質問に、たまらずパッと顔が明るくなる。
「東峰先輩、すっごい格好良かった!スパイクの音がね!今まで聞いたことないような音でね!こう、文字通り鉄壁を切り崩してる感じがもう、めちゃめちゃ格好良かった!最後のスパイクとかブロック3枚もついてたのに全然力負けしてなくて、バーン!って打ち抜いて!なんて言うか......心が震えた!烏野のエース、半端ないなって思った!」
「だろ?旭さん超カッケェーだろ!あの人が烏野のエースとか、最強で最高だよな!」
テンションの上がった私につられて、西谷君も興奮気味に話してくるものだから周りも見ずにうんうんと大きく頷いた。
だって、東峰先輩のプレーは本当に凄かったのだ。一度叩きのめされた鉄壁を相手に真っ向勝負を挑んで、リベンジを見事に成功させてしまうなんて。
バレーボールにしても、人間としても、本当に格好良いという言葉に尽きる。
「.......何黙ってんだよ旭。お礼くらいちゃんと言えって」
「えっ、あっ、ちょっとスガ!!」
「!?」
西谷君と盛り上がってる途中、後ろからそんな声が聞こえてぎくりとしながらおずおずと振り返る。
そこには烏野のジャージを着たアイボリーの髪の菅原先輩と、渦中の人物である烏野エースの東峰先輩がそわそわと狼狽えながら菅原先輩に抗議の目を向けていた。
その後ろには烏野主将の澤村先輩が居る。
どうやら烏野排球部の三年生御三方がこのギャラリー席へやってきたようだ。
「広瀬さん、今日は応援ありがとな~。すげぇ嬉しかったよ、マジで」
「そんな、とんでもないです!こちらこそありがとうございました!二回戦突破、おめでとうございます!」
菅原先輩の言葉に慌ててペコペコと頭を下げる。
そんな私を見て、菅原先輩はへらりとその綺麗な顔を甘く緩めた。
「うん、ありがとう。と、広瀬さん一人?商店街の人達は?」
「あぁ......嶋田さんと滝さんなら、あちらの......青葉城西戦を見てます」
「!」
菅原先輩の言葉に、少し戸惑いながらも隣りのギャラリー席を指差すと、烏野の空気が一瞬ぴんと張りつめる。
それはそうだろう。伊達の鉄壁を破り、二回戦を突破した烏野が、三回戦目で対峙することになるだろう相手だ。
そして、青葉城西高校はバレーボールの強豪校であり、西谷君達の話を聞く限りお互いに正メンバーで戦ったことがないという。
「......そういえば、広瀬さん常波戦の時、青城の及川君と一緒に観てたべ?もしかして知り合いだったりする?」
「......あ、えっと......そういう、訳では......」
「スガさんそれ、たまたま声掛けられただけっぽいッスよ。この前うちと練習試合したこととか話してたらしいです」
「あれ?なんだ、お前らもう聞いてたの。ごめんね広瀬さん、ちょっと気になっちゃってさ」
質問された内容に少しどきりとしていれば、私をフォローするように田中君が代わりに答えてくれる。
それを聞いて菅原先輩は目を丸くしつつも納得したように一度頷き、西谷君達と同じ質問をしたことを詫びてくれた。
菅原先輩に首を振りながら、これは知り合いと言えば知り合いになるんだろうかと少し頭を悩ませたが、下手なことを言って“今”混乱を招くよりはずっといいだろうと思い、結局訂正はしなかった。
「......そろそろ一年も来る。俺達も試合見よう」
澤村先輩の一言で、少しだけ空気の変わった烏野男バレが隣りのギャラリー席へ移っていく。
「広瀬も見るだろ?青城の試合!」
「あー......凄く見たいんだけど、実はこれからバイトなんだよね。なので、今日はもう帰ります」
「え、これから!?そりゃ大変だな!なに、嶋田マート?」
「ううん、坂ノ下。バイトは好きでやってるし、全然平気だよ」
驚く西谷君に軽く笑うと、「坂ノ下なら、じゃあまた後でな!」と返され思わずどういうことか聞いてしまった。
どうやら男バレは、青葉城西戦を見た後に一旦烏野高校の体育館へ戻り、明日の為のミーティングを少しばかりやるそうだ。
西谷君と田中君は、その帰りに坂ノ下に顔を出してくれるつもりらしい。
疲れてるだろうし、真っ直ぐ帰った方がいいんじゃないかと伝えてみるも、帰りには腹が減るから疲れていようがなかろうがどの道寄る!と力強く言われてしまった。
じゃあまた後で、という言葉で一旦締め括り、西谷君と田中君は青葉城西の試合を見にこの場から離れていった。
青葉城西戦は気になるものの、バイトに遅れる訳にもいかないので一つため息を吐き、さぁ行こうと気持ちを改めたところで、「広瀬さん」と小さな声で名前を呼ばれる。
そちらへ顔を向けると、てっきり青葉城西の試合を見に行ったと思っていた東峰先輩が居て、たまらず目を丸くしてしまった。
「え......わ、私、ですか?」
東峰先輩とは正直なところそこまで話したことがないので、若干緊張しながらおずおずと尋ねると、東峰先輩は片手で頭の後ろをかきながらしどろもどろに言葉を紡いだ。
「あー、その......さっきは、ありがとう......盗み聞きみたいになっちゃって、申し訳なかったね......」
話された内容に一瞬何のことかと思ったが、直ぐに先程の西谷君との会話のことだと思い当たり、少し顔を赤くしつつ「だ、大丈夫です!」と返す。
本人にダイレクトに聞かれてしまったという恥ずかしさはあるものの、東峰先輩が謝るようなことは全くないのだ。
「......広瀬さんは、その......俺と西谷の一件は、知ってる?」
「.............」
ひどく言いにくそうな様子で東峰先輩から聞かれ、返答に迷ってしまう。
以前西谷君から「エースが部活に来ねぇ!」という愚痴を屡々聞いてはいたが、内部事情的なことは正直よく知らなかった。
結局、「詳しい事は、あまり......」と何とも言えない返答をしてしまうと、東峰先輩は「そっか」と頷き力無く笑う。
「......別に、俺が凄い訳じゃないんだ......」
「.............」
「......レシーブが上がって、トスが上がって、俺はスパイクを打たせてもらってる。レシーブがなければ、トスがなければ、俺は打てないし、何も出来ない」
「.............」
まるで独白のような東峰先輩の言葉を、ただ黙って聞き入った。
どこか影のある瞳をゆっくりと伏せて、東峰先輩はおもむろに息を吐く。
「......本当に凄いのは、アイツらなんだ。......格好良くて、頼もしくて。本当、ヒーローみたいなヤツらだよ」
「.............」
俺には、勿体無いくらい。
そんな言葉が聞こえたような気がした。
「......わかります。烏野男バレは、本当に格好良いヒーローです。......だから、戻って来てくれたんですね」
「!」
ぽつりと思考が口から零れて、それに東峰先輩が小さく反応する。
ゆっくりと息を吸い、真っ直ぐと東峰先輩を見据えた。
「......烏野男バレが好きで、とても大切だと思ったから、戻って来てくれたんですよね」
「.............」
「......私はまだ、バレーのことも男バレのことも全然わかってないし、そもそも部外者なんですけど......でも、烏野のエースが東峰先輩で良かったって思います」
「.............」
「とても優しくて、強くて、格好良くて......やっぱり、ヒーローみたいでした。西谷君が言った通り、最強で最高のエースだと思います」
「............!」
音駒との練習試合の時も、一回戦目の常波戦の時も東峰先輩を凄いと思ったけど、先程の伊達工戦は頭一つ分抜けて本当に凄かった。
烏野のエースという存在が、どんなに頼もしいか身を持って知ったというか、心に深く刻まれたというか。
あぁ、この人が烏野のエースなんだなと確信した瞬間が、あの伊達工戦には確かにあったのだ。
「......明日も、いっぱい応援します!なので、頑張ってください!」
お気に入りのヘルメットを胸に抱きながらニッと歯を見せて笑う私に、東峰先輩は目を丸くして暫くぼう然としていた。
しかし、一つため息を吐くと、次第にへらりと柔らかな笑顔になり、「......うん、ありがとう」と優しく笑ってくれるのだった。
▷▶︎▷
原付バイクで仙台市体育館を後にして、坂ノ下商店へ到着する。
坂ノ下のエプロンを付けてから烏養さんのマダムと店番を交代し、その際に今日の試合結果や感想を爆発させてしまい、マダムには「キトちゃんもすっかりバレー好きになったねぇ」とケラケラ笑われてしまった。
暫くしてからマダムが戻り、店内に一人になったところで小さく息を吐く。
時間を確認しようとポケットから携帯を取り出すと、いつの間にか誰かからメッセージが入っていたようだ。
相手も確認しないままそれを開いた、瞬間。及川さんの名前が見えて思わずぎくりと身体を強ばらせる。
え、え?な、何?どういうこと...っていうか、どうして私に?もしかして、送り間違えとか?
思い切り動揺したまま、一先ず内容を確認する。
【今日はお疲れ様~ まさかキトちゃんと会えるなんて思ってなかったから、めちゃめちゃびっくりしたよ(笑)明日はどーぞヨロシクネ☆】
及川さんのメッセージから、青葉城西が三回戦目の相手に決まったことを確信した。
無意識に息が詰まり、ゴクリと唾を飲み込む。
ドクドクと不穏に脈打つ心臓に苛まれ、思わず両手で持った携帯を力無く握り、瞳を閉じた。
『......キトちゃんの希望を、願いを、祈りを、全て叩き潰す悪い男に、頑張れなんて言っちゃダメだよ』
瞼の裏に思い出すのは、及川さんの優しい笑顔と突き放すような冷たい言葉だ。
ギャラリー席で言われた直後は、もしかして何か怒らせてしまったのではと不安に思っていたが、今こうやって連絡をくれるということは、多分怒らせた訳では無いんだろう。
だけど、及川さんの言葉には嘘や冗談なんてものは微塵も感じない。
おそらく全部及川さんの本音で、本心からの言葉だ。
......そんな言葉を貰った相手に、一体どんな答えを返せばいいというのか。
「.............」
【お疲れ様です。明日は、負けません】
明日はよろしくお願いします、と打とうとしたが、寸でのところで切り替える。
私が試合をする訳では無いけど、でも、言われっぱなしのまま烏野の応援に行くのは何となく嫌だったのだ。
烏野が、青葉城西に。私が、及川さんに負けないように。
ありったけの気持ちを、闘志を言葉に詰め込むと、少し間を開けてから及川さんから返信がきた。
【こっちこそ、明日「も」負けません(^^)】
【絶対泣かせてあげる】
続けざまにきたメッセージに、心臓がナニカにドスリと突き刺されたような心地がした。
そこはかとなく恐怖を覚えて震える指先に、ゆっくり深呼吸してから【絶対泣きません】と返す。
【上等。じゃあ、また明日✩】とひどく明るい返事がきて、思わずどっと力が抜けた。
......やっぱり、及川さんはとても優しくて、そして、とても怖い人である。
大王様への宣戦布告
(相手が誰であれ、絶対気持ちで負けるな。)