Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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インターハイ予選第2試合、烏野対伊達工の第2セットが始まる。
コートチェンジの為、ネットを挟んで対岸側に居る烏野の選手を見ると、メンツは同じなのに第1セットとそれぞれのスタートポジションが変わっていて思わずまじまじと見てしまった。
確か、第1セットの1番初めはヒナちゃんと影山君、田中君が前衛だったような......。
「.............」
「ん?どした?」
「あ、いえ......烏野、第1セットとスタートするポジション変わってるから、何か意味があるのかなぁって思って......」
口元に片手を当てて考え込むと目敏く嶋田さんに気付かれ、おずおずと疑問を口にすると「お、さすが季都ちゃん」と茶化しながらも説明してくれた。
「烏養のヤツは多分、チビスケと伊達工の7番をマッチアップさせないようにしたんだと思う。見た所、スタートのローテは2つ分ズレてるから......7番が前衛にいる時は、基本チビスケは後衛になる。そうなると、チビスケが前衛にくる時は、」
「7番は後衛だから、ヒナちゃんをピンポイントでマークしにくくなる......!」
「そういうこと」
「伊達工がローテ変えてこなかったのが幸いだったな。けど、その分他の奴らのマークが厳しくなるってことだから、そこが吉と出るか凶と出るか......」
嶋田さんとの話に滝さんが補足説明を加えてくれて、たまらずごくりと唾を飲む。
まるでトランプのポーカーみたいだ。
それぞれのパワーバランスを考えて、相手の出方をも考えて、そして、自分の思考を一切読み取らせずに、カードをオープンする。
バレーボールは肉弾戦だとばかり思っていたが、どうやら心理戦の需要もかなり高いことが徐々にわかってきた。
「田中ナイッサ!」
審判のホイッスルと共に、第2セット最初のサーブが田中君の手によって伊達工のコートへ放られた。
田中君のサーブは勢いがあったものの伊達工前衛の6番に拾われ、セッターの2番から3番へトスが上がり、第2セット初得点は伊達工に入る。
その次の得点は烏野のエースである東峰先輩が何とかもぎ取ったが、一番攻撃力の高いエースには勿論マークする方も警戒が強くなり、次のオープンでの攻撃は伊達工の3枚ブロックに阻まれ奇襲失敗に終わった。
試合はそのまま一進一退を繰り返し、烏野4点、伊達工4点と同点に並ぶ。
伊達工1番のスパイクをツキシマ君が辛うじて上げたが、ボールはセッターポジションへ戻らない。
「上がった!ナイス!影山カバー!」
「持って来ォォい!!」
ふらりと乱れた放物線を描くボールの下に影山君が入り、その間にヒナちゃんがネット際ぎりぎりでトスを呼んだ。
体勢が整わない、しかもネットに背を向けたセッターに対してボールを「持って来い」なんて、常識的に考えて無茶振りもいい所だ。
だけど、この二人の場合は常識という基軸なんて全く無いに等しかった。
コンマ何秒という速さで影山君から精密なトスが上がり、ネット際で飛び上がるヒナちゃんがそのボールを伊達工のコートへ叩き付けるように打ち込む。
奇抜な変人速攻にギャラリーが一斉に盛り上がる中、とりあえず第2セットに入っても変人速攻が有効であることにひっそり息を吐いた。
「......やっぱどっからでも速攻使えるってとんでもねぇ武器だな~」
烏野一年生のとんでもコンビネーションに苦笑いを浮かべて嶋田さんがぽつりと零すと、私達の横で観戦していた他校の選手が「すげー」と感嘆の声をもらす。
「ポジションはミドルブロッカーだけど、10番が“エース”って感じだなー......」
「な。あんな小っちぇーのにな~」
「.............」
その内容に思わず嶋田さんと滝さん、そして私はひっそりと視線を合わせた。
「......でも、ヒナちゃんが後衛の時は西谷君と代わってるから、その間その武器は使えませんよね......」
「チビスケが使えない状態で、どれだけ“鉄壁”と闘えるかが勝負だな......それに、時間が経てば向こうも変人速攻のスピードに慣れてくる可能性もある」
「......万が一このセット落とすと、烏野はかなり不利になるってことか......」
「.............」
周りはヒナちゃんと影山君の変人速攻の話で持ち切りだが、この武器が無敵ではないことを知っている為少しずつ不安が広がっていく。
そんな中、エースである東峰先輩のスパイクが、“伊達の鉄壁”のトップである7番に綺麗にブロックされた。
ネットを越えられず、撃ち放たれた勢いのままに烏野のコートへ弾き返されたボールには、西谷君のブロックフォローも間に合わない。
レシーブが乱れても速攻を仕掛けられるのはヒナちゃんだけだが、今は後衛に回っていてコートの外に居る。
そのヒナちゃんが再びコートに戻るのはあと2回ローテーションが回らないといけない。そして、伊達工の7番が後衛下がるのは......
「ワンタッチ!!」
「カウンタァーッ!!」
再び東峰先輩の力強いスパイクを再び7番が手に当てることで勢いを殺し、伊達工が奇襲を仕掛けてくる。
そのまま7番にトスが上がり、威力抜群のスパイクが烏野に攻め込まれるが......烏野の中でツートップの身長を誇るツキシマ君と東峰先輩の息のあったブロックで見事伊達工の奇襲を防いでみせた。
「烏野にだって、“壁”はあるんですっ!!!」
ベンチから立ち上がった武田先生の言葉に、ああ、確かにその通りだと今更ながら思い出す。
東峰先輩もツキシマ君も、本当に同じ高校生なのかと疑う程に背が高い二人だ。
烏野にだって、ちゃんと“壁”はある。
「っしゃ!ブロックポイントォ!!」
「よし!これで伊達工が得点すれば────あのデカイ7番は後衛に下がる.........!」
嶋田さんと滝さんの声を隣りで聞きながらちらりと得点板を確認すると、烏野は18点、伊達工は17点だった。
例え同点に追い付かれてでも、あの7番が後衛に下がった方が烏野としては優位に立てるということなんだろう。
肉を切らせて骨を断つ、とまではいかないが、烏野は次の得点を伊達工に許し、その代価に脅威のブロックを見せていた7番が後衛に回った。
その影響を受け、7番なしの伊達工の2枚ブロックを絶妙に避けた田中君のスパイクが決まる。
「上手い!田中君ナイスコース!」
「......今のでうちのローテも回るから────くるぞ、烏野の新兵器......!」
田中君のスパイクに拳を握り声をあげれば、嶋田さんは緊張した面持ちで手すりに乗せた両腕に顎を乗せた。
ツキシマ君が後衛に下がりサーブのポジションへ、リベロの西谷君は一旦コートの外へ出て......代わりに、オレンジ色の新兵器......ヒナちゃんがコートへ入ってくる。
「あと6点......!前衛に居るうちにキメろよチビ助~」
「......ヒナちゃん......頑張れ......!」
滝さんの言葉にたまらず両手を組み、祈るようにヒナちゃんを見つめる。
全身に力が入ったまま烏野のプレーを追い続け、何度目かのラリーの後で疲れなんか微塵も感じさせないドンピシャの変人速攻が決まり、嬉しさのあまりその場でジャンプしてしまった。
「やった!ヒナちゃんナイスキー!」
「やっぱすげぇ......普通ならレフト頼みになりそうなトコで速攻使って来るんだもんな......」
「!」
コートに入って早々に得点したヒナちゃんに声援を送ると、同じギャラリー席に居る他校の選手の言葉が聞こえ、思わず視線をセッターである影山君に向ける。
この変人速攻は、スパイクを打ってるヒナちゃんについ視線がとらわれがちになる。
だけど、ヒナちゃんはボールを見ずに目を瞑った状態で打っていると聞いた。
ヒナちゃんの腕の動きに合わせて、ピンポイントでボールを「持っていく」という離れワザを、一年生セッターである影山君は涼しい顔をして平然とやってのけてしまう。
烏野の新兵器はヒナちゃんだけじゃない。影山君も......そして先程見事なブロックを見せたツキシマ君や、部活後に嶋田さんとサーブの自主練をしている山口君も、この春に入部してきた一年生全員がきっと新兵器だ。
飛べない烏が再び高く舞う為の、力強い翼である。
「鎌ちナイス!!」
「調子ノせねぇぞ......!!」
「おおお!こっちの速攻もキレッキレだ!」
しかし、鉄壁もそう簡単には崩れない。
今しがた変人速攻を決めたヒナちゃんを前にして、伊達工もコンビネーション抜群な速攻を仕掛けてくる。
その後も烏野、伊達工、烏野と取って取られてを繰り返し、気が付けば烏野22点、伊達工20点というところまできていた。
「ガマンだぞ......丁寧に行けよ......!」
普段とは違う滝さんの固い声に、たまらず手すりを力強く握る。
一瞬の隙も許されない試合の展開に固唾を飲んで見守る中、ヒナちゃんがネット際で高く飛び上がり、伊達工のブロックが一人だけヒナちゃんという囮につられた。
「っ、掛かった!」
思わず前のめりになって声を上げると、直ぐにヒナちゃんとは反対サイドの東峰先輩の迫力のあるスパイクが叩き付けられる。
「やった!東峰先輩ナイスキー!」
「よし、あと1点でマッチポイント取れる!」
「しかも、今は伊達工のデカイ7番は後衛......チビスケはまだ前衛に居る......ここが突き放すチャンスだ......!」
ここで勢いに乗りブレイクできれば最高の展開なのだが、鉄壁は頑なにそれを許さない。
ヒナちゃんという囮につられるも、直ぐに体勢を立て直して脅威の鉄壁を造り上げた。
ブロックに弾かれたボールはリベロの西谷君の腕にあたるものの、上昇することなく烏野のコートへ滑り落ちていく。
「っ、今!完全にヒナちゃんにつられてたのに!」
「......さすが“伊達の鉄壁”......!マジでダテじゃねぇな......!」
ブロックポイントをもぎ取った伊達工の選手の瞬発力に驚きと落胆を同時に感じていると、滝さんは興奮したように小さく笑った。
烏野があと2点で勝利を掴めるというこのタイミングで、伊達工の7番が前衛に来てしまう。
「え!もう7番前に来ちゃうの......!?」
コート上の誰よりも大きな身体を持つ伊達工の7番の前衛登場に、思考がそのまま口から零れた。
先程やっと後衛に下がってくれたと思ったのに、もうローテーションが回ってしまうなんて。
眉を下げたままどうしようもない焦りと不安に駆られていると、「大丈夫!こっちだってまだ変人速攻できるだろ!」と嶋田さんに励まされ、軽く背中を叩かれる。
無意識にじわりと涙の膜が張り、慌てて目元を擦って視界をクリアに戻した。
矢先、ヒナちゃんのスパイクを7番のブロックに止められたが、ボールは7番の大きな身体とネットの間に入り込み、伊達工のコートへ落下する。
どういう判定になるのかわからず咄嗟に審判を見ると、審判は烏野のコートを指し示した。
どうやら、こういう場合も烏野の得点になるらしい。
「吸い込みか......!」
「アッブネ~......!」
「......今の、吸い込みっていうんですか......」
「ああ、プロでもたまにあるんだけど、ブロッカーとネットの間にボールが挟まるミスのことをそう言うんだ」
嶋田さんと滝さんの会話に何度か頷くと、嶋田さんは胸を撫で下ろしながらも私に説明してくれる。
バレーボール用語は本当に沢山あるんだなぁと改めて驚いていると、滝さんがニヤリと歯を見せて笑った。
「.......でも、これでマッチポイントだ!」
「!!」
滝さんの力強い言葉に、弾かれたように得点板を見る。
表示された24という数字に、本当にあと1点で烏野が伊達工に勝利することを確認し、慌てて烏野のコートへ目を戻した。
「さ、サーブ!次のサーブ誰でしたっけ!?......あっ......」
もしかしたら、次のサーブで勝敗が決まるかもしれない。
はやる気持ちを隠せず烏野の選手を目で追うと......サーブポジションに入ったのは、オレンジ色の小さな新兵器だった。
チェックメイトまで、あと何秒?
(お願いだから、いっその事一思いに)