Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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「ソァァアアッ!!ラァイッ!!!」
鬼気迫る勢いで打ち込まれた田中君のスパイクは見事伊達工のコートへ叩きつけられ、烏野23点、伊達工19点と得点板が動く。
「......このまま順当に“獲って獲られて”を繰り返せば、多分1セット目は烏野が獲れる......」
「.............」
嶋田さんの言葉を聞きつつ、私の目は烏野のプレーから一向に離れなかった。
だって、あと2点。あと2点決めればこの試合、烏野が王手をかけることができる。
「でも、突き放すには───」
嶋田さんの言葉を遮るように、伊達工7番のスパイクをヒナちゃんが片手でブロックした。
「コレーーッ!!!」
「ヒナちゃん!!!」
「ナイスワンタッチ!!!」
ヒナちゃんのナイスプレーに熱を上げる嶋田さんと私、滝さんの声と同時に、ベンチから立ち上がった烏養さんの「カウンタァァア!!!」という鋭い声が響き渡る。
ヒナちゃんのワンタッチがあったボールを西谷君が丁寧にレシーブし、セッターである影山君へ受け渡す。
一瞬の間にコート後ろへ下がり助走を付けたヒナちゃんは、そのチャンスボールに食らいつくかのように勢いのある速攻を決め、ついに烏野は1セット目のセットポイントを獲得した。
「すごい......あの伊達工相手にウチがセットポイント......!」
女バレの人の言葉を聞きながら、素直に喜びたい気持ちとは裏腹に今のプレーが少し頭に引っかかり、たまらず両手の指を組んで強く握った。
......今のヒナちゃんの速攻、伊達工のブロックは初めて2枚ついてきた。
ゆっくりと、だけど確実に、伊達工はヒナちゃんと影山君の超人速攻に「慣れ」始めている。
「笹谷!」
「ナイスコース!!」
烏野のセットポイントであっても試合は目まぐるしく展開し、伊達工の3番がブロックを見極めてほぼノータッチでスパイクを打ち込んだ。
勢いのついたボールが烏野のコートを襲うが、烏野の主将である澤村先輩がボールの先へ回り込み、伊達工の攻撃を見事に防いでみせる。
「うおおっ......ナイスレシーブ!」
「烏野ノッてんなー!」
「あと1点......!頑張れ......!」
熱の入った二人の声を聞きながら、祈るような気持ちでボールの行方を目で追う。
ヒナちゃんが高く飛び上がり、伊達工の6番が封じにかかる。
しかし影山君のトスはヒナちゃんの少し後ろへ上がり、駆け込んできた東峰さんがスパイクモーションを取った。
伊達工の7番はリードブロックを試みたが、東峰さんのスパイクはブロックの高さが低くなった6番の頭上を確実に打ち落とし、伊達工のリベロが上げ損なう程の強烈な一撃をかました。
「うおおっしゃああッ!!!」
烏野25点、伊達工19点。第1セットは見事烏野が獲得する。
おそらくこの試合、烏野が第1セットを獲るなんて多くの人は考えてなかったのだろう。
番狂わせな試合の展開に、会場のオーディエンスは驚異と興奮の歓声を上げた。
「よしよし!このまま流れ切らすんじゃねぇぞ~」
「はぁぁああ......っ.......しんど......!心臓ひとつじゃ足りないです......!」
「ははっ、季都ちゃんは2試合目だもんな。大丈夫か?疲れたろ?」
ハーフタイムに入り、両チームがコートチェンジで動く中、思わず大きなため息を吐くと隣に居る嶋田さんは笑いながらも私を気遣ってくれる。
それに大丈夫ですと伝えると、「あ、あの......」と少し上擦ったようなソプラノが聞こえ、そちらに顔を向ける。
声を掛けてきたのはどうやら烏野女バレの人だったようで、黒髪のショートカットが似合う可愛いお姉さんがそわそわとした様子で私を見てきた。
「もしかして、烏野の人ですか?」
「あ、はい。二年の広瀬といいます」
「あ、私、三年の道宮結です。女バレの主将......ううん、“元”主将です」
「え?」
一先ず嶋田さんと滝さんの間から離れ、女バレの方々がいる所へ歩み寄った矢先、言われた言葉に思わず聞き返してしまう。
三年生だったら澤村先輩と同い歳であり、現段階で澤村先輩は男バレの主将なのだから、道宮先輩も女バレの主将なのでは......
「......今日の試合、私達は負けちゃって。実はさっき引退したばかりなの」
「.............」
私が混乱しているのがわかったのか、道宮先輩は苦笑しながらそんな補足説明をしてくれた。
しかし、聞いた言葉があまりに衝撃的であり、たまらず目を丸くして道宮先輩を見つめてしまう。
どうやらバレーボールという競技は男子も女子も同じ日程で試合をするらしい。
そして烏野女バレは今日、このチームでのバレーボールに休止符を打たれたようだ。
「.......あ......すみ、ませ......」
遅れて自分が非常に無神経な反応をしていることに気が付き、動揺丸出しのまま道宮先輩に頭を下げた。
......そうか。負けたら、引退なのか。
そんなことは当に分かっていたはずなのに、いざその事実に直面すると激しく動揺する自分が居た。
負けたら、終わり。もう二度と、あの烏野メンバーのバレーボールは見られない。
そう考えた瞬間、目の前が真っ暗になった。
「やだなぁ、もう!頭上げて!ほら!」
「!」
自己嫌悪と恐怖に打ちのめされている私の頬を包むようにして、道宮先輩はぐいっと私の顔を上げる。
私よりも少し背の高い先輩と目が合うと、道宮先輩は困ったように笑った。
「広瀬さんにそんな顔させる為に、私はバレーをしてた訳じゃないの」
「.............」
「確かに、負けてすっごい悔しかったし、今日で引退するのもすっごく寂しいけど......でも、“烏野のバレー”はまだ終わってないから」
「!」
道宮先輩の言葉に、たまらずハッとする。
私の表情が変わったからか、先輩は私の頬から手を離し、強気にニッコリと笑った。
「だから、今日はみんなで応援しに来たんだ。私達が叶わなかった想いを、願いを、男バレに繋いでほしくて」
「.............」
「......な~んて言うと、他人頼りにするなってまた澤村に怒られちゃうかな?」
へらりと眉を下げて笑う道宮先輩に、思い切り首を横に振る。
きっと澤村先輩のことだから、力強い声で「任せろ!」と言ってくれるに違いない。
共に烏野を背負うバレーボール部員として、想いを、願いを、託していける存在があるのは、きっとどちらにとっても非常に心強いものになるだろう。
例え試合に負けたとしても、勝負が終わってしまっても、こうやって続いていくものが、繋がれていくものが、確かにあるんだ。
「.......道宮先輩......」
名前を呼ぶと、先輩は優しく笑って私の言葉を待ってくれる。
この素敵な人が主将である女バレの試合を、1回でも見ることが出来ればよかった。
後悔したところで時間が戻るはずが無いのだけど、今はただ、心の底からそう思ってしまう。
「.......お疲れ様でした......!」
一度も女バレのバレーボールを見たことがない私が申し上げていい言葉なのかどうかが非常に心配だが、今日で引退するという話を聞き、何も言わずにはいられなかった。
先程の謝罪よりも深々と頭を下げ、道宮先輩と女バレの三年生に最大限の敬意を払う。
私の言動に驚いているのか、道宮先輩は今度は何も言わずに私の前に立っていた。
ゆっくりと深呼吸をして、最後に軽く息を吸ってから下げていた頭をあげる。
大きな目を丸くしている道宮先輩としっかり視線を重ね、今度は私の方からにっこりと笑った。
「男バレ、いっぱい応援しましょう!特に二年の西谷君と田中君、女子の応援あると元気出るって言ってました!」
「.............」
私の言葉に道宮先輩はあ然とした顔をしたが、少し遅れて可笑しそうにふきだした。
「あははっ、じゃあ、張り切って応援しないとね!」
道宮先輩の綺麗な笑顔に、心の奥がじんとする。
年齢は一つしか違わないはずなのに、道宮先輩といい、潔子さんといい、三年生の先輩方はどうしてこんなに魅力的な人ばかりなのだろう。
私が三年生になった時、こんな素敵な人に果たしてなれるのだろうか?
「......結、アンタ一番聞きたいこと聞いてないんじゃん?」
「!!!」
道宮先輩の笑顔に憧憬の気持ちを抱いていると、女バレのポニーテールの人がふいにそんな声を挟んできた。
途端、前にいる道宮先輩が目に見えて動揺する。
「いやっ、あの、だって!」
「広瀬さんがここに居るのって、もしかして男バレに彼氏が居るとかそういう感じ?むしろ澤村と付き合ってますとか、そんなんじゃない?」
「え?」
「ちょっと!!!」
ポニーテールの先輩に言われた言葉に、思わず目を丸くする。
誰かと付き合ってる云々という話も驚いたが、それがどうして澤村先輩に限定されるのだろうと首を傾げてしまうも、目の前で真っ赤になっている道宮先輩を見た瞬間、先輩が話した言葉の意図を汲んで慌てて首を横に振った。
「全然!違います!あの、リベロの西谷君と私、同じクラスで友達で、あ、スパイカーの田中君とも友達で、最近は一年生のヒナちゃんとも喋るようになりまして、そもそも私をバレー観戦に誘ってきたのはあちらのお二人でございまして!あと彼氏は居ません!」
慌てふためく私の言葉に、ふきだしたのは女バレの人達ではなく嶋田さんと滝さんの二人だった。
「キト......おま、そんなサミシイことを大声で言うんじゃねぇよw」
「なんならお兄さんが季都ちゃんの彼氏になってあげようか~?」
可笑しそうにニヤニヤと笑いながらそんな意地悪なことを言ってくる二人をギロリと睨むと、大人二人はササッと顔を背け口を閉じた。
二人が大人しく黙ってくれたのを見届けてから、再び道宮先輩に顔を向ける。
「......澤村先輩、格好良いですよね。頑張ってくださいっ」
滝さんと嶋田さん、そして一応烏野男バレ部員に聞こえないようにひっそりとエールを送ると、ハーフタイム終了のホイッスルが鳴り響いた。
頭を軽く下げてから、滝さんと嶋田さんのところへ戻る。
「......いいねぇ、女子高生。若いっていうか、華があるっていうか」
「......滝さん、そういうオヤジ臭いこと言うから彼女出来ないんですよ」
「うぐッ......」
ニヤニヤと笑う滝さんの言葉にどシャットをかますと、嶋田さんが小さくふきだした。
少し浮ついた気持ちを落ち着かせる為に、深呼吸を何度か繰り返し、伊達工の応援を耳に入れながらゆっくりと瞳を閉じる。
「.............」
瞼を開けると、真っ先に見えるのはコートチェンジによってこちら側のコートにきた伊達工の選手達だ。
近くで見るとその大きさと迫力に否が応でもどきりとしてしまう。
「.......あれ?」
伊達工の選手の逞しい身体に少し萎縮していると、6番の背番号を付けた茶髪の背の高い選手に目を奪われた。
向こうのコートに居る時には気が付かなかったが、確かあの人、私がここのロビーにある太陽の彫刻に拝んでいた時に話しかけてきた人だ。
まさか、第二試合で当たる高校の選手だったとは......。
「何?季都ちゃんの知り合い?」
「あ.......いえ.........」
嶋田さんの言葉に、緩く首を振る。
今朝にほんの少し言葉を交わしただけで、実際あの人の名前も学年も知らなかった。
「.............」
少し話したからと言って、何が変わるという訳でもない。
もう一度気持ちを切り替える為に深呼吸をして、伊達工の6番から烏野のコートに視線を移し、第2セットへ向けて気合を入れるのだった。
Time to say goodbye.
(私が彼等を応援できる時間も、きっと限られたものだから。)