Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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「はやくはやく!」
「良かった、男子の2回戦まだやってる!」
ギャラリー席の階段を駆け下りて来る足音と共に聞こえてきた声に、反射的にそちらへ顔を向ける。
烏野特有の黒を基調としたジャージに身を包んだ女子の集団に目を奪われていれば、隣りに居る滝さんが「おっ、烏野女子」と呟いた。
「すごい、伊達工に勝ってる......!」
「.............」
会話の内容と雰囲気からして、おそらく烏野の女バレの人達だろう。
女バレに知り合いは居ないけど、何となく見たことのある人が何人か居た。
どうやら男バレの応援へ駆け付けてくれたらしい。
「来いやあぁぁあ!!」
「!」
コートから聞こえたヒナちゃんの声に咄嗟に目線を戻すと、影山君とヒナちゃんの変人速攻が丁度炸裂するところで、二人のプレーを見た女バレの方々は皆一様に目を丸くしている。
「え......何、今の......」
「速攻......?」
「あれって1年生だよね......?」
「あの小さいコ、凄い飛ばなかった......?」
驚き半分、戸惑い半分といった感じで二人のプレーに釘付けになる女バレの方々に思わず滝さんと腕組みしながら「フフ......」笑ってしまうと、隣りに居る嶋田さんが呆れたように「お前らがドヤ顔すんなよ」とツッコミを入れた。
男バレの凄いプレーを知ってもらった嬉しさと、烏野陣営の応援が自分一人だけではなくなった安心感で内心で少しほっとしていると、烏野の選手陣を眺めていた黒髪のショートカットの人が「あれ......?」と首を傾げる。
「菅原は出てないのか......」
「!」
ぽつりと呟かれた言葉に、ピクリと指先が反応する。
菅原先輩は男子バレー部の副主将で、三年生で、ポジションは確か、影山君と同じセッターだと聞いていた。
セッターは、二人出ることが叶わないポジションなんだろうか?
「.............」
ベンチには菅原先輩と、同じ二年生の縁下君と木下君と成田君、そして、嶋田さんにジャンプフローターサーブを教えてもらっている山口君の姿が見える。
『でも、これから先も、一年で俺だけ試合に出られないのは嫌だから』
以前、嶋田マートで山口君と嶋田さんが話していた内容を思い出し、瞬時に思考が陰る。
山口君は一年生だけど、菅原先輩は三年生だ。
最高学年である為、負けたらもう後がない。そんな試合なのに、公式戦なのに、今、試合に出ているセッターは一年生の影山君だ。
「.............」
「.......季都ちゃん?どうした?」
「!」
私なんかが考えてもどうしようもないことをついぐるぐると考え込んでしまっていると、嶋田さんが私の目の前に手の平を翳した。
ハッとして嶋田さんに顔を向ければ、嶋田さんは心配そうな様子で私の顔を覗き込んでいる。
「なんか、いきなり険しい顔してたから......どっか痛い?大丈夫?」
「え、何?お前具合悪いの?」
嶋田さんの言葉に滝さんも反応し、両隣りに居る二人に体調を心配されてしまう。
別に体調面では全く問題無いので慌てて「大丈夫です」と伝えると、烏野のコートがワッと盛り上がった。
どうやらヒナちゃんのスパイクが再び決まったようだ。
同じギャラリーに居る他校の人達が普通の速攻と変人速攻の使い分けは一体どうやっているのかという会話をしていたから、きっと今決めたのは普通の速攻だったに違いない。
「.............」
ああ、だめだ。例え1秒でもよそ見してしまえば、烏には追い付けない。
今考えないといけないのは、どうしたら烏野が伊達の鉄壁を切り崩せるのかということだけだ。
あれやこれや目移りして色んなことを考え出したら、バレーボールの試合なんてあっという間に終わってしまう。
「っ、あ......」
現に、三度目となるヒナちゃんのスパイクは伊達工の7番のブロックに阻まれ烏野のコートへ跳ね返された。
一瞬ヒナちゃんの超速攻のフェイクに引っかかったと思われたが、大きな身体と反射神経、そして何より絶対に止めるという気持ちが後押ししているのだろう。
伊達の鉄壁がいかに強固なものであるかを見せつけるようなブロックだった。
「おいおいおい、伊達工のブロックヤベぇな......おっかねー......」
「今の相当テンション上がったろうなむこう...」
「ああいうブロックは“流れ”を呼び込むからな......」
素人目から見ても恐怖を感じる伊達工の7番のブロックに、滝さんと嶋田さんは顔を引きつらせながら感想を述べる。
「流れ、って......チームの調子みたいなものですよね......?」
「ああ......だから、次の一本できっちり切らねえと───伊達工が波に乗っちまうぞ......」
「.............」
滝さんの言葉に思わず得点板を確認する。烏野18点、伊達工15点とわずかにこちらがリードしているが、もし伊達工が波に乗ってしまったら3点差なんて一気にひっくり返ってしまうだろう。
「落ち着いて切ってこー!!」
「ハイ!!」
「一本!」
烏野の掛け声を聞きながら、コート陣営を今一度確認する。
伊達工のサーブは6番。7番より少しだけ小さいけど、十分背丈のある選手だ。多分180センチ以上はあるだろう。
烏野の前衛は澤村先輩、ヒナちゃん、田中君。後衛には影山君、西谷君、東峰先輩。
セッターの影山君が後衛に居るから、そこにサーブを打ち込まれないといいんだけど......。
そんなことを考えてる内に強烈なジャンプサーブを打ち込まれ、前衛の澤村先輩が上げたが惜しくもボールはセッターポジションへ返らない。
「スマン!カバー!」
「龍!」
「オーライ!」
乱れたボールの軌道の先に田中君が回り込む。
「センター!」
「日向頼んだ!」
アンダーレシーブで上がったトスにヒナちゃんが走り込むが、少しネットに近いせいなのか、ヒナちゃんのスパイクは再び伊達工の3枚ブロックに勢いよく跳ね返された。
「っ、」
「ああっ......!」
鉄壁に阻まれたボールはその勢いのまま烏野のコートへ向かう。
私が息を飲むのと同時に女バレの方が小さな悲鳴を上げた、瞬間。
スパイクを打ったヒナちゃんも、それを止めた伊達工の3枚ブロックも、そして勿論ボールも未だ空中にある状態で、オレンジ色の小さな英雄が滑り込む形で落下寸前のボールを高く打ち上げた。
そのプレーを見て、彼が休部中にママさんバレーでずっと練習していたと言っていたモノを思い出す。
「っ、ブロックフォロー......!」
「西谷ァァァ!!!」
大歓声の中、リベロの西谷君により息を吹き返した烏野のボールはセッターの影山君へと繋がる。
烏野は瞬く間に攻撃態勢を立て直し、前衛を3枚用意した。
「持って来ォォい!!」
先程スパイクを打ったにも関わらず、脅威のスピードで再びスパイクを打つ為に助走に入るヒナちゃんが、誰よりも大きな声でトスを呼んだ。
「10番!!!」
その勢いに釣られるように、伊達工のブロックはセンターへ跳ぶヒナちゃんへ集結する。
誰もがヒナちゃんへ視線を、思考を、意識を奪われる中......影山君からトスが上がったのは、ヒナちゃんより少しだけ遅れてセンターへ跳んできた、烏野のエースである東峰先輩だった。
「.............!!」
囮であるヒナちゃんに合わせられた鉄壁は、後衛からきた東峰先輩のバックアタックに対応することができない。
まるで一筋の光で道が切り開かれたかのように見えた瞬間、東峰先輩の力強いスパイクが轟音を響かせながら伊達工のコートへ打ち落とされた。
途端、背中にゾクゾクとしたものが走る。
「ぃやったー!!!」
「よァっしゃあああ!!!」
たまらず両手を上げて喜んでしまうと、烏野のコートやベンチからも雄叫びに近い喜びの声が響き渡る。
西谷君のブロックフォロー、ヒナちゃんの最強の囮、影山君の冷静なトス、東峰さんのバックアタック。全部が全部、この瞬間、綺麗にぴったりと繋がった。
そのなんとも言えない爽快感に心が踊り、すごいすごいとはしゃいでしまう。
『......次の試合、すげー大事な試合なんだ。だから、死んでも負けらんねぇ。絶対ぇ勝つから、ちゃんと見ててな!』
第一試合が終わってから、西谷君に言われた言葉を思い出す。
今年の三月に負けてしまった相手、東峰先輩と西谷君が一度袂を分かつ原因となったチームに、今、完全に攻撃をくらわせたのだ。
「東峰先輩!ナイスキー!!」
あまり話したことのない方だけど、今のプレーを見てそう言わずにいられなかった。声援を送らずにはいられなかった。
私の声が届いたのか本人である東峰先輩と、先輩に話しかけていた西谷君がほとんど同時にこちらへ顔を向けた。
西谷君が何やら東峰先輩の背中を叩いて、その後直ぐに二人の拳がこちらへ突き出される。
その様子を眺めながら、私も両手の拳を二人に差し出し満面の笑みを返した。
きっと烏野はもう大丈夫だ。もう二度と、崩壊なんてしない。
心底楽しそうに笑う西谷君と東峰先輩を見て、そう強く確信した。
『私も、みんなを信じてる』
この試合が始まる前、潔子さんが言っていた力強い言葉が頭の中で聞こえて、たまらず背筋をしゃんと伸ばす。
ギャラリーからベンチに座る潔子さんをそろりと見ると、潔子さんは相変わらず涼しい顔をしながらも、片手を強く握り密かにガッツポーズを作っていた。
もっと大っぴらに喜んでいいのではと思ったが、これはこれでとても潔子さんらしいなとも感じて、思わず小さく笑ってしまったのは潔子さんには絶対に秘密である。
七転び八起き
(負けて、敗けて、そうやって、強くなる)