Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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ツキシマ君の長身を活かした冷静なスパイク、伊達工の1番の力強い速攻、東峰先輩のブロックアウト、囮を生かした伊達工3番のスパイクと続き、次は伊達工のサーブだったが西谷君のナイスジャッジでボールはコート外へ落ちた。
今ので烏野7点、伊達工は5点と僅かにこちらがリードしているが、試合の流れはなかなか動かず両者とも一進一退を辿る。
だけど、今のローテーションで現在大注目を浴びている烏野の10番、ヒナちゃんが前衛に回ってきた。
ツキシマ君がサーブの為、リベロの西谷君は一旦ベンチへ下がっていく。
「.............」
コートに戻ってきたヒナちゃんはやる気満々といった感じでブンブンと腕を回す。
ちらりと相手コートを見ると、今は一番背の高い伊達工の7番が前衛に居ないようだ。
ここで連続得点、ブレイクが取れれば最高なんだけどな......。
祈るようにツキシマ君の放ったサーブの行方を追うも、ボールは伊達工のリベロに拾われ、6番の強烈なブロックアウトで伊達工に得点を許してしまった。
なかなか離れない点差にもどかしい気持ちが募り、そわそわと腕を組み替えたり脚を動かしたりしてしまう。
ここにもし滝さんや嶋田さんが居たら、「なんだ、トイレか?w」と絶対からかわれるだろうが、あいにく今の烏野応援席には私一人だ。
「おっ、烏野の10番が前衛に来たと思ったら今度は───伊達工のブロック凄ェ7番も前衛のターンだ......!!」
「鉄壁VS超速攻......!」
少し離れた場所で烏野と伊達工の試合を見ている他校の選手の会話が耳に入り、たまらずため息がもれる。
ヒナちゃんと影山君はおそらくまたあの変人速攻をかますつもりだろう。
そして多分、それは決まる。二度目の変人速攻が決まることによって、今の烏野の攻撃が決してマグレではないことを周知される。
「ネットイン!前、前!」
伊達工の1番が放ったサーブがネットにぶつかり、変化球となって烏野のコートへ降りてくる。
そんな不規則なボールでも烏野の守護神である西谷君はちゃんと反応して、床に飛び込む形で何とかボールを上げた。
「ナイスレシーブ!」
「カバー!」
「オーライ」
西谷君と影山君の最小限のやり取りの後、影山君は不安定に上がったボールの下でトスのモーションに入った。
「拾った!けど、あそこから速攻は無理かな......」
他校の選手の会話を聞きながら、無理なもんかと反発する気持ちと、いや、普通は無理だよなと共感する気持ちが同時に湧き上がる。
私だって、初めて変人速攻を見たあの衝撃を、ひと月経った今でも鮮明に覚えている。
あの速攻は、兎に角現実味に欠けるのだ。
「誰に上げ───」
彼らの会話が終わる前に、影山君は自分の真後ろであるコートの端へ飛び込むように跳ね上がるヒナちゃんにドンピシャのトスを送り、コンマ何秒という間にヒナちゃんのスパイクが綺麗に決まる。
「────」
例えどんな角度でも、ネットから離れた位置でも、尋常ではない速度と精度で運ばれる影山君のトスに対して、伊達の鉄壁は完全に置いてけぼりだ。
伊達工の選手も、監督も、ギャラリーでさえ置いていく影山君のトスは、影山君を信じて飛ぶヒナちゃんの為だけに運ばれる。
そんなヒナちゃんの為だけのトスであるから、ヒナちゃんだけが打つことができるのだ。
「............マグレじゃ......ないのか......」
誰かが呟いた声がやたら大きく聞こえたと同時に、伊達工が一回目のタイムアウトをとった。
一度途切れた緊張の糸に思わず大きなため息が出る。
昼間に買ったサイダーに口をつけながら、ここから本当に正念場だと自分に言い聞かせた。
ヒナちゃんと影山君の変人速攻から直ぐの相手のタイムアウト。
この流れは、以前見た音駒との練習試合と一緒だ。
音駒戦を見たことにより、私はこの変人速攻が無敵の攻撃ではないことを知っている。
このタイムアウトが終わったら、伊達工は何かしらの対策をしてくるはずだ。
もし音駒と同様に、デディケートシフトにしてきたらどうしよう。
音駒より伊達工の方がずっと高さがあるし、ブロックも迫力がある気がする。
ヒナちゃんの動きの誘導だって容易いかもしれない。
レシーブ力は音駒の方が上回っていたように見えるが、素人目から見てるのでこれは滝さんや嶋田さんに確認を取らなければ定かではない情報である。
ヒナちゃんが前衛に居る時は伊達工の7番も前衛に居るので、もしそれで、あの時の音駒の茶髪の人のようにヒナちゃんだけを徹底的にマークされたら......
「......でもさ、逆に言えば10番さえ止めちゃえば良いんだよな?」
「!」
悶々と考えている私の耳に、先程の他校の選手達の会話が再び聞こえてくる。
その内容にたまらずぎくりと身体を強張らせた。
「目立ってんのはあの10番だけだし、他は伊達工のブロックの方が勝ってる感じだし」
「確かにな」
「っ、ちが......!」
「え?」
確かに“今”目立ってるのはヒナちゃんだけかもしれないけど、他の烏野のスパイカーである田中君も東峰先輩もめちゃくちゃ凄い選手だ。
雲行き怪しい会話の展開に思わず口を挟みかけ、慌てて閉じる。
烏野男バレ部員でもない私が、バレーボールを少しもやっていない私が、どの口叩いて他校のバレーボール選手達の会話に反論できると言うのか。
「いえ、すみません......」
私の声に驚いた顔を向ける御二方に勢いよく頭を下げ、真っ赤な顔を隠すようにそのままコートへ向き直る。
ああ、もう、一体何をやってるんだ私は!
それは違うと反論する暇があったら、変人速攻を封じられた場合の対処法の一つでも考えろって話だ!
「.............」
羞恥と自己嫌悪の嵐に心が折れそうになりつつも、タイムアウトが終わり、再びコートに出てきた烏野の選手陣を見て、背筋をしゃんと伸ばす。
......そうだ、そうだ。選手達が戦ってるのに、応援席が勝手に沈んでどうする。
反省も後悔も、試合が終わってからでいい。
ただでさえ脳内のキャパシティが少ないのだから、今はバレーボールのことだけを考えないと。
烏野の応援席には、今、私しか居ないんだから。
「......頑張れ......!!」
声援と言うにはあまりにも小さな声になってしまい、直ぐに伊達工の力強い応援に掻き消されてしまう。
たまらず手元の手すりを握り締めれば、烏野の横断幕の存在を思い出した。
......そうだった。烏野の応援席には確かに一人だけど、決して独りではなかった。
「......頑張れ!烏野ーーッ!!」
もう一度、先程よりも大きな声でエールを送る。
先程の他校の選手達が再び驚いた顔をこちらに向けたが、今度は気にしない。
伊達工の応援団よりずっとずっと稚拙で心許無い私の声援は、何とか烏野の選手達に届いたらしい。
6人が一瞬応援席へ顔を向けてから、主将の澤村先輩が「よし、もう一本とるぞ!!」と声を上げ、全員が力強く返答する。
「影山ナイッサー!!」
「いけ!殺人サーブ!!」
先程の変人速攻で烏野が得点を挙げた為、サーブ権は烏野にあり、打つのは影山君のようだ。
静かなモーションから入る影山君のジャンプサーブの威力は思いのほか強烈で、先程はリベロに拾われたものの今度は伊達工のレシーブを見事に乱した。
「チャンスボール!!」
相手のレシーブからボールは再び烏野のコートへ戻ってきて、澤村先輩が丁寧にその美味しいボールを拾う。
影山君はもう既にセッターポジションへ戻っていて、ヒナちゃんは前衛に居る。
またあの超速攻が来るかと誰もがヒナちゃんへ注目する中、ヒナちゃんが先程同様、勢いよくネット近くで飛び上がった。
「ラッシャイ!!!」
しかし、影山君からのトスが上がったのはレフトにいた田中君だった。
威勢のいい声と共に、田中君の力強いスパイクが伊達工のコートに叩き付けられる。
おそらく伊達工はヒナちゃんの超速攻を警戒したのだろう。田中君のブロックについたのは一枚だけだった。
一枚であれば、大抵の場合スパイカーの方が断然有利な状況である。
「っし!田中君ナイスキー!!」
綺麗に決まった田中君のスパイクにたまらずガッツポーズしてから、これまででほとんど抵抗がなくなったバレーボール特有の声援を力いっぱい送った。
ヒナちゃん、影山君、西谷君とハイタッチを交わしてから、田中君はこちらに顔を向けて「っしゃー!!」と声を上げながら拳を力強く突き出した。
それに私も拳を突き出して応えると、田中君は満足そうに一度頷いてからネットの方へ顔を向ける。
今のプレーを見て、私の中で希望がむくむくと芽吹いていくの感じた。
ヒナちゃんと影山君の変人速攻は決して無敵ではないけど、使い所を考えればそれは、最強の囮ともなる。
烏野の10番さえ止めれば良い、10番を止めなければと誰しもが考える程、ヒナちゃんが光れば光るほど、相手は田中君や東峰先輩の攻撃に集中できなくなる。
どうやっても無視出来ない強烈な変人速攻に加え、ヒナちゃんの普通の速攻、田中君と東峰先輩の力強いスパイクと変則的な攻撃が繰り出されれば、伊達工だってきっとブロックしづらくなるはずだ。
リードブロックをメインにやっているチームであれば、尚更である。
「.......っ......」
少しずつ、だけど確実に切り崩されていく鉄壁に、力強く拳を握る。
第一試合が終わった後。西谷君達二年生と潔子さんが、この試合は凄く大事で、絶対に勝つと言っていたのを思い出した。
私も勝ちたい。絶対、絶対勝ちたい。
烏野は強いんだと、鉄壁を乗り越えて強くなったんだと、ここに居る人達に知らしめてやりたい。
「.............」
こんな風に心が震えるのは、生まれて初めての経験だ。
相変わらず一進一退を辿る試合を見ながら、勝ちたい一心で懸命にボールを、選手達を目で追う。
「ホァラァァァ!!んドゥス!!」
再び田中君の強烈なスパイクが決まり、烏野16点、伊達工13点と得点板が動いた、矢先。
「遅ぇーよ!試合終わってたらどーすんだよ!」
「だって珍しくお客が来て......!」
「!!」
待ち焦がれた声が背後から聞こえ、反射的にそちらへ振り向いた。
視線の先には予想通りの相手、私服姿の嶋田さんと滝さんの姿が映る。
「お待たせ季都ちゃん!遅くなって本当ごめんな!」
「悪ィなキト!一人でよく応援してくれた!ありがとな!」
「.......ぁ......」
二人の顔を見た途端、思わず緩みそうになる涙腺を慌てて閉めた。
まだ勝負はついてないのに、ここで安心してどうする!
一瞬ふやけた頭と心を引き締める為に両頬を少し強めに叩くと、二人は当然驚いた顔を向ける。
「え!?なに、どした!?」
「キト......?女の子は顔を大事にするもんだぞ......?」
戸惑う二人を他所に一度大きく深呼吸をして、下げていた顔をもう一度二人に向ける。
「......お疲れ様です!烏野、すっごく頑張ってます!今は1セットめで烏野がリードしてます。伊達工は一度タイムアウトをとっていて、変人速攻はすでにお披露目済みです。伊達工のブロックに苦戦してます!」
「.............」
兎に角早くこれまでの流れを伝えなければと息巻いて説明すれば、二人は目を丸くして私を見てくる。
その間も試合はどんどん進んでいくので、二人の反応を見る前にさっさとコートの方へ視線を移した。
丁度リベロの西谷君が相手のスパイクを綺麗にレシーブしたところで、咄嗟に「西谷君ナイスレシーブ!!」と声援を送る。
「.......なんか、ちょっと見ない間に......」
「......成長したな、お前......」
「何でもいいから、試合見て!!」
「あ、はい」
何やらあっけに取られたような様子を見せる嶋田さんと滝さんだったが、烏野の試合に集中していた私は思わずそんな言葉を返してしまい、けれども成人男性の二人は素直に私の言う通りに動いてくれるのだった。
カラスノウラカタサポーターの進化
(孤独は時として、人を成長させるものである。)