Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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お昼ご飯は体育館付近のコンビニで購入し、外のベンチで食べることにした。
サンドイッチとカフェオレを口にしながら、滝さんと嶋田さんに烏野の試合結果と次の試合開始時刻を連絡すると、ものの数分で返事がくる。
【勝ったか!よしよし!次の伊達工戦は絶対行くからな!】
【伊達工って確か、前の大会で烏野が負けたところだったよな?確か、えげつないブロックしてくるチームだって聞いた気がする......新体制になったし、リベンジ成功したいところだな】
【応援も凄かったです......なんか、甲子園みたいでした】
【甲子園wまぁ、言おうとしてることはわかるけどw】
【春高の応援もすげぇぞ!バレーももっとこう、大々的にテレビでやってくれればいいのにな~】
二人の返信を読みつつ、文字にはしないがやっぱり一緒に試合を見たかったなと思ってしまった。
私にとっては初めての烏野の勝利を、滝さんと嶋田さんと一緒に分かち合いたかった。
まぁ、二人は社会人であり学生の私よりもずっと時間が制限されてしまうから、我儘ばかり言ってられないのだけど。
「............」
何通かやり取りをした後、再び仕事に戻ってしまった二人に頑張ってくださいと伝えてから、携帯から目を外す。
6月の初夏の風がゆるりと頬を滑り、その心地良さに思わずため息を吐いた。
ふと体育館の方へ視線を移すと、来た時同様に入口付近には各校の選手や関係者がいくつかのグループに別れて立ち話をしている。
こんなに沢山の人が居るというのに、インターハイに出場出来るのはたった一校だなんて。
しかも、この体育館の他にも違うところでもこのインターハイ予選は行われているという。
宮城県代表というたった一つの王座に着くために、今日から三日間、壮絶な闘いが繰り広げられるのだ。
「.............」
烏野の次の試合相手を考えて、たまらず眉を下げる。
今年の春に負けてしまった相手であり、応援同様、きっとプレーも力強いチームなんだと思う。
及川さんは、次の試合で変人速攻を出すだろうと言っていた。
それはつまり、烏野の武器を周囲に隠す余裕なんて無い程の相手であるということだ。
......そして、烏野エースである東峰さんと、リベロの西谷君が対立し、一度部活を退いてしまった原因でもある。
弱気になるのはいけないことだと思うが、どうにも臆病者の弱虫が顔を出してしまい、たまらず小さくため息を吐いた。
「......広瀬さん」
「!」
俯いている私に綺麗なソプラノが聞こえ、反射的にそちらへ顔を向けると、そこには長い黒髪が綺麗な烏野の女子マネージャー、清水先輩が穏やかな表情でこちらを見ていた。
「食べてるところごめんね。隣り、いいかな?」
「え......は、はい!どうぞ!」
どうして清水先輩がここに居るんだろうと一瞬呆然としてしまったが、ふと我に返り手早く隣りのスペースを開ける。
ありがとう、と御礼を述べて私の隣に座ると、清水先輩は真っ黒な烏野のジャージのシワを簡単にはらった。
「......私も、季都ちゃんって呼んでいい?」
「!!」
烏野高校で男子にも女子にも憧れの的である清水先輩から予想外の提案をされ、驚きと喜びのあまり声が出なかった。
だけど、とても嬉しい提案だったので大袈裟なくらい何度も頷くと、清水先輩はその綺麗な顔を嬉しそうに緩ませる。
つり目がちな瞳が甘く緩むと、綺麗な人から可愛らしい人に変化するなんて、一体どんな魔法が掛かっているというのか。
「私のことも、名前で呼んでくれると嬉しい」
「は、はい!潔子さん!」
「......その言い方、田中と西谷にそっくりね」
大混乱の中思わず返してしまった言葉に、清水先輩改め潔子さんは可笑しそうにふきだす。
言われて確かにと思ってしまったが、二人が潔子さんと呼んでいるのが少し羨ましくもあったので、私もそう呼ばせてもらうことにした。
「......き、潔子さんは、どうしてこちらに...?」
慣れない呼び名に若干どきどきとしながらも尋ねると、潔子さんは綺麗な黒髪を耳にかけて小さく笑った。
「季都ちゃん、探してたの。少し話したくて」
「え......」
「......新生烏野の、公式戦での初勝利。選手以外で唯一、一緒に見た烏野校生だから」
「.............」
潔子さんから言われた言葉に、浮ついた気持ちがきゅっと引き締まる。
私ではなく体育館の方を見て、眼鏡の奥の涼し気な瞳を満足そうに細める潔子さんのその横顔は、今まで見たどんな女優さんよりも美しくて、目を奪われた。
「宣言通り、ちゃんと勝ったでしょう?」
「は、はい」
「音駒の時は負けっぱなしだったけど...烏野、ちゃんと強いんだから」
「.............」
そう言って、潔子さんはニッと強気に笑う。
その様子は、まるで母親が子供を自慢するような、どこか温かみのあるものだった。
潔子さんは、本当に烏野男子バレー部を信頼していて、誇りに思っていて、そして、大好きなんだろう。
彼女の屈託のない笑顔が、言葉にせずとも私にそう伝えていた。
「......はい、凄く強いなって思いました。ギャラリーの他校生も、烏野ってあんなだったっけ?ってびっくりしてましたよ」
「ふふ......まぁ、今年最初の公式戦とはメンバーも違うし、指導者もちゃんとついたからね」
「.............」
潔子さんの言葉に、改めて烏養さんの存在の大きさを理解する。
及川さんも烏野の様子が少し変わったのは烏養さんの影響かと言っていたし、顧問の武田先生が何度も何度も坂ノ下商店にお願いしに行って、やっとのことで烏養さんをコーチに迎えることが出来たらしい滝さんと嶋田さんに聞いていた。
指導者という存在が居るのと居ないのとでは、どうやら雲泥の差があるようだ。
「......だから、次も絶対勝つんだ」
「.............」
凛とした声音で、真っ直ぐと前を見据えて発せられた力強い言葉に、自然と背すじが伸びる。
誰よりも誇り高く、誰よりも烏野を信じている潔子さんが、絶対勝つと言っているのだ。
私の中の臆病者の弱虫が、あっという間に退散していくのを感じた。
「......はい、信じてます!」
「.............」
私の言葉に、潔子さんは眼鏡の奥の瞳を一度私に向けてから、静かに伏せる。
「......うん。私も、みんなを信じてる」
そう呟いて、再び開いた美しい瞳には、先程の試合の際に見た闘いの焔が奥底で揺らめいた。
▷▶︎▷
潔子さんと暫く話して、連絡先も交換させてもらい、その後一人で他校の試合を見学していたら時間はあっという間に過ぎていった。
田中君の心配には及ばず特に誰かに声を掛けられることもなく、私はウォーミングアップする烏野を見つけて再びギャラリー席の一番前に腰を下ろす。
お昼にコンビニで買ってきたサイダーに口をつけながら烏野の選手達を上から眺めていると、私の存在に気が付いたヒナちゃんがパッと顔を輝かせる。
「あ!キト先輩ー!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら必死に手を振ってくる姿がとても可愛くて、思わずきゅんとしながら「頑張ってね!」とエールを送るとヒナちゃんは両手でガッツポーズをした。
「よっしゃああ!2回戦も勝つぞおお!!」
「あっ、ヒナちゃん後ろ!」
「おおぉ!?」
こちらを見ているヒナちゃんは後ろから来た他校の選手に気が付かず、ぶつかる寸前のところで何とか回避出来たようだが相手チーム、伊達工業高校の背の高い人にはどうやら睨まれてしまったらしい。
そそくさと田中君の影に隠れるヒナちゃんに苦笑いを浮かべていると、向かいのギャラリーから伊達工の応援が始まった。
大きなメガホンを通した特有の少しくぐもった声に合わせ、ガンガンと物を叩く衝突音が辺りに響き渡る。
「───伊達工......ファイッ!!!」
「ォオ゛イ!!!」
伊達工レギュラー勢の力強い円陣と共に、コートの雰囲気は一気に伊達工一色に染まってしまった。
「.............」
「伊達工こえー......一緒のコートに居たら飲まれるわー」
「一回戦で伊達工と当たってたチームのスパイカー、すげーかわいそうだったよなー。文字通り“何もさせてもらえない”って感じだったもんな」
伊達工の迫力に思わず呆然としてしまえば、少し離れた所で烏野と伊達工を見ている他校の選手がそんな話をしているのが聞こえ、思わずゴクリと固唾を飲んだ。
伊達工業高校、とても強いチームだと話は聞いていたけど、いざ目の前にするとその力強さに思わず尻込みしてしまう。
折角先程潔子さんからパワーを貰ったというのに、伊達工の応援がコートいっぱいに轟くこの状況では気持ちがどんどん弱くなってしまうばかりだ。
......ああ、まずいな、どうしよう......。
対する烏野のギャラリーには私以外烏野を応援する人が居ないという事実も不安を煽り、祈るように烏野の選手へ視線を向けた、直後。
「んローリングッサンダァァァッ、アゲインッ」
まるで何かの呪文のような言葉が聞こえたと思ったら、烏野で唯一オレンジ色のユニフォームを着たリベロの西谷君が勢いよくレシーブをして、そのまま前転をしてから華麗に着地した。
その声の大きさと不思議な呪文、そして勢いよく前転したことも合わさり、烏野だけでなく相手チームの伊達工の選手もぽかんとした顔を西谷君に向けている。
あれだけ賑やかだった伊達工の応援も今はしんと鳴り止んでいて、まるで時が止まったのではないかと誰もが考え始めた矢先......同じ二年生である田中君が可笑しそうに盛大にふきだした。
「ノヤっさんナイスレシーブ!キレッキレじゃねーか!技名以外」
「技名もキレッキレだろうが!!」
田中君の言葉に西谷君が怒ると、ようやく時が動き出したようにコート内は騒がしくなる。
「アゲインも教えてええ!!!」
「前のと何が違うんですか?」
西谷君のレシーブに興味津々のヒナちゃんとは対照的に、同じ一年生の影山君は顎に片手をやり大真面目な顔で質問している。
「また西谷は......今のは普通に拾えただろ!」
「こらこらこら西谷、また大地に怒られるよ......!」
その後ろで、主将である澤村先輩が呆れたような顔を見せ、エースの東峰先輩はハラハラとした様子で西谷君と澤村先輩を交互に見ていた。
途端に烏野の色を取り戻したコート内に安心して、思わず小さくため息を吐くと、「よっしゃあ!!」と西谷君が仁王立ちをする。
どうやらまだ言いたいことがあるようだ。
「心配することなんか何も無え!!皆前だけ見てけよォ!!」
西谷君のよく通る声はコート内のみならず、体育館全体へ響き渡る。
「背中は俺が、護ってやるぜ」
西谷君から発せられたあまりにも力強い発言に、烏野以外からもワッと盛り上がる声が聞こえた。
たった一人で烏野の空気を、会場の空気を一掃させてしまった西谷君に、思わず感嘆のため息が零れる。
「.............」
私が抱えていた不安まで、ものの見事に吹き飛ばしてくれた。
西谷君は正真正銘、烏野の守護神だ。
彼が心配ないというなら、烏野はきっと大丈夫なんだろう。
「.............」
アリーナで屈託なく笑う西谷君が眩しくて、思わず目を細めながらも自然と笑顔が浮かぶ。
いつだって、西谷君は本当に格好良くて、きらきらと輝いて見えるんだ。
そこのけそこのけ、烏が翔ぶぞ!
(仲間がいる。エースがいる。そして、あいつが見てる。ここで男魅せなくてどうする!)