Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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中央ホールへ続く階段を降りながら烏野がどこに居るのかきょろきょろと見回すと、「広瀬~!」と先に名前を呼ばれてそちらの方へ顔を向ける。
そこには烏野特有の黒とオレンジのユニフォームの上に真っ黒なジャージの上着を着た烏野の二年生達が笑いながら手を振っていた。
西谷君と田中君と縁下君と、あとの二人はまだ話したことがないけど確か同じ二年生だった気がする。
「一回戦突破おめでとう!烏野、凄かったよ!」
「おう!サンキュー!やっと広瀬に勝ち試合見せられたな!」
「音駒の時は全部負けたからな~クソ~」
駆け寄ると共に烏野の勝利のお祝いをすると、西谷君はニカッと明るく笑い、田中君は悔しそうに坊主頭を掻きむしった。
「応援、来てくれてありがとう。もしかして、ここにはバイクで来たの?」
私の手元にあるヘルメットを見て、縁下君はそんな質問を投げてくる。
それに「そうだよ」と軽く頷くと、隣に居る西谷君が興奮気味に食いついてきた。
「あ、それ俺も気になってた!広瀬バイク乗れんだな!かっけー!」
「西谷君?あの、私乗ってるのちっちゃいスクーターだからね?」
「うちのねーちゃんは大型乗ってるぜ~」
「大型!え、田中君のお姉さん格好良過ぎじゃない?」
「冴子姐さんはめちゃくちゃ格好良いぞ!」
「びっくりする程田中にそっくりだよ」
「......田中君に、そっくり......」
縁下君の言葉に、田中君そっくりなお姉さんってどんな人なんだろうと少し気になってしまった矢先、先程から黙ったままの男子二人と偶然目が合ってしまった。
「あ、3組の広瀬です。初めまして、お邪魔してます」
「え!?あ、こちらこそ!2組の木下です!」
「4組の成田です、初めまして」
今更かなとは思いながら挨拶と共に頭を下げると、二人は慌てた様子で挨拶を返してくれた。
色素の薄い明るい髪色の男子が木下君、坊主頭でも穏やかそうな男子が成田君。よし、覚えた。
「何合コンみたいなやり取りしてんだよwさては広瀬みたいな女子がタイプか~?w」
「はぁ?普通だろ、普通!」
「というか田中、合コンなんて行ったことないくせに」
「そーだそーだ、ナンパすらしたことないくせに」
「ぐぬッ......雰囲気だよ!雰囲気!」
私達とのやり取りに田中君はニヤニヤと笑いながら木下君と成田君をからかったものの、二人から見事なカウンターを食らって撃沈していた。
その様子が可笑しくてつい笑ってしまえば、「あ、そうだ!」という西谷君の声に全員が注目する。
「広瀬お前、いつ青城の奴らと仲良くなったんだ?さっきの試合、一緒に見てたろ?」
「え......」
聞かれた内容に思わずぎくりと身体が強ばる。
うっかりしてたけど、烏野の応援に来た私が他校生と何かを話していたら確かに気になるだろう。
どう答えようかと少し思案している中、今度は田中君が口を挟んできた。
「しかもお前が話してたのって青城の主将だよな?あのすげーいけ好かねぇイケメンセッター!」
「......いけ好かないんだ......」
「落ち着け田中。それに、他校と言えど先輩なんだからそんな口利くなよ......」
何故か半ギレ状態の田中君の発言にあ然としてしまえば、縁下君が緩やかにフォローを入れた。
しかし、独自の世界に入ってしまった田中君の耳には全く入って来ないようだ。
「ハッ!もしやナンパとかじゃねぇよな!?かー!やめとけやめとけ!アイドルと恋愛するようなもんだぞ!」
「いや、違うから。田中君ちょっと落ち着いて」
「え、じゃあもしかして......広瀬のかっ、かかっ、彼氏とかじゃねぇよな!?」
「違います。西谷君もちょっと落ち着いて......」
変な方向へ思考が流れている田中君をどうしようかと思っていれば、まさかの西谷君も同じような状態になっているようでさすがに少し困ってきた。
「田中、西谷、話が進まないからちょっと黙ってようか」
「ウス」
「.............」
私の様子にすぐに気付いて助け舟を出してくれたのは穏やかに笑う縁下君で、その有無を言わさずの迫力にたまらず成田君と木下君を見れば、二人は苦笑気味に笑って「いつもこうだから」と小さな声で教えてくれる。
スっと静かになった田中君と西谷君を見て、烏野男バレ二年生の力関係が何となくわかったような気がした。
「えーと、青城の方々とはたまたま一緒に烏野の試合観ていただけです。及川さんに聞いたけど、1回練習試合したんだってね?西谷君と東峰先輩が居ない状態だったって言ってたけど」
「おう、1ゲームぽっきりだったけどな。あの時大変だったんだぜ?なんせ日向が俺のズボンにゲロ吐いちゃってよー」
「え!?なんで!?」
「あー、あの時の日向、初めての練習試合にガッチガチに緊張してたもんなぁ......」
「行きのバスは地獄だったよな......いや、帰りも少し臭かったな」
「まさか、練習試合の前日に一睡も出来ない奴が居るなんてなぁ......」
その時居なかった西谷君を除き、他の4人はどこか遠くの方を見ながらお互いの話にうんうんと深く頷き合う。
どうやら、青葉城西との初の練習試合は何かと波乱万丈だったらしい。
「でも、俺も旭さんも居ない状態でうちが勝ったらしいぜ」
「え!?そうなの!?」
西谷君の言葉に思わず目を丸くする。
だって確か、青葉城西って県内の強豪校だって聞いてたから、失礼だけど万全の体制じゃない烏野が適うとは思ってなかった。
「なんだ、勝敗は聞いてなかったのか?」
「う、うん......」
「いやいや、向こうも主将が怪我したとかで殆ど出てない状態だったから」
「でも勝ちは勝ちはだろ!」
縁下君の言葉に西谷君が食い気味に反論し、成田君がまぁまぁと間に入る様子を見ながら、及川さんに言われた言葉をふと思い出した。
『このブロック、烏野が勝ち進めば...俺らと戦うことになるんだから。キトちゃんの希望を、願いを、祈りを、全て叩き潰す悪い男に、頑張れなんて言っちゃダメだよ』
もしかしてあれは私個人に対しての言葉ではなくて、烏野に対しての宣戦布告だったのではないだろうか。
だから、優しい言葉ではなく少し厳しい言葉を最後に与えたのかもしれない。
観客席に居る部外者の私を、烏野というチームの一員として見なしてくれたからだとしたら。
「.............」
これが正解かどうかは及川さんに聞かないと正直分からないが、もしそうだとしたら少し救われる。
及川さんから向けられた敵意が、少しだけ違う意味になるから。
「......広瀬?どうした?」
「!」
先程の一件をぼんやりと考え込んでいたら、西谷君の心配そうな声が聞こえて慌てて意識をこちらへ戻した。
無意識に下げていた顔を上げると、西谷君だけでなく烏野二年生が私の様子を窺っていた。
もしかしたら何回か呼ばれてたのかもしれない。
「大丈夫?もしかして具合悪い?」
「あっ、ごめん、ちょっと考え事してて......大丈夫!元気!」
背の高い縁下君が私の前に屈み込み、体調を心配してくれるが身体的には全く問題ないので慌てて笑いながらゆるりと片手を振った。
「で、ごめんなさい、今全然話聞いてなくて......何の話してた?」
「ああ、次の試合が13時半からだから、俺らこれから飯食うんだけど、広瀬はどうする?まだ嶋田マートの人とか来てないんだろ?」
一緒に食うか?と提案してくれる田中君に、少し考える。
13時半までの空き時間、どう過ごそうか。
とりあえずお昼ご飯は買って来るか、どこかで食べて来るかしないといけない。
嶋田さんからも滝さんからも連絡はないし、慣れない場所でお昼ご飯を一人で食べるというのも寂しいかな......。
「.............」
田中君の誘いに甘えてしまおうかと一瞬考えたものの、そういえば田中君達は以前負けた相手とこれから戦うんだよなと思い出す。
きっとそれなりに緊張するだろうし、モチベーションもコンディションも万全に整えたいだろう。
そんな中、心細いからと言って烏野の選手達の優しさに甘えるのは、どうだろうか?
「......ありがとう。でも、折角だしこの辺散策したいから、お昼は一人で大丈夫。他のチームの試合も見てみたいし、烏野の試合までちょっとうろうろしてくるよ」
私が出した結論に田中君は「そっか、わかった」と快く了承してくれた。
「でも、変な奴に声掛けられたら直ぐ逃げろよ?」
「そんな、ちっちゃい子じゃないんだから大丈夫だよ」
「バカヤロ、ここは言わば男の巣窟だぞ?女子が一人で試合見てたら例え広瀬でも声掛けられるかもしれないだろ」
「おい田中、失言だぞ」
「そうだね、気を付けるね。万が一にでも声掛けられたら田中君に関する変な話沢山して、金輪際他校の女子が寄り付かないように手配するね」
「やめてくださいごめんなさい!!!」
「......広瀬、怖ぇ......」
にっこりと笑う私に対して顔を青ざめる田中君と怖がる西谷君、他の三人は自業自得だと田中君に呆れた目を向けていた。
誰もが振り向く程の美人さん、烏野マネージャーの清水先輩みたいな人だったら引く手数多で声も掛けられるだろうけど、生憎私はそこまでの美貌もなければプロポーションもオーラもない。
だけど、凡人には凡人なりのプライドってものがあるので、面白くないことを言われたらそれは当然反論したくなるものだ。
「じゃあ、また後でね」
「広瀬!」
ヘルメットを持ち直し、烏野二年生に一旦別れの挨拶をすると西谷君から呼び止められ、少しだけ目を丸くする。
西谷君は強い瞳を真っ直ぐ私の方へ向け、ゆっくりと口を開いた。
「......次の試合、すげー大事な試合なんだ。だから、死んでも負けらんねぇ。絶対ぇ勝つから、ちゃんと見ててな!」
「!」
言われた言葉に、心臓がどきりとざわつく。
たまらず田中君や縁下君、木下君と成田君を見ると、4人はしっかりと私を見て強気な笑顔を見せた。
......ああ、もう、いきなり格好良くなるのは心臓に悪いからやめて欲しいんですけど!
「......うん。頑張れ!」
心臓が落ち着かないまま、まるで捻りのない言葉を返してしまう私に、頼もしくて優しい烏野二年生は声を揃えて「おう!」と格好良く笑った。
真ん中男子の魅力
(第二学年とは唯一、先輩も後輩も共存する学年である。)