Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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三面のコートで、審判のホイッスルが鳴り響く。
その音に選手達は一斉に整列し、先程までの騒がしさとは打って変わって体育館は静寂に包まれた。
がらりと変わった空気に思わずごくりと固唾を呑んで見ていれば、二度目のホイッスルと共に「お願いしァース!!」と威勢のいい挨拶が各校から上がり、その後直ぐにそれぞれの応援合戦が火蓋を切った。
「.............」
一斉に賑やかになった会場の雰囲気に呑まれ呆然と辺りを見回してしまうと、隣りに居る及川さんが小さくふきだす。
「......キトちゃんってバレーの公式戦、来るの初めてだっけ?」
「......はい......こんなに、凄いんですね......」
まるで音楽ライブの会場にでも来たみたいだ。周りが音に溢れている。
圧倒されたまま及川さんの言葉に返答すると、及川さんは「まぁ、まだ一回戦目の初っ端だけどねぇ」と手すりに腕を付き瞳を閉じた。
「......でも、宮城県の55チーム中、23チームが今日で終わる」
「!」
ぽつりと言われた一言に、思わず息を飲む。
思考が硬直したまま咄嗟に及川さんを見ると、及川さんもゆっくりと私の方へその端正な顔を向けた。
その顔はにっこりと笑ってこそいるが、何だか妙に不安にさせる雰囲気があった。
「......新生烏野。お手並み拝見といこうか?」
「.............」
及川さんの優しい笑顔に若干の恐怖を感じているのだと認識した矢先、アリーナから烏野の円陣を組む声が聞こえる。
「烏野ファイッ!」
「オォーッス!!」
主将である澤村さんの声に合わせた息の合った掛け声に惹かれ、自然とそちらへ視線が流れた。
先程の円陣で士気を高めた烏野選手達が、確かな足取りで各々の持ち場へ移動していく。
「.............」
......ああ、ついに始まってしまう。
何とも言えない不安から、手すりを掴む両手に力が入る。
私が試合をする訳では無いのに、どうしてこんなに緊張してしまうんだろう。
バレーの公式戦を観るのが初めてだから?
滝さんと嶋田さんじゃなくて、隣りに居るのが青葉城西の及川さんだから?
それとも、烏野男子バレー部が負けるのが怖いから?
「.............」
多分、全部当てはまるけど、きっと根本的な理由じゃない。
絶対にこれ、という断言は出来ないけど......おそらくこの不安感は、この緊張感は、未知のものへの好奇心だ。
ホイッスルが鳴り響き、第一試合が開始される。
烏野の初戦は相手チームの常波高校からのサーブで幕を開けた。
「ナイッサー!!」
「サッコォーイ!!」
常波の1番が打ったサーブを東峰さんが綺麗にレシーブで拾う。
ボールはセッターである影山君の近くへ上げられ、彼が選んだファーストスパイカーへボールが運ばれた。
「わっせらーっ!!」
特徴的な掛け声と共に強烈なスパイクを放ったのは、同じ二年生の田中君だった。
ボールは相手の腕に当たったものの相手コートの床へ勢いよく落下し、烏野の1点目が見事に決まる。
「うおァァアア!!」
「らあァア!!」
田中君のガッツポーズと喜びの声と共に、コートへ入ってきたリベロである西谷君の歓喜の声が重なり合う。
いつも以上にテンションが高い二人に拍手しながら私も烏野の初得点に喜んでいると、二人ともあまりに長く叫び過ぎたのか澤村さんと菅原さんに「うるさい!!長い!!」と怒鳴られていた。
その上審判の方からも注意を受けてしまい、「烏野もう注意されてるw」「早っwバッカだな~」とギャラリーから大いに笑われてしまった。
そして勿論、隣りで観ていた及川さん率いる青葉城西の皆さんもしっかり笑ってくれている。
「おもしれーな烏野」
「ていうか気合い入り過ぎでしょw」
「.............」
けらけらと笑う岩泉さんと及川さんの会話に顔を赤くしつつ、どんな時でも相変わらずな田中君と西谷君の背中を眺める。
澤村さんの後ろで審判に怒られているその姿はとてもじゃないけど格好良いとは言えないが、おかげさまで私個人の妙な緊張感や不安感は根こそぎ去っていってしまった。
明るく賑やかな二年生の二人はきっと、烏野の大切なムードメーカーだ。
そんな二人と友達であることが、なんだかとても誇らしく思えた。
例え次のサーブが田中君で、ギャラリーから再び笑いが巻き起こっても、である。
田中君のサーブを常波の12番が拾い、セッターからのトスで4番がスパイクを放った。
ボールは澤村さんのブロックに当たりはしたものの、烏野コートへ滑っていく。
床に落ちる寸前にレシーブを決めたのは烏野の守護神、リベロの西谷君だ。
「おおっ、凄え、拾った!!あのリベロ反応速ェッ」
西谷君のレシーブにギャラリーから他校の選手が驚いた声を上げる。
烏野の選手が、そして友達である西谷君が褒められていることが嬉しくてたまらずふふんと得意げに笑ってしまえば、当の本人はコート上でなぜか「くっそ!」と悔しがっていた。
西谷君の態度にどうしたんだろうと気になりつつも、澤村さんから東峰さんへボールが上がりそちらへ意識を持っていかれる。
「レフト来るぞ!3枚つけ!!」
咄嗟に常波の前衛の選手3人がネット際へ移動し、3枚ブロックの準備をする。
「頼むぜエース!!」
西谷君の声と共に、レフトにいた東峰さんの力強いスパイクが激しい音を立てて常波の3枚ブロックを打ち抜いた。
相変わらずの迫力にたまらずびくりと肩が揺れるが、烏野の得点連取に「やった!」とガッツポーズをする。
「うおっ、スゲー威力......なぁ、あの3番って本当に高校生なのか?」
「え?」
ふいに岩泉さんから声を掛けられ、ガッツポーズをしたまま顔だけそちらへ向けると、岩泉さんとその隣にいる黒髪を立てた背の高い青葉城西の人が興味深そうにこちらを見ていた。
「いや、ほら」
岩泉さんがギャラリーの他校の選手達へひっそりと指を差したので、何かと思ってそちらを見れば、「すげっ、さすが成人!」「烏野に5年留年の人居るんだってよ!」と東峰さんの噂話で盛り上がっている姿があった。
「......あれ、マジ?」
「......いえ......そんなお話は聞いた事ないです......普通に三年生だと思いますよ......」
「......それでも、俺とタメか......」
「.............」
他校の選手達による噂話をやんわりと否定すれば、岩泉さんはそれでも気になる点があるようで眉間にシワを寄せて黙り込んでしまう。
まぁ、私も初見の時は東峰さんの外見やプレースタイルに思わず社会人かと思ってしまったので、これらの噂話を注意出来るような立場ではなかった。
「岩ちゃん、背ぇちっちゃいもんね」
「コロス」
「痛いッ!!」
お互いに黙ってしまった私と岩泉さんだったが、間にいる及川さんがひょっこりと口を挟むと瞬時に及川さんのお尻に岩泉さんの膝蹴りが入った。
力無く崩れる及川さんと、彼を鬼の形相で睨む岩泉さんに狼狽えていると、「コイツらいつもこんなんだから気にしなくていーよ」「うるさくてごめんな~」と青葉城西の背の高い黒髪くせっ毛の人と薄桃色の短髪の人がさらりとフォローの言葉をくれる。
それに曖昧に笑いつつ、どうやらだいぶ荒々しいが御二方のコミュニケーションの一つだということが分かったので、気持ちを切り替えて再び烏野の試合へ意識を集中させた。
コートを見ると、丁度田中君が二度目のサーブを放つところだった。
ボールは常波の5番に拾われ、セッターからのセットアップでの攻撃が来るがリベロの西谷君が安定したレシーブを見せる。
今度は烏野のセッターからのセットアップ、影山君がジャンプしてトスの構えを取った、瞬間。
今までなりを潜めていた橙色の烏......ヒナちゃんがネットの高さを越えてしまうのではと見間違うほど、高く飛び上がった。
その跳躍力にギャラリーは一瞬にして声を、視線を、意識を奪われる。
「────......飛んだ......」
誰かが呟いた声がやけに大きく聞こえ、次の瞬間には勢いよく常波のコートへスパイクが決まった。
「.............」
会場中で烏野の試合を見ていた人達が、一斉に驚いた顔をする。
堕ちた強豪、飛べない烏。
その汚名はもうすでに昔話だ。
烏野の試合を見ていた人達もきっと、今日のプレーでそのことに気付かされたに違いない。
「......ヒナちゃんナイスキー!!」
烏野のプレーにワッと盛り上がりを見せるギャラリーの中、以前嶋田さんと滝さんに教えてもらったバレーボール特有の声援を力いっぱい贈る。
ナイスキーがNice killという意味だと聞き、それを叫ぶのはちょっと躊躇われるなと対音駒戦では一度もそれを言えなかったのだが、今のヒナちゃんのプレーにはどうしてもこの言葉を贈りたくなってしまったのだ。
今の一本でやつけた相手は、きっと常波の選手だけではなかったはずだ。
飛べない烏とレッテルを貼られた過去の烏野を、ヒナちゃんのスパイクで見事払拭してみせた。
「!」
心の底から湧き上がる高揚感に浮かれていると、スパイクを決めたヒナちゃんがこちらへ顔を向けてくれる。
どうやら私の声がヒナちゃんにも届いたようだ。
「あざぁースッ!!」
両手をこちらへ上げ、満面の笑みを浮かべながら御礼を言うヒナちゃんの姿は、今までに見た彼の姿で一番キラキラと眩しく輝いていた。
遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ
(古兵、烏野の復活だ!)