Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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第一試合開始、25分前。
ウォーミングアップをする烏野をギャラリー席から眺めていれば、唐突にヒナちゃんがこちらに顔を向けて「あっ!!らっきょヘッド!!!」と謎の言葉を発してきた。
一体何のことだと首を傾げていれば、ギャラリー席の通路を歩いていた他校の男子バレー部員達の何人かが足を止める。
「らっきょヘッドって何だ?」
「ブッフwお前以外に誰が居る」
「は!?」
そんな会話が聞こえてしまい、つい気になってひっそりとそちらへ顔を向けると、白地にミントグリーンのラインが入った見覚えのあるジャージが目に入った。
ぼんやりとした既視感に一体どこで見たんだっけと暫しそのジャージを見つめた矢先、その中の一人が落下防止の手すりから身を乗り出し、「やっほー!トビオちゃんチビちゃん」と楽しげな声を上げる。
「元気に変人コンビやってるー?」
眼下に居る烏野にピースサインをかざすその人を見て、瞬時に顔が青くなった。
屈んでても分かる高身長にすらりと長い手足、綺麗にセットされた茶髪の小さな頭、抜群のスタイルに全く引けを取らない甘いマスク。
ジャージの背中の“AOBA JORSAI”の文字を見つけてしまえば、その人が以前青葉城西高校で出会い、連絡先を交換した相手......及川徹さんであることを否が応でも認識した。
まさか、同じ宮城県の高校であってもこんなに早く鉢合ってしまうなんて!
「.............!!」
咄嗟に青葉城西の方々から視線を外し、動揺が走る中どうするべきかを考える。
幸い、及川さん達は眼下の烏野に注目していてこちらを全く見ていない。
これならヘルメットだけ席に置いて、お手洗いとかに行けば何とかバレずに済むのではないだろうか!
そうと決まれば善は急げだとお気に入りのワンショルダーバッグを椅子から手に取った瞬間。
ファスナーが半開きになっていたせいで携帯が音を立ててバッグから転げ落ちた。
「!!」
うそでしょ!?と内心で盛大に焦りながら椅子の下に落ちた携帯を慌てて拾うと、背後から「......あれ?」と何かに気が付いたような声が聞こえる。
「もしかして、キトちゃん?」
「!!」
耳障りの良い甘い声で名前を呼ばれたにも関わらず、私の身体はまるで呪いでも掛けられたかのようにぎくりと強張り動かなくなった。
「ねぇ、そうでしょ?キトちゃんだよね?この前うちの猛をバイクで連れて来てくれた」
「.............」
及川さんに完全に身バレしていることが分かり、どうにもならない現状にはもう悪足掻きせず自首することに決めた。
拾った携帯を片手に、おずおずと及川さんの方へ振り返る。
「......お、おはよう、ございます...先日は、お世話になりました......」
しゃがみ込んだまま深々と頭を下げれば、及川さんは「いやいや、世話になったのはこっちでしょ!」と少し慌てた様子で返してくる。
「それにしても、なんでキトちゃんがここに?あ、もしかして俺の応援に来てくれたとか?」
「え......」
ただ烏野を応援するだけの立場であるとは言っても敵同士である手前、先日のやり取りを気まずく感じている私を余所に、及川さんはにこにこと笑いながらそんな素っ頓狂な台詞を言ってきて、思わず戸惑ってしまった。
いえ、普通に烏野の応援なんですけど......と私が返答する前に、及川さんの背後から綺麗な蹴りが繰り出され、及川さんは声もなく崩れ落ちる。
「何寝惚けたこと言ってやがる。どんだけ都合良い頭してんだよ」
「~~~イッタイなぁもう!岩ちゃん!女の子の前でそういう乱暴なことするのやめた方がいいよ!強面が更に怖くなるよ!」
及川さんを蹴った青葉城西のお兄さんは、及川さんの文句を「うるせぇクソ川」の一言で切り捨て大きく舌打ちした。
これはまた、田中君レベルで迫力のある強面さんである。普通に怖い。
「もー、ただの冗談なのにぃ......キトちゃんは烏野の応援でしょ?なに、彼氏でも居るの?」
「え!?いえ、居ません!」
「え、そうなんだ?じゃあ友達の応援?なにそれすげーいい子じゃーん」
蹴られた太もも裏辺りをさすりつつ、及川さんはとんでもないことを聞いてきたので、たまらず大きめの声で否定すると、また更によく分からないことを言われてしまった。
冗談なのは勿論分かってはいるが、及川さんに引け目のある私に“すげーいい子”なんて言葉を遣ってもらう訳にもいかず、少し思い悩んでからおずおずと及川さんを呼ぶ。
「......あ、あの、及川さん......」
「ん?なぁに?」
「......私、あの、何か企んで、そちらにお邪魔した訳では無いんです......本当に偶然で......その、敵情視察とか、スパイ行為とかは一切してないので......!」
「.............」
「ですが、あの時にきちんと言えなくて......及川さんの連絡先まで頂いてしまい......あの、不快でしたら私の連絡先、消して下さって結構です。私の方も削除しますので、本当、申し訳ございませんでした!」
「.............」
最後の謝罪と共に勢いよく頭を下げる。
私は烏野バレー部でも無ければ、最近バレー観戦をするようになったバレーボールど素人な訳だが、試合前日に出会った他校生が翌日敵陣の応援をしていたなんて、きな臭い以上の言葉はないだろう。
私の浅はかな行動が原因で、万が一にも烏野の品位を下げてしまったら、もう二度と応援には行けない。
頭を下げた姿勢のままじわりと浮かぶ涙に懸命に堪えていると......頭上から降ってきたのは、予想外の明るい笑い声だった。
「......ふ......あははは!す、スパイだって!岩ちゃん聞いた?スパイだって!w」
「......笑い過ぎだボケ、失礼だろうが」
「いや、岩ちゃんも笑ってるよね?だいぶ堪えてるよね?」
「うるせぇクソ川」
けらけらと可笑しそうに笑う及川さんに思わず頭を上げて目を丸くしていれば、及川さんは一頻り笑ってから満足そうにため息を吐いた。
「は~、笑った笑った......。残念だけど、そんなこと微塵も心配してないし考えてもみなかったよ。キトちゃん、面白いねぇ」
「え......」
さらりと言われた及川さんの言葉に、どうやら私の独り相撲だったらしいことに遅れて気が付く。
私が勝手に引け目を感じていただけで、及川さんにしたら大したことじゃなかったようだ。
「まぁ、今日会ったのはちょっとびっくりしたけど......でも、別にキトちゃんを不快だなんてこれっぽっちも思ってないよ」
「.............」
「ていうか、もしかしてずっと気にしてたの?この前キトちゃんに連絡先交換しようって言った時、やたら拒んでたのもそれが原因?」
「あ......す、すみません......」
図星を突かれて言いよどみながらも再び謝罪する私に、及川さんは「なんだ~」と納得するように何度か頷く。
「よかった~。俺、女の子から拒まれることあんまりないから、ちょっと気にしてたんだよね~」
「いや、そこは普通に嫌がってたんじゃねぇの。お前、胡散くせェクソヤローだし」
「ちょっと岩ちゃん!女の子の前でクソとか言うのやめて!」
「あ?クソにクソっつって何が悪い」
及川さんのプレイボーイ発言から一転、岩ちゃんと呼ばれる短い黒髪の強面さんが無慈悲に切り捨てる。
そしてあろうことかその鋭い眼光を私の方へゆるりと向けてきた。
反射的に背筋がしゃんと伸びる。
「......あんたが猛を連れて来てくれたんだってな。こいつもだけど、迷惑掛けて悪かったな」
「え、あ、全然、そんな、とんでもない......!」
何を言われるのかどきどきしていればまさかのお詫びの言葉を貰い、思ってもみなかったことに戸惑いを含んだ情けない声が出る。
あたふたと慌ててしまう私を他所に、及川さんとその方はまた口喧嘩を始めてしまった。
「ちょっと、俺は別に迷惑掛けてないんですけど」
「うるせぇクソ川。お前は存在自体が迷惑なんだよ」
「何それ酷い!あとその呼び方やめて!」
遠慮のないやり取りに長年の付き合い故なのかなと二人の関係性を勝手に考えていると、口喧嘩のついでにとばかり話の先がまた私の方へ向かう。
「青城三年の岩泉だ。こいつにムカついたら直ぐ蹴り飛ばしてやっから安心していいぞ」
「俺は安心できないんだけど!」
「......あ......烏野二年の広瀬です...あの、全然、そんなことは、ないので...」
なかなかにパンチのある自己紹介に戸惑いつつもこちらも名乗ると、丁度試合10分前のホイッスルが鳴り響いた。
途端、及川さんも岩泉さんも纏う空気が変わったので、それに少し驚きながらもほっと胸を撫で下ろす。
今日は烏野の応援に来たのだ。じっくり、しっかり、烏野のプレーが見たい。
「あれっ?リベロが居るねぇ。練習試合の時は居なかったのに......」
「なんかデカい奴も増えてんな......」
及川さんと岩泉さんが再び烏野男バレの話を始め、私から完全に注意が逸れたところでマウンテンパーカーのポケットに入れていた携帯を取り出した。
画面を見ると、案の定滝さんと嶋田さんからメッセージが入っている。
どちらとも一緒に行けなくてごめんというのと、烏野の応援を頼むという内容のメッセージであり、それに簡単に返信してから再び携帯をポケットにしまった。
一瞬、青葉城西高校のことを書こうかとも思ったが、なんだか話がややこしくなりそうなのでとりあえず今の返信には全て省いたものを送る。
二人には後で直接この珍事件を伝えよう。
「んじゃ、折角だしキトちゃんの隣りで見よ~っと」
「え?」
携帯から烏野に視線を戻した矢先、再び及川さんが私の隣りに来てさらりと驚きの発言をした。
てっきり青葉城西の方々と観戦するかと思っていたので、予想外の展開に思わず聞き返してしまうと、及川さんはこちらを向きながらにっこりと綺麗な笑顔を浮かべる。
「正直、トビオの試合なんてど~~~でもいいんだけどね。キトちゃんに免じて見てあげてもいいかなって」
「......あ、ありがとう、ございます......?」
「オイ流されんな。すげークソなこと言ってんぞこいつ」
キラキラなイケメンオーラが眩し過ぎて、言われた言葉の内容を半分も理解しないまま流された状態で御礼を述べると、及川さんの後ろに居る岩泉さんにぐさりと釘を刺された。
「つーかお前、元々影山の試合見るつもりだったろ。意識してんのバレバレだっつーの」
「もー!岩ちゃんは余計なこと言わなくていいの!あと全っ然意識してないし!トビオなんてマジで眼中に無いから!」
「.............」
瞬く間に再開される二人の口喧嘩を聞きながら、影山君の下の名前がトビオであるということと、この二人と影山君がなんかしらの繋がりがあることがわかったが、口喧嘩がヒートアップしていく二人には詳細を聞くことが出来なかった。
大王様とのバレー観戦
(......王様の秘密、知りたいかい?)