Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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少し早足で階段を昇り、2階へ辿り着く。
烏野は何処かなと体育館内を眺めた矢先、思っていたよりもずっと広い景色が目に入り思わず少し惚けた。
高い天井、眩しい照明、三面もあるコートの周りをぐるりと囲む沢山の観客席。
プロのバレーボール選手の試合もここで行われるらしいというのは事前に調べていたが、流石というかなんというか、とても大きくて立派な体育館だ。
小中高と学校の体育館しか知らない私の目には、なんだかとてもキラキラとした場所に見えた。
天井から床まで、全てがなんだかピカピカしていて、とても綺麗だ。
「......凄い......」
初めて見る広大な体育館にヘルメットを抱えたままついぼんやりと眺めてしまったが、誰かが打ったスパイクの衝突音でハッと我に返り、自分の目的は烏野の応援だったことを思い出す。
先に席を確保しておかないと、もしかしたら直ぐにいっぱいになってしまうかもしれない。
嶋田さんも滝さんも、スポーツ観戦は最前列に限ると言っていたし、どうせなら私も一番近い所で烏野のプレーを見たい。
逸る気持ちを抑えつつ烏野がどこでウォーミングアップをしているのか探せば、案外早くに黒とオレンジのユニフォームを見つけて再び小走りでそこに一番近い席へ向かった。
幸い、まだ席は空いている。これなら一番前の席を陣取れそうだ。
「.......よかった......」
まだ席が埋まってなかったことに安堵の溜息を零しつつ、一つ深呼吸してから最前列の席へ階段を下りていく。
ど真ん中に座る勇気は流石にないので、一番前の一番端の席に一先ずヘルメットを置き、落下防止の手摺りに両腕を乗せた。
「.............」
先程よりもずっと近くなったピカピカのコートに、忙しなく動く烏野男子バレー部の面々をギャラリーから静かに眺める。
主将である澤村先輩を筆頭に、掛け声に合わせてスパイクをしたりレシーブをしたり、各々が闘いに向けてコンディションを整えていた。
「おーい!広瀬ー!」
「!」
ウォーミングアップ中の烏野をぼんやりと眺めていれば、自分が見ていない方向から名前を呼ばれて思わずびくりと肩が震える。
聞き覚えのある声に直ぐにそちらへ顔を向ければ、坊主頭が特徴的な田中君が大きく手を振っていた。
「おーす!もう来てたのか!早ぇな!試合開始まで結構時間あるぞ?」
「あ、お、おはよう!席、埋まっちゃったら嫌だから、早く来ちゃった......」
田中君の言葉に返答すると、なぜか烏野の何人かが可笑しそうに笑った。
「おはよう広瀬さん。誠に遺憾だけど、そんなに応援来ないんだな~」
「え、そうなんですか?」
田中君の隣りに居た菅原先輩が眉を下げながら笑って答えてくれる。
そうか、そんなに応援て来ないのか......。烏野のバレーはあんなに面白いのに、なんだか勿体無いなぁ。
「広瀬ーーーッ!!!」
「はいっ!?」
思ったよりも観客が少ないらしいことに若干拍子抜けしていると、威勢のいい声に呼ばれて反射的に背筋を伸ばして返事をしてしまった。
何事だと遅れて目を向ければ、私を呼んだのはどうやら西谷君だったようで、目が合うといつもの太陽みたいな明るい笑顔を向けられる。
「来てくれてありがとな!今日こそリベロの格好良いとこ、見せてやっから!」
「......う、うん!頑張ってね!」
一人だけオレンジ色のユニフォームを着た西谷君にそう宣言され、殆ど反射的に言葉を返した後で、今のは何だか少女マンガとかドラマみたいなやり取りだったことに気が付き遅れて羞恥心がきた。
とどめとばかりに田中君や菅原先輩が西谷君を囃し立てるものだから、とてつもなく顔が熱くなってくる。
いや、でも、だって、先程よりもベストな返答ってあっただろうか?え、ないよ、ね?ないよね?
急速に熱を帯びる頬に両手をあてつつ一人大混乱に陥っていると、またもや下から「キト先輩~!」と自分を呼ぶ声が聞こえ、眉を下げながらもそちらへ顔を向ける。
今の声は橙色の頭がトレードマークのヒナちゃんだ。
「お、俺、俺もっ、頑張りますっ!いっぱい飛びますっ!」
「......ハッ。ガチガチに緊張しといてよく言うよね」
「ンだと!月島コンニャロ!」
「.............」
おそらく緊張しているであろうヒナちゃんの辿々しくも精一杯の頑張ります宣言に対し、彼の近くに居た金髪で眼鏡を掛けた背の高い男子が鼻で笑ってヒナちゃんの横を通り過ぎた。
そういえば、あの人のことはよく知らないな。
ヒナちゃんが遠慮無しに悪態をついているということは、背が高いけど一年生なのかもしれない。
ちらりと金髪眼鏡の男の子を視線で追うと、彼の直ぐ後ろに見覚えのあるそばかすの男の子、以前嶋田マートで少し話した山口君がボールを抱えながら小走りで着いて行った。
ヒナちゃんとあの子はそうでもなさそうだけど、あそこは仲良しなのかなと勝手に考えていた矢先、山口君がそろりと私の方へ顔を向け、ぺこりと小さく頭を下げる。
もしかして気を遣って挨拶してくれたのかな?だとしたら本当に良い子だ。
彼の会釈に笑顔を返しながら小さく手を振ると、山口君は再度頭を下げてから金髪眼鏡の男の子へ顔を向けてしまった。
「.............」
視線を再びヒナちゃんへ戻すと、どうやら同じ一年生の影山君と何やら言い合いをしていたようで、最終的に「喧嘩すんな!」と烏養さんから怒鳴られていた。
なんだか試合前だというのに緊張感がないなぁと思わず苦笑してしまえば、ふと視線を感じてそちらへ顔を向ける。
ぱちりと音がしそうな程目が合ったのは、今しがたヒナちゃん達を怒鳴った烏養さんだった。
相変わらずの鋭い目線にぎくりとしつつ、もしかして何か怒られるのかと思いドキドキしながら目を合わせていると、烏養さんは口元に片手を当て少し声を張った。
「嶋田とたっつぁんはどーした?」
聞かれた言葉に、あぁなるほどと納得しつつ怒られる訳では無いことに少しほっとしてしまう。
私も烏養さんにならって口元に手をあて、「お二人共、急な仕事で都合がつかなくなってしまいました」と伝え、そして一回息を軽く吸った。
「......なので、不束者ではありますが、私一人で、応援させて頂きます!」
「.............」
「頑張ってください!!」
最後の一言は、なるべく烏野男バレ全員に聞こえるように大きい声で言った。
烏養さんを含め、烏野の皆さんが顔をこちらに向けてぽかんとしているのがわかる。
美人マネージャーの清水先輩もノートを片手に目を丸くしていた。
「.............」
先程の騒がしさから一変、しんと静まり返ってしまった烏野メンバーにこれはもしかして大きくスベってしまったかもと顔が青くなり出した、瞬間。
「......う、うおおおおお!!!漲ってきたあああああ!!!」
「ひぇっ!?」
田中君と西谷君の盛大なガッツポーズと咆哮にも似た大きな声にびっくりすると、二人は揃って私に顔を向ける。
「キトの応援、確かに受け取ったぜ!」
「昨日の潔子さんからの応援と合わせれば、向かう所敵なしだな!なぁ、ノヤっさん!」
「おう!龍!俺らには勝利の女神が二人もついてる訳だ!ここで負けたら男が廃るぜ!」
うおおおお!!負けねえええええ!!
何やらヒートアップしてしまった二人に若干気後れしていれば、視界の端に誰かが小さく手を振っていることに気が付きそちらへ顔を向ける。
相手を確認すると、それはまさかの美人マネージャー、三年生の清水先輩でたまらず目を丸くしてしまった。
清水先輩は西谷君と田中君からの話で一方的に私が知っているだけで、未だ会話したことがなかったはずだ。
もしかして私に手を振った訳では無かったのかもと思い、たまらず左右をきょろきょろと見回してしまえば、あろうことか清水先輩が小走りでこちらに来てくれた。び、美人さんは走る姿も美しい。
「......初めまして、広瀬さん。マネージャーの清水潔子です」
「あっ、は、初めまして、広瀬季都です!ず、頭上からの挨拶、申し訳ございません!」
清水先輩とのファーストコンタクトにドギマギしながら挨拶を返し、無礼を詫びれば清水先輩は「そんなの全然いいよ」と小さく笑ってくれた。
美人さんの笑顔は本当に美しい......!
「応援、来てくれてありがとう。音駒の時も、お礼言いたかったの」
「え、あ、そんな、全然!」
「......今日こそ、勝つから。見ててね」
「.............」
憧れの清水先輩と会話していることに軽くパニックしながらも何とか話を繋げていれば、清水先輩は対照的に凛とした姿勢ではっきりと想いを伝えてくれた。
眼鏡の奥の涼し気な目元がじわりと熱を帯びたのがギャラリーからでもわかり、たまらず背筋がしゃんと伸びる。
ゆっくり、だけど、確実に、清水先輩の目には焔が宿っている。
「.............」
“......飛べない烏だなんて、もう二度と誰にも言わせねぇよ。”
そう言った烏養さんの目にも、同じ焔が見えた。
選手だけじゃない、マネージャーも、コーチも、勿論顧問の武田先生も、バレーボールの試合という戦場に身を置く猛者達なのだ。
堕ちた強豪、飛べない烏。
一体誰が、そんなことを言った?
烏野全員が、怖いくらいの闘志に、気迫に満ち溢れているというのに。
「......格好良い、なぁ......」
ベンチへ戻っていく清水先輩の後ろ姿に。
腕を組み選手に声を掛ける烏養さんに。
教室では見ることのない緊張した顔の武田先生に。
......そして、闘志の焔を全身で燃やす烏野の選手達に感化されて、たまらずため息と一緒に思考が零れた。
キラキラと、ピカピカと輝いているのは、どうやら体育館だけではなかったらしい。
「.............」
一度ゆっくりと深呼吸して、目を閉じる。
はじめて来た場所、はじめて観るバレーボールの公式戦、はじめて自分の意志で応援する烏野の試合。
どきどきと、わくわくと、少しの恐怖心を胸に抱えながら、再びゆっくりと瞳を開ける。
私の瞳にも、烏養さん達と同じ焔がほんの少しでも宿っていたらいいなと図々しくも思いながら、試合開始のその時を待った。
井の中の蛙、大海を知る
(こんなにドキドキする世界、知らないなんて勿体ない!)