Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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たける君を後ろに乗せながら地図アプリを駆使して、なんとか無事に青葉城西高校へたどり着く。
さすが私立高とだけあって、校舎もグラウンドも烏野よりずっと大きくて綺麗だ。
時間も遅いので青城の生徒と鉢合わせになることはなかったが、おそらくこちらのバレー部も今も練習しているのだろう。
「.............」
......いよいよ、明日からインターハイ予選が始まる。もしかしたら烏野とここがあたる可能性だってある。選手達は今、神経質になってる時期かもしれないし、他校の生徒が近くにいるだけで嫌悪する人だっているかもしれない。
「......たける君、ここからお家までの道はわかる?そのまま送ってくけど」
「わかるけど、おれ、とおるに会ってくる!」
「え?」
事故なく目的地に到着できたことに安堵しつつ、なるべく早めにここから離れようとたける君に尋ねれば、たける君は予想外の発言をしてきた。
思わず聞き返してしまう私を他所に、たける君は後ろの席から身軽に飛び降りる。
「バイク乗ったって自慢してくる!キトも来てよ!」
「え!?だ、ダメだよ、私ここの生徒じゃないし......」
「大丈夫大丈夫!体育館こっちー!」
「ちょ、たける君!?うわっと!?」
思わぬ展開にバイクを倒しそうになるが何とか踏ん張ったものの、その隙にたける君は私のヘルメットとゴーグルを付けたまま駆け足でどんどん学校内へ入っていってしまった。
不運なことに正門は開きっぱなしであり、警備員さんらしき人も居ないようだ。
「え、うそ、ちょ、た、たける君ってばー!まずいって!」
「キトー!早くー!」
「いや、いやいや!本当にダメだから!」
「平気平気!おれ何回か入ってるもん!」
大声で言い合っている間にも、たける君の姿はどんどん遠くなる。このままでは本当にたける君を見失ってしまいそうだ。
「ああ、もう!たける君!ちょっとそこで止まってて!」
どっちにしろ、他校の正門で大きな声で騒いでいるのもあまり良くないことである。
毒を食らわば皿までだと自分に言い聞かせて、私はバイクを押しながら青葉城西高校の正門を抜け、たける君の後を追った。
正門から真っ直ぐ歩いていくと、校舎とは違う造りの建物が見えてきた。
バレーボール特有のボールを打つ衝撃音が聞こえ始め、もしかしてここが体育館なのかなとぼんやり予想をしていれば、たける君は臆することなく外側へ面して開いている扉へ走っていく。
「とおるーーー!!」
中へ入ることはせず、屋外からお目当ての人物を大きな声で呼ぶ。
途端に体育館内がざわめき出したが、おそらく一番ざわついているのは私の心の中だ。
ここまで来たはいいが、もういっそのことバイクに乗ってずらかってしまいたい。
ああでも、たける君のヘルメットだけは回収しないと今後バイクに乗れなくなる。
それは困るな、どうしよう......と半ば現実逃避していると、体育館の扉から長身の男の人が出て来て、慌てた様子でたける君に駆け寄った。
「猛お前何して......いや、どうしてここに居るの!?あとそのヘルメットは何!?」
「格好良いだろ~?おれ、バイク乗ったんだぜ!」
「はぁ!?バイク!?何それどういうこと!?ていうか今何時だと思ってんだよ!?」
「しかたないだろー!迷子になって、キトにここまで送ってもらったんだから!」
「迷子っておま、......は?」
体育館から出て来たお兄さんはたける君の肩を掴んだまま混乱気味に質問を捲し立てる。
おそらくたける君の話していた叔父にあたる「とおるさん」なのだろうと予測は簡単についたが...如何せん、こんなイケメンだとは全く思っていなかったので正直度肝を抜かれた。
たける君は坊主頭だし元気っ子だったので、何となく田中君みたいな人を想像していた為、完全に意表を突かれてしまったのだ。
背が高い、手足が長い、顔が小さい、更には顔がとてもいい。
芸能人かと思うくらいスタイルも顔も桁外れに整っている「とおるさん」の登場に思わず呆然としていると、向こうもこちらに気付いたようでその綺麗な顔をこちらへ向けてきた。
「......え......ど、どちら様......?」
パッチリとした瞳を更に大きくさせながら戸惑いがちに訊かれれば、何だか私の方は逆に落ち着いてきてしまい、ゆっくりと息を吐いた。
自分より混乱している人を見ると、我に返る時間が何となく早くなる気がするのは一体どうしてなんだろう。
「......あの、突然すみません。か......嶋田マートというスーパーの広瀬と申します。たける君が迷子になっていて、家を聞けば青葉城西高校の方だと教えてくれたので、お連れしました」
烏野高校の、と言いかけて瞬時に嶋田マートの、という自己紹介に修正する。
簡単に経緯を説明してから頭を下げたところで、非常時用のヘルメットを被ったままだったことに気が付いた。
そりゃあ「とおるさん」もなんだコイツ!?と混乱するはずだ。恥ずかしさよりも可笑しさの方が先にきてしまい、ニヤつく口元を必死に堪えながら手早くヘルメットを外して頭の後ろへ下ろした。
「......たける君、メットとゴーグル、返してもらってもいい?」
私を見てぽかんとしている「とおるさん」はひとまず置いておいて、先にたける君から私物を回収した。
よし、これで私がここに留まる理由はひとつもない。
「じゃあね、たける君」
ヘルメットとゴーグルを受け取りながらたける君に別れの挨拶を告げ、「とおるさん」に再度頭を下げてからバイクに戻り、スタンドを外した。
何はともあれ、他校に長居は無用。さっさと帰ろう。
「............あ、あー、ちょっと待って!やっと頭回ってきたから!」
正門へ向かう為バイクをUターンさせたところで、背後から慌てた様子で制止の声がかかる。
振り返ると、「とおるさん」が苦笑に近い顔で笑っていた。
「......まずは、猛が迷惑掛けてすみません。嶋田マートってこの辺じゃ聞かないけど、何処にあるの?」
「......烏野の方です......」
「え、烏野!?ちょっと猛!お前どこで迷子になってんの!」
私の答えに「とおるさん」はまた目を丸くして、隣りにいるたける君の頭を軽く叩いた。
たける君からは抗議の声が上がるが、「とおるさん」は全て無視して私に向き直る。
「あ、俺は及川徹。ここの三年です。広瀬さんはどこの学校?もしかして烏野?」
「......はい、そうです(バレた~!)」
「何年生?」
「......二年です(ひぃぃ)」
「......じゃあ、チビちゃんやトビオの1つ上か」
「え?」
「ううん、なんでもないよ。ちょっとここで猛と待っててもらっていい?正門まで送るから」
「え!?いや、いいですよ!」
「いいからいいから!それに、俺居ないと万が一警備員さんに会った時、出し抜けないかもよ?」
「!」
自分が烏野高生であることが直ぐにバレてしまい、表面上は何とか取り繕いながらも内心でのたうち回っていると、「とおるさん」改め及川さんの一言に、思わず口を噤む。
入る時はたまたま人が居なかったおかげで何も注意されなかったが、確かに警備員さんに鉢合ったら非常にまずい状況だ。
他校生だし、私服だし、何より校内にバイクを持ち込んでしまっている。
まごついている間に及川さんは「すぐ戻るから!」とだけ言って体育館へ入っていってしまった。
残された私はもうどうする術もなく、たける君とのお話に付き合うしか無かった。
戻ってきた及川さんは先程の練習着の上に白地に水色のラインが入ったジャージを羽織って現れた。イケメンと白い服という攻撃力の強い組み合わせに思わず目が眩む。
「......猛のこと、ここまで送ってくれてありがとう。結構距離あるのに、本当にごめんね」
「いえいえ、大事にならなくてよかったです。それより、部活の邪魔して本当にすみません」
「大丈夫大丈夫、ありがと」
及川さんの爽やかな笑顔はまた一段と格好良く、眩しさのあまりこのまま失明したらどうしようとか馬鹿なことを考えながら、私はバイクを押すことに専念した。
「......バイク、格好良いね。女の子が乗ってると余計素敵に見える」
「あ、ありがとうございます......!」
「キト、運転下手くそだけどな!」
「だから!安全運転なの!」
イケメンな及川さんに愛車を褒められ感激していた私に対し、たける君が間髪入れず落としてくる。不名誉な言われように思わず声を荒らげれば、及川さんは小さくふきだした。
「ふは、ごめん、悪気はないんだけど......コラ、猛、失礼なこと言うんじゃない」
「とおるだって今笑っただろー!」
すぐにたける君を注意してくれるものの、及川さんの口元は笑いを含んだままだ。
まぁ、運転が上手いかと聞かれたら差ほど上手くはないので別にいいんですけどね。
こんな感じで三人で話しながら歩いていれば、正門まであっという間に着いた。
先程まで被っていた非常時用のヘルメットはシート下の収納スペースにしまったので、普段使ってるゴーグル付きの茶色い半ヘルメットをきちんと装着する。
「キト、今度いつ会える?」
「え?」
時間も時間だし、そろそろお暇しようとバイクに跨った途端、たける君からの予期せぬ質問に思わず聞き返してしまった。
いつ会える、って......もしかして、友達認定されてしまったのだろうか。
面食らいつつもどう答えようか考えあぐねていると、私達の会話を聞いていた及川さんがジャージのポケットから何かを取り出した。
「じゃあ、折角だし連絡先交換しよっか」
「えッ!?」
及川さんの右手にはスマホがあり、更にはさらりと爆弾発言をしてくる。
「今回のお礼も今度ちゃんとしたいし......キトちゃんさえ嫌じゃなければ、教えてくれないかな?」
「............」
そう言って小首を傾げる様は最早ドラマで俳優がやるような仕草にもみえた。
まさか、田舎住まいの私がこんなイケメンから連絡先を訊かれる日が来るなんて......人生、何が起こるかわからないものである。
しかもさらっと名前呼びされてるのに何これ全然嫌じゃない。イケメンってすごい。
......いやいや、そうじゃない!
仮にも烏野男バレの応援である私が青城男バレの方の連絡先を知っていいものなのか?
もし、スパイとかの嫌疑が掛かったら大事件である。
「......あ、えーと、お礼とか別に要らないので......こちらが勝手にしたことですし......」
「だめだめ、それは男として......ていうか人として示しがつかないから!」
「......いや、あの、でも......」
「でももへちまもありません。キトちゃんには悪いけど、ここは譲れないから」
「.............」
本当にお礼は不要なのだが、及川さんは断固として受け入れてくれない。
暫く押し問答のような会話を続けていたが、結局及川さんの巧みな会話スキルに負けて及川さんと連絡先を交換してしまった。
「......じゃあ、また連絡するね。暗いから、帰り道本当に気を付けて」
「......あ、はい......ありがとうございます......」
ミントグリーンの憂鬱
(......これ、バレたら、どうしよう......)