Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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嶋田マートでバイトをしていると、色々なお客様がご来店される。
殆どが地元のマダム達な訳だが、まれに少し遠い所から足を運んでくれる方もいる。
今回もどうやらそういう方がご来店されたみたいだが、何だかとても訳ありなようだ。
「迷子になった!」
常連さんから「外でウロウロしてる小さい子がいるわよ」と声を掛けられ、様子を見に行くと小学生くらいの坊主頭の男の子が店の近くでキョロキョロと周りを見ていた。
何となく誰かを探しているようだが近くに大人の姿はないし、日も暮れ始めている時間なのでこのまま放っておく訳にもいかず、「こんにちは、何か困ってますか?」と声掛けるとすぐに返ってきた答えが先程の台詞だった。
そうか、迷子になったのか。元気だね。
「ここは烏野だけど、どこから来たの?」
「えーと......あおばじょーさいこーこーの方!」
「え、青葉城西?」
まさか学校名を答えられるとは思っていなくて、思わず目を丸くする。
昨今は治安が良いとは言えないし、もしかして迷子になったら施設とかの名前で答えるようお母さんに言われているのかもしれない。
これは簡単に名前も教えてくれないかな......と少し心配しつつ、一応自分の名前を教えてから彼の名前を訊けば、
「おいかわたける!」
と元気な声が返ってきた。
あ、そこは教えてくれるんですね。
でも、青葉城西高校って確か、ここから少し離れた所にある私立高だったような......。
「たける君、誰かと一緒に出掛けてたの?」
「ううん、おれだけ!変な虫いて、追いかけてたらここいた!」
「虫、追いかけてたの......」
子供の、とくに男の子の興味関心が向く方向は本当によくわからない。
どんな虫だったか説明し始めるたける君の話にとりあえず相槌を打ちつつどうしたもんかと悩んでいれば、店から嶋田さんが出て来てくれた。
「季都ちゃん?どうした......あ、もしかして迷子?」
「そうなんです......」
「どっから来たの?」
「あおばじょーさいこーこーの方!」
「え、まさかの学校名」
「名前はおいかわたける君だそうで......」
どうしましょうかと嶋田さんに目で訴えると、嶋田さんは眼鏡の奥の目を丸くしてたけるくんを見た。
「......え、青城の、及川クン?」
「え?もしかしてお知り合いですか?」
「いや、知り合いっていうか......青城ってめちゃめちゃバレー強いんだよ。で、確かそこに及川ってヤツが居たような......」
嶋田さんの言葉に思わずたける君の方を見る。
私と嶋田さんの視線にたける君はすぐに気が付き、楽しそうに笑った。
「それ、とおるのことだな!」
「そう!及川徹君!」
「え、えー!?嶋田さんすごい!」
ピタリと言い当てた嶋田さんに驚いて思わず拍手を送る。でも、だって、本当にすごくないか今の!
嶋田さんはどーよ?と言わんばかりに得意げな顔をしてから、一つ咳払いをしてたける君に向き直った。
「たける君は、及川徹君の弟かな?」
「ううん、ちがう!」
「あれ?じゃあ親戚かな?従兄弟とか?」
「とおるはおれのおじさんだけど、そう言うとあいつ怒るからとおるって呼んでる!」
「なるほど、甥っ子か......そりゃ高三でおじさん言われたら怒るわな......」
嶋田さんの言葉に確かにと頷く。
私はまだ姪っ子や甥っ子は居ないが、仮に居たとしておばさんと呼ばれるのはかなり抵抗がある。
だけど、たける君が呼び捨てにするくらいだからその及川徹さんという人はとても面倒見がいい人なのだろう。
もしかしたら、たける君が迷子になっているのを心配して捜索しているかもしれない。時間も時間だし、場所も場所だ。たける君を歩いて連れていくのは少々困難だった。
「......嶋田さん、私、バイクで送りましょうか?青葉城西高校だったら、地図アプリで行けると思います」
「あー、それか俺が車出すよ。暫く季都ちゃんに店見ててもらうことになるけど...」
「それは全然構いませんよ。じゃあ、嶋田さんの車で......」
「はい!おれバイクがいい!」
「え?」
とりあえずたける君を青葉城西高校まで送る相談をしていれば、唐突にたける君は綺麗な挙手をして発言した。
目を丸くする私と嶋田さんに臆することなく、たける君は期待に満ちた眼差しを向けてくる。
「バイク乗ってみたい!」
「え、あ......いや、バイクって言ってもその、ちっちゃいよ?あんまり格好良くもないし......」
「別にいい!乗りたい!」
「え、えー......」
どうしよう、たける君の想像するバイクって絶対大型もしくは中型のバイクだ。あの、某ライダーが乗ってるような、カッコイイやつ。
残念ながら、私の愛車は125CC以下のスクーターと呼ばれる類だ。
「......ど、どうしよう......」
たける君のキラキラとした視線に耐えきれず嶋田さんに助けを求めれば、嶋田さんは歯を見せてニッと笑った。
「とりあえず、季都ちゃんのバイク見てもらってから決めるべ!」
その一言でひとまず私達は店の前から裏手の駐輪場へ場所を変える。
ちょこんと停まってる群青色の原付バイクを指さして、おずおずとたける君の様子を見た。
「えと、これ、なんだけど......思ってたのと違うよね?ごめんね?」
「......ちっちぇ〜」
「うぐ......」
たける君の反応は予想通りというかなんというか、少し落胆の色さえ窺えた。子供の反応とは言え、自分の愛車を見せてがっかりされるのは少しだけ悲しい......。
「......でも、おれ、これ乗りたい!いいでしょ?」
「!」
ついしょんぼりとしてしまう私だったが、たける君の一言でハッと我に返った。
何となく認められた感じがして嬉しい気持ちも沸いたが、よくよく考えてみれば小さなたける君を青葉城西高校まで送らないといけないという事実に少し緊張する。
「......だってさ、季都ちゃん。お願いしてもいいか?」
たける君の反応に嶋田さんはまた笑い、私はひっそりと冷や汗を流しつつぎこちなく頷く。
「......じゃ、じゃあ、メット取ってきま......あ、しまった、メットひとつしかない......」
「あー......じゃあ、ちょっと格好悪いけど非常時用のメット被る?」
「......そう、ですね......お借りします」
一応原付二種のバイクなので二人乗りすることは可能だが、ヘルメットを付けてないと確実に減点対象だ。バイクに乗る以上無事故無違反を心掛けている為、そして絶対的な安全の為、ヘルメットは用意して貰うことにした。
「おれそっちがいい!」
嶋田さんが持ってきた非常時用の白いヘルメットと私のゴーグル付きの茶色いヘルメットを見比べて、たける君は私のヘルメットを所望した。
見た目的にまぁそうなるだろうと予想していたので、私が普段使っている方をたける君に装着する。
「じゃあ、いってきます。たける君、しっかり掴まっててね」
嶋田マートのエプロンを外して嶋田さんに渡し、非常時用の白いヘルメットを付けてバイクに跨る。
「行ってらっしゃい、気を付けてな」
嶋田さんの見送りの言葉を最後に、私はたける君を後ろに乗せてバイクを発進させた。
「怖くない?大丈夫?」
「大丈夫!超おもしれー!もっとスピード出して!」
「それは無理かなぁ、このバイクちっちゃいし」
「えー!うそだー!」
たける君の負担にならないよう最減速で走っていると、後ろから不満の声が上がる。
「もしかしてキト、運転下手くそ?」
「うぐっ......安全運転と言ってください!」
突然の敬称略、続く暴言に心に衝撃を受けつつも、私は負けじと安全運転を続けるのだった。
カラスノライダー、青城へ
(大王様の甥っ子と相乗り)