Crows to you
name change
デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
音駒との練習試合を経てから、私は坂ノ下商店でも夜間帯のバイトを請け負うようになった。
今までは烏養さんが難色を示していて、平日は授業終わりの15時半頃から19時くらいの3時間強程しか入ってなかったのだが、烏野男バレのコーチを継続するにあたって少し考えを改めたらしい。
......とはいっても田舎の個人商店である。夜は最大でも21時くらいで閉めてしまうので、帰宅するのが深夜になるということは1度もなかった。
「こんばんはー!......あれ!?キト先輩だ!」
少し早いけど、客足も少なくなってきたしそろそろ閉店準備でもしようかなと考えていた矢先、勢いよく開いた店の扉から橙色の烏野高生が飛び込んできた。
ご機嫌な様子で店内に入ってきた烏野高生......最近知り合いになった日向翔陽君ことヒナちゃんは、私と目が合うとすぐにぱっと顔を輝かせる。
「えー!キト先輩なんでここに?あ、もしかしてバイトしてるんですか!?俺ここよく寄るのに全然気付かなかったです!なんでだろ?」
「......はい、こんばんは~。夜のシフトは最近入るようになったから、ヒナちゃんがご存知ないのも無理ないかと」
「ゴゾンジナイ......?」
「うん、何でもないよ~。部活お疲れ様~」
相変わらず表情がコロコロと変わるヒナちゃんが目を点にしたので、笑いながらフォローともスルーとも言えない返しをしてしまった。ちょっとおつむが足りなくても、可愛いは正義な私としては全然問題ない。
「オイ日向~、お前チャリンコもう少し端寄せて停めろよ」
開けっ放しの扉から次に入店したのは、坊主頭が特徴的な同学年の田中君だった。「あ!すんません!」と謝るヒナちゃんを他所に、田中君は私と目が合うと直ぐに驚いた顔を見せる。
「あ?なんでこの時間に広瀬が居んだ?」
「いらっしゃいませ~、お疲れ様~。最近ね、夜のシフトも入るようになったの」
「ほー、そりゃお疲れさんだな!あ、ノヤっさーん!広瀬居るぜ!広瀬!」
「ちょっと田中君......そんな野生動物見つけたみたいに言わないでよ......」
私の話を聞き、おそらく店の外に居るであろう西谷君に声を掛ける。
その発言の内容にたまらず顔を顰めてしまえば、田中君は歯を見せて笑いながら「悪ィ悪ィw」と全然反省して無さそうな表情で謝ってきた。
「おお!マジで広瀬居んじゃん!遅くまでご苦労だなー!」
「いやいや、それは西谷君達こそでしょwこんな遅くまで本当にお疲れ様だよ~」
まるで鉄砲玉のごとく素早い動きで入店してきた西谷君に思わずふきだしつつ、西谷君と田中君、そしてヒナちゃんに軽く頭を下げた。
今までこの時間は店に居ることがなかったから気が付かなかったけど、もしかしたらヒナちゃん達は部活終わりによく寄ってくれていたのかもしれない。三人で寄り道してくれたのか聞こうと思ったら、新たな来客が続けて入って来て反射的にそちらへ視線を向けた。
短い黒髪に意志の強そうな瞳が印象的な男の人と、背も高く体付きも逞しい長髪の人と、全体的に色素の薄い綺麗な人と、最後に入って来たのは一度自販機の前で会った黒髪ストレートのつり目の男の子だった。その顔ぶれを見て、どうやら男バレ部員の何名かで帰りがけにここに寄ってくれたらしいことがわかる。
「お前ら一体何を騒いで......あれ?君、確かこの前、試合見に来てた子?」
「!」
眉を寄せて店に入ってきた短い黒髪の人は私と目が合うと直ぐにピンと来たのか、自然な流れで話し掛けられた。
私の方も、確かこの人先日の運動部壮行式で男バレの主将挨拶をしていた人だと思い出す。
ということは、この人が男バレの主将さんだ!
「こ、こんばんは!二年三組の広瀬季都と申します!先日は無断でお邪魔してしまい、すみませんでした......!」
田中君や西谷君から主将さんは厳しい人だと聞いていたので、先手必勝とばかりに慌てて頭を下げると相手は動揺した様子で「いやいやそんなん全然いいから!」と私の肩を掴んで頭を上げさせた。
「むしろ俺らの方が君に挨拶しないといけなかったのに、なかなか行けなくてごめんな」
「え!?いや、私が勝手に見に行っただけなんで、全然大丈夫です!」
謝罪をしたらまさかの謝罪が返ってきて、焦るあまりなんだかよくわからない返答をしてしまう。
初めて話す三年生の先輩にどぎまぎしていると、主将さんはゆっくりと口角を上げた。
「......改めまして、俺は三年の澤村大地、男バレの主将です。こっちが同じく三年の副主将、菅原孝支で、こっちはへなちょこエースの東峰旭」
「ちょっと大地!俺だけ酷くない!?」
主将さん、澤村先輩の発言に長身長髪の東峰先輩と呼ばれた方が眉を下げて抗議する。
逞しい体付きに顎髭を携えているせいで一つ年上の男の人とは到底思えない外見の東峰先輩だが、澤村先輩に言いくるめられているところを見ると、もしかして見た目程怖い人では無いのかもしれない。
「初めまして、菅原です。広瀬さんここでバイトしてたのな?俺、全然気付かなかったわ」
色素の薄い髪に左目下の泣きぼくろが印象的な菅原先輩の言葉に、最近この時間にも入るようになったのだと先程の二人と同じ返答をすれば、「あぁ、そういうこと」と笑顔で納得してくれた。
「田中と西谷はいいとして......日向と影山は知ってる?」
「あ、はい。どちらも一年生ですよね?」
「ハイハイ!俺この前キト先輩と話しました!あ、影山お前挨拶しろよ!俺達の応援に来てくれたありがた~い人だぞ!」
「あ?なんだよ?」
菅原先輩との会話にヒナちゃんが元気よく割り込み、そのまま近くに居るサラサラ黒髪の男の子、影山君の制服の裾をグイグイと引っ張る。
影山君は口を尖らせながら私を見ると「......どもっす」と小さな声で会釈だけしてヒナちゃんの手を乱暴に払い除けた。
一瞬、この前の自販機の話をしようかと思ったが、向こうはすっかり忘れているらしい。
そりゃそうかと少しだけ落胆しつつも、その話題を口にしなくてよかったとこっそり安堵の息をついた。
「そーだ旭さん!広瀬、旭さんのスパイク格好良いって言ってましたよ!大砲みたいな音だったって!」
「え?」
「えっ、西谷君!ちょっと!」
影山君の事でほっとしたのも束の間、西谷君の突然の発言に驚きと動揺が走る。
咄嗟に咎めるような声を出してしまえば、西谷君はきょとんとした顔を向けた。
「え、言ったらダメだったか?」
「いや、ダメじゃないけど!でも、ちょっと、あの、初対面でお伝えするのは恥ずかしいかなって......!」
「そんなん構わねぇって!ねぇ!旭さん!」
豪快な西谷君の振りに、東峰先輩は苦笑いを浮かべつつ「そ、そうだなぁ......」と困った様子で頬をかいた。
なんだか私がスベったみたいになってるから、この話題はちょっとやめてほしい。
「あ、あー、えーと、何か買いに来たんですよね?本日のオススメは在庫処分でお安くお求め頂けるコチラ、おにぎりでございます!」
半ば無理やり話を変えようと、私はわざと明るい調子で営業し、レジ台横にある見切り商品置き場を片手で叩いた。
残り4つなので最悪の場合私が買い取って、今日のお夕飯と明日の朝ごはんにしようかとも考えていたが、男バレが買ってくれるのであれば有難いこと山の如しだ。
「値段いくらで、何があんの?」
「1つ50円で、梅2つ、こんぶ1つ、おかか1つ、ですね~」
「俺ツナマヨがいい」
「田中君、私の話聞いてた?」
しれっと無いものを要求する田中君に呆れた目を向けると、横からにゅっと腕が伸びてきておにぎり2つを片手で颯爽とさらっていった。
黙って持って行かれたので驚いて相手を見ると、梅とおかかのおにぎりを片手で器用に持ち、反対の手で制服のポケットを漁る影山君の姿があった。
「......あった、100円。どぞ」
「.............」
いや、消費税込みで108円です。
そんな言葉が喉まで出かけたが、消費期限間近のものだしまぁいっかと思い直し、「まいどあり」とだけ返して差し出された100円を受け取る。
表情とか思考が読みにくいなぁと思う反面、もしかして影山君はただ自由人なだけなのではとも考えてしまった。明日辺りに西谷君に確認してみよう。
「影山お前、遠慮ねぇな~。こういうのは先輩が取らなかったら最後に一年が取るんだよ。お前が真っ先に行くなっつーの」
田中君の言葉に、思わず目を丸くする。
見た目も中身もなかなかの荒くれ者である田中君が、まさかそんな上下関係を気にするなんて。そしてそれを後輩に注意するなんて。教室にいる田中君だけを見てたら、こんな一面があること、絶対わからなかった。
意外と礼儀を重んじる田中君に、人は見かけによらないものだと改めて思い直していれば、注意を受けた影山君はしれっと「え、早い者勝ちの方が公平じゃないっすか」と少々ズレた返答をするのでそれにも驚いた。あの田中君に真っ向から反論できるなんて......今年の一年生は本当に怖いもの知らずというか、肝が座ってるというか、有り余る程の度胸を持っているらしい。
影山君の言葉と共に試合開始のゴングが鳴り響き、般若のような顔をした田中君が影山君へ詰め寄るが、バトルが始まる前に菅原先輩が素早く二人の間に入った。
「ハイ、そこまで!駄目だなー、腹減るとみんなイライラして!でも、お店に迷惑だなー?広瀬さんも困ってるなー?」
「ふぐぐ......!ふがふぁん......!」
「.............」
菅原先輩の有無を言わさずといったような笑顔に田中君も影山君もすっかり大人しくなった。
しかしよく見れば、田中君の口にはいつの間にかおにぎりが咥えられていて、目を丸くしつつ見切り商品のカゴを確認すると、こんぶのおにぎりが1つ減っていた。
「......ほら田中、50円払うべ」
「!?」
あの一瞬で周りの包装を取り外し、こんぶのおにぎりを田中君の口の中に突っ込むという離れ業を見せた菅原先輩は、トドメとばかりにおにぎりの代金を田中君に請求する。
その光景はなんだか、親が子供に「お前はお兄ちゃんなんだから」と叱っているようにも見えた。
「じゃあ、ラスト1個俺にください!」
しぶしぶおにぎりの代金を払ってくれる田中君の横にヒナちゃんが並び、晴れておにぎりの在庫はゼロとなった。男バレ様様である。
「......あ、そうだ広瀬!6月2日!空けといてくれ!」
「え?」
ソーダ味のガリガリ君をこちらへ向け、唐突な西谷君の言葉に思わず聞き返してしまえば、西谷君はニッと歯を見せて明るく笑った。
「インターハイ予選の初日、6月2日だから!絶対見に来いよ!」
「.............」
西谷君の発言に、田中君とヒナちゃんが「ノヤっさんカッケー!!」と盛り上がり、三年生の先輩方は「西谷お前、ここで誘うとか......俺らの前じゃ断りづらいだろうが......」と呆れたような顔を見せる。
広くもない店内でワイワイと盛り上がる男バレを眺めてから、レジ台のカレンダーで日付を確認すると、本当にあと少しで6月2日が来るんだなと認識した。
「.............」
今度は公式戦だ。音駒との練習試合みたいな、「もう一回」はない。
負けたら終わりの、インターハイ予選。
......正直に言うと、何事も平穏無事を好む私なので勝ち負けのある世界というのは少し怖いと思う感情もあり、嫌だなと思ってしまう部分もある。
最高に思い入れのあるモノが崩れる瞬間を見たくないというか、それを見るくらいだったらいっそのこと見に行かない方がいいんじゃないかとか、マイナス思考がぐるぐると回る。根本的に、きっと私は弱虫なのだ。
「.............」
だけど、応援したいと思ったから。
烏野バレー部と知り合ってバレーボールに惹かれて、嶋田さんや滝さんの想いを聞いて、烏養さんの闘志に触れて、何か、私に応援できることはないかと本気で考えたから。
「......い、行く!観戦させてください!」
思った以上に大きい声が出てしまい、男バレ部員達があ然とする中、私は頭を下げて目を瞑った。
言ってしまったという後悔はないと言えば嘘になるが、怖気付いて前言撤回する気はない。
先程までの騒がしさが嘘のように静まり返り、店外に付いている殺虫灯の音がやけに大きく聞こえた。
「......いや、そこは普通“応援”じゃねぇか?」
しんとした空気の中、田中君の至極真っ当なツッコミが入り、確かにそうだなと思い直した直後、男バレ部員がどっと笑い出した。
ああ、うそ、三年生の先輩方はおろか一年生のヒナちゃんまで可笑しそうに笑ってるし、影山君に至っては逆に無表情なのが更に傷口を抉ってくる......。
わりと真面目に考えて返答したつもりだったのに、こんなオチがついてしまうなんて。自分の詰めの甘さが心底憎い。
笑われながらも「是非お願いします」と承諾を得ることが出来たので、とりあえず苦笑いを浮かべながらお礼だけ返した。
カラスと弱虫の夜
(100%負けられない試合が、1000%負けられなくなったな。)