Crows to you
name change
デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あ!!」
四時間目の科学が終わり、科学実験室から教室へウタちゃんと戻っていると、階段で素っ頓狂な声を掛けられた。
反射的に下り方向から上り方向へ顔を上げると、丁度1番上に橙色の頭をした男子生徒が目を丸くしてこちらを見下ろしている。
隣りに居るウタちゃんは直ぐに首を傾げたが、彼に見覚えのある私は思わず「あ、」と同じ言葉を返してしまった。
先日の男バレの練習試合、一度見たら絶対忘れられない変人速攻をやっていた一年生スパイカー君だ。
背番号は確か、10番だったような。
そんなことをぼんやり思い出していたら、10番君は勢いよく階段を駆け下りてきた。
「あの!昨日の音駒の試合!見に来てくれた人ですよね!ノヤっさんと話してた先輩!」
「......ああ、はい、そうです......あの、そんな走って降りたら危ない......」
「俺、一年一組の日向翔陽です!」
「.............」
私の言葉はまるで聞こえていないのか、10番君......改め、日向翔陽君は元気よく挨拶をしてきた。
なんだか直射日光にガンガン当たってる気分だ。
「......10番君だよね?あの変......すごい速攻してた」
変人速攻という言葉を紙一重で飲み込み、すごい速攻と言い直して確認すれば、日向翔陽君は顔を輝かせてから恥ずかしそうに笑った。
なんですかその反応、めちゃめちゃ可愛いじゃないですか。
「そんな、すごいだなんて......!へへ......!」
「いやいや、あれは凄かったよ~。めちゃめちゃびっくりしたし、めちゃめちゃ格好良かったもん」
「えッ!?あッ、ありがとうごじゃいます!」
「.............」
噛んでもなお可愛さが増す日向翔陽君になんだか親戚のおばさんのような気持ちになっていれば、隣に居るウタちゃんが「先行くから」と断りを入れてきた。
私の返事を待たずにウタちゃんがこの場から離れるのを見送りながら、ふと朝のホームルームで西谷君と男バレの話をしたことを思い出し、ちょっとした好奇心で日向翔陽君に聞いてみる。
「......あのさ、西谷君から聞いたんだけど、日向君目ぇ瞑ってボール打ってるって本当?」
「あ、はい!本当です!あと日向でいいです!」
「......本当なんだ......」
西谷君の話が本当だとわかり、しげしげと日向翔陽君を見てしまう。
バレーボールってそんなびっくり人間スポーツだったっけ......?
「......でも、ボール見ないと打ちづらくない?あと、危ないんじゃ......」
「いえ、影山がボール持ってきてくれるんで全然!」
「.............」
「あ、でも時々失敗して顔面にボール当たります!バーンって!あれめちゃめちゃ痛いっす!」
「......うん、それは、めちゃめちゃ痛そうだね......」
日向翔陽君はあっけらかんと話しているが、実際それができるセッター君......カゲヤマ君?が物凄いことをやってのけてるのではないかと思う。
いや、そのカゲヤマ君を全身全霊で信頼して目を瞑ってスパイクモーションをする日向翔陽君も十分とんでもないんだけど。
「......あの、日向君は、」
「日向でいいっす!」
「.............」
話を遮られ目を丸くしながらも、そういえばさっきも同じこと言われたなとぼんやり思い出した。
でも、私はあまり敬称略する呼び方は得意じゃない。自分が呼ばれるのは別に気にしないのだけど、自分が呼ぶのは何となく呼びづらいのだ。
日向君を君付けできないのなら、何かあだ名を付けるしかないなぁ......。
どうしようかと見つめる先には、きょとんとした日向君が可愛らしく首を傾けた。......なんだか、雛鳥みたいだ。
「......じゃあ、ヒナちゃんで」
「え!?」
即席で決めたあだ名にしては、なかなかいいんじゃないかと思う。日向と雛鳥、ダブルミーニングだ。
「そういえばごめん、挨拶してなかったね。二年三組の広瀬季都です、昨日はどうもお邪魔しました~」
「う、うっす!広瀬先輩!」
「私のこともキトでいいよ~」
「えッ!?あっ、じゃっ、じゃあっ、キトしぇんぱいでっ!」
「......それはわざとなの?」
あまりの可愛さにたまらず聞いてしまうと、日向君改めヒナちゃんはブンブンと勢いよく首を振り謝罪してくる。
一挙一動、一言一句がとても一生懸命なところが本当に可愛い。小さな子供とか、イヌとかネコとかを連想させる。
......なんて、一つ下の男子高校生に対する感想じゃないとは思うけど、実際そう思ってしまったのだから仕方が無い。
「......ヒナちゃんは、カゲヤマ君と付き合い長いの?幼なじみ?」
「え?いえ、高校からですけど」
「え!?高校からなの!?本当に!?」
「は、はい......あ、でもあれ、中学の時に1回試合しました!......コンテンパンにされたけど......」
最後の言葉を小さな声で早口で付け加えるヒナちゃんは、文字通り苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
そんなヒナちゃんを見つめながら、あんな凄まじいプレーをしている二人が交友関係一年未満どころか半年も経ってないことに驚き過ぎてぽかんと口が開いたままになる。
こういう離れ技って両者長年の信頼の上に成り立つものかと思っていたけど、何事にも一部地域を除くということがあるようだ。
しかも、それが過去に対立していた者同士なんて...昨日の敵は今日の友というか、人生万事塞翁が馬というか。
「......それは、すごいねぇ......なんか、運命だね」
思考がそのまま口に出て、案の定ヒナちゃんから「え?」と聞き返されてしまった。
でも、本当にそう思ったのだ。不思議そうな顔を向けるヒナちゃんに、私は小さく笑った。
「......あのすごい速攻、ヒナちゃんとカゲヤマ君しかできないんでしょ?だったらもう、二人は烏野でこの超速攻をやる為に巡り会ったんじゃないかなって......」
「.............」
「烏養さんからも、他の男バレOBからも今年の烏野はひと味違うって聞いてたけど、昨日の試合見てこういうことか~って思ったし......なんか、烏野に救世主が来たんだなぁって思ったんだよね」
「............!」
「烏野、これからもっと強くなるってみんな言ってた。昨日の試合は残念だったけど、まだまだこれからだって」
「.............」
「......だから、また応援行くね。ヒナちゃん達の超速攻もっと見たいし......バレーの試合、すっごく楽しかったから!」
ヒナちゃんは元々大きな丸い目をさらに丸くさせている。その可愛さにたまらず笑ってしまいながらも、昨日の感想をヒナちゃんに伝えられてよかったと思った。
バレーボールの試合をちゃんと観たのは昨日が初めてだったけど、本当にドキドキして終始面白かったのだ。思わず声援を忘れてしまうくらい、熱中して観てしまった。
朝に西谷君ともたくさん話したのに、何度話しても全然熱が冷めない。これはもう滝さんや嶋田さんのことを笑えないなぁと内心で苦笑していると、一段上にいるヒナちゃんが大きく息を吸った。
「......俺、もっと練習して、もっと上手くなります!強くなります!」
予想外の大きな声に反射的に肩がビクついたが、ヒナちゃんの様子に圧倒されて何も言えずただ彼の言葉を聞くだけになってしまう。
「次の試合、絶対勝ちます!だからキト先輩、絶対来てください!」
前のめりになりながらヒナちゃんに言われた言葉は、朝に西谷君から言われたことと同じで......バレー男子は、本当に格好良いなと改めて実感した。
「......うん、行く!楽しみにしてるね!」
ヒナちゃんには劣るけど私も少し大きめな声で返事をすると、ヒナちゃんはパッと顔を輝かせて心底嬉しそうに笑った。
ああもう、本当に可愛いんだから。
キラキラ光る、オレンジの君
(Twinkle twinkle Orange star)