Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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「おーす広瀬!」
国民の連休、ゴールデンウィークが明けてから最初のホームルーム。前の席の西谷君が後ろへ振り向きとびきり明るい笑顔をこちらへ向けてきた。
「昨日はありがとな!俺も龍もめちゃめちゃテンション上がったぜ!」
「いえいえ、私もめちゃめちゃテンション上がったよ~、すっごく面白かったし」
一日経ったおかげで気持ちが上向きに持ち直した私は、昨日の男バレの試合のことを西谷君に話したくてそわそわしていた。
そしてどうやら西谷君も同じような心境だったらしい。完全に私の机に腕をつき、ずずいと顔を寄せてきた。
「だろ?バレーはマジで面白いんだぜ!」
「うんうん、今までしっかりバレーボール見たことなかったから、昨日は嶋田さんと滝さんに解説してもらってたんだけど、もうめちゃめちゃ面白くてびっくりしたよ~」
「広瀬、商店街の人達と仲良いのな。やっぱバイトしてるから?」
「うん、バイトでちょこちょこ交流があってね。あ、大野屋さんもびっくりしてたよ、あのとんでも超速攻!」
「ああ、翔陽と影山のやつな!アレ俺も最初見た時なんだそれ!?ってなった!あれさ、ショーヨーのやつ目ぇ瞑ってんのわかったか?」
「え、ショーヨー君てどっち?」
「スパイカーの方!オレンジ髪のちっちゃいヤツ!日向翔陽、一年!」
「え、スパイカーが目を瞑ってるの?危なくない?てか、それじゃスパイク打てないんじゃ......?」
「普通はな~。でも、影山がタイミング合わせて翔陽の打撃点ピンポイントでトス上げるから、打てちまうんだってよ。翔陽は影山のトス、信じきってるからな」
「......そ、そんなことって、本当にできるの......?」
「いや、普通は無理だな。アイツらが別格にすげぇだけだと思うぜ」
「......はぁ......それは、とんでもないね......」
西谷君の驚くべき話に目を丸くしつつ、これは本当に変人速攻と言われても仕方ないなと変な所で納得してしまう。やっぱり理屈がどうのと考えるより、常人は理解出来ない感覚的な神業として捉えた方が良さそうな代物だった。
「あと音駒のリベロ、凄かったよな!あの3番さんのレシーブ、すげぇシビレた!」
「......えーと、西谷君と同じポジションの人だよね?やっぱり違いってわかるもの?」
「おう、あの人は全ッ然違う!マジですげぇ!旭さんのスパイク最初から手に当てられるヤツなんてあんま居ねぇし、予想も上手くて動きに一切ムダが無くてさ!速いのに丁寧だし、どんなボールも的確にセッターポジまで上げてて!音駒は全員レシーブすげぇ上手かったけど、あの3番さんはダントツ!俺もあんなリベロになりてぇなー!」
いまだ興奮冷めやらずと言った様子で、西谷君はキラキラと瞳を輝かせる。昨日の西谷君のプレーも凄いと思ったし、実際滝さんや嶋田さんがあのリベロは上手いと言っていたのだが、西谷君の向上心はそれをまだまだ良しとしないらしい。
バレーボールに関して、西谷君は驚くほどストイックだ。
「......でも、西谷君もいっぱいボール上げてたよ」
音駒の話も楽しいけど、やっぱり烏野の話をしたい。
西谷君も十分負けてないなかったことを伝えたくてそう返すも、「おう、リベロだからな!」とどこかズレた返答をされた。
「そうなんだけど......でも、西谷君も本当、めちゃめちゃ凄かったんだよ。床に落ちる寸前でもボール上げるし、その瞬間ってこう、うそー!?ってなるっていうか、見てて圧倒されるというか」
「おー。なんか、照れるな」
「バレーボールって、乱暴に言うと床にボールが落ちたら負けのスポーツじゃん?それでさ、守備の要で床に落とさないのがリベロなんでしょ?それってもう、最強の防御こそ最大の攻撃になるじゃん!って思ったよ~」
「!」
「だって床に落ちない限りは絶対負けないじゃん?それに、ここで決める!って思って打ったボールを拾われると、相手はきっとめちゃめちゃへこむよな~って」
「.............」
烏野の試合と西谷君のプレーを見て思ったことをつい饒舌に話してしまえば、西谷君からは相槌も何もなく、珍しく黙られてしまった。
しまった、何か失礼なことを言ってしまったのかもと遅れて気がつくが、後の祭りである。
「......あ、ごめん。なんか、変なこと言っちゃった......」
黙ってこちらを見ている西谷君にすぐに謝り、何が悪かったのだろうと自分の発言を振り返るも謝る以外どうしたらいいのかわからず、結局私も口を閉じるしかなかった。
「......最強の防御こそ、最大の攻撃......」
「え......」
少しの間、妙な沈黙が続き......ぽつりと零された西谷君の言葉に思わず反応する。先程私のした発言であり、もしかしたらそれが気に障ったのかと遅れて理解した。
「......あ、いや、その、あくまで個人的な見解というか、バレーの知識殆どない私が見て、そう思っただけで......」
「......リベロってさ、守備専門のポジションだから絶対点取れないんだよ。攻撃自体を禁止されてるんだ」
「......え、そうなんだ......」
慌ててフォローしようとした私の言葉を遮り、西谷君はリベロの話を続ける。リベロが攻撃できないポジションだとは知らなかったので、完全に先程の言葉は失言だったなと今更ながら後悔した。
口は災いの元とはよく言ったものだ。
「ご、ごめんなさい......無神経な発言をしました......」
「あ?」
再び謝罪と共に頭を下げる私に、西谷君はその大きな目を丸くして聞き返した。
「いや、さっきの......防御が攻撃になるってやつ......ごめん、リベロのこと、全然知らなくて......」
「え、それでなんで謝るんだよ?俺、めちゃめちゃ感動したんだけど」
「え?」
予想外の言葉に、思わず頭を上げて今度はこちらが聞き返す。私と目が合うと、西谷君は再びニカッと音が聞こえそうなほど明るく笑った。
「......俺さ、背ぇ小せぇからどんなに頑張っても空中戦には勝ち目ないんだよ。翔陽みたいなジャンプ力があればまた話は違ぇけど、俺は持ってねぇし。あ、でも、背が小せぇから仕方なくリベロをやってる訳じゃねぇぞ?もし身長が2メートルあったとしても、俺はリベロを選ぶ」
「.............」
「......だから、今の広瀬の言葉、すげぇキた。最強の防御こそ、最大の攻撃。なんだよそれ、すげぇ格好良いじゃん!」
「.............!」
向けられた太陽みたいな笑顔と真っ直ぐな言葉に、たまらず心臓がドキリとザワついた。
西谷君のことを傷付けてしまったのではないとわかりほっとする気持ちもあったが、なんだかとても複雑な心境だ。
「......広瀬さ、また試合見に来いよ。やっぱちゃんと格好付けたいし、次は絶対勝つから!」
「あ、うん......」
「よし、じゃあ連絡先交換しようぜ!次の試合、わかったら教えるからな!」
「ど、どうも......」
私がまごついてる間にもあれよあれよと話が進み、あっという間に私の携帯に西谷君の連絡先が登録された。
色々とついていけてない所はあるが、とりあえず次の試合観戦に行くのに何か理由をつけることがなくなったのは大変ありがたい。
男バレ部員である西谷君に観戦の許可を取れたというのも、メンタル的にとても大きかった。
「......うん、ありがと、西谷君」
改めてお礼を言うと、西谷君はきょとんとした顔を向けてくる。
その表情がとても可愛くて思わず笑ってしまいながらも、「次の試合、楽しみにしてるね」と拙いエールを送った。
烏野の守護神はかく語りき
(たった一言で、こんなに心が震えるとは。)