Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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カラス対ネコ、伝説のゴミ捨て場の決戦は三回戦にも及んだが、残念ながら烏野が全敗で終わった。
惜しいところまでいくことは何回かあったけど、音駒の方が一枚も二枚も上手という感じで結局全ての勝利をネコの手に収められてしまった。
音駒が強いとは初めに聞いていたものの、まさかここまで勝たせて貰えないとは思ってなかったので敵ながらあっぱれというか何と言うか、音駒の強さを痛感した一日だったと思う。
結局全部の試合を滝さんと嶋田さんと観てしまい、両チームが終わりの挨拶をする頃にはぐったりと疲れきっていた。
観客である私達がここまで疲弊するのだから、コートに立っている彼等の疲労感はきっと壮絶なものだろう。
しかし烏野の選手も音駒の選手も試合後はキリキリと動き、互いの顧問や監督さんの話を聞きに行っている。
西谷君達に挨拶するべきかどうか考えたが、どうせ明日学校で会うんだしその時色々話せばいいやと思いギャラリーの階段を登り始めた。
「あれ?季都ちゃん、挨拶しなくていいの?」
「大丈夫です、明日教室で会いますもん。西谷君、私の前の席だし」
嶋田さんの言葉に軽く返すと、「学生はいいよなぁ」とか何とか嶋田さんと滝さんが話しながらも私の後に続いてくれる。
烏野のあのプレーが凄かったとか、音駒の多彩な攻撃モーションが見事だったとか三人で盛り上がりながら体育館の外に出たところで、後ろから滝さんが私を呼んだ。
「おいキト、お前メットどうした?」
「あっ、忘れた!」
滝さんに訊かれて、初めて自分がヘルメットを持っていないことに気付く。
首にもかけていないから、おそらく先程までいたギャラリー席に置いてきてしまったんだろう。
「やばいやばい、滝さんありがとう!」
「おー、先に下降りてるぞー」
「了解ですー!」
滝さんの声を背中で聞きながら、慌てて元来たルートを戻る。
いくら原付バイクと言えどヘルメット無しで乗ったらさすがに不味いだろう。完全に道交違反だ。
少し重たい観音開きの扉を開けて、早足で先程のギャラリー席へ戻る。
目を凝らして探すと、先程まで観戦していた場所の椅子の上に愛用のゴーグル付き半ヘルがちょこんと取り残されていた。
危ないところだったと安堵しつつ、ヘルメットを手に取ってすぐに首に引っ掛ける。
安全上あまり良くないとはわかっているが、これが一番落ち着くのだから仕方が無い。置き忘れ防止にもなる。
「あっ、広瀬ー!」
「!!」
滝さんと嶋田さんのところへ戻ろうと二、三歩動いたところでアリーナから名前を呼ばれた。
ギクリとしつつも下の階を見ると、同じクラスの西谷君が私に向かって大きく手を振っているのが見える。
西谷君に釣られて何人かがこちらへ視線を寄越すが、それらを気にすると今直ぐにでも逃げ出したくなるので敢えて西谷君だけに意識を集中させる。
「今日はありがとな!まさかクラスの奴が来てるとは思わなくてびっくりした!」
「あはは......無断で来ちゃってごめんね。なんで居るの?ってなるよねぇ......」
ギャラリー席の直ぐ下まで来てくれた西谷君に、苦笑しつつ改めて謝る。
「や、それは全然なんだけどよ。逆に折角広瀬が来てくれたのに、一勝もできなくて申し訳ねぇっつーか......なんか、格好悪ィとこ見せちまったな......」
「.............」
アリーナにいる西谷君は立ててる髪を片手で後ろに流しながら、へらりと力無く笑った。
西谷君と言えばいつも元気で力強くて、眩しい程の笑顔や言葉をくれる男子で、クラスの皆からも人気がある。
そんな西谷君がこんな顔をするなんて、しかも先程の試合を格好悪いと言うなんて、思ってもみなかった。
途端、私の中の何かがプツンと切れる。
「だから、」
「お言葉ですけど!!」
「うおっ!?」
西谷君の言葉を遮って出した声は思ったよりも大きく、アリーナにいる何人かがびっくりした顔を向けてきたが今はそんなこと一切気にならなかった。
明日色々話そうと思ってたけど、ダメだ。これは今、西谷君に伝えなければいけない。
「すっごい格好良かったし、めちゃめちゃ面白かったから!」
「!」
「バレーボールがこんなに凄いなんて知らなかったし、観ててめちゃめちゃ楽しかったよ!」
「.............」
まだまだ言いたいことは沢山あるが、気持ちを言葉でコンパクトに纏めるのは非常に難しい。
取り敢えず、先程の試合を格好悪いとか申し訳ないとか言うのは大変憤りを感じるのでやめてほしいということを伝えられればと思ったのだが、少し遅れてこれって誤解を招くのではと危惧する。
「......あっ、いやあの、今のは勝ち負け抜きにした話ね!?烏野が負けるのはやっぱすっごい悔しいから!」
「.............」
意図しない方へ解釈されないように慌てて補足を付け足すも、アリーナにいる西谷君は元から大きい目を更に丸くさせてぽかんとしている。
そりゃそうだ、烏野が負けて一番悔しい思いをしているのは実際試合をした選手自身であり、下手をすれば今の言葉だって傷口に塩を塗るような発言になりかねない。
ああ、もう、思考回路がこんがらがって何を言っても墓穴を掘ってしまいそう!
「だから、その、えーと、ま、また見に来ます!今日はお疲れ様でした!」
一人あたふたとしながらも結局そんな言葉を最後に、半ば逃げるように体育館から走り去る。
なんだこれ、めちゃめちゃ恥ずかしい!というか、また見に来ますとか、何それ!アイドルのファンか!何でもうちょっと気の利いたことが言えないの私は!
「あ、来た。季都ちゃーん、こっちこっち......て、あれ?なんか顔赤い?」
「赤くないです!」
「いや、赤いよ?」
戻って早々嶋田さんに赤い顔を指摘されたが、なるべく触れられたくない話題だった為スルーを決め込んだ。
「こんにちは、広瀬さん。今日は見に来て頂いてありがとうございました」
嶋田さんから顔を背けていると、少し離れたところから聞き覚えのある優しい声が聞こえ、反射的にそちらへ顔を向ける。
「武田先生!こんにちは!......と、烏養さん......」
「......なんだキト、俺はついでか?」
「いえ、滅相もございません」
振り向いた先に烏野高校現国の先生であり、男バレの顧問である武田先生と烏養さんが一緒にいたので挨拶をする。
何やら烏養さんの機嫌が悪く見えるのは、もしかしたら私が勝手に見に来てしまったからだろうか?
「広瀬さんは確か、西谷君と同じクラスでしたよね?そのよしみで来てくれたんですか?」
「あ、いえ、西谷君じゃなくて、こちらの滝さん......滝ノ上さんに誘われてなんですけど......でも、男バレ凄かったです!びっくりしました!」
「ふふ、そうでしょう?僕もいつも驚いてばかりです」
「え?先生男バレの顧問なのに?」
思わず思ったことがするりと声に出てしまうと、武田先生は少し頬を赤らめながら苦笑に近い笑みを見せた。
「......お恥ずかしい話ですが、僕はバレーボール初心者でして......技術面は全て烏養君にサポートして頂いてるんです。なので、僕自身は彼等のプレーに何も関わってません。ですが、日々成長し続ける彼等には、僕も本当に驚かされてばかりで」
「......そうだったんですか......」
照れくさそうに笑いつつ頭を掻く武田先生を見て、本当に男バレのことを大事に想ってるんだなとしみじみ思った。
先生の雰囲気とか、声とか、言葉の端々に温かな優しさを感じたからだ。
元々優しい人だと思っていたけど、授業で見てる顔とはまた違った顔というか、男バレ顧問としての武田先生はいつもより更に素敵に見えた。
「............キト」
「!」
武田先生とほわほわ笑い合っていると、烏養さんが私を呼ぶ。
いつもより声が低い気がして何だろうと思いそちらへ顔を向けると、一瞬にして空気が凍った。
めちゃめちゃ不機嫌そうな烏養さんの顔がそこにあったからだ。
滝さんに誘われたとはいえ、やっぱりお店を休んで勝手に応援にきたのは良くなかったのかもしれない。
ど、どうしよう......めちゃめちゃ怖い......。
「............すまん。バイト入るの今日までって話......もうちょい延長して貰ってもいいか......?」
「え?」
ヒヤヒヤしながら烏養さんの言葉を待っていた私だったが、だいぶ想定外の言葉を言われて思わず間抜けな声が出た。
目が点になる私を他所に、烏養さんは首の後ろに片手をやりながら非常に言いにくそうな様子で話を続ける。
「......できれば、お前が烏野卒業するまで......居てもらえると、助かるんだが......」
「......ああ、はい。最初からそのつもりでいましたけど......」
「は......?」
私の返事に、今度は烏養さんの目が点になる。
だけど、私はそれ以外の返事をしようがないのだ。だって嶋田さんも滝さんも「烏養は音駒戦までって言ってるけど、あれ絶対延びるから」と口を揃えて言っていたし、私も短期バイトとして雇ってもらったつもりは無かった。
「......やだ、なんか怖い顔してるから、てっきり今日来たこと怒られるのかと思っちゃいました......なんだ、よかった~」
「.............」
烏養さんが怒っている訳では無いことがわかり、たまらず安堵のため息と笑いがもれる。
「......ということは烏養さん、男バレのコーチ続行ですか?」
「.............あー......まぁ、そうなる、な......」
ほっとしたと共に一応確認を取ると、烏養さんはまた複雑そうな顔をしながらも肯定の返事をしてくれた。
その横で武田先生は心底嬉しそうに笑い、嶋田さんと滝さんは心底可笑しそうに笑っている。
何はともあれ、烏野男バレと烏養コーチの関係はまだまだ続くようだ。
これは大変喜ばしいことであり、自然と私も笑顔になった。
「本当ですか?やった、よかった~!」
「.............」
「私、今日の試合見て男バレのことちゃんと応援したくなりました。なので、どんどんバイト入れてください」
「.............」
「元々バイト好きだし、好きなことして何かしらお役に立てるなら私も嬉しいです」
「.............」
「で、次は音駒に勝って、打倒東京......あっ!」
烏養さんとの会話の途中で唐突に思い出したことに思わず言葉を切れば、隣にいた滝さんが「え、どうした?」と不思議そうな顔を向けてきた。
「......しまった......バレーに集中し過ぎて、東京のイケメン見るのすっかり忘れてた......!」
「.............」
「顔、ちゃんと見とけばよかった......!やだ、ぼんやりした雰囲気しかわかんない......!」
顔に両手を当て、自分の迂闊さをただただ後悔する。
折角東京のイケメンを見られると思ってわくわくしてたのに、試合開始と共にすっかり忘れて終始バレーに集中してしまった。
勿体無いことをしたと嘆く私の頭に、滝さんの大きな手が乗っかる。
「しゃーねぇな......特別に宮城のイケメンがお茶でも連れてってやるよ」
「え、本当ですか?やった」
「たっつぁん、言う程イケメンかぁ?」
「やかましいわ」
滝さんのイケメン発言に嶋田さんが茶々を入れ、思わず笑ってしまうと「お前も何笑ってんだ」と滝さんの大きな手で頭を乱暴に撫でられ髪をぐしゃぐしゃにされた。
慌てて滝さんから逃げ出し、少し距離を取ってから髪を整える。
そんな私を他所に滝さんと嶋田さんは暢気にも烏養さんと武田先生に別れの挨拶をしていた。
「じゃ、頑張れよ、烏養コーチ」
「また応援行くからな~、次は勝ち試合宜しく」
「え、ちょっと待って......!烏養さん、先生、さようなら!」
さっさと帰ろうとする薄情者の二人に少し腹を立てながらも本当に置いていかれては堪らないので、髪を整えたついでに首後ろから外したヘルメットを手に、一礼してから二人の後を追いかける。
「......たっつぁん!嶋田!キト!今日はありがとな!」
背中から掛けられた烏養さんの言葉に、私達三人は意図せず揃ってそれはこっちの台詞だと笑った。
カラスが飛ぶ空、ネコの行く道
(再び繋いでくれて、ありがとう)