Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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ハーフタイムを挟んで、第2セットが始まる。
10番君のスパイクは相変わらず音駒の大きい男子にブロックされていた。
それどころか段々空振りが多くなってきたような気がする。どの人よりも沢山動いているように見えるから(滝さんと嶋田さんによると、10番君は囮としての役割も担っているらしい)疲れてきちゃってるのかもしれない。
そんなことを心配していたらまた10番君はスパイクを空振りした。
ボールはそのまま床に落ちてしまうかと思いきや、黒髪短髪のキャプテンさんがぎりぎりのところで手に当てる。
音駒のコートへボールが戻るが、音駒の選手も床に飛び込みながら何とかボールを繋いだ。
そこから音駒は攻撃体制へ移るが、烏野が三人ブロックにつきその攻撃は止められる。
しかし、音駒の坊主頭さんが床すれすれのボールを見事に上げ、音駒の再攻撃が烏野コートへ決まった。
「おー、どっちのチームも“地味組”が良い仕事すんね~」
「地味組?」
「目を惹くような攻撃プレーはないんだけど、守備でどんなボールも上げてくれる奴らのこと、かな。目立たなくてもああいう奴らが繋ぐお陰で試合が成り立ってんだよなあ」
「へぇ......」
二人の話を聞いて、確かにそうだなと気が付く。
目線はつい攻撃プレーの方へ行きがちだが、守備の方もなかなかとんでもない事をしていると思う。
動体視力も反射神経も一体どうなってるんだと不思議に思うくらい、レシーブする人達は反応速度が早い。
その中でも守備専門のリベロに就く同じクラスの西谷君はダントツでレシーブが上手い、らしい。
バレーボールの試合を初見の私には正直まだわからないが、それでも西谷君がボールを弾くと大体サラサラ黒髪セッター君の元へ上がっている気がする。
ボールを上げること自体がすでに凄いことだと思うのだが、それをちゃんとセッターポジションに返して攻撃を多様化させるのだから本当にもう凄い以上の言葉が出てこない。
だけどこの試合を見ていて、レシーブでボールが上がるからこそ攻撃に繋がるトスが出来て、最後にスパイクという攻撃を出来るのだと何となく分かってきた。
バレーボールの場合は特に、穴の無い防御こそ最大の攻撃になり得る。
「ふんっ!!!」
10番君の拾った、というより身体に当たって上がったボールを西谷君が受け、最後に田中君が勢いよくスパイクをかました。
ボールは音駒の選手の腕にぶつかったものの、コートの外へ飛んでいく。
「おおっ」
「ブロックふっ飛ばした!」
「ソイソイソォォイ!!!」
「ふはっ......楽しそ~w」
田中君のスパイクの威力には驚いたが、その後の攻撃が決まったことの喜びの表現なのかはたまた音駒への挑発なのかはさておき、西谷君と田中君が向き合って片膝をついて両腕を曲げてワサワサと動かす行為が可笑しくてたまらずふきだしてしまう。
本当にあの二人のノリは見ていて楽しくて好きだ。
その後烏野は10番君の少し弱めのスパイクで連続得点を重ねるが、音駒の方も守備、攻撃の手を決して緩めない。
点を取っては取られてを繰り返しながら試合は展開し、気が付けば音駒18点、烏野15点と3点差がついていた。
このまま取って取られての展開だと確実に音駒の方が先に25点になってしまう。
どうしたもんかと不安に駆られていれば、10番君とサラサラ黒髪セッター君の超速攻が綺麗に決まった。
「え!あれ?なんで......あ、そっか、前衛があの人じゃないからか」
あれ程止められていた超速攻がどうして今綺麗に決まったのかと不思議に思ったが、思い出してみればあの10番君を抑えていたのは茶髪のツンツン頭の人だった。
今10番君の前に居るのはその人ではなく、黒髪を立てたつり目の人である。
おそらく10番君をブロックするには、それなりに10番君の動きに慣れないといけないんだろう。
「......季都ちゃんってさ、自分で考えながらちゃんと試合見てるよな」
「え?」
ふいに嶋田さんから言われた言葉に、思わず首を傾げる。
いまいちどういう意味か分からなかったが、もしかして今の一人言が原因かと遅れて思い当たった。
「あっ、ごめんなさい、もしかして煩かったですか?」
「いやいや全然!そういうことじゃなくて、なんていうかこう、応援観戦タイプじゃなくて視察観戦タイプなんだなって思って」
「え?何です?それ」
「あー、確かに。可愛くキャーキャーはしゃぐ系ではないよな......キトは黙々と観戦する系」
「え?......あ、そっか応援!やば、忘れてた!」
滝さんの言葉でハッとする。
思えば試合が始まる前、西谷君に応援よろしくと言われていたのにすっかり忘れてしまっていた。
バレーボールの試合が余りにも展開が早く、尚且つとても面白いからつい集中して黙々と見続けてしまった。
あわあわと焦る私を見て、両脇にいる二人は可笑しそうに笑う。
「いや、いいんじゃねぇの?それだけこの試合にのめり込んでたってことだろ?」
「それは、そうですけど......でも、」
「もしあれなら後で感想伝えてやんな。烏野男子、すげー喜ぶと思うぜ?」
「......そう、ですか、ね......?」
自分のうっかり具合に落胆している間も、烏野対音駒の試合は進んでいく。
音駒のプリン頭セッター君がトスを上げる瞬間、音駒の選手が三人同時に攻撃モーションに入った。
「え!三人っ!?」
「誰来る!?」
「やっぱここは一番攻撃力のありそうな4番──」
音駒の複雑怪奇な動きに思わず私も滝さんも嶋田さんもギャラリーから身を乗り出す。
プリン頭セッター君のトスがどこに上がるのかドキドキしながら見ていると、ボールはまさかの第4勢力......前方の三人ではなく後方へ上がった。
「あっ!」
「前3人囮で」
「バックか......!」
烏野のブロック三人が音駒の前方三人のタイミングで飛んでしまっている為、後方一人のスパイクを防ぐのに間に合わない。
このままフリーで音駒のスパイクが決まるかと思いきや、ボールは10番君の顔辺りに思い切りぶつかり音駒のコートへ戻った。
ボールがぶつかった勢いのまま後ろへ倒れ込む10番君の心配をしている間にも、音駒は再び複雑に動き回り複数の選手が攻撃モーションに入る。
これでは一体誰がスパイクを打ってくるのか全くわからない。
混乱状態で懸命に目を凝らすも、今度は黒髪を立てたつり目の人が速攻でスパイクを決めた。
「今度はAクイックか!」
「ひえぇ......」
「一瞬だな......」
見事な連携プレーにたまらず溜息に近い声がもれる。
全員が色んな動きをされては追い付いていない目が更に追い付かなくなるなと困惑している最中も、音駒は縦横無尽に攻撃モーションをかけてくる。
先程の黒髪を立てた人が再度速攻をかましてくるかと思いきや、速攻の時よりも少しタイミングを遅らせて跳び、烏野のブロックの高さが落ちた状態で綺麗なスパイクを決めた。
「うわっ、一人時間差!」
「さっきのAクイックの後でブッ込んでくるとは......」
「今、完全に速攻かと思いました......セッターの人はなんでタイミングわかるんだ......」
音駒の多彩な攻撃に圧倒され、気が付けば先に音駒が20点台に乗っていた。
これはいよいよ不味いのではとソワソワし始めた矢先、ベンチから威勢のいい声が響く。
「パワーとスピードでガンガン攻めろ!!」
広い体育館内に響き渡る程の大声でそう言った烏養さんは、元から悪い人相を更に悪くして笑った。
「へたくそな速攻もレシーブもそこを力技でなんとかする、荒削りで不格好な今のお前らの武器だ!!今持ってるお前らの武器ありったけで攻めて攻めて攻めまくれ!!!」
烏養さんの言葉は、それだけ聞けばとても乱暴で戦術も何も無いじゃないかと思うが、ここまできたらもうシンプルイズベストという奴なのかもしれない。
先に20点台に乗った音駒に何とか食らいつき、烏野もついに20点台に乗った。
このまま良い流れが続けば、烏野がマッチポイントの音駒に逆転勝利することも可能かもしれない。
このセットを取れば同点、もう1セット対戦することができる。
劣勢だった烏野に希望の光が差し込んできたかと思いきや......試合は急転直下の展開を見せた。
「あっ......」
10番君のスパイクを音駒のリベロが拾ったが、ボールはネットに当たり音駒のコートへ滑っていく。
そのまま重力に従って床へ落ちるかと思っていれば、音駒の坊主頭の人が床に落ちる寸前にボールを拾い上げた。
しかし咄嗟に弾いたせいか、ボールは音駒のコートの後方へと飛んでいく。
そのボールをプリン頭セッター君が追いかけ、バランスを崩しながらも烏野のコートへ弾き返した。
音駒からのボールは不安定な軌道でありながらも、烏野のコートぎりぎりの所に落ちる。
「あーー!インかー!」
「くっそー!あと少しだったのになぁ!」
両隣りの二人が悔しがる中、音駒の得点板は25点という数字を刻み、コート内は勝者となったネコの咆哮が上がった。
......ああ、負けちゃった。
少し遅れて烏野の敗北を理解したが、なんだか盛り上がり過ぎてしまって勝負がついても終わりが飲み込めず、ただ呆然としてしまう。
「もう一回!!」
ぼんやりとアリーナを見つめていたら、10番君が大きな声でリベンジを申し出た。
おそらく体育館内全員が10番君に驚きの視線を向ける中......音駒の監督さんは豪快に笑う。
「おう、そのつもりだ!“もう一回”がありえるのが練習試合だからな」
音駒の監督さんの言葉に、周囲の空気がワッと盛り上がるのがわかった。
かくいう私も、もう一回があることによって母校が負けてしまったという敗北感から多少救われている。
「やっべ!もうこんな時間か!俺配達行ってくるわ!色々片付けたらまた戻るから!」
嶋田さんの言葉にスマホの時刻を確認すると、いつの間にかお昼近くになっていた。
「おー、頑張れー」
「何か手伝います?」
「だめだめ!季都ちゃんは今日はお休み!じゃあまた後でな!」
慌てて席を立つ嶋田さんに声を掛けてみたが、嶋田さんはそう言ってこの場を後にしてしまった。
本当に大丈夫かなと思いつつ、嶋田さんが不要というなら無理について行く必要もないだろうと考え、朝に買ったサイダーを飲むだけに留める。
「......2回戦目もあるみたいだけど、キトどうする?帰るか?」
「え、次も見たいです。今度こそ烏野勝つかもだし」
サイダーのフタを閉めながら滝さんに返せば、滝さんは嬉しそうに笑った。
「よし、じゃあとりあえず昼飯行こうぜ。少し間空くだろうし、今日はお兄さんが奢ってやるよ」
「え、いいんですか?ありがとうございます!」
まだまだ未完成な僕等
(もう一回、もう一回をくれ!)