Crows to you
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デフォルト:広瀬季都【ひろせ きと】烏野高校二年三組の帰宅部。嶋田マートをメインにヘルプ要員で色んなバイトをしている為、商店街に顔が広い。
最近の悩み:「バイト入れ過ぎて“友達居ないの?”ってよく聞かれるけど沢山居ますから!!」
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烏野の橙色の髪の10番君が再び超速攻を決め、12対9と烏野がリードしている中、音駒がタイムアウトを取った。
見ているこちらもやっと一息つける。
たまらず大きく息を吐くと、滝さんと嶋田さんは相変わらず笑ったまま私の方を見た。
「どーよ?面白いべ?」
「......めちゃめちゃ面白いです」
滝さんのドヤ顔に少し腹を立てつつも正直な感想を述べれば、「素直でよろしい」と乱暴に頭を撫でられた。
髪がぐしゃぐしゃになるからもう少し丁寧に撫でてほしい。
「でも、ちょっとよくわかんないところが......」
「ん、例えば?」
ぐしゃぐしゃにされた髪の毛を手櫛で整えながら言葉を続けると、今度は嶋田さんが訊いてきた。
「ボールを上げた時、誰かが“短い”って言ってたけど、何が短いんです?」
「ああ、それか。レシーブってさ、基本的にセッターポジションに返すのが一番理想的な訳よ。セッターが攻撃を組み立てるから、ここが基盤というか要なのね?で、レシーブが短いっていうのはセッターポジションまでの距離が短い、届かないぞってこと。だからセッターにカバーしてもらったり、他の奴にフォロー入ってもらったりする為に先に味方に伝えとくんだ」
「はぁ......ただボールを上げるだけじゃダメなんですね......」
「レシーブは安定感、コントロールが命だからな」
「ちなみに長いっていうのはその反対で、セッターポジション通り越してボールが相手コートにまで戻るかもってことな。そうするとダイレクト......ボールが相手コートに戻ってすぐの1打目から攻撃される危険があるから気を付けろってこと」
「......ボールを相手に返してしまっても、ダメなんですね......」
「相手が攻撃しやすいボールになるからな。そういうのをチャンスボールって言うんだ」
「はぁ......なるほど......」
滝さんと嶋田さんの分かりやすい説明に思わず感嘆の声が出る。
バレーボールという競技をにわか知識程度には知っていたが、何だか知れば知るほど深みが出るというか複雑怪奇というか、脳から爪先まで全神経を駆使するスポーツだなと実感する。
どんなに轟速強打を受けても、セッターへは繊細に、確実に受け渡す。
それを受けたセッターは爪先まで神経を尖らせ、スパイカーへ最良のボールを上げる。
飛んでる時間なんてわずか数秒なのに、その一瞬の間に空中でボールを全身全霊で強打する。
どれもこれも想像するだけで目が回りそうだ。
「でも、てっきり変人速攻の方聞かれると思った。まさかレシーブの話になるとは......」
「......そっちは、説明されてもたぶん理解できないというか......理屈がどうのっていうよりなんか、機械仕掛けっぽくて怖いです......」
「機械仕掛けw......ま、確かにあれは規格外だよなぁ。あんなんあの二人にしか多分出来ねぇよ」
「あの天才セッター君からのトスを絶対的に信頼してるチビちゃんと、そのチビちゃんの最高打点ピンポイントで確実にトスを上げる天才セッター君だからなぁ......どっちも相っ当な変人だな」
「......あー、だから、“変人速攻”なんですね......」
あんなにすごいプレーなのに変人速攻なんて酷い言われようだと最初聞いた時思ったけど、あれこれ説明されると納得せざるを得ない。
しかしながら、一番驚いたのはあの二人が一年生であるということだ。
烏野男子バレー部が今年は一味違うという話は聞いていたが、想像以上のスーパープレーに目を丸くするばかりである。
「まぁ、超人プレーは置いといて......レシーブに関しては流石ネコだな。どいつもこいつも綺麗に拾いやがる」
「同感。本当、お見逸れするよ。うちがどんだけ守備に穴があるかよく分かるな」
「今の烏野は攻撃特化型だからなぁ。キャプテンとリベロはいいレシーブすんだけど、他の奴がまだまだだな。特にメガネ君とチビちゃん......ボウズ君もか?」
「烏養の奴、コーチは今日までとか言ってたけど、こりゃ絶対引き延ばすね。課題も山積みだし、何しろアイツ、超負けず嫌いだから」
滝さんと嶋田さんの話を聞いていると、タイムアウト終了のホイッスルが鳴った。
両チームの選手が再びコート内へ戻る。
先程烏野の得点で終わっていたので、サーブ権は烏野にあるようだ。
「......え、あれ?」
何気なく音駒の方を見ると、前衛の三人がコートの左側に寄っていた。これでは右側がガラ空きだ。
これは一体どういうことなんだろう?
「音駒の方、タイムアウト後からブロックをサイドに寄せたな」
「うん......デディケートシフト......?」
「普通はエースを徹底マークする時に使うもんだけど、もしかして......」
「チビちゃんの動きの誘導、だな」
二人の会話を聞きながら、音駒がどういう作戦を立てたのかを考える。
嶋田さんの言う、10番君の動きの誘導ということは、10番君の動きを制限して予測しやすくするということだろう。
確かに三人もいるところでスパイクを決めるのは難しいだろうし、そこを避けて跳んだ方が背丈のない10番君にとってベストなはずだ。
それでも、音駒があの10番君の動きを追うのは相当難しいと思う。何しろスピード、跳躍力、瞬発力が桁外れである。
それに加えてサラサラ黒髪セッター君からの超高速ピンポイントなトスが上がるのだ。
せめて単独で10番君だけ見てる人を作らないと厳しいのではと考えて、ハッとした。
......もしかして、10番君専属で守備に徹する人が居るのか?
バレーボールなのに、そんなバスケットボールみたいなことをして大丈夫なのだろうか?
「!!」
ぐるぐると思考を巡らしていると、また10番君が恐るべき瞬発力でネットの末端で跳ぶ。
サラサラ黒髪セッター君からのボールがものの数秒で追いつく。
少しの差で10番君に最も近い音駒の前衛の一人がとっさに反応したが、出遅れた差は取り返せず、ボールはあっという間に音駒のコートへ落ちる。
「......すごい......」
ぽろりと、思考がそのまま口に出た。
一秒も気を緩められない、本気の駆け引きだ。
バレーボールの試合がこんなに緊張感溢れるものなんて、知らなかった。
ギャラリーでもうこんなにドキドキするのだから、コートの中にいる選手達はどれ程の緊迫感があるのだろう。
ごくりと固唾を飲んで見守る中、サーブ権は依然として烏野で、先制攻撃からのスタートが続く。
音駒のセッタープリン君のツーアタック、サラサラ黒髪セッター君のスパイクと滝さんと嶋田さんに説明を受けながら、ネコ対カラスの試合はどんどん進んでいく。
ボールや選手の動きが速過ぎてしばしば目が追い付かなくなりつつも、コートの中で複雑に展開されるゲームを注意深く見続けた。
「......あっ」
夢中になる余り無言になっていた私だったが、咄嗟に声がもれた。
先程まで恐ろしい程決まっていた10番君の攻撃が、音駒の選手にブロックされたのだ。
今のセットが丁度音駒のマッチポイントからであった為、音駒のブロックポイント取得で第1セットが終わる。
向かうところ敵無しとさえ感じられた烏野の超速攻が、たった1セットで攻略されるなんて。
その光景はまるで、10番君が高い壁に阻まれてしまっているかのように見えた。
赤いネコの迎撃戦
(厄介なヒナガラスには、少し黙ってもらおうか)